ヤモリもカメも、鉄道悩ます 忍び込み停電、分岐器に挟まり遅延・運休
東海道新幹線は4月30日夕、停電の影響で一部区間が運転を見合わせた。列車に電気を送る架線にヘビが接触し、停電が起きたという。過去にはクマやシカなど大型の野生動物のほか、ヤモリやカメムシが一因で運行に影響が出たケースもあった。鉄道業者は、対策に頭を悩ませている。
2019年10月、京浜急行電鉄の横浜―弘明寺間で停電が起き、朝の通勤・通学客ら約7万5千人に影響が出た。京急によると、停電の原因は変電所に忍び込んだヤモリだった。交流を直流に変換する装置に接触し、電気回路がショートしたといい、復旧には2時間近くかかった。
担当者によると、ヘビとヤモリには共通点があるという。
「尻尾があり、体長が長い生き物は電線などに接触してショートを引き起こし、運行に影響を与えるおそれがある」
JR新神戸駅では24年3月、ホーム柵が閉まらなくなり、山陽新幹線の運行に最大で18分の遅れが出た。JR西日本によると、ホーム柵の内側に設置されたセンサーの光をカメムシが遮り、警告アラームが作動したことが原因という。
担当者は「頻繁ではないが、虫がよく飛ぶ時期に起きる印象がある」と話す。特に新神戸駅は山あいにあり、虫の影響を受けやすいという。
北海道では、クマやシカとの衝突事故が喫緊の課題だ。
JR北海道によると、23年度に発生したシカとの衝突事故は3145件で過去最多だ。シカの除去などで30分以上の遅れが生じる「輸送障害」は155件と、10年前と比べて3倍を超えた。クマとの衝突事故や線路上で発見され、遅れが生じた件数は71件で、5年前から倍増した。
同社は対策として、線路脇にシカの侵入防止柵を設置する。総延長は123・2キロ(21年度末時点)に及ぶ。職員が線路上に降りることなく、車内からアームでクマをつかみ除去できる「熊キャッチャー」を導入。クレーンで持ち上げ、クマに直接ふれることなく、安全に作業できるという。
JR東海は、これまでもヘビの対策をしてきた。ヘビは鳥の巣の卵を狙うことから、ネットを張って架線の構造物の内側に鳥の巣を作らせないようにしている。また、ヘビが嫌う臭いを出すテープを架線に貼り、近づけないようにもしている。
ただ、東京から大阪までの沿線全線に対策を講じるのは難しく、担当者は「地道な作業なんです」とこぼす。
■「対策しても慣れる」
JR西日本は毎年夏、レールの方向を変える分岐器にカメが挟まる事案に頭を悩ませてきた。分岐器が動かなくなると、信号が変わらなくなり、列車はストップ。遅延や運休などの影響が生じる。
そこで、地元の須磨海浜水族園(現・神戸須磨シーワールド)と協力し、「カメによる列車輸送障害を防ぐ技術」を開発した。レールの下にU字溝を設置し、レールに沿って歩くカメを落下させ、分岐器に挟まらないようにする策だ。15年4月に設置したところ、5カ月間で10匹のカメがU字溝に落ちていたといい「一定の効果がみられた」という。
JR西は、シカを寄せ付けないようにするため、ライオンの尿を沿線上にまく対策などもしたという。担当者は「対策をしても、生き物は慣れてしまう。人手も予算も限られており、試行錯誤を重ねるしかない」と語った。(古畑航希、堅島敢太郎、玉那覇長輝)
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