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いじめ自殺した娘の苦悩刻む 横浜市の小森さんが本出版

社会 | 神奈川新聞 | 2014年10月17日(金) 11:00

新著「遺書」を手にする小森美登里さん=横浜市港南区
新著「遺書」を手にする小森美登里さん=横浜市港南区

本当は、生きたかった-。いじめ問題の解決に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市川崎区)の理事・小森美登里さん(57)=横浜市港南区=が、いじめを苦に自殺した娘の“心の叫び”をつづった著書を出版した。タイトルは「遺書」。一人娘の香澄さんを失ってから16年、今も繰り返される悲劇にピリオドを打つための願いを、香澄さんの言葉を借りたメッセージに込める。

先生は「しばらく様子を見てみましょう」と言い、お母さんも「よろしくお願いします」と言っていた。でも私は言いたい!

ちがうんだよ。大人がみんなで様子を見ていたって、いじめはなくならないんだよ!

高校に入学し、憧れて入部した吹奏楽部でのいじめ。「止めてほしい。教室や部活動に戻りたい」。そんな願いとは裏腹に大人たちの対応には解決の糸口を見いだせず、香澄さんは1998年7月、15年7カ月の短い生涯を閉じた。

先生もお母さんも、いじめられる子どもたちの本当の想(おも)いや苦しみについて何も知らなすぎた。

いじめを止めてほしい、という私の最大の願いにはこたえてくれなかったんだ。

「無理して学校に行かなくていいとか、1年間休めとか。いじめを止めることじゃなく、香澄に対しての対応ばかりを言っていた」と、小森さんは振り返る。「命を守るには学校を捨てる」という判断が、苦しんでいる子どもの思いに寄り添うことだと思い込んでいた、とも。時折涙を見せ、こう続けた。「でも違う。香澄が望んでいたことに、一切答えていなかった」

あの時のお母さんは何をやっても全部からまわり。無知は罪なんだよ。

いじめを解決する方法を知らない大人が、いじめ被害者をさらに追いつめているんだ。

5冊目となる新著をまとめるに当たり、「とにかく自分の失敗を全部箇条書きにした」という。記したのは、残された母親が16年間、苦しみ、もがきながら探り続け、見つけていったまな娘の心情。「生きている時は全く気付かなくて、気付かなかったからこそ守れなかった」。いじめのない社会をつくるため、親として、大人としてできることは何か-。天国からのメッセージという形で、香澄さんの声を借りた。

ルビを多くし、価格は600円に抑えた。「大人と子どもが一緒に、いじめについて考えるきっかけになれば。学校の先生にもぜひ読んでもらいたい」

あの日から16回目の夏が過ぎ、香澄さんの人生を超える時間を遺族として過ごしてきた。生きていれば、12月に32歳を迎える。「本当に短い人生だった。次の命を育んでるかもしれないわけですよね」

悲しい事実に向き合い、今も命日が近くなると心がざわつくのだという。

「『自分が殺した日が近づく』という感覚になってしまって。時間が過ぎれば楽になると思ったけど、ならない。つらいですね」

【神奈川新聞】