「人類一体の象徴」 広島「ムシカ」のピアノで平和祈るコンサート

かつて広島にあった音楽喫茶ムシカの「平和のピアノ」でコンサートを開いたピアニスト、ヤエル・ワイスさん(左)。右は広島出身のバイオリニストで被爆3世の木村瑠菜さん=京都府福知山市内記の「さんの丸」で2025年5月16日午後7時2分、庭田学撮影
かつて広島にあった音楽喫茶ムシカの「平和のピアノ」でコンサートを開いたピアニスト、ヤエル・ワイスさん(左)。右は広島出身のバイオリニストで被爆3世の木村瑠菜さん=京都府福知山市内記の「さんの丸」で2025年5月16日午後7時2分、庭田学撮影

 かつて広島市に「ムシカ」という名の音楽喫茶があった。原爆投下後、広島の人たちの心を音楽で支えた。5年前に閉店したものの、ムシカで演奏されていたピアノは今、「平和のピアノ」として京都府福知山市に置かれている。父方の祖父母がナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺を生き延び、母方の祖父母がウクライナ出身のピアニストが16日、ムシカのピアノで「平和を祈るコンサート」を開いた。

 「純音楽茶房ムシカ」は終戦1年後の1946年8月15日、広島市で開店した。ムシカはラテン語、スペイン語で音楽を意味する。同年の大みそかにベートーベンの交響曲第9番を流したレコードコンサートは「第九伝説」と呼ばれた。2020年3月末に閉店。関係者らは、広島の文化復興を後押ししたムシカのピアノを残すため、福知山城そばに21年にオープンした情報発信館「さんの丸」2階に置くことにした。

 平和を祈るコンサートでムシカのピアノを奏でたのは、イスラエル生まれの米国人、ヤエル・ワイスさん(52)。世界的に活躍し、特にベートーベンの楽曲演奏で評価されている。ベートーベンが譜面に書き残した「内なる平和と外なる平和」という言葉をモチーフに、世界の紛争国などの作曲家に作品を依頼する国際音楽プロジェクトの監修も務める。

 約40人で満員の小さな会場で、ワイスさんはベートーベンのピアノソナタ第14番「月光」などを披露した。演奏後の取材にワイスさんは「この特別なピアノは人類を一体にする象徴です。広島の過去と福知山の今を一つにする。平和とは結束すること、みんながつながり、互いに支え合うことです」と話した。

 祖父が被爆した広島出身のバイオリニスト、木村瑠菜さん(27)も演奏した。ベルリン芸術大大学院に留学中の木村さんは取材に「海外にいるので、広島出身の被爆3世であるという自覚がより芽生えてきている。今回の演奏で改めて自分の立場を認識できた。これからも音楽を通して平和を伝える活動を続けていきたい」と話した。

 広島出身で現在は福知山市で暮らす被爆者の増本展祥(のぶよし)さん(81)は高校生のころまで、ムシカによく行ったという。この日のコンサートでは、ピアニストの妻あつ子さん(75)もムシカのピアノを演奏した。増本さんは「小学生のころは音楽好きの父にムシカに連れていってもらった。ムシカのピアノが福知山に置かれていることに縁を感じる」と語った。

 戦後80年に合わせ、平和のコンサートを企画した一般社団法人「MCSヤング・アーティスツ」の理事長、渡部中子(なかこ)さん(66)はムシカ閉店後、ピアノ保存に奔走した。渡部さんは開演あいさつで「多くの人に救われて広島のピアノが福知山に来た。ムシカのピアノは、広島・長崎で起きたことを二度と繰り返さないための役に立てると思う」と述べた。

 ムシカのピアノを「平和のピアノ」と名付けて預かる「さんの丸」の運営会社社長、村上裕子さん(74)は「コンサートや子どもたちが楽しめる機会をできるだけ多くつくり、平和を考えるきっかけにしていきたい」と語った。【庭田学】

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