第11話 劇的ッ!生徒会長様ッ!!!!

「そこの君、いや……五十嵐秀くん」

「…………………」


 …………あ、俺か。


 名前を呼ばれ、一瞬反応が遅れた。俺の元々の名前が全く違う名前だったから、油断したらこうなる。主人公になった自覚ないしな。あくまで俺は俺。主人公の肉体に宿っているだけで、俺という人間は消えていないし。


 何はともあれ振り返ると、黒髪の美しい女子生徒が凛とした立ち姿で君臨していた。出るところは出ていて、引き締まるところは引き締まっている。女体の神秘の具現だ。情欲が沸き立つよりも先に、世界的価値を誇る芸術品を目にして湧き起こる感覚が先走る。TV越しでもそういうのって伝わってくるが、まさしくあれだ。


 美しい。彼女を表現するとしたらその一言に尽きる。余計な賛美は贅肉しかならず、その一言に集約される。余程イラストレーターが気合を入れて描いたに違いない。キラキラと輝くエフェクトじみたものが目に悪いくらいに眩しい。主人公よりも目立ってそうだ。


 ただ一つだけ気になることがある。


 彼女はスクール水着だった。しかも旧。


 何故?


「私の格好が気になるか?」


 腕組みをし、豊満なバストが強調される。男だから俺も見るが、まぁ動くものに視線が引き寄せられているだけで、正直そういう気持ちは微塵もない。


 ボールが跳ねてたら見るだろ?音がしたら視線がそちらへ向くだろ?あれと同じだ。


「これは登校中に私が田んぼに頭から突っ込んだせいで汚れたから着替えただけだッ!」

「そんな勢いよく言われても……」


 自らドジっ子アピールをする女子生徒。彼女が何者かと主人公の記憶を探っていると、向こうから名乗りをあげた。


「自己紹介しておこう……私の名は久遠くどう奈津美なつみ! 学年は君の一つ上だ! 親しみを込めて『なっちゃん』と呼ぶが良いッ!」


 意味が分からない。主人公の記憶では生徒会長との接点は全くない。本当に廊下ですれ違う程度のもので、挨拶を交わした記憶すら見つけられなかった。


 それがどうだ。何が起こっているんだ?


「えーと……何で貴女を『なっちゃん』と呼ぶ必要があるんですか?」

「皆にそう呼ばれているからだッ」


 久遠奈津美が凛とした佇まいで切り返してきた。彼女のクラスメイトらしき女子生徒が笑顔で手をあげ、挨拶する光景が目に飛び込んでくる。


「おはよう、久遠さん。今日も生徒会長業務、精が出るねぇ〜」

「おはよう! 当然のことだ! 私だからなッ!」


 また別の生徒が声をかけてくる。今度は大人しそうな男子生徒だ。


「おはよう、奈津美さん。今日も朝から癒されてるよ」

「うむ、おはよう! 貴様も少しは顔色が良くなったな! よく寝たようで何よりだッ!」


 次は眼鏡をかけた男性教師だった。


「おはよう、久遠くん。今日はいい朝だね」

「おはようございます、藍山あいざん先生。先週ぶりに田んぼには落ちましたが、いい天気で何よりです」


 ……何だこれ。


 いや、というより誰一人として『なっちゃん』って呼ばないのか。


「……呼ばれてないみたいですけど?」

「うむ。いつも呼んでくれと頼んでいるが、照れているらしい……だが、心の中で呼んでいる声が私にはしっかりと聞こえているぞっ!」


 不思議系でもあるのか。属性てんこ盛りだ。胃もたれを起こしそうだな。


「久遠奈津美ィ!!!!」


 仁王立ちしながら快活に笑う久遠奈津美を呆然と眺めていると、校門の方からいかにもな声が聞こえてきた。


 そこにいるのはいかにもな不良生徒達。この学園の者じゃない、他校だろう。制服が違う。彼女の姿を見つけるなり、こちらへぞろぞろとやって来る。


「お前達か、何の用だ」

「よくもやってくれたなぁ、てめぇ! うちの者が世話になったじゃねぇか!」


 一層凶悪な笑みを浮かべる不良生徒の一人が久遠奈津美へと迫る。右手を差し出され、彼女は掴んだ。


 握手したんだが…………ああ、そっちか。


「感謝してるぜぇ! てめぇのお陰でうちの若い奴らが死なずに済んだんだからなぁ!!!!」


 本当の意味で世話になったのか。優しい世界だな。主人公が寝取られるってことを忘れそうだ。


「そこのお前!」

「何ですか」


 がしっ。俺の肩を掴み、久遠奈津美の耳に届かないように少し離れた場所まで連れて行かれる。彼は顔面凶器を生かした物騒な文言を小声でぶつけてきた。


「あいつは俺の幼馴染なんだよ……あいつを不幸にするようなことがあったら、俺は全力でお前を抹殺するぜ」

「抹殺」


 リンチするってことか。流石に怖いな。やり口が不良らしいっちゃらしいが。


「そうだ。お前が外を出歩けないように社会的に抹殺する」

「あ、なんだ、そっちか」

「お前の顔写真を目元にモザイクかけた状態で名前と一緒に町中に張り出し、ネットの方にも上げる。お前のやったことも全部書き並べてやるからな」


 やり方が陰湿だな。暴力に訴えかけない不良を不良と呼んでいいのか。


「そこでこそこそと何を話しておる!」


 痺れを切らした久遠奈津美が話に割って入ってきた。幼馴染みの不良生徒は俺から距離を取り、手を振りながら仲間を引き連れて去っていく。


「いいか、警告はしたからな。奈津美のこと、ちゃんと守れよ」

「? 何を言っているんだ、彼奴は」

「幼馴染みのことが心配な彼がお節介を焼いてるだけですよ」


 遠回しながらも少し考えれば分かるように答えたが、微塵も意図が伝わっていないらしく、久遠奈津美は首を傾げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生憑依したらすでに寝取られていた @gwmajpt4698

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ