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人類学のススメ

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日本の人骨発見史3.根獅子遺跡(弥生時代):頭部に傷のある女性人骨

2013年12月08日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

 根獅子遺跡は、長崎県平戸島根獅子免浜久保(現・長崎県平戸市根獅子町)に所在します。昭和8(1933)年と昭和16(1941)年に、診療所工事中と個人宅で4体の人骨が偶然に発見されました。その時発見された人骨は埋め戻されましたが、昭和25(1950)年に、京都大学平戸調査団の樋口隆康(現・京都大学名誉教授)によって再発掘され、人骨鑑定は、九州大学医学部解剖学教室の金関丈夫[1897-1983]に依頼されます。

 4体の人骨は、弥生時代中期のものと推定されました。男性1体には抜歯痕は認められませんでしたが、女性2体には、上顎左右犬歯と下顎左右第1切歯及び第2切歯が抜歯されていました。

  • 根獅子1号:成年男性。身長155.80cm。抜歯痕無し。
  • 根獅子2号:熟年女性。身長149.67cm。上下顎に抜歯有り。
  • 根獅子3号:成年女性。身長152.57cm。2号と同じ部位に抜歯有り。
  • 根獅子4号:性別不明幼年。

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根獅子1.根獅子2号人骨前面観[金関・永井・山下(1954)より改変して引用]

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根獅子2.根獅子2号人骨上下顎骨抜歯(上顎左右犬歯と下顎左右第1及び第2切歯を抜歯)[金関・永井・山下(1954)より改変して引用]

 根獅子2号人骨には、もう一つ、興味深い所見が認められました。それは、頭頂部に銅鏃の先端部が刺さって残存していたのです。その傷は、長径8mm・幅径4mm・深さ1mmの陥凹で、金属は長径6.5mm・幅径3mmの大きさでした。周囲には、骨増殖の痕跡が認められたため、受傷後、十数日は生存していたと金関丈夫は推定しました。また、この傷が元で脳膜や脳の化膿性の炎症が原因で死亡したとも推定しています。

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根獅子3.根獅子2号人骨頭頂部の受傷部(矢印)[金関・永井・山下(1954)より改変して引用]

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根獅子4.根獅子2号人骨受傷部近接[金関・永井・山下(1954)より改変して引用]

 金関丈夫は、この女性が小さい集団の女酋長の統率者であり、戦争ともなれば集団の先頭に立って敵に向かった巫女だったろうと推定しています。

 なお、金関丈夫は銅鏃と推定しましたが、後に、橋口達也は銅剣と推定し、春成秀爾は銅戈だと推定しています。また、1972年にも調査が行われており、9体が出土していますが、この人骨は長崎大学医学部解剖学教室に保管されています。

*根獅子人骨に関する資料として、以下の文献を参考にしました。

  • 金関丈夫・永井昌文・山下茂雄(1954)「長崎県平戸島獅子村根獅子免出土の人骨に就て」『人類学研究』、第1巻第3~4号、pp.178(450)-226(498)
  • 金関丈夫(1975)「前線で戦死した巫女:ヤジリがささった頭骨」『発掘から推理する』、朝日新聞社(朝日選書)、pp.7-10
  • 金関丈夫(1976)「根獅子人骨について(予報)」『日本人の起源』、法政大学出版会、pp.242-248

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