大学授業料などの減免制度 学生の申請間に合わず 延長の動きも

今年度から始まった3人以上の子どもを扶養する世帯を対象に大学の授業料などを減免する制度で、手続きの締め切りに間に合わず、申請できなかった学生が相次いでいます。こうした状況をうけて各大学が申請期間を延長したり、再度設けたりするなど、対応を見直していることが分かりました。

少子化対策の一環として今年度から始まった制度では、3人以上の子どもを扶養する世帯を対象に、大学などの入学金と授業料が減免されます。

▽国公立の場合、入学金が約28万円、授業料が年間で約54万円減免
▽私立では入学金が26万円、授業料が年間70万円減免

約41万人が対象となります。

申請は大学などの窓口でそれぞれ期限を設けて受け付けていますが、4月中や5月上旬に受け付けを終了した大学では、学生や保護者から申請できなかったという声が相次ぎ、文部科学省が全国の大学などに対し適切に対応するよう求める事態になっていました。

こうしたなか、NHKが主な国立大学や学生数が2万人以上の私立大学に取材したところ、申請期間を延長したり、再度設けたりするなど対応を見直す動きが出ています。

【文部科学省の要請以降、申請期間の延長や再設定した大学】
▽東京大学
4月18日に申請を締め切りましたが、申請期間を再度設けることを検討。
▽大阪大学
4月21日に申請を締め切りましたが、受け付け期間を再度設けることを決定。
▽中央大学
5月8日までが期限でしたが、23日まで延長を決定。
▽立教大学
4月30日に締め切りましたが、6月2日~10日に再度受け付け。
▽関西学院大学
4月28日で締め切りましたが、5月19日まで受け付け。
▽慶應大学
4月24日に申請を締め切りましたが、受け付け期間を再度設けることを決定。
▽明治大学
当初の締め切りの4月25日から延長し、5月2日まで受け付け。さらに6月2日から12日まで再度受け付け。

【大学の判断で延長するなど5月14日時点で受け付けている大学】
▽法政大学
6月13日までが受け付け期間で制度の周知を徹底するため保護者あてに新たに案内文を郵送へ。
▽近畿大学
多くの学部で4月22日を締め切りとしていましたが、学生からの問合せが多く、受け付け期間を5月20日まで延長。
▽関西大学
5月12、13、20日に新たに受け付け。
▽日本大学
学部によって締め切りが異なるもののおおむね5月中旬まで受け付け。その後、相談があった場合も学生に不利益のないように柔軟に対応。
▽東海大学
受け付け期間は5月23日までですが、申請の遅れがあれば柔軟に対応。
▽立命館大学
4月18日に申請を締め切りましたが、5月28日まで延長。

【すでに受け付けを終了した大学】
すでに十分周知をしたなどとして新たな対応は行わない大学もあります。
▽京都大学
5月2日まで受け付け「すでに十分な申請期間を設けたため延長はしない」
▽早稲田大学
当初の締め切りの4月22日から延長し、5月1日まで受け付け。「すでに延長していたため再延長はしない」
▽東洋大学
当初の締め切りの4月10日から延長し5月7日まで受け付け。「早めの申請を促しできる限り長めに設定した」

保護者「誰も見逃すことないよう対応してほしい」

都内で3人の子どもを育てる50代の女性は、この春に長男が大学に入学し、制度の対象になりますが締め切りに間に合わず、このまま支援が受けられないのではないかと不安を抱えています。

「少子化対策のイメージが強く、児童手当と同じように親に申請書類が送られてくると思っていました。大学に入学して4月がばたばたと過ぎて気付いたら5月になり、問い合わせたらもう締め切られていた。自分の反省でもありますが、子ども自身が大学に行かないと申請できない仕組みと分からずに待っていました」
「同じ制度のはずなのに大学によって締め切りも違って、大学側も運用に戸惑っている印象も受けます。運用上の理由で締め切りが早いのかも知れませんが、本来の目的は『多子世帯』の支援のはずで、支援を決めて頂いたのなら誰もが見逃すことのないよう対応をしてほしいです」

申請期間を延長した大学は

文部科学省からの要請をうけて、申請期間を延長を決めた中央大学。

当初、5月8日までを申請期間として、学生だけでなく保護者も加入するLINEなどで周知してきました。期限内に申し込んだ学生も多くいる一方、大学側が推定していた対象学生数には達しておらず、必要な書類の受けとりを5月16日まで、申請期間を5月23日までに延長しました。

大学の窓口には、14日も手続きに来る学生の姿が見られました。書類を提出した大学4年の男子学生は「親から制度のことを伝えられて手続きに来ました。期間の延長はありがたいです」と話していました。

中央大学奨学課の荻野大祐副課長は、「本来受けられる支援を受けられない学生が発生しないよう延長を決めました。制度が複雑で手続きをうまく進められない学生もいるのが現状で、制度を届けきるために周知などを進めます」と話しています。

保護者へ周知を徹底する大学も

申請の漏れを少なくするため、学生だけではなく、保護者に周知を徹底させる大学もあります。

約2万8000人の学生が在籍する法政大学では、減免制度の法案が成立する前の去年12月から、大学のホームページや学生向けのポータルサイトで案内を開始していました。申請の受け付けは、5月9日までと、6月13日までの2回に分けて設けていますが、制度についてホームページで周知するなど主に学生に向けて行っていたため、保護者から「制度を知らなかった」といった声などが多く寄せられていたということです。

このため、改めて周知の徹底を図ることを決め、15日から対象ではないことが把握できている一部の学生を除き、約2万6000人の学生の保護者を対象に、制度の概要や申請方法を記載した文書を郵送することにしています。

大学の窓口には学生が次々と訪れていて、この春に入学した女子学生は「入力フォームを送りましたが、そのあとどうすればいいか分からず聞きに来ました。母に言われ申請しましたが、制度の対象などは分かっていませんでした」と話していました。

法政大学学生センター厚生課の高井真理さんは「学生への周知だけでは申し込みの機会を逃し、不利益になってしまう可能性があると考え、保護者にも届くように案内の郵送を決めました。必ず期限までに申請してほしいです」と話していました。

専門家「国など制度の周知が不十分だったことが要因」

奨学金制度に詳しい 桜美林大学 小林雅之特任教授

奨学金の制度に詳しい桜美林大学の小林雅之特任教授は、今回の制度への申請ができなかった学生が相次いだ背景として「国などによる制度自体の周知が不十分だったことが問題が大きくなった要因だ。加えて大学のなかでも、説明会を開くなど丁寧に対応したところがある一方で、あまり対応しなかったところもあり、混乱がより大きくなっている状況だ」と指摘しています。

また、大学からの案内に気がつかない学生が多いとみられることについて「意識をして情報収集をした人はしっかりと情報を得られたが、いまは多くの人がSNSなどで情報を得ていて、そのためウェブサイトでの案内では不十分で、情報提供のあり方も考える必要がある」としています。そのうえで「まずはそれぞれの大学が申請の期間を延ばすことが一番の解決策だ。国には大学ごとに対応の差が生じている状況を改善するための対応を検討してもらいたい」と話しています。

一方で、支援制度自体の複雑さも混乱を大きくしている要因だと話し「学生が理解できないだけでなく大学側にとっても事務負担が大きくなっていて、経営が厳しい大学では職員の手が回らずに十分に対応できないところもある。よりシンプルでわかりやすい制度に見直すことも考えないと問題は解決しない」と訴えています。

多子世帯の大学無償化とは

子ども3人以上の世帯への大学などの授業料や入学金を減免する制度は、少子化対策の一環として教育費による経済的な負担を軽減するため、今年度から始まりました。昨年度まで、住民税非課税世帯などを対象に運用されていた制度を拡充したもので、所得制限はありません。

【支援の対象は?学校は?】
支援を受けられるのは3人以上の子どもを同時に扶養する世帯で、第1子が就職するなど扶養から外れると支援の対象から外れます。

対象の学校は4月の時点で▽大学が768校、▽短期大学が252校、▽高等専門学校が56校、▽専門学校が2046校で、約41万人の学生が制度の対象となると推計されています。

【支援金額はどのくらい?】
子ども1人あたりの減免額は▼国公立の場合、入学金がおよそ28万円、授業料が年間およそ54万円、▼私立では、入学金が26万円、授業料が年間70万円です。

通っている大学などの授業料や入学金が減免される額を上回る場合はその分を支払う必要があります。制度が始まった初年度のことしは先月から手続きが始まったため、授業料や入学金をいったん納めたあと、後日、減免分が返還されることになっています。

【申し込み手続きは?】
支援を受けるには通っている大学などを通じて日本学生支援機構に申請することが必要です。

文部科学省によりますと、まず、大学の窓口で手続きの内容が書かれた書類を受け取ります。そして専用のウェブサイトで必要な情報を入力するとともに、申請書類などを大学に提出します。申請には学修意欲や成績に関する要件が設けられていて、大学によっては意欲や目的、将来の人生設計を確認するための「学修計画書」の作成を求めるところもあります。

これらを大学が確認し、要件を満たすことが確認されれば日本学生支援機構に対して支援の対象者として推薦され、授業料などの減免が受けられることになります。

【なぜ今回の混乱は起きた?】
最終的に支援を決める日本学生支援機構が定めている申請の期限は6月末ですが、窓口の大学側が制度が初年度であることやさまざまな書類の確認などで時間がかかるとして多くが先月中や今月上旬で申請の受け付けを締め切ったとみられています。

今回申請できなかった場合、ことし秋にもう一度、申請の受け付けがありますが、そこで認められても、すでに払っている入学金や前期分の授業料についてはさかのぼって減免されません。

【文科省は?日本学生支援機構は?】
こうした大学の対応について文部科学省は「申請期間の設定は一定の裁量を認めているが、合理的な理由や特別な事情がなく申請期限を4月に定めるなど、学生の申請機会が妨げられてしまうような取扱いを想定するものではない」として大学などに対し、申請期間の延長や再設定など、適切に対応するようするよう求めています。

文部科学省の桐生崇 学生支援課長は「大学にとって事務処理の負担が大きいとは思うが、学生の教育費の負担軽減のためにも、対応に協力してほしい」と話しています。

また日本学生支援機構は「6月までに申請しないと4月から9月までの支援が利用できなくなる。各校においても、まずは学生が6月までに手続きできるよう適切に対応いただきたい」としています。

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