ご当地アイドルブームの火付け役となったNHK連続テレビ小説「あまちゃん」(平成25年)放送から今年で10年。「日本ご当地アイドル活性協会」(東京)によると、東京を除く46道府県を拠点に活動するアイドルは増加を続け、2300組(今年4月現在)を突破。この8年で4倍強に激増した。なかでも大阪府は400組超と全国の約2割を占める大激戦区だ。活躍の目安となる活動歴10年以上は約3%という世界で、各グループは生き残りへ独自性を出した活動を続ける。関西ご当地アイドル界の最前線を追った。
「雨ですが思いっきり楽しみましょう」。司会者が開会を宣言すると、ステージで元気な歌声が響き始めた。4月15、16日、大阪市住之江区の複合イベント施設「クリエイティブセンター大阪」で開かれたご当地アイドルのイベント会場は熱気に満ちていた。
名村造船所大阪工場跡地につくられた同施設にちなみ、イベント名は「大阪造船所アイドルフェス」。総勢約75組のご当地アイドルが出演、2日間とも約1千人ものファンでにぎわった。
昨年初めて開催。造船所跡地という珍しさや、これまで関西ではアイドルフェスの開催はあまりなかったことなどから、回を重ねるごとに来場者が増加。関西を代表するフェスに育ちつつある。東京など他地域を拠点にするグループも出演し、昨秋には瀬戸内海の各県を拠点にする「STU48」もステージに立った。
4ステージ同時
「大阪でも本格的なフェスを開催できないかと考えたことがきっかけ」と企画した同市西区の芸能事務所「mint Music ENTERTAINMENT」の石川貴憲さんは話す。
造船所アイドルフェスの特徴は、広い敷地を活用した4ステージ態勢だ。出演者は屋外、屋内の4ステージで同時にパフォーマンスを始める。来場者はお目当てのアイドルが出演していないときは他のステージを回遊でき、新たなアイドルを発見する可能性がある。
アイドルも最低2回はステージに立つことができ、売り込む機会が増える。アイドルや主催者にとっては新たな客の開拓にもつながる期待がある。
かつて「USEN STUDIO COAST」(東京都江東区、現在は閉館)で開催されていた「アイドル甲子園」「アイドルテーマパーク」などの開催方法を参考にした。石川さんによると、大阪でアイドルフェスを手掛ける業者は少ないといい「関西でプロモーションがしたいのに、どこで活動したらいいのかわからない」という声も関東のアイドルグループの運営事業者からあがっていたという。
石川さんは「関西では活動機会がライブハウスなどに偏り、限られたファンを奪い合っている。開かれた場所でより多くの人に見てもらえる機会を作らないと、業界にとってもグループにとっても成長につながらない」と話す。
「大阪のアイドルフェスは動き始めたばかり。時間はかかるが、しっかりと積み重ねていきたい」と語る石川さん。次回は9月23、24日の開催が決まっている。
殿堂入りは奇跡
全国に約2300組いるご当地アイドル。日本ご当地アイドル活性協会は、結成10周年かオリコンウイークリー1万枚の達成グループの「殿堂入り」を発表している。第1号は平成21年、愛知県が拠点の「SKE48」。そして今年3月に100組目の殿堂入りとなったのは大阪のシンボルタワー・通天閣(大阪市浪速区)を拠点にする9人組の「ハンバーガール」だ。
もともとは兵庫・淡路島のハンバーガーをアピールするため結成。その後、通天閣地下の劇場「STUDIO210(ツーテン)」に拠点を移した。
新型コロナウイルスの影響で専用劇場が使えなくなったが、動画配信などSNSを活用した活動を展開し今年3月に結成10周年を迎えた。メンバーの小川久瑠実さんは通天閣のイメージガールも務め、地域活性化に一役買う。
ハンバーガールのプロデュースを手掛ける「イーゼル芸術工房」代表の竹下壽晃(ひさあき)さんは「アイドルのアイドルによるアイドルのためのグループを目指してきた」と振り返る。メンバーたちは歌と踊りだけでなく、動画制作や編集、ゲーマー、声優など多彩な活動を展開。現在では東京にもオフィスを構えた。
これまで殿堂入りしたグループ101組(4月時点)のうち、大阪府を拠点にしているのは12組。全国の1割強を占め「健闘」しているといえそうだ。
一方、府内を拠点とするアイドルは429組が活動しており、12組は約3%にあたる。10年以上生き残る確率は約3%とみることもできる。同協会の金子正男代表は「10年続くだけでも奇跡。地元の宝だと思う」と評価する。(格清政典)