謎の商人ロールプレイ   作:誰かさん

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救援依頼

 アリーゼ・ローヴェルは『星屑の庭』にあるソファーの一つで、くてっとしていた。

 ホームの中には、彼女以外誰も居ない。もう少し時間が経てば、誰かが戻ってくるだろうが。それまではホームの中で好き勝手に振る舞える時間である。

 アストレア・ファミリアの団長がだらけるというのは、簡単なようで難しい。強大なファミリアの団長というのは、それだけで素行の美しさが求められるのだ。これは実のところ、余人が思うよりも遙かに気を遣う。

 アリーゼはフィン・ディムナのように、素で英雄を演じられるほど徹底していない。かといって、フレイヤ・ファミリアの先代団長オッタル、および現団長アレンのように、背中で語るような威もない。結果、人目がある所では、なんとかかんとか女神アストレアにふさわしい団長の仮面を、内心でひーこら言いながらつけなければいけないわけだ。

 そういった苦労があるのを分かっているのだから、ホームの中でくらい気を抜かせてくれてもいいじゃん、そう思う。が、ライラや輝夜は、普段からやっとけ気を抜くなと許してくれない。気持ちを分かってくれるのはリューだけ。まあリューはリューで、二人から散々弄られたり虐められたりしている。つまり同類とうだけなのだが。

 普段なら、誰か返ってくるのではないかとびくびくしなければいけないのだ。

 

「うふふ……でも今日は完璧!」

 

 今頃はガネーシャ・ファミリアと合同で、対モンスターの合同訓練が行われている頃だ。

 これが治安維持連携訓練とかならアリーゼも参加するのだが、相手がモンスターとなると、邪魔の一言で排除される。正直むちゃくちゃ悲しいし寂しいが、正論なので言い返せない。ましてや自覚があるので、余計な事もできなかった。

 まあ、全てが全て悪いわけではない。こうして、たまの完全オフを楽しもうという気にもなるのだから。

 

「今までは一人でお留守番なんて、暇なだけだったけどー……」

 

 ごそごそと、箱の中を漁る。この箱は、今ではファミリアに一つはあるものだった。中にはプロジェクターと、何枚もの映画ディスクが仕舞ってある。

 これはいくつかのファミリアが生産している、映画セットだ。といっても、中身は全部『謎のファミリア』が作っているものそのままである。それらを詰め込める箱だけを、別に作っていた。生産元によってなかなか個性が出ており、使いやすさに結構な差が出ている。

 

「一人映画っていうのも悪くないよねー♪」

 

 手早くプロジェクターを設置し、ディスクケースをいくつか取り出す。

 ストロングワールドを皮切りに、いくつかの映画作品が発表された。現状、出しているのは全て『謎のファミリア』制作のみだ。

 オラリオでも映画を作ろうという試みはあるが、上手くいっていないらしい。必要な機材一式は謎のファミリアから提供されているものの、とにかく敷居が高いのだ。実写、アニメーション作品問わず、必要なスタッフ人数だけでも桁一つ二つ違ってくる。それこそ制作費になると、何十万何百万ヴァリスと必要になるらしい。

 とにかく製造コストが途方もなさ過ぎて、漫画のように「試しに一度」というのが難しい訳である。

 こういった時、謎のファミリアみたいな趣味人集団は強い。オラリオで映画を作ったら、どうしても投資分の回収を意識しなければいけなかった。それに対して、彼らは一丸となって「受ければ勝ち」という意識でおり、商売っ気が全くない。故に、大胆な真似をし放題だ。

 

「ポップコーン♪ ジュース♪」

 

 おうちで一人映画を楽しむための装備は万全。音がせず、腹に溜まらず、気軽に食べられるお菓子。そして保温容器に入れた飲み物。完璧な布陣だ。

 

「んー、最高の贅沢ね」

 

 実は、プロジェクターの数はあまり多くない。さしもの謎のファミリアと言えど、魔石道具は大量生産できないという事なのだろう。つまり、どのファミリアも、プロジェクターは共用品だ。一人で映画を独占することができる機会はまずない。

 だからまあ。昔は寂しかった孤独な休日も、それほど悪くないと思える。

 そんな風に考えながら、ディスクをセットした、まさにその瞬間。がんがんがん、とホームのドアがけたたましく叩かれた。

 

「すまない、誰かいないか! 私はオラリオの外、アルテミス・ファミリアから来た者だ! どうかアストレア様にお目通り願いたい!」

 

 無茶苦茶切羽詰まった声に、どうやら休日は返上だなと考えながら、アリーゼは声を返した。

 

 

 

 

 

 つまり、話の概要はこうだった。

 アルテミス・ファミリアはいつも通り、狩猟の傍ら、アストレア・ファミリアのような正義活動を行っていた。

 そうしているうちに、アルテミス・ファミリアに一件の依頼が舞い込む。それは、最近とある森で妙なモンスターが発生しているため、それを討伐して欲しいというもの。

 断る理由などなく、モンスター討伐と森の調査に向かったアルテミス・ファミリア。

 調査を続けるうちに、どうもモンスターが単一規格である事を発見。つまりそれらは、全て兄弟であった。異常事態だと断じ、本格的な行動を開始する。

 その中で見つけたのが、エルソスの遺跡だった。ここには太古の昔に封じられた、魔獣アンタレスが存在したのだ。しかも、長い年月が経っている影響で封印が緩みかけている。

 予想外の事態に、主神アルテミスが慌て出す。何せ魔獣アンタレスというのは、全精力を取り戻せば、三大冒険者依頼に比肩するほどの力を持っているのだから。最低でもゼウス・ヘラ両ファミリア全盛期ほどの力が整っていなければ、野に放たれていい存在ではない。

 アルテミス・ファミリアの力を結集して、なんとか再封印に成功する。後はアンタレスの子を掃討し、定期的に封印の調査をするだけで終わり。そのはずだったのに。

 一人の愚か者により、封印を解かれてしまったのだ。

 そんなことを、アストレア・ファミリアが総動員で救援に向かう道すがら、副団長たるアタランテから聞いた。

 

「一つ疑問があるんだけどさ」

 

 ガネーシャ・ファミリアから借りた飛竜の籠の中、アタランテに問いかける。

 

「封印ってそんな簡単に解けるものなの?」

「いいや、まともに解こうとしても無理だ。元々、超古代に考案された封印式だ。もう誰も再現できる者は残っていない。それに封印というなら、エルソスの遺跡そのものが構築していると言える。さらに、封印式そのものも喪失して久しい。開印など土台無理な話だ」

「ということは、かなりヤバげな奴が混ざってるカンジかー……」

 

 アンタレスだけではなく、封印を解いた下手人(高確率でそれを狙った組織)を壊滅させなければいけないわけだ。これはなかなか面倒な仕事だな、とアリーゼは思う。

 だが。言葉を肯定も否定もせず、アタランテはただただ深くため息をついた。

 

「それなのだが、やらかした奴は分かっているし、すでに死んでいる」

「捕まえられなかったの?」

 

 続けて問いかけると、彼女はひたすらに渋い顔をした。

 

「……盲点だった、というのはただの言い訳だな。我々に油断があったのは紛れもない事実で、まさかそんなという意識もあった」

「何で歯にものの詰まったような言い方するの? そりゃあ瑕疵がないとは思わないけどさ、何事も完璧にとは言わないじゃん。しょうが無いよ」

「そうではない、そうではないのだ……」

 

 うめきながら、アタランテはついに頭を抱えてしまった。

 

「下手人の名前は『ヘロス』。背後関係を洗っても、これといった特徴の無い、ごく一般的な村人だった」

 

 そんな台詞に、さすがにぽかんとする。

 

「同郷の者から聞いたところによると、人一倍虚栄心が強かったらしく……何でもいいから大きな事をして有名になりたい、ただそれだけで実行したようだ。私達も、まさか一般人が特に意味も無く古代遺跡を爆破するとは思いもせず……すまない」

 

 などという答えは、さすがに予想外すぎるものであり。さすがのアリーゼも、口をぽかんと開けて二の句を告げることができなかった。

 時が止まったかのような、痛い沈黙の中。真っ先に復活したのは、同乗していたリューだった。

 

「なっ――なんなのですかそれは! そんな、まさか……()()()()()、ただそれだけで伝説の魔獣を復活させたと!?」

 

 感情のままである激憤。

 リューもいろいろな経験を経て、成長はしている。特に今までは概念的にしか捕らえていなかった『正義』に対しても、彼女の中で確固たるもを作り上げてはいた。

 ただ、なんだかんだ今でも感情的な所は残っている。輝夜とライラ曰く、アリーゼ(あんた)が甘やかすから末っ子気質がいつまで経っても抜けない、らしい。そんなことはないと思うのだが。指摘されなければならいほど甘やかしている訳でもないのだし……たぶん。

 アタランテも同意するように頷いた。ただ、注釈はつける。

 

「そうだ。一つ訂正をすれば、ヘロスという男は魔獣アンタレスを復活させようなどと考えていなかった。というか、本当に何も考えていないのだろうと思う。ただ、そうすれば注目されるからそうしたというだけで」

「なんと愚かな……」

 

 リューが、浮かせかけた腰をとすんと落とす。飛竜に吊された籠が小さく揺れた。

 

「あの、リュー? 気持ちは分かるけど少し落ち着いて、ね? あなた達は平気でも、私はちょっとの衝撃で落ちちゃうかもしれないから」

「はっ!? も、申し訳ありません、アストレア様!」

 

 ぺこぺこと、大きくなりすぎない動きで頭を下げる。

 この籠は、女神アストレアに護衛の三人を乗せた計四人で扱っていた。他の飛竜もそうだが、荷物も載せているため、割と余裕を持って座れるようになっている。とはいえ、この籠には身長190セルチを超える上、見て分かるほど筋肉を纏っているアタランテが乗っているため、多少手狭な印象があった。

 

「でも、よく逃げられたよね。話に聞くだけでもとんでもない物量で、とても二十人そこそこのファミリアでどうにかなるようには聞こえなかったんだけど」

 

 視界を覆うほどもいる魔物の子に、完全な状態ならベヒーモスにも匹敵するらしいアンタレス。これに勝てと言われれば、相手の能力と状況によるのだが。逃げるのは、アストレア・ファミリアでも自信がない。

 ましてや――こういう言い方はよくないのだが――アルテミス・ファミリは団長と副団長だけがLv.3で、他は少数のLv.2と残りがLv.1。アリーゼとリューというLv.5を抱えたアストレア・ファミリアとは、取れる手段に天地の差がある。

 

「それについては、うちの魔法使いがえらく優秀でな。アルテミス様の指示ありきとはいえ、封印を再構築したのも彼女だ。その上……これは説明が難しいな。直接見て貰った方が早い。現地に着いてからにしてくれ」

「ん、わかった」

 

 よく分からないが、凄い魔法使いがいるのだなという事だけ覚えておく。

 実は、アリーゼは魔法使いというものをよく分かっていない。というのも、実はアストレア・ファミリアに専業魔法使いというのがいないためだ。

 魔法を使える者というだけならば、それなりにいる。そもそも幹部級は全員、何かしらの魔法を持っているのだし。ただしそれはら、極端な精神集中を要求されるような、高難易度高威力の魔法ではなく。俗に魔法戦士と呼ばれる者だけで構成されているのだ。

 これは、ただいないというだけの問題ではない。魔法使いに対する不理解にも繋がっている。

 

(なんとかしなきゃいけない問題だとは持ってるんだけどねぇ……)

 

 純粋な魔法使いがいないから、魔法使いの苦労を理解できない。理解できないからノウハウが育たない。ノウハウがないから魔法使い志望者がやってこない。完全な悪循環である。

 これまでは、時間を掛けて魔法使いの育成方針を作っていけばいいと思っていたが。それが裏目に出てしまった形になった。不理解が過ぎる彼女には、魔法使いのなんたるかを想像することすら難しい。

 そんな風に話のすりあわせをしながら数日。かなりの強行軍であったのも手伝って、エルソスの遺跡近辺の森に想定より早く入ることができた。

 どこにでもある普通の森だな、と思えていたのは最初のうちだけ。森も半ばほどになると、魔獣復活の影響が目に見えた。

 

「何……これ……」

「なんとおぞましい……」

「これは、森の生命力を根こそぎ吸い取っているのね」

「ああ。これが魔獣アンタレスだ。今は近隣の住民も避難しているが、もし人が残っていたら、そいつらも命を吸われて死んでいただろうな」

 

 これは、森が枯れているという表現で合っているのだろうか。雑草の一本に至るまで痩せ衰え、生気を感じない。

 この光景は、世界の終焉としてあり得る姿の一つなのだろう。三大冒険者依頼でったり、世界のどこかで封印されている古代の厄災であったり。そういったものを放置し続ければ、いずれはこうなるという。

 恐らく、死んでいるのは森だけではない。地面まで含めて、全て命を吸い取られてしまったのだ。ここに再び命が宿るには、長い年月を必要とする。

 終末の姿に唖然としていると、ぱぱっ、と信号弾が発射された。輝夜とライラが乗っている飛竜から発射されたものだ。

 

「なーにー!」

 

 ばたばたと手を振りながら、声を掛けてみる。が、二人は呆れたように顔をしかめた。当たり前に、声が届くはずもなかったと思い出す。

 ライラがとある方向を指さし、よく見ろというジェスチャをする。目をこらして視線を追わせると、そこには小勢力がモンスターと戦っているのが見えた。

 モンスターはやたらに数が多く、小勢力は引きながら戦っている。が、見るからに圧されていた。なんというか、動きが鈍い。この様子は知っている。休む間もなく戦い続けて限界を迎え、自滅する寸前の状態。

 

「リュー! 信号弾!」

「はいっ」

 

 手渡されたそれを、連続して二発撃った。非常事態発生の合図。

 

「飛竜をあっちに向かわせて! 暢気にしてる暇なさそうだから、二人で飛び降りるよ! 輝夜とライラも多分来るから!」

「伝わっているのですか!?」

「だいじょーぶ! 輝夜は私なんかより、遙かに指揮官として優秀だからね。こっちの意図を汲んでくれるって」

 

 そうでなかったとして、最悪、二人だけでもいれば救援は可能だろうという考えがあった。

 

「私も行くぞ!」

「アタランテにはアストレア様を頼みたいの。アストレア様だけだと飛竜を制御できなくて、そのままどこかに飛んで行っちゃいそうだから」

「えへ」

 

 えへ、じゃないが。かわいく言ってもごまかせない事はいくらでもあるのである。

 それに、この高さと速度は、さすがにLv.3では無事で済むものではない。だからアリーゼは、幹部だけで強襲を行おうと考えていた。

 

「よーし」

 

 手早く武器を引っ張り出して、肩を回す。

 

「アリーゼさん、がんばっちゃうぞー」

 

 なにせ、負ける事だけは万が一にもあり得ない。

 籠の縁に手を掛けて、彼女は()()行使の準備を始めた。

 

 




スマホゲーの方はプレイしてなかったのでアルテミス・ファミリアの団員は全てオリキャラとなります
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