西日本新聞「生活保護の現場」の第3回です。
この記事を読んで思い出すのは、湯浅さんの『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』の次の一節です。
「生活保護と言うと、すぐに『必要のない人が受けている』『不正受給者がいる』と言われることがあるが、生活保護の不正受給件数は2006年度で1万4669件である。必要のない人に支給されることを『濫給(らんきゅう)』と言い、本当に必要な人に行き渡らないことを『漏給(ろうきゅう)』と言うが、1万4669件の濫給問題と600万〜850万人の漏給問題と、どちらが問題の本質として深刻か、見極める必要があると思う。」

600~850万と1万4669ですから、問題の本質として深刻なのは明らかに前者(漏給)でしょう。比率で見ると600万:1万5000=400:1ですから、漏給と濫給を1:1の割合で「同等」に扱っても、実は全くバランスが取れていないわけです。
今回のルポは別として、メディアの取り上げ方も、「『貧困』と『自己責任』をめぐる複雑な市民感情の交錯」に影を落としているのだと思います。
西日本新聞 2009年8月6日 【こぼれゆく暮らし 生活保護の現場から】<3>ケースワーカー 貧困への支援どこまで
【こぼれゆく暮らし 生活保護の現場から】<3>ケースワーカー 貧困への支援どこまで
2009年08月20日 10:59
〈生活ぶりをみると、納得できないことが多い。必死に生きている感じがしない〉〈流行の服を着て、パチンコに行き、車を乗り回す…〉。
読者から寄せられた手紙やメール。「どういう基準で(生活保護給付の)判断をされているのか理解に苦しみます」。身近な受給者の暮らしぶりに対する疑問をつづった文章は、「本当に困っている方」の救済への願いにつながっている 連載に寄せられる意見や感想に、身近な受給者の暮らしぶりに対する疑問や批判が目立つ。生活保護制度に対するこうした不信感の広がりは、一部の悪質な不正受給者の存在だけが原因なのか。制度に関する正確な情報の不足もあれば、「貧困」と「自己責任」をめぐる複雑な市民感情の交錯も影を落としている気がしてならない。
憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」とは何か。自立に有効な支援とは何か。さらに深く考えたい。今回は視点を変え、保護行政の前線に立つケースワーカーの目に映る制度の実態と問題点、受給者の姿を報告する。
(畑中知子)
「自分のやっていることに正当性を見いだせなければ、つらい仕事です」。平塚由衣さん(32)は真剣な表情で語る。九州のある街で生活保護のケースワーカーを務めている。
保護世帯の子どもが高校進学する際、親の了解を得てこう話すようにしている。「親も頑張っている。部活をしないのなら、あなたもアルバイトをしてほしい」。厳しい気もする。だが、自覚を促すことで、受給世帯の子が成長した後に保護を受給する、いわゆる“貧困の世代間連鎖”を防ぎたいと考えている。
職を持たない受給者にはハローワークに行くように勧め、就職活動の面接状況を報告するよう指導する。 担当する100前後の世帯には、「お金とひまがあればだらけてしまう」ケースがあるのは事実という。家庭訪問や課税状況のチェックで不適正な受給を発見することもある。障害年金を隠し続けた受給者は、社会保険庁への問い合わせや口座の確認、本人や家族との面談を重ね、半年後に保護を打ち切った。
受給者とのかかわり方には神経を使う。熱心に取り組むほど、摩擦が生じる危険性もある。「あなたが担当者でよかったと言ってくれるのは3分の1ぐらい」。うつ状態に陥った同僚も見てきた。「保護停止や廃止に踏み込むのは、仕事を増やすことにもなる。疑わしいケースを気づかないようにする職員もいます…」
§ §
「どこまで受給者にかかわるかは、ケースワーカーの裁量によるところが大きい。業務量には幅がある」
福岡県内のケースワーカー、田淵修司さんも語る。福祉事務所には6年間勤務。折からの不況で申請者が急増し、残業が続いている。「理想を目指して仕事をすれば、帰宅できない」
田淵さんの取材は、生活保護に関するマスコミ報道が〈「受給者の悲惨な状況」か「不正受給」のいずれかの側面を極端に強調する〉というメールを寄せてくれたのがきっかけだった。
「不正受給のニュースに接するたびに違和感を感じてきた。国が発表する不正受給額は、年金やアルバイト代の申告漏れも含まれる。ほとんどミスで、故意に行われる不正は少ないんです。生活保護は特殊な人がいる世界ではない。ごく当たり前の世界の一部です」
§ §
「生活保護はあくまで所得保障」と田淵さんは語る。平塚さんも「保護制度が対象として想定していなかった人が近年、この制度に流入しているのではないか」と指摘する。
例えば、こんなケースがあった。3人の子どもを育てる20代の母親は夜間、飲食店で働いていた。朝まで帰宅せず、小学生が学校を休んで小さな子どもたちの面倒を見ることもある。平塚さんは日勤の仕事を勧めたが「就労はしているし、それ以上の指導はできない」。一方、保護を続け「生活に口を出される」ことが、この一家の暮らしを崩壊から防いでいた。
「経済的な困窮の原因に、家庭環境や成育歴が影響する場合が少なくない。でも、生活保護で支援する人なのかどうか。ほかに支援する制度や措置が必要だと思うんです」
2人のケースワーカーがともに投げかけた問いがある。自立した生活から生活保護に陥るまでの途上に設けられている現行の安全網は薄く、もろい。保護制度はどこまで貧困を受け止め続けることができるのだろうか。 (文中仮名)
× ×
●不正受給0.35%、約92億円
厚生労働省によると、2007年度の生活保護費の総支給額約2兆6175億円のうち、働いた収入を隠すなどして不正に受給されたのは約0・35%にあたる92億円。件数は約1万6千件=円グラフ参照(←円グラフは記事のリンク先をご覧ください・引用者注)。保護世帯の増加に合わせて増え続け、02年度の約8200件から倍増している。
不正摘発のため、福祉事務所は調査を強化。07年度に発覚した不正受給のうち社会保険事務所や生命保険会社などに対する「照会・調査」がきっかけになったケースは約90%。民生委員や住民からの「通報・投書」が約6%だった。特に悪質な12件は刑事告発している。
× ×
●こちら取材班
生活保護に関する体験談をお寄せ下さい。若い世代の保護受給や就労支援についての意見、情報もお待ちしています。
=2009/08/06付 西日本新聞朝刊=
この記事を読んで思い出すのは、湯浅さんの『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』の次の一節です。
「生活保護と言うと、すぐに『必要のない人が受けている』『不正受給者がいる』と言われることがあるが、生活保護の不正受給件数は2006年度で1万4669件である。必要のない人に支給されることを『濫給(らんきゅう)』と言い、本当に必要な人に行き渡らないことを『漏給(ろうきゅう)』と言うが、1万4669件の濫給問題と600万〜850万人の漏給問題と、どちらが問題の本質として深刻か、見極める必要があると思う。」
600~850万と1万4669ですから、問題の本質として深刻なのは明らかに前者(漏給)でしょう。比率で見ると600万:1万5000=400:1ですから、漏給と濫給を1:1の割合で「同等」に扱っても、実は全くバランスが取れていないわけです。
今回のルポは別として、メディアの取り上げ方も、「『貧困』と『自己責任』をめぐる複雑な市民感情の交錯」に影を落としているのだと思います。
西日本新聞 2009年8月6日 【こぼれゆく暮らし 生活保護の現場から】<3>ケースワーカー 貧困への支援どこまで
【こぼれゆく暮らし 生活保護の現場から】<3>ケースワーカー 貧困への支援どこまで
2009年08月20日 10:59
〈生活ぶりをみると、納得できないことが多い。必死に生きている感じがしない〉〈流行の服を着て、パチンコに行き、車を乗り回す…〉。
読者から寄せられた手紙やメール。「どういう基準で(生活保護給付の)判断をされているのか理解に苦しみます」。身近な受給者の暮らしぶりに対する疑問をつづった文章は、「本当に困っている方」の救済への願いにつながっている 連載に寄せられる意見や感想に、身近な受給者の暮らしぶりに対する疑問や批判が目立つ。生活保護制度に対するこうした不信感の広がりは、一部の悪質な不正受給者の存在だけが原因なのか。制度に関する正確な情報の不足もあれば、「貧困」と「自己責任」をめぐる複雑な市民感情の交錯も影を落としている気がしてならない。
憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」とは何か。自立に有効な支援とは何か。さらに深く考えたい。今回は視点を変え、保護行政の前線に立つケースワーカーの目に映る制度の実態と問題点、受給者の姿を報告する。
(畑中知子)
「自分のやっていることに正当性を見いだせなければ、つらい仕事です」。平塚由衣さん(32)は真剣な表情で語る。九州のある街で生活保護のケースワーカーを務めている。
保護世帯の子どもが高校進学する際、親の了解を得てこう話すようにしている。「親も頑張っている。部活をしないのなら、あなたもアルバイトをしてほしい」。厳しい気もする。だが、自覚を促すことで、受給世帯の子が成長した後に保護を受給する、いわゆる“貧困の世代間連鎖”を防ぎたいと考えている。
職を持たない受給者にはハローワークに行くように勧め、就職活動の面接状況を報告するよう指導する。 担当する100前後の世帯には、「お金とひまがあればだらけてしまう」ケースがあるのは事実という。家庭訪問や課税状況のチェックで不適正な受給を発見することもある。障害年金を隠し続けた受給者は、社会保険庁への問い合わせや口座の確認、本人や家族との面談を重ね、半年後に保護を打ち切った。
受給者とのかかわり方には神経を使う。熱心に取り組むほど、摩擦が生じる危険性もある。「あなたが担当者でよかったと言ってくれるのは3分の1ぐらい」。うつ状態に陥った同僚も見てきた。「保護停止や廃止に踏み込むのは、仕事を増やすことにもなる。疑わしいケースを気づかないようにする職員もいます…」
§ §
「どこまで受給者にかかわるかは、ケースワーカーの裁量によるところが大きい。業務量には幅がある」
福岡県内のケースワーカー、田淵修司さんも語る。福祉事務所には6年間勤務。折からの不況で申請者が急増し、残業が続いている。「理想を目指して仕事をすれば、帰宅できない」
田淵さんの取材は、生活保護に関するマスコミ報道が〈「受給者の悲惨な状況」か「不正受給」のいずれかの側面を極端に強調する〉というメールを寄せてくれたのがきっかけだった。
「不正受給のニュースに接するたびに違和感を感じてきた。国が発表する不正受給額は、年金やアルバイト代の申告漏れも含まれる。ほとんどミスで、故意に行われる不正は少ないんです。生活保護は特殊な人がいる世界ではない。ごく当たり前の世界の一部です」
§ §
「生活保護はあくまで所得保障」と田淵さんは語る。平塚さんも「保護制度が対象として想定していなかった人が近年、この制度に流入しているのではないか」と指摘する。
例えば、こんなケースがあった。3人の子どもを育てる20代の母親は夜間、飲食店で働いていた。朝まで帰宅せず、小学生が学校を休んで小さな子どもたちの面倒を見ることもある。平塚さんは日勤の仕事を勧めたが「就労はしているし、それ以上の指導はできない」。一方、保護を続け「生活に口を出される」ことが、この一家の暮らしを崩壊から防いでいた。
「経済的な困窮の原因に、家庭環境や成育歴が影響する場合が少なくない。でも、生活保護で支援する人なのかどうか。ほかに支援する制度や措置が必要だと思うんです」
2人のケースワーカーがともに投げかけた問いがある。自立した生活から生活保護に陥るまでの途上に設けられている現行の安全網は薄く、もろい。保護制度はどこまで貧困を受け止め続けることができるのだろうか。 (文中仮名)
× ×
●不正受給0.35%、約92億円
厚生労働省によると、2007年度の生活保護費の総支給額約2兆6175億円のうち、働いた収入を隠すなどして不正に受給されたのは約0・35%にあたる92億円。件数は約1万6千件=円グラフ参照(←円グラフは記事のリンク先をご覧ください・引用者注)。保護世帯の増加に合わせて増え続け、02年度の約8200件から倍増している。
不正摘発のため、福祉事務所は調査を強化。07年度に発覚した不正受給のうち社会保険事務所や生命保険会社などに対する「照会・調査」がきっかけになったケースは約90%。民生委員や住民からの「通報・投書」が約6%だった。特に悪質な12件は刑事告発している。
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●こちら取材班
生活保護に関する体験談をお寄せ下さい。若い世代の保護受給や就労支援についての意見、情報もお待ちしています。
=2009/08/06付 西日本新聞朝刊=