宮城県の病院再編、地元反発で一部頓挫 赤字体質脱せず閉院の恐れも
宮城県が主導してきた4病院の再編計画が節目を迎えている。赤字に陥った2つの病院の統合に道筋はつけたものの、残りの2病院の再編は頓挫した。移転を期待していた地元自治体は独自の誘致を始めた。人口減少が加速する東北地方で病院再編は共通の課題だ。宮城県の成否は試金石になりそうだ。
病院の再編計画が本格的に動き出したのは、2021年10月に投開票された県知事選挙。5選目を目指した村井嘉浩知事が公約に掲げて当選した。仙台市周辺の4病院について移転を含めて再編する計画だった。
再編の背景には県立病院の赤字体質がある。医療事業の損益を示す医業損益の推移を見ると、県立がんセンター(同県名取市)は20年度以降、毎年15億円以上の赤字を計上。県立精神医療センター(同市)も10億円ほどの赤字を出していた。
仙台市周辺の14市町村は「仙台医療圏」を構成する。医療法における「2次医療圏」にあたり、域内の病床数には上限がある。
ところが、総合病院は仙台市内に集中する。これに対して、仙台市のベッドタウンとして人口が増加してきた北部の富谷市や南部の名取市は急性期医療の拠点不足に直面していた。このため、村井知事は病院再編による赤字体質の改善と郊外への病院立地を実現する一石二鳥を狙った。
計画の柱は、県立と民間の病院を再編すること。仙台市にある仙台赤十字病院や東北労災病院の2つの病院も脆弱な経営体制のうえに別の大型病院が近隣に移設してきたこともあって需要を食い合い、慢性的な赤字状態に陥っていた。再編に向けて宮城県と利害が一致した。
最初の再編計画では4つの病院のうち、がんセンターと赤十字病院を統合して名取市に移転し、残り2つの精神医療センターと労災病院は富谷市に併設して移転するはずだった。
村井知事は「医療圏のなかで病院を減らさないようにするためにはどうすればいいのかを考えるのが重要だ」と強調。県内の高齢者数が15〜20年後に減ることを考慮したうえで、医療資源の再配置を含めた病院再編が必要とした。
当初、計画は順調に進み、23年12月には日本赤十字社(東京・港)と合意して新病院は赤十字社が運営を担うとした。
一方、精神医療センターと労災病院の計画は進まなかった。精神医療センターの医療関係者や患者が反対した。このため、宮城県は24年11月に名取市内で建て替えると方針を転換。労災病院も25年5月に運営者の労働者健康安全機構(川崎市)が協議を打ち切り、仙台市で存続が固まった。計画は一部頓挫した。
計画の頓挫を受けて今後の病院経営を不安視する声も漏れる。ある県幹部は「労災病院は赤字を縮小させる手段を失った。今までの規模で赤字が続けばいずれ新潟労災病院のように機構側が閉院を決断する可能性もある」と危惧する。
病院移転が白紙となった富谷市は救急医療の課題が残ったまま。県によると、仙台医療圏北部の同地区は救急搬送にかかる時間が県平均よりも6分長い。
このため、富谷市は移転のために取得していた用地に新病院を6月にも独自に公募する。同市と周辺3町村は5月12日、県に新たな病院誘致に向けた財政支援を求める要望書を手渡した。
仙台市の郡和子市長は不快感を隠さない。「市内の救急医療体制が十分だとは捉えていない」として病院の引き抜きだと警戒心をあらわにする。
東北6県は少子化に加えて高齢者人口も減少する時代に入る。各県の首長には持続可能な医療体制の構築に向けて、経営的視点に立ちながら病院配置を最適化する視座が欠かせない。
(今井秀和)