稀にみる多額の賠償が認められた
一方で裁判所は、2の「Aさんの疼痛の重大さ」については認めつつも、3については〈原告らは、松井被告が手術をしたくて原告らに虚偽の説明をした旨の主張をするが、これを認めるに足りる的確な証拠はない〉とした。4についても、〈本件病院による監督、安全管理として、被告松井に本件手術をさせるべきではなかったとまではいえない〉とし、原告の主張を退けた部分もあった。
さらに5については〈本件医療事故を起こした医師及び病院として説明を尽くしたと評価するには不足があるというべきである〉としながらも、〈慰謝料を増額すべき悪質性を認めることはできない〉とも評価している。
松井医師が主張する『脳外科医 竹田くん』による社会的制裁と慰謝料減額については、このように切って捨てた。
〈被告松井は、原告らが作成に関与したウェブ漫画により社会的制裁を受けていると主張する。しかし、本件医療事故により原告らが受けた損害を検討するにおいて関連がある事実とみることができないのであり、上記主張を採用することはできない〉
他にも、Aさんがもともと高齢で介護認定を受けていたことから、請求どおりの逸失利益が認められなかったことや、医療事故以外に争点になっていた「Aさんが病院内で転倒した事案」についての病院側の責任が認められなかったことなどを含めて、原告側の求めた損害賠償は減額されることとなった。
とはいえ、ここまで見てきたように、全体としては多くの点で原告側の主張が認められ、最終的に裁判所は〈3300万円の慰謝料を認めるのが相当〉との判断を下した。約8900万円という賠償額は、これに加えて治療費や施設入所費用、家族の付き添い費、介護費用(将来の介護に必要な額を含む)などを合算したものだ。逸失利益が認められづらい高齢者の医療過誤事件としては稀にみる、多額の賠償と言えるだろう。