「慰謝料増額」をめぐり真っ向対立
今回、最も大きな争点となったのが、被害者側が「慰謝料増額事由」を請求したことだった。その内訳を判決文から引用すると、以下のとおりだ。
1.松井被告は、赤穂市民病院に入職して9ヵ月で11件の重大医療事故に関与するなど、手術を行う技量を有していなかった。さらに、本件における松井被告の過失は、きわめて著しく、重大かつ悪質なものであって、故意の傷害に匹敵する。
2.原告Aさんに生じた後遺障害は重大であり、疼痛の苦痛も甚大である。
3.松井被告が「早急に手術しなければ人工透析になる可能性がある」などと虚偽の説明をした。
4.赤穂市民病院では、松井被告が多数の医療事故に関与していたにもかかわらず、被告に手術をさせ続けるなど、監督がずさんで医療安全管理が機能しなかった。
5.本件の事故後も、松井被告は不適切な説明や言動を繰り返し、病院も真摯な反省や謝罪をせず、原告Aに執拗に退院を迫るなど、不適切で不誠実な対応をした。
これらの理由から、「慰謝料は4000万円を下らない」というのが原告側の主張だった。
一方の被告側、とりわけ松井医師は、Aさん側のこれらの指摘に真っ向から反論した。その主な主張を、同様に紹介しよう。
まず、1への反論はこうだ。
〈松井被告が担当した手術に複数の医療事故例があるからといって、被告が手術を行う技量を有していなかったとは言えない。中には(編集部注・指導医である)朝日医師の手術操作にかかわるものもあるし、脳神経外科の手術は合併症・偶発症のリスクも高く、松井被告は赤穂市民病院で50例の手術を担当したが、事故の頻度が高いとは言えない〉
〈病院による検証でも、本件以外は過誤ではないと判断されている。また、この事故発生の原因には、朝日医師が患部に水をかけすぎたことによる視界不良や、朝日医師が(編集部注・切れ味のいい)スチールバーを使用するよう指示したことがあり、松井被告の技量のみが原因ではない〉
また3の「虚偽の説明をした」との指摘には、〈(松井医師が)医学的合理性を欠く虚偽の説明を行ったことはない〉と否定したほか、5の「不適切な言動」についても〈松井被告が事故後にAさんやその家族に「神経が切断された」と断言しなかったのは、Aさんのリハビリなどに向けた意欲が低下することを案じたためである〉とした。