耳飾りから見える疑惑。なぜ自撮り写真が炎上したのか
この記事では、たった一枚の自撮り写真から大騒動に発展している中国のネットを通じて見えてくる、中国社会の構造と特徴について解説しています。
騒動のあらまし:なぜ自撮り写真が炎上したのか
騒動のきっかけは中国SNS(小红书)に投稿された一枚の写真でした。
この写真の投稿者は黄杨钿甜という、2017年にデビューした若手女優です。彼女は2025年5月11日、彼女の18歳の誕生日にこの自撮り写真を投稿しました。そして今やこの投稿から中国全土の大騒動に発展しています。なぜたった一枚の写真がここまで炎上したのでしょうか。
起点は、この写真に写っている母の物だとされたイヤリングでした。このイヤリングはグラフ (GRAFF)の2013年モデルに酷似しており、発売当初の価格は230万元(約4600万円)、中古でも115万元(約2300万円)という価値のものです。
黄杨钿甜はデビュー以来「楚乔传」や「如懿传」など数々の作品に出演してきましたが、これだけ高額なイヤリングを購入するだけの収入があることは中国の常識的には考えられません。そして、母親のものだとする投稿内容から黄杨钿甜の両親の素性調査が5月14日から始まりました。
その調査の結果、父親がかつて四川省雅安市の公務員として勤務していたことが確認されました(在職期間は2015〜2017年)。中国では一般的な公務員は安定した生活が確保される反面で、給料はそんなに高くありません。この経歴と過去に投稿された豪奢な生活のギャップが議論を呼びました。
かつて投稿された彼女の家族が所有するという深圳の別荘の価格は1億8000万元(約36億円)です。また、以前に彼女の母親が身につけている宝飾品も高額であることが過去の投稿から判明されました。
この公務員という職業に見合わない、不自然な生活は新たな疑惑を生みました。なぜ彼女たちは、ここまで裕福な生活を送ることができたのでしょう。ここで出てくるキーワードが2013年に四川省雅安市を中心として発生した大地震です。
中国は日本に比べると耐震基準が相当に緩いため、この地震では多くの建物が損傷、倒壊しました。多くの人が亡くなったほか、住む場所を失った方も多いと言われています。
そしてネットでは当時の様子が振り返られました。住民に義援金は渡らず、住宅を建てる場所しか与えられなかったこと。義援金目的を騙る詐欺が横行していたことです。
父親が四川省雅安市の公務員として勤務していた期間(2015〜2017年)と2013年に発生した大地震の復興期間が重なること。そして2011年にはそれほど富裕には見えない家庭が、どうして突然に富裕になったのか。横領の疑いがあるのではないかというのが、この騒動の現状です。
この件について、16日には父親とされる方が声明を発表しました。宝飾品は全て正規品ではない廉価な偽物であること、噂されるような汚職は決してないことを伝えています。
この事件は現在調査中となっていますが、この騒動を経て黄杨钿甜にはダーティーなイメージが付きまとう結果になってしまいました。
ここで、この騒動が示した中国社会のポイントを整理します。
「炫富=富の誇示」、見せびらかし社会
「炫富」は「見せびらかしながら富を誇る」行為を意味します。中国は一見すると「面子」社会に見えますが、SNSの普及以降は富の可視化=反感の対象となりやすく、富裕層や芸能人に対して特に敏感に反応されます。
今回も本人が「炫富」をしたいがため、見せてはいけないモノを見せてしまったことから大騒動、イメージダウンに繋がっています。
「起底=個人情報の掘り起こし」、ネット監視社会
この騒動では父親の名前から公職時代の記録、過去の住所、母が身につけた宝飾品の価格まで扒皮(皮を剥ぐ)ように調査されていきました。
「起底」はネット社会で公的・半公的な情報をもとに、個人や家族の背景を徹底的に調査・暴露する行為で、これは中国特有の「ネット監視社会」の一部です。
「特権=上級国民」
この騒動で明らかになった「父は公務員→退職後すぐに大金持ち→娘は芸能界でトントン拍子」という履歴は、中国の社会でも正規ルートではないと見なされます。
「特権」とは、本来一般人が持てないはずの利益・機会へのアクセスを、官職や家柄によって獲得することです。これは日本の上級国民に似ていますが、官職の場合も一代限りのものとならず家系(コネ)によって相続されやすいのが中国社会の特徴です。
この騒動でも「公職者の子ども=特権階級」という見られ方が強く、感情的な批判に繋がり、大騒動に発展したという側面があります。
「贪腐=汚職・腐敗」
この騒動の極めつけは「震災復興時に公務員だった→その直後に豪邸・高級品→震災救援金を着服したのでは?」という憶測が飛び火したことです。
中央政府が近年強化してきた「反腐敗運動」に現れているように中国社会の汚職に対する社会的敵視は非常に強いです。そして、ある人が金持ちであった場合、汚職官僚かその家族と見なされる可能性があることを、この騒動を通じて見ることができます。
以上が「耳飾りから見える疑惑。なぜ自撮り写真が炎上したのか」の解説でした。
このイヤリングの騒動が表したのは金額の問題ではなく、中国社会の見えない階層の壁と一般庶民の報われない努力に対する怒りでした。イヤリングはただの飾りではなく、誰もが触れたがってしまう「格差社会のスイッチ」として作用しました。
今後も中国で起こっている最新の文化や出来事を通じて、背景となる中国社会の特徴を解説していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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