松井医師の「過失」とは何か?
まず、この裁判では、松井医師が手術中にミス(過失)をしたこと、病院(を運営する赤穂市)と松井医師が損害賠償責任を負うという点については、原告・被告は争っていない。主に賠償額の多寡をめぐる裁判だ。
松井医師の「過失」とは、具体的には以下のようなものだ。
〈原告Aは、腰部脊柱管狭窄症の治療のため、令和2年1月22日、本件病院において、被告松井を執刀医、本件病院の脳外科医課長である朝日稔医師(以下、「朝日医師」という。)を助手とする本件手術を受けたところ、第2・第3腰椎間の施術を行った被告松井の手技上の過失により、腰椎部の馬尾神経を切断損傷された〉
多量の出血で患部がよく見えないにもかかわらず、やみくもにドリルを動かした結果、ドリルが白っぽい神経を巻き込んだ──この手術中の痛ましい様子については、漫画『竹田くん』で詳しく描かれているほか、実際の映像がテレビなどで放映されたこともあり、印象に残っている読者も多いだろう。
その結果として、
〈原告Aは、馬尾神経の切断損傷により、両下肢の麻痺を来たし、自力での起立・歩行が不可能な状態となり、重度の膀胱直腸障害が生じ、腰部から両下肢にかけて神経障害性の疼痛が生じるようになった〉
事故のあと、日常生活にも大きな支障が出るほどの麻痺や痛みを味わうことになったAさんの苦痛、また家族の負担や苦悩はきわめて大きい。