中1息子がいる父(48)が見た 子どもの“SNS禁止法” フロリダ

中1息子がいる父(48)が見た 子どもの“SNS禁止法” フロリダ
「オレ以外は全員スマホ持ってるよ…」

この春、中学生になる息子が口にした言葉だ。
子どものころにスマートフォンがなかった48歳の私の本音は、「そんなに早くからいらないでしょ」。SNSを子どもがずっとやり続けたりトラブルに巻き込まれたりしないかも心配だ。

でも「友達の中で、持っていないのは自分だけ」と言われると、友人関係への影響が心配になる。頭を悩ませているときに目にしたのが、「国全体で子どものSNSを禁止にする」というオーストラリアのニュース。調べるとアメリカでも同様の動きがあるという。

法律が禁止してくれたら、親はNOを言いやすくなって楽になるのに…と正直思う。日本にもそんな選択肢がありえるのか、そもそも現地の人たちはどう感じているのか知りたいと思い、米・フロリダ州に向かった。

(クローズアップ現代 ディレクター 荒井拓)

日本より危機感が強いフロリダの保護者たち

2024年3月、14歳未満のSNS使用を禁止する法律が制定された米・フロリダ州。

14歳と15歳は親の同意が必要となる。

テック企業の団体から提訴された裁判によって、施行時期は未定だが、全米で最も先端を行っている州だ。
対象となるのは、“画像などのコンテンツをアルゴリズムでプッシュする”といった機能を備えたSNSで、特定のアプリは名指しされていない。

インスタグラムやTikTokなどが想定されている。

14歳未満の子どもがアカウントを持てなくなり、違反が見つかった場合は、サービスを提供する企業が罰金を払うというものだ。

街を歩く親たちに、法律について聞いてみた。

すると多くの人が賛成で、日本よりも「SNSが子どもにとってネガティブなもの」という前提が、かなり親たちの間で共有されていることに驚いた。
13歳女子の保護者
「賛成です。いったん使い始めると取り上げるのは難しいですし、特に14歳未満の禁止は間違いなく同意します。そうすれば、子どもたちは家の中に閉じこもらず、外に出て遊ぶと思います」
14歳女子の保護者
「子どもたちをSNSから守ってあげたい。適切で安全に使えるようにしなくてはならないし、もしそうでないなら、子どもたちにとても有害だと思います」
16歳女子の保護者
「賛成だね。娘はいつもスマホを見ているから、法律はいいと思う。スマホを置いて、現実世界で何が起こっているか見なさいと言ってたんだ」
ある親は、新聞の切り抜きを持ち出して見せてくれた。

中国の政府が未成年者のSNS利用時間を厳しく規制しようとしているという記事だ。「中国はすばらしい。見習うべきだ」という。

明らかになってきたSNSの子どもへの影響

大人たちが危機感を高める背景には、SNSが子どもへ及ぼす影響が科学的な調査で明らかになってきたことがある。

アメリカの10代は、1日の多くの時間をSNSに費やしている現実がある。

昨年、国立青少年教育振興機構が行った調査によると、アメリカの高校生が平日1日にSNSを見る時間は「5時間以上」という回答が最も多かった。

日本は「1時間~2時間未満」が最多で、倍以上の時間をアメリカの高校生は費やしていることになる。

そうした状況の中、国家的なプロジェクトとして進められているのが、「ABCD-STUDY」。

約1万1000人の子どもの脳の成長を、2016年から継続的に追跡調査する研究だ。
メンバーで、SNSと子どものメンタルヘルスについて数多くの論文を記している、カリフォルニア大学の小児科医、ジェイソン・ナガタ博士を訪ねた。

多くの子どもを診察しながら、研究を続けているナガタ博士。

コロナのパンデミックの際に、サンフランシスコで摂食障害に陥る子どもの数が3倍に急増したことから、特にSNSの問題に注目するようになったという。
そして、9歳や10歳の子が、SNSの使用が1時間長くなるごとに、1年後に摂食障害を発症する可能性が60%高くなっていたことや、特に13歳や14歳の子がSNSとうつの関連においてリスクが高くなっていたことなどを、データから発見してきた。
ジェイソン・ナガタ博士
「私たちの研究から、SNSに費やす時間が長いほど、メンタルヘルスの問題、摂食障害やうつ、行動障害や睡眠不足、そして心臓血管の悪化につながる可能性もあることが分かりました」
さらにナガタ博士が問題視するのは、SNS利用者の低年齢化とその依存性だ。
ジェイソン・ナガタ博士
「現在、多くのSNSを利用するための最低年齢は13歳ですが、調査では、11歳から12歳の63.8%がSNSを使っており、平均およそ3つのアカウントを持っていたのです。親が知らない秘密のアカウントを使っている子も何人もいました。また、SNSの使用に関連する問題があるかどうかも尋ねたところ、11歳から12歳の子どもでさえ、やめたくてもやめられないなど、SNSに依存していると感じていることも分かりました」
ナガタ博士は、法律については懐疑的だが何かしらの対策は必要だという。
ジェイソン・ナガタ博士
「法律については、年齢確認を厳密に行わない限りあまり意味がないと思います。また、一部のSNSには教育的メリットもあります。現代の子どもたちは、社会の中で働くために、スマホのつきあい方を知っていなければなりません。だから、年齢で一律に禁止するのは合理的ではないと思います。ただ、SNSにはリスクもあります。親や小児科医、政策立案者は、こうした子どもたちのリスクを最小限に抑えることを目標とすべきです」
日本ではここまで大規模なSNSと子どもの心身に関わる調査はなく、SNSによるメンタルヘルスへのネガティブな影響の可能性が、ここまで具体的に示されていることに驚いた。

ただSNSの依存的な利用については、いまだ正式に疾病とは認められていない。

ナガタ博士はSNSが与えるよい影響と悪い影響をしっかり見極める必要があるという。

社会が子どものSNS利用に何も動かないのは悪影響が大きすぎるが、どこまで認めるのか、さらには技術的にどう可能にするのかなど、思っていた以上に複雑なこの問題の現実が見えてきた。

全米に広がる、子どものSNS規制

子どものSNS利用に規制を求める動きは、フロリダ州以外にも広がっている。

2024年の1年間で、未成年者のSNS使用に親の同意を求める、SNSを使う子どものデータ収集を規制するなど子どものSNS使用に関する法案が検討された州は43に上る。そのうち24の州で法律が制定された。

2025年1月には連邦議会の上院に、国全体で14歳未満のSNSを禁止にし、17歳未満でもアルゴリズムの使用を禁止するという法案が提出された。
また、スマホ自体を子どもにできるかぎり持たせたくないという人も多く、彼らによって学校をスマホ禁止にするための全国組織も作られている。

筆者が訪れた3月末は、ちょうど「全米脱スマホ週間」と銘打たれ、全国のさまざまな組織から運動に賛成する声明が出され、(皮肉なことに)多くのSNSに活動への賛同を表明するポストがなされていた。

彼らは、子どもを守るための親の責任として、こうした活動に身を投じているという。

法律には反対!デジタル・ネイティブの子どもたち

一方、街で子どもたちに聞いてみると、SNSの禁止に反対という子どもがほとんどだった。
「14歳未満の子どもも許可されるべきだと思う。だって私は9歳だし、使える年齢まで長い間何もせずに待つのはつらいと思う」(9歳)
「SNSは、悪いコンテンツばかりではありません。教育にもなります。14歳未満でも使っていいと思う。理にかなっています」(14歳)
「クレイジーだと思います。SNSは、私たちが情報を学び、物事を調べるのに本当によい場所だと思います。もうニュースを見ないし、私が知っている情報はSNSからです」(19歳)
法律の施行を前に、どうするか話し合っている家庭も取材した。

マイアミの市場で出会ったセイジ・ティニソンさんと14歳の娘リリコイさん親子。

母のセイジさんは、法律に大賛成だという。

実はリリコイさんが1日8時間近くスマホを使って、もめたことがあったからだ。
母・セイジさん
「SNSはよいことより悪いことのほうが多いです。もめていた時は彼女の性格が変わってしまいました。部屋から出て、人と交流することが減りましたし、枕の下に置いたスマホが朝の3時まで振動していました」
その時は、もめた末に母がスマホを4か月没収。

そこでSNSに没頭する生活から脱したというリリコイさん。

SNSのネガティブな面も理解しつつ、法律には反対だ。
リリコイさん
「親たちの気持ちはわかりますし、理解できます。でも、私もティーンエージャーで16歳未満なので、そんなこと(法律で禁止されること)は起きてほしくありません。SNSは私たちの生活の大きな部分を占めているからです。SNSとともに成長してきたんです」
リリコイさんは、いま14歳。

法律が施行されると、保護者の同意がなければSNSは使えなくなる。

何時間までならいいのか、ルールをどうするか母に交渉している。

リリコイさんの場合は、“スマホ没収”を経て、親とオープンに話し合う関係ができており、法律をきっかけにSNSを使うルールについて親子で話すなど、よい方向に動いている。


しかしリリコイさんの周りでは、年齢を偽ったり、親が知らないスマホを手に入れて勝手に使ったりすることも普通に行われているらしい。

法律ができても、みなルールをくぐりぬけてしまうのではないかという。
リリコイさん
「私の友だちの多くは、彼らのことを本当に気にかけたり、監視したりしてくれる親がいません。私は、私のことを気にかけてくれる母親がいるのは幸運です。子どもたちを大人がちゃんと見ていることがとても重要だと思います」
法律で一律に禁止することに賛成する親たち。

だがもし、私が最初に感じたような「法律で禁止になったら楽」という思いだけで、子どもが何を感じ、何をするかをしっかり見ようとしなければ、子どもはより見えにくい形でSNSや類似のサービスにこっそりアクセスしてしまうかもしれない。

法律ができることで、実は親のほうが、子どもとのそれまでの関係を問われることになると言えるのではないだろうか。

スマホ禁止にしてみたら…見えてきたこと

もしスマホ漬けの子どもたちからスマホがなくなったらどうなるのか。

取材の最後に、そんな脱スマホを実際に行ったフロリダ州の学校へ向かった。

ティンバー・クリーク高等学校。

ここは地域の普通公立高校で、周囲の220の小・中学校や高校とともに、校内でのスマホ使用を原則禁止にしている。
銃乱射事件などに備えて、緊急時の使用はOK。

基本的にはみながカバンなど手元にスマホを所持し、強制的に保管することは例外だ。

昼休み、生徒たちは教室から外に出てくると、にぎやかな話し声が一気にあたりを覆いつくした。

スマホ禁止にあわせて導入されたテニスセットで、スポーツに興じる生徒。
DJセットからは、スマホ禁止以前は生徒ひとりひとりがイヤホンで聞いていた人気アーティストの音楽が、大音量で響く。
ひとりで過ごす生徒も、本を読むなどスマホは手にしていない。

これだけの若者がスマホなしに思い思いに過ごしている光景を見たのは、本当に久しぶりだ。

日本では多くの小中学校がスマホの持ち込みを禁止しているが、高校では逆にスマホの持ち込みが認められているところが多く、休み時間は使用できる学校も少なくない。
高校のワスコ校長は語る。
ティンバー・クリーク高校 ワスコ校長
「外出している家族が会話をしていないのを見ます。子どもたちはスマホに夢中です。親もスマホに夢中です。だから正直3400人の生徒とスマホを禁止にするのは、非常に困難だと思っていました。以前は子どもが話をしたり、目を合わせたりということもありませんでした。何か言っても、ヘッドフォンが邪魔をして聞こえないのです。スマホに夢中になって、下を向いていました」
ティンバー・クリーク高校 ワスコ校長
「でも今は『おはよう、調子はどう?』『ありがとう、きょうはどう?』というやりとりがあり、子どもたちを大人に育て、再び会話ができるようにしているのです。コミュニケーションの欠如が彼らの最大の恐怖だったと思います。しかし実際にやってみると、友達とのやりとりに問題がなく、むしろ彼らにとってコミュニケーションがずっと楽になったのです」
興味深いのは、登校と同時に無理やり取り上げるわけではなく、生徒が自分で管理する点だ。

移行期間を2か月近く設けて、スマホを無理やり取り上げるのではなく、なぜルールが必要なのかを何度も説明し続けたという。

もちろんチラッと見てしまう生徒はいる。

それでもスマホを見てしまっている生徒には、教師が根気よく語りかけ、しっかり了解してもらった上で、教室に置かれたカギ付きのケースにしまう。

その積み重ねで、実現にこぎつけたという。

生徒にも聞いてみた。
「スマホ禁止を聞いたときは、腹が立ちました。すごくバカげていると思いました。スマホルールの前は、学校でも1日7時間くらいSNSを使っていましたから。でも、やってみたらそれほど難しいことではないと気づきました。人と話すことにもっとオープンになったし、スマホなしになってもっと友達ができた気がします。以前のように、多くの人が喜んで話しかけてくれるように感じます」(16歳)
彼らは物心ついたときには、スマホが当たり前にあるデジタル・ネイティブ世代。

SNSに日々接している彼らが、大事なコミュニケーションツールを奪われることへの拒否反応が強いのは当然だ。

ただSNSがない世界を大人がルールによって作ることで、子どもたちはリアルなコミュニケーションだけの新鮮な世界のよさを発見し、ポジティブにとらえているようだ。
しかも、学校全体でのルールを作ることで、みなで一緒にリアルなコミュニケーションを取るようにせざるをえない。また家に帰ればスマホは使えるので、完全な禁止とも違う。

少しうるさいくらいににぎやかな昼休みの生徒たちの笑顔を前に、こうした時間や経験を作ってあげることは、大人でなければできないことだと改めて感じた。

そして、問題を解決するために、まずは学校や地域単位でトライをしてみることの大事さも思った。

どうする?わが家のルール

帰国後、取材の話を周囲の親たちにすると、みな興味津々だ。

「いやー実はうちも大変で…」と自分の子どものSNS利用での悩みを語りだす親も少なくない。

彼らが口にするのは、「家庭では限界だ」という声。

法律ができたら助かるという人も多い。

ただ、アメリカの取材を経て感じるのは、法律ができても簡単に解決する問題ではないということだ。

この問題は、社会が総力戦で取り組まなければ手に負えない。

SNSのサービスを提供して利益を得ているプラットフォーム企業が、果たすべき社会的責任もある。

SNSと子どものメンタルヘルスの研究について伺ったナガタ博士は、プラットフォーム企業が中毒性のある仕組みやアルゴリズムを見直すなどの対策を行えば、大きな前進になると強調していた。

その上で、ティンバー・クリーク高校のように、学校や地域、ひいては国という集団の単位で何がしかのルールを作りつつ、子どもがそこでどう感じどう行動しているのか大人がちゃんと向き合うこと。

それも含めて、課題を解決するために社会が具体的に動くことが必要だと感じた。

中1になる息子が入学前の宿題で、作文を書いていた。

番組で国内取材をしていた脳科学者が記した『スマホはどこまで脳を壊すか』という本の感想文を書く宿題が、学校から出されたという。

息子は、結局スマホをすぐには持たず、入学して様子を見るという。

とはいえ、遠からずやってくるスマホデビューやSNSのルールづくり。

「禁止」「ダメ」とだけ言うのは、楽そうに見えて何も解決しない。

まずは、仕事や忙しさを言い訳にせず、ちゃんと子どもが何を感じているのか向き合うところからだ。
第二制作センター(社会)
荒井拓
チーフディレクター、社会福祉士。
報道・ドキュメンタリーからドラマまで幅広く番組を制作。
中1息子がいる父(48)が見た 子どもの“SNS禁止法” フロリダ

WEB
特集
中1息子がいる父(48)が見た 子どもの“SNS禁止法” フロリダ

「オレ以外は全員スマホ持ってるよ…」

この春、中学生になる息子が口にした言葉だ。
子どものころにスマートフォンがなかった48歳の私の本音は、「そんなに早くからいらないでしょ」。SNSを子どもがずっとやり続けたりトラブルに巻き込まれたりしないかも心配だ。

でも「友達の中で、持っていないのは自分だけ」と言われると、友人関係への影響が心配になる。頭を悩ませているときに目にしたのが、「国全体で子どものSNSを禁止にする」というオーストラリアのニュース。調べるとアメリカでも同様の動きがあるという。

法律が禁止してくれたら、親はNOを言いやすくなって楽になるのに…と正直思う。日本にもそんな選択肢がありえるのか、そもそも現地の人たちはどう感じているのか知りたいと思い、米・フロリダ州に向かった。

(クローズアップ現代 ディレクター 荒井拓)

日本より危機感が強いフロリダの保護者たち

2024年3月、14歳未満のSNS使用を禁止する法律が制定された米・フロリダ州。

14歳と15歳は親の同意が必要となる。

テック企業の団体から提訴された裁判によって、施行時期は未定だが、全米で最も先端を行っている州だ。
2024年3月 法案が可決しフロリダ州の知事が署名
対象となるのは、“画像などのコンテンツをアルゴリズムでプッシュする”といった機能を備えたSNSで、特定のアプリは名指しされていない。

インスタグラムやTikTokなどが想定されている。

14歳未満の子どもがアカウントを持てなくなり、違反が見つかった場合は、サービスを提供する企業が罰金を払うというものだ。

街を歩く親たちに、法律について聞いてみた。

すると多くの人が賛成で、日本よりも「SNSが子どもにとってネガティブなもの」という前提が、かなり親たちの間で共有されていることに驚いた。
13歳女子の保護者
「賛成です。いったん使い始めると取り上げるのは難しいですし、特に14歳未満の禁止は間違いなく同意します。そうすれば、子どもたちは家の中に閉じこもらず、外に出て遊ぶと思います」
14歳女子の保護者
「子どもたちをSNSから守ってあげたい。適切で安全に使えるようにしなくてはならないし、もしそうでないなら、子どもたちにとても有害だと思います」
16歳女子の保護者
「賛成だね。娘はいつもスマホを見ているから、法律はいいと思う。スマホを置いて、現実世界で何が起こっているか見なさいと言ってたんだ」
ある親は、新聞の切り抜きを持ち出して見せてくれた。

中国の政府が未成年者のSNS利用時間を厳しく規制しようとしているという記事だ。「中国はすばらしい。見習うべきだ」という。

明らかになってきたSNSの子どもへの影響

大人たちが危機感を高める背景には、SNSが子どもへ及ぼす影響が科学的な調査で明らかになってきたことがある。

アメリカの10代は、1日の多くの時間をSNSに費やしている現実がある。

昨年、国立青少年教育振興機構が行った調査によると、アメリカの高校生が平日1日にSNSを見る時間は「5時間以上」という回答が最も多かった。

日本は「1時間~2時間未満」が最多で、倍以上の時間をアメリカの高校生は費やしていることになる。

そうした状況の中、国家的なプロジェクトとして進められているのが、「ABCD-STUDY」。

約1万1000人の子どもの脳の成長を、2016年から継続的に追跡調査する研究だ。
約1万1000人の子どもの脳の画像を説明する研究員
メンバーで、SNSと子どものメンタルヘルスについて数多くの論文を記している、カリフォルニア大学の小児科医、ジェイソン・ナガタ博士を訪ねた。

多くの子どもを診察しながら、研究を続けているナガタ博士。

コロナのパンデミックの際に、サンフランシスコで摂食障害に陥る子どもの数が3倍に急増したことから、特にSNSの問題に注目するようになったという。
ジェイソン・ナガタ博士
そして、9歳や10歳の子が、SNSの使用が1時間長くなるごとに、1年後に摂食障害を発症する可能性が60%高くなっていたことや、特に13歳や14歳の子がSNSとうつの関連においてリスクが高くなっていたことなどを、データから発見してきた。
ジェイソン・ナガタ博士
「私たちの研究から、SNSに費やす時間が長いほど、メンタルヘルスの問題、摂食障害やうつ、行動障害や睡眠不足、そして心臓血管の悪化につながる可能性もあることが分かりました」
さらにナガタ博士が問題視するのは、SNS利用者の低年齢化とその依存性だ。
ジェイソン・ナガタ博士
「現在、多くのSNSを利用するための最低年齢は13歳ですが、調査では、11歳から12歳の63.8%がSNSを使っており、平均およそ3つのアカウントを持っていたのです。親が知らない秘密のアカウントを使っている子も何人もいました。また、SNSの使用に関連する問題があるかどうかも尋ねたところ、11歳から12歳の子どもでさえ、やめたくてもやめられないなど、SNSに依存していると感じていることも分かりました」
研究結果からSNSの警鐘を鳴らすパンフレットを作成
ナガタ博士は、法律については懐疑的だが何かしらの対策は必要だという。
ジェイソン・ナガタ博士
「法律については、年齢確認を厳密に行わない限りあまり意味がないと思います。また、一部のSNSには教育的メリットもあります。現代の子どもたちは、社会の中で働くために、スマホのつきあい方を知っていなければなりません。だから、年齢で一律に禁止するのは合理的ではないと思います。ただ、SNSにはリスクもあります。親や小児科医、政策立案者は、こうした子どもたちのリスクを最小限に抑えることを目標とすべきです」
日本ではここまで大規模なSNSと子どもの心身に関わる調査はなく、SNSによるメンタルヘルスへのネガティブな影響の可能性が、ここまで具体的に示されていることに驚いた。

ただSNSの依存的な利用については、いまだ正式に疾病とは認められていない。

ナガタ博士はSNSが与えるよい影響と悪い影響をしっかり見極める必要があるという。

社会が子どものSNS利用に何も動かないのは悪影響が大きすぎるが、どこまで認めるのか、さらには技術的にどう可能にするのかなど、思っていた以上に複雑なこの問題の現実が見えてきた。

全米に広がる、子どものSNS規制

子どものSNS利用に規制を求める動きは、フロリダ州以外にも広がっている。

2024年の1年間で、未成年者のSNS使用に親の同意を求める、SNSを使う子どものデータ収集を規制するなど子どものSNS使用に関する法案が検討された州は43に上る。そのうち24の州で法律が制定された。

2025年1月には連邦議会の上院に、国全体で14歳未満のSNSを禁止にし、17歳未満でもアルゴリズムの使用を禁止するという法案が提出された。
2024年までに子どものSNS規制の法律が成立した24の州
また、スマホ自体を子どもにできるかぎり持たせたくないという人も多く、彼らによって学校をスマホ禁止にするための全国組織も作られている。

筆者が訪れた3月末は、ちょうど「全米脱スマホ週間」と銘打たれ、全国のさまざまな組織から運動に賛成する声明が出され、(皮肉なことに)多くのSNSに活動への賛同を表明するポストがなされていた。

彼らは、子どもを守るための親の責任として、こうした活動に身を投じているという。

法律には反対!デジタル・ネイティブの子どもたち

一方、街で子どもたちに聞いてみると、SNSの禁止に反対という子どもがほとんどだった。
「14歳未満の子どもも許可されるべきだと思う。だって私は9歳だし、使える年齢まで長い間何もせずに待つのはつらいと思う」(9歳)
「SNSは、悪いコンテンツばかりではありません。教育にもなります。14歳未満でも使っていいと思う。理にかなっています」(14歳)
「クレイジーだと思います。SNSは、私たちが情報を学び、物事を調べるのに本当によい場所だと思います。もうニュースを見ないし、私が知っている情報はSNSからです」(19歳)
法律の施行を前に、どうするか話し合っている家庭も取材した。

マイアミの市場で出会ったセイジ・ティニソンさんと14歳の娘リリコイさん親子。

母のセイジさんは、法律に大賛成だという。

実はリリコイさんが1日8時間近くスマホを使って、もめたことがあったからだ。
14歳のリリコイさんと母のセイジさん親子
母・セイジさん
「SNSはよいことより悪いことのほうが多いです。もめていた時は彼女の性格が変わってしまいました。部屋から出て、人と交流することが減りましたし、枕の下に置いたスマホが朝の3時まで振動していました」
その時は、もめた末に母がスマホを4か月没収。

そこでSNSに没頭する生活から脱したというリリコイさん。

SNSのネガティブな面も理解しつつ、法律には反対だ。
リリコイさん
「親たちの気持ちはわかりますし、理解できます。でも、私もティーンエージャーで16歳未満なので、そんなこと(法律で禁止されること)は起きてほしくありません。SNSは私たちの生活の大きな部分を占めているからです。SNSとともに成長してきたんです」
リリコイさんは、いま14歳。

法律が施行されると、保護者の同意がなければSNSは使えなくなる。

何時間までならいいのか、ルールをどうするか母に交渉している。

リリコイさんの場合は、“スマホ没収”を経て、親とオープンに話し合う関係ができており、法律をきっかけにSNSを使うルールについて親子で話すなど、よい方向に動いている。


しかしリリコイさんの周りでは、年齢を偽ったり、親が知らないスマホを手に入れて勝手に使ったりすることも普通に行われているらしい。

法律ができても、みなルールをくぐりぬけてしまうのではないかという。
リリコイさん
「私の友だちの多くは、彼らのことを本当に気にかけたり、監視したりしてくれる親がいません。私は、私のことを気にかけてくれる母親がいるのは幸運です。子どもたちを大人がちゃんと見ていることがとても重要だと思います」
法律で一律に禁止することに賛成する親たち。

だがもし、私が最初に感じたような「法律で禁止になったら楽」という思いだけで、子どもが何を感じ、何をするかをしっかり見ようとしなければ、子どもはより見えにくい形でSNSや類似のサービスにこっそりアクセスしてしまうかもしれない。

法律ができることで、実は親のほうが、子どもとのそれまでの関係を問われることになると言えるのではないだろうか。

スマホ禁止にしてみたら…見えてきたこと

もしスマホ漬けの子どもたちからスマホがなくなったらどうなるのか。

取材の最後に、そんな脱スマホを実際に行ったフロリダ州の学校へ向かった。

ティンバー・クリーク高等学校。

ここは地域の普通公立高校で、周囲の220の小・中学校や高校とともに、校内でのスマホ使用を原則禁止にしている。
銃乱射事件などに備えて、緊急時の使用はOK。

基本的にはみながカバンなど手元にスマホを所持し、強制的に保管することは例外だ。

昼休み、生徒たちは教室から外に出てくると、にぎやかな話し声が一気にあたりを覆いつくした。

スマホ禁止にあわせて導入されたテニスセットで、スポーツに興じる生徒。
DJセットからは、スマホ禁止以前は生徒ひとりひとりがイヤホンで聞いていた人気アーティストの音楽が、大音量で響く。
ひとりで過ごす生徒も、本を読むなどスマホは手にしていない。

これだけの若者がスマホなしに思い思いに過ごしている光景を見たのは、本当に久しぶりだ。

日本では多くの小中学校がスマホの持ち込みを禁止しているが、高校では逆にスマホの持ち込みが認められているところが多く、休み時間は使用できる学校も少なくない。
高校のワスコ校長は語る。
ティンバー・クリーク高校 ワスコ校長
「外出している家族が会話をしていないのを見ます。子どもたちはスマホに夢中です。親もスマホに夢中です。だから正直3400人の生徒とスマホを禁止にするのは、非常に困難だと思っていました。以前は子どもが話をしたり、目を合わせたりということもありませんでした。何か言っても、ヘッドフォンが邪魔をして聞こえないのです。スマホに夢中になって、下を向いていました」
ティンバー・クリーク高校 ワスコ校長
「でも今は『おはよう、調子はどう?』『ありがとう、きょうはどう?』というやりとりがあり、子どもたちを大人に育て、再び会話ができるようにしているのです。コミュニケーションの欠如が彼らの最大の恐怖だったと思います。しかし実際にやってみると、友達とのやりとりに問題がなく、むしろ彼らにとってコミュニケーションがずっと楽になったのです」
興味深いのは、登校と同時に無理やり取り上げるわけではなく、生徒が自分で管理する点だ。

移行期間を2か月近く設けて、スマホを無理やり取り上げるのではなく、なぜルールが必要なのかを何度も説明し続けたという。

もちろんチラッと見てしまう生徒はいる。

それでもスマホを見てしまっている生徒には、教師が根気よく語りかけ、しっかり了解してもらった上で、教室に置かれたカギ付きのケースにしまう。

その積み重ねで、実現にこぎつけたという。

生徒にも聞いてみた。
「スマホ禁止を聞いたときは、腹が立ちました。すごくバカげていると思いました。スマホルールの前は、学校でも1日7時間くらいSNSを使っていましたから。でも、やってみたらそれほど難しいことではないと気づきました。人と話すことにもっとオープンになったし、スマホなしになってもっと友達ができた気がします。以前のように、多くの人が喜んで話しかけてくれるように感じます」(16歳)
彼らは物心ついたときには、スマホが当たり前にあるデジタル・ネイティブ世代。

SNSに日々接している彼らが、大事なコミュニケーションツールを奪われることへの拒否反応が強いのは当然だ。

ただSNSがない世界を大人がルールによって作ることで、子どもたちはリアルなコミュニケーションだけの新鮮な世界のよさを発見し、ポジティブにとらえているようだ。
しかも、学校全体でのルールを作ることで、みなで一緒にリアルなコミュニケーションを取るようにせざるをえない。また家に帰ればスマホは使えるので、完全な禁止とも違う。

少しうるさいくらいににぎやかな昼休みの生徒たちの笑顔を前に、こうした時間や経験を作ってあげることは、大人でなければできないことだと改めて感じた。

そして、問題を解決するために、まずは学校や地域単位でトライをしてみることの大事さも思った。

どうする?わが家のルール

帰国後、取材の話を周囲の親たちにすると、みな興味津々だ。

「いやー実はうちも大変で…」と自分の子どものSNS利用での悩みを語りだす親も少なくない。

彼らが口にするのは、「家庭では限界だ」という声。

法律ができたら助かるという人も多い。

ただ、アメリカの取材を経て感じるのは、法律ができても簡単に解決する問題ではないということだ。

この問題は、社会が総力戦で取り組まなければ手に負えない。

SNSのサービスを提供して利益を得ているプラットフォーム企業が、果たすべき社会的責任もある。

SNSと子どものメンタルヘルスの研究について伺ったナガタ博士は、プラットフォーム企業が中毒性のある仕組みやアルゴリズムを見直すなどの対策を行えば、大きな前進になると強調していた。

その上で、ティンバー・クリーク高校のように、学校や地域、ひいては国という集団の単位で何がしかのルールを作りつつ、子どもがそこでどう感じどう行動しているのか大人がちゃんと向き合うこと。

それも含めて、課題を解決するために社会が具体的に動くことが必要だと感じた。

中1になる息子が入学前の宿題で、作文を書いていた。

番組で国内取材をしていた脳科学者が記した『スマホはどこまで脳を壊すか』という本の感想文を書く宿題が、学校から出されたという。

息子は、結局スマホをすぐには持たず、入学して様子を見るという。

とはいえ、遠からずやってくるスマホデビューやSNSのルールづくり。

「禁止」「ダメ」とだけ言うのは、楽そうに見えて何も解決しない。

まずは、仕事や忙しさを言い訳にせず、ちゃんと子どもが何を感じているのか向き合うところからだ。
第二制作センター(社会)
荒井拓
チーフディレクター、社会福祉士。
報道・ドキュメンタリーからドラマまで幅広く番組を制作。

あわせて読みたい

スペシャルコンテンツ