心身を蝕む勤続疲労 DeNAのセットアッパー・伊勢大夢も味わった「体のズレ」とは

昨季不振で2軍調整を経験したDeNAの伊勢。勤続疲労による体のズレがあったという=15日、横浜スタジアム(松永渉平撮影)
昨季不振で2軍調整を経験したDeNAの伊勢。勤続疲労による体のズレがあったという=15日、横浜スタジアム(松永渉平撮影)

昨季まで3年連続で2桁勝利を挙げた巨人のエース戸郷翔征が今季、不振にあえいでいる。懸念されているのが、「勤続疲労」だ。高卒2年目の2020年から先発ローテーションを守り、侍ジャパンも常連の25歳は、今季5試合に登板して0勝3敗、防御率8・06(5月19日現在)。思わぬ不調に苦しむ右腕に共感を寄せるのが、DeNAのセットアッパー伊勢大夢だ。自身も昨季、不振で2軍調整を経験。知らぬ間に体をむしばむ勤続疲労の実態を明かした。

頭と体がミスマッチ

戸郷が4回途中10安打10失点と崩れた、4月11日の広島戦。試合映像を見ていた伊勢は、打たれるたびに首をかしげる戸郷の姿に過去の自分が重なったという。

「投げどころも悪くない、いいボールも行ったのに、なんで?と。頭と体がマッチしない感じ。僕も同じ時期があったから、気持ちがすごく分かる」

ルーキーイヤーからブルペン入りし、5年連続で30試合以上登板のタフガイだ。3年目の22年は71試合に登板して防御率1・72、球団記録となる39ホールドをマークした。しかし、翌23年シーズン途中から「どこかが痛いわけじゃないのに、イメージする動きと全部がずれている感覚。思ったように体が動いてくれない」という〝異変〟を感じていたという。

苦しみながらシーズンを完走したが、いよいよ体が悲鳴を上げたのが24年だった。軸となるはずの自慢の直球は140キロ前後しか出ず、5月下旬には3試合連続で失点。2軍での再調整が決まった。

今季不調が続く巨人の戸郷(左)。4月11日の広島戦は4回途中10失点と崩れ、2軍調整が決まった=マツダスタジアム(渋井君夫撮影)
今季不調が続く巨人の戸郷(左)。4月11日の広島戦は4回途中10失点と崩れ、2軍調整が決まった=マツダスタジアム(渋井君夫撮影)

崩れていた体のバランス

年間143試合の長いシーズンを戦う過酷なプロ野球の世界。他競技と比べても圧倒的に多い試合数をこなしながら、コンディションを維持し続けるのは容易ではない。上積みしようにも、来たる試合へ体をケアするだけで精いっぱい。特に1年目から活躍してきた伊勢は、「これをやれば抑えられるというものがあったから、新しいチャレンジができなかった。今思うと、ちょっと妥協していたところもあったのかも」と振り返る。

熾烈(しれつ)な生存競争の中、痛みを押してプレーするのはプロ野球選手なら当たり前のこと。23年以降は、ふくらはぎや内転筋の肉離れも発症していた。無意識にかばおうとした代償からか、「体はもちろん、いろんなバランスが崩れてしまっていた」。2カ月半に及ぶ2軍暮らしでは、弱っていた下半身のトレーニングなどに励み、「新しい体」を作り上げた。

8月に戦線復帰すると、ポストシーズンは9試合に登板して失点なし。26年ぶりの日本一に貢献した。今季も勝ちパターンや火消しとしてフル稼働しているが、いい感覚が戻ってきたのは2軍調整から1年ほど経った最近になってから。それほど、勤続疲労による体のズレは根深いのだ。

「もう体は戻らない」

さまざまな器具を使い、より一層体のケアには気をつかうようになった。最悪の時期を乗り越え、自分の体とじっくり向き合った時間は無駄ではなかった。

「アスリートは毎日体を削っているわけで、昨日の自分よりは老いていく。キャリアハイの年の感覚、体に戻ることはもうないと思う。だけど『あの時みたいに』ってなったら、落ちていくだけ。今の体を受け入れて、もっと上に、もっと上にってやっていかないといけないんですよ」

1軍の表舞台で長く活躍するためには、蓄積する疲労や体の変化とうまく付き合っていくしかない。「楽しく、気持ちよく投げられてる人って、うらやましいですよね」。取材の最後にぽつりと口にした言葉に、プロの世界の過酷さが垣間見えた。(川峯千尋)

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