第213話 全員集合、クリスマスコラボ……の前に その三

「──これがプルドポークですね」

「「おー……!!」」


 オーブンから取り出したトレーを前に、吹雪先輩と夜光先輩が歓声混じりの声を上げる。

 中身こそ被さっているアルミホイルのせいで確認こそできないものの、スパイスの効いた暴力的な香りが周囲の空気を染め上げている。

 さらにアルミホイルを侵食するかのように、肉本体から溢れ出た脂がてらてらとトレーを彩っていた。

 この時点でビジュアルとしては満点。されど、アルミホイルの下にはさらなる爆弾が眠っているという事実。我ながら随分と罪深い料理を作ったものだ。


「じゃあ、アルミホイルを外し……」

「……ボタンちゃん? 急に止まってどうしたの?」

「なんか猫みたいな挙動ッスね。ドアの方に何かいるんスか?」

「ああいえ、四谷先輩も来たなって」

「「え?」」

「おはようございまーす」

「ほら、ね?」


 足音と気配がしたからさ。ちょうどこっち来たなって思ったから、ついつい入口の方に視線をやってしまったというか。……いわれて見れば、確かに猫っぽいかもな。コネッコ君も似たような挙動をよくしてるし。


「え、皆こっち向いてなん……アレもう何か作ってる!? すっごい良い匂いする! てか、もう二人とも来てる!? 嘘っ!? え、吹雪さんはともかく、なんで夜光さんまでいるの!?」

「私までって酷くなーい?」

「いや、当然の反応ッスよ」

「やっぱり驚きますよねぇ」


 むしろ何でいるんですか? いや、今更ではあるし、理由は知っているけれども。それでもなお違和感を抱かずにはいられないというか。ギリギリで滑り込んでくるか、遅刻してなきゃおかしい。それが夜光先輩。


「まあ、私らはいろいろとあったんですー。むしろ、言葉ちゃんはどうしてこの時間に?」

「ええっと、電車の遅延とかを気にして早めに出まして……」

「あー。そうかそうか。確か私と同じ路線だったッスね。それでッスか」


 へー。吹雪先輩と四谷先輩、使ってる電車同じなんだ。というか、二人して早入りを決意するほどの遅延ってなに? そんな酷いことになってるの?

 ちょっとスマホを確認。どんなもんか調べてみよう。ネットニュースになってたら良し。そうでなくても、SNSで検索すれば誰かしら呟いてるだろ。


「……あ、本当だ。え、待って人身事故じゃないの!? 車と接触したってマ?」

「ボタン君、もしかして知らなかったんスか?」

「そうだよー? めっちゃ騒ぎになってたのに。ニュースとか見てなかったの?」

「いや、今日は基本的にキッチンにいたんで……」

「料理男子め……」


 いや、料理男子ではないんですがね? ただちょっと、プルドポークとビーフシチューにずっと掛かりきりだっただけで。空いた時間もあったっちゃあったけど、その時は配信や動画見て時間潰してたし。

 はえー。にしても、道理でねぇ……。そりゃ大規模なダイヤ乱れが起こるわ。ニュースを見る限りだと、結構ガッツリ接触してるし。

 脱線事故一歩手前ってところかね? 近くに転がってる車も、運転席がベッコベコだ。運転手は病院に搬送されたそうだけど、これ高確率で死んでるだろ。そう思うぐらいには酷い。


「というか、これって他の人たち来れます? グループの方で確認……あ、スタッフさんたちがもうやってる? 全員問題ナシ? 教えていただきありがとうございます」


 会話の途中でマネさんがインターセプト。俺の不安はとっくに確認済みとのこと。やっぱり仕事できる人たちは違うわ。判断が早い。


「それで、三人は何でもうキッチンに? 料理って配信始まってからでは……?」

「それはねー。この料理男子が張り切っちゃったからだよー」

「手の込んだものを作りたいってことで、どうも先に作ってたみたいで。私たちは、それを見てる感じッスね。あとちょっとしたお手伝いッスか?」

「へー。私も見たいんだけど、大丈夫かな?」

「どうぞどうぞ。荷物はあそこに。要冷蔵、冷凍のものはそれぞれに入れちゃってください」

「はいはい」


 そんなわけで、四谷先輩が荷物を置くまで暫し待つ。と言っても、すぐにこっちに来たわけだが。


「で、何作ってるの?」

「これはプルドポークってやつです。あっちの鍋はビーフシチュー」

「ぷ、プル? ……そんな料理あるんだね」

「やっぱりボタンちゃんは料理男子だよ」

「料理男子ではねぇです」

「何故にそんな頑ななんスか……?」


 だって気取ってるみたいで嫌だし……。


「ま、それはともかく。中身を確認しますね」

「……おぉー!」

「うわまたすっごい匂い!」

「あ、コレ絶対美味しい。お酒に合うやつだ……!」


 おー、なかなかに良い感じ。実に食欲を唆るビジュアルをしている。

 オーブンで延々と焼き続けたせいか、肉塊の表面は黒焦げ。だが不味そうかと問われれば否だ。十人中十人がこう答えるはず。『コレで良い、いやコレが良い』と。

 なにせ香りが凄い。脂が凄い。なにより、明らかに柔らかい。焦げ目の隙間から覗く肉肉しい色合いが、微かに解れた繊維の様子が、どうしようもなく目を惹くのである。


「えーと、これで完成なのかな……?」

「いえ、まだですね。むしろここからが本番というか」


 生唾を飲みながら首を傾げる四谷先輩に、ザックリとだがプルドポークの特徴を語っていく。

 これだけだとローストポークなのでね。解すという工程が必要なのですよ。……まあ、ローストポークとしてお出ししても問題ないっちゃないのだが。


「へぇ……。解すんだ。凄い料理だね」

「ですよねー。外国の人らも、ようこんなもん作るわ」

「作ったキミが言うことじゃないけどね」


 それはそう。


「で、解すと言ってもどうやるんスか? さすがに素手とは言わないッスよね?」

「もちろん。まあ、俺がやるなら手袋付けてチャチャッとやっちゃいますけど。先輩たちですしね。トングとフォークを使う感じでしょうか?」


 一応、本場だと鉤爪みたいな専用の調理器具もあるみたいだが、さすがにそれは用意してないんで。多少やりずらいかもだが、そこは我慢してほしいかなと。


「三人いるので、一人がトングで押さえて、残りの二人がフォークで解体していってもらえれば」

「山主君は?」

「俺は向かいの方から、解体してるところを撮影します」

「カメラ回すの!?」

「はい。この工程がプルドポークのキモですし。もちろん、撮るのは手元だけです」


 この後にまた焼くとはいえ、ここが一番映像として映えるところだからな。それを裏で消費してしまうのは、さすがにもったいない。

 なのでスタッフさんに映像データを渡して、後日公式チャンネルの方でアップしてもらう予定だ。……なんで公式チャンネルなのかというと、今回のコラボがデンジラスの公式チャンネルでお送りするからである。


「あー、それなら私たちも手袋付けるべきッスね。ボタン君、手袋って……」

「こちらに。サイズも各種揃っておりますれば」

「また無駄に準備が良いな……」


 キッチン用品は一通り揃えてますからね。これぐらい当然でさぁ。もちろん、トングやフォークにも気を配っております。具体的には、反射しにくい素材や色合いのやつを使っております。


「それじゃあ、三人ともよろしくお願いします」

「あ、うん。じゃあ、後輩の私がトングを……」

「そんな気にしなくて良いのに……。まあ、お言葉に甘えてフォークで」

「私も。……ところでボタン君。コレってなんのお肉なんですか? またダンジョンのやつだったりします?」

「いえ。お高いやつではありますが、ただの豚肩ロースです。今日はダンジョン産の食材はナシです。普通に企画を喰いかねないので」

「なるほど」


 カラオケとメンバーの料理がメインだからね。そこは弁えておりますとも。


「んじゃ、カメラ回しまーす」

「はーい。……台詞とか意識した方が良い? 最初に説明とかいるかな?」

「自然で良いんじゃないですか? スタッフさんたちが編集でテロップとかいれるでしょうし。それか後で声入れるとか」

「……それもそうだね」

「あ、それなら先に、お肉だけの映像を撮っとくべきじゃない?」

「確かに。ボタン君、アップアップ」

「今更ですけど、これカメラさんに頼った方が良いのでは?」

「本当に今更だね!?」


 いや、作業の邪魔しちゃ悪いかなって……。一応、声だけ掛けておくか。もしOKが出たら、その時は任せてしまおう。その間、俺はビーフシチューをまた煮込んでるんで。











ーーー

あとがき


キャラの掘り下げになってねぇなと思いつつ、仕方ないとわりきり。これは先に登場させることによって、複数キャラがいても埋没しないようにする高等手段であるからして。

次回からはコラボに移りませう。



ただ次回更新、本当にどうしようかな……。抱えている作業量が微妙すぎるんだよな。余裕があるような、ないようなって感じ。

なので近況ノートにご注意を。無理そうなら水曜から木曜の朝に出します。

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