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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「文句あるんかコラア!」超大物俳優2人が大ゲンカ、原因は? 元プロ野球選手・八名信夫が“悪役スター”になるまで「40年間、1回もラブシーンなかった」
text by

岡野誠Makoto Okano
photograph byNumberWeb
posted2025/05/18 11:01
“名悪役”として知られる八名信夫、89歳
「プロデューサーが『八名さん、ラブシーンをお願いします』っていうの。それから寝られへん。相手役は誰かな? 佐久間良子さんかな? って、毎日ウキウキしていた。40年間、1回もラブシーンがなかったんだから」
1週間後、現場に赴くと「ここ、よく読んどいてください」とプロデューサーから台本を渡された。
「恥ずかしいから、その場を立ち去ってトイレに向かったの。『相手役、相手役、相手役!』ってドキドキしながら歩いたよ。トイレに入って、相手役の名前を見た。俺、目がおかしいのかなと思ったよ。『菅井きん』と書いてあった(編注:きんは当時74歳)」
「今も腰が痛む…」八名信夫という生き方
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思えば、拷問からの逃亡が運命を変えた。得意の野球では花開かなかったが、苦手と感じた俳優業が転機となった。望まない悪役を続けるうちに面白さに気づき、創意工夫を心掛けると演技が楽しくなった。八名は“悪役”の道しるべとなり、新たな俳優像を提示した。
どんな話も笑い飛ばした89歳だったが、同世代の盟友について尋ねると、少し淋しそうな表情を浮かべた。
「もうな、敵方の親分が全員死んでしまったの。鶴田浩二、高倉健、菅原文太、千葉真一、梅宮辰夫……みんなおらへんがな。だから、俺の仕事がないんだよ。悪役を斬るヤツがいない。最近は善人の役ばっかりだよ」
インタビューを終えて、立ち上がる瞬間、八名はポツリと呟いた。
「今も腰が痛むんだよ…」
日生球場での大ケガは、後遺症を残していた。反面、あの骨折がなければ、悪役・八名信夫は生まれなかった。何が良くて、何が悪いかなんて、その時は誰にもわからない。動かせぬ現実を受け入れながら、ただ前に進むだけ――。馴染みの喫茶店から駅に至る数十メートルを、足を引きずりながらも歩みを止めない姿は、八名の人生そのものだった。
