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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「ボコボコに殴られた」プロ野球合宿所で事件…「まずい、もう一杯!」あの“青汁CM”八名信夫、じつは日本ハム系選手だった…まさかの俳優転身ウラ側
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岡野誠Makoto Okano
photograph bySankei Shimbun
posted2025/05/18 11:00
あの青汁のCMで知られる名優・八名信夫(左)。写真は2014年、当時ホークス監督の秋山幸二と
「絶対に嫌だと思った。所長に『辞めます』と掛け合ったら、『バカなこと言うな。大川博オーナーの指令だ。高倉健だって、この訓練をしてきたんだ』と説得された。健さんがそうなら、俺もやるしかない。明治の先輩なんだよ」
「俺は高倉健にはなれない」
数カ月前までマウンドで戦っていた男は、俳優の道を歩み始める。当時、映画業界は活況を呈していた。58年、史上最高の11億2745万人の入場者数を記録。60年代に入ると、東映は鶴田浩二や高倉健を主役とした任侠映画で人気を博す。このブームが“悪役・八名信夫”を生んだ。
だが、最初から悪役を目指したわけではない。「俺は高倉健にはなれない」。そう悟ったのは40代になってからだという。
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「まさか、ずっと悪役を続けるなんて思ってもいなかった。でも、どうしたって二枚目の役はこない。何十作も撮るうちに、徐々にわかってきたんだ。俺は健さんにはなれない、その道は無理だと。そこからだな、悪役を極めるのもいいんじゃないか。そう思ったんだな」
八名は洋画を見ながら、ジャン・ギャバンやリチャード・ウィドマークなどのタバコの吸い方、酒の飲み方を研究し、自身の演技に生かした。
「部屋で飲みながら、『アイツを殺しとけよ』と呟くシーンがあった。その時、助監督に『ウイスキーやブランデーじゃなくて、牛乳にしたらどうか』と提案した。お客さんの目が牛乳に行くんだよな。その瞬間、『なんで……』と思うじゃない? 不気味さが出るんだよな」
名優2人が殴り合い寸前の危機
監督は悪役に細かい演技指導などしない。八名は自分の頭で考え続けた。すると、昭和を代表する名優・鶴田浩二が貪欲な姿勢を感じ取り、随所にアドバイスしてくれた。
「『タバコの煙を利用しろよ』と教えてくれた。『煙が演技をしてくれる。それを覚えろ』って。カメラに顔を向けるんじゃなくて、背中を見せて葉巻を吸う。そうすると、殺気が出るんだよ」
八名は鶴田を慕い、「オヤジさん」と呼んだ。任侠映画に欠かせない若山富三郎も八名を可愛がってくれた。勝新太郎の兄であり、近年は柳沢慎吾が激怒されたエピソードを語ることでも知られる名優だ。
「おっかない人だけど、優しい面もあったし、芝居の見せ方も教えてくれたよ」
ある時、芝居の恩人の両者が、殴り合い寸前の危機を迎えた。原因は、八名にあった。
〈つづく〉

