安倍政権考

オウム死刑執行で胆力みせた上川陽子法相の処遇、党人事・内閣改造の焦点に

【安倍政権考】オウム死刑執行で胆力みせた上川陽子法相の処遇、党人事・内閣改造の焦点に
【安倍政権考】オウム死刑執行で胆力みせた上川陽子法相の処遇、党人事・内閣改造の焦点に
その他の写真を見る (1/5枚)

安倍晋三首相(63)が9月の自民党総裁選で順当に3選を決めれば、次の焦点は自民党役員人事と内閣改造に移る。そこで注目されるのは、オウム真理教の元教祖、麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚ら13人の死刑執行命令書に署名した上川陽子法相(65)の処遇だ。

死刑は7月6日に麻原死刑囚を含む7人、同月26日に残る6人に対して執行された。同じ月に2度の執行は、平成10年11月に執行の事実と人数を公表するようになって初めてのことだ。

今回の一連の死刑執行で上川氏は2度の在任中の執行が計16人となり、執行が再開された後藤田正晴法相時代の5年以降では鳩山邦夫法相時代を上回った。その鳩山氏は19年8月から約1年間の法相在任中、13人の死刑執行命令書に署名した。現在のように死刑執行後に氏名を公表し始めたのも鳩山氏のときだった。

当時、朝日新聞夕刊のコラム「素粒子」に「永世死刑執行人」「死に神」と書かれた鳩山氏。21年10月16日付の産経新聞で死刑執行の命令を下すことについてこう語っている。

「法相である限り耐えなくてはならないと考える。私は法相就任中、13人の死刑囚の死刑執行命令を下したが、いずれも大臣室に一人でこもり膨大な資料を読み慎重に判断を下していた。執行前日には必ず自分の先祖の墓を参った。初の死刑執行以後、現在まで毎朝、自宅でお経を唱えている。それだけ法相の責任は重いと感じている」

死刑制度に毅然と向き合った鳩山氏でさえ生前、周囲に「私でもオウム死刑囚の執行は躊躇する」と漏らしていた。自身や家族に対するオウム関係者らによる「報復」などを恐れていたからだろうか。

だが、上川氏は決断した。6日の7人の死刑執行後、上川氏は記者会見でこう話している。

「死刑は大変重い刑罰であり、その意味で一点の曇りもなく、まっすぐに澄み切った気持ちでことにあたった。慎重にも慎重な検討を加えた上で対応したということに尽きる」

「明鏡止水ということわざがあり、澄み切った心でことにあたるという意味がある。私も鏡を磨きながら、そこに映し出されるさまざまな事柄について澄み切った心でしっかりと向き合っていきたい。必ずしも一つの言葉で表されるものではないが、私はそうした姿勢を大切に考えている」

言葉はそれほどドラマチックではないが、冷静かつ慎重に精査し、覚悟を決めて署名した様子が伝わる。

上川氏を大学時代から知る人物は「飾らない人柄。意志の強い人」と上川氏を表現する。まさに法相として胆力が問われる死刑執行命令の局面で、上川氏の本領が発揮されたといえる。

上川氏は昭和28年、静岡市に生まれ、東大教養学部卒業後、三菱総合研究所で研究員を務め、米ハーバード大学ケネディスクールで政治行政学修士号を取得した。その後、米上院議員の政策立案スタッフを務め、帰国後は政策コンサルティング会社を設立した。

会員限定記事

会員サービス詳細