第212話 全員集合、クリスマスコラボ……の前 その二
「吹雪じゃないの。こんな早く来てどうしたの?」
「あ、吹雪先輩。ちわっす」
「それはこっちの台詞なんスけど……。帰蝶、何でもういるんスか? ボタン君はこんにちは」
「ちょっとー。私に挨拶はー?」
「はいはい、こんちわこんちわ」
「雑ー」
会話に入ってきたのは吹雪先輩であった。……まあ、俺はこっち来てた時から気付いてたけど。気配で分かるし。
「で、何でいるんですか? 私の予想だと、てっきり帰蝶は遅刻してくるもんかと思ってたんスけど」
「ボタンちゃんと似たような反応して……。食材の買い物してたら、予想よりずっと早く終わったからこっち来たの」
「ああ、なるほど。……良かった。これで遅刻しないために早入りしたとか言われたら、ちょっと正気じゃいられなかったかも」
「酷くない? 私のことなんだと思ってんのかしらねぇ……」
「日頃の行いっスよ」
日頃の行いでしょ。
「えーん、えーん。同期と後輩が辛辣だよー」
「俺は何も言ってないんですが」
「顔が言ってた」
「えー」
てか、そっか。この二人って同期か。吹雪氷雨と夜光帰蝶。デンジラスの二期生コンビだ。なにかと癖の強い人たちではあるけれど、デンジラスの発展に一役買った偉大な先達ではあるんだよな。……本当に癖は強いけど。
なにせ、片やデンジラスを代表する駄目人間。片やデビュー時にキャラ付けで後輩口調を取り入れたせいで、引くに引けずに頑張って常日頃から維持してるお労しい人である。
もう何度も顔合わせはしているけれど、こうして二人並ぶとキャラの濃いこと濃いこと……。
「というか、言っちゃ悪いですがアレですね。キャラ的にラストに到着しそうな二人が、まさかのトップツーですか」
「私、そんなに信用ないかなー」
「いやまあ、早めに来るキャラじゃない自覚はあるッスけど、それでも帰蝶と同列に語られるのはちょっと……」
「もう全方位から殴ってくるね二人とも」
それはもう日頃の行い以外のなにものでもねぇんですよ。
「で、吹雪先輩はどうしてこの時間に?」
「私が使ってる路線、人身事故かなんかでいま凄いことになってて。んで、大事を取って結構早めに家を出たんスよ。ここあんま来たことなくて、ワンチャン迷いそうで怖かったし」
「それぐらい地図見れば分かるでしょうに。吹雪はもっと外出なー? 半引き篭りみたいだから、方向感覚が退化するんだよ」
「そっちだって似たようなもんでしょうに。自分のことを棚上げすんなッス」
「私は身嗜みとか面倒だから家を出ないだけ。吹雪は家からできる限り出たくない。全然違うよ?」
「五十歩百歩って言葉知らないんスかー?」
「会って早々楽しそうですね……」
本当にこの二期生コンビは……。配信でもそうだけど、毎度の如くプロレスしてんだからもー。
仲が悪いわけじゃないし、なんなら良い方ではあるんだけど、それはそれとしていろいろと真反対なんだよなぁ、この人ら。
夜光先輩は頭ゆるふわだらしない系女子。顔付きは知的な感じなのに、人として相当駄目。ただその代わり、緩さからくる包容力のせいか安心感がある。
なので一緒にいて苦じゃない系の人であるが、同時になんか距離を感じたりもする。……漫画とかでも、なんかそういうキャラいるじゃん? 仲良いフリして、明確な線引きしてるやつ。アレよアレ。
対して、吹雪先輩は真面目な根暗系女子である。童顔な見た目に反してシニカルな性格で、後輩口調で下手に出てる風の気配を漂わせながら口が悪い。
そのため第一印象では取っ付き難い気配が凄いが、一度打ち解けると早い系。まあ、漫画的に言えば悪友キャラだ。最初は衝突するけど、話が進むと一緒に馬鹿やってるアレ。
そんな感じの二人なので、なんか自然と会話がプロレスみたいになるんだよなぁ……。他にも真反対なところとかいろいろあるし。
いやまあ、喧嘩してるわけじゃないから、別に文句とかはないんだけど。画面越しで見るのとリアルで見るのじゃ、やっぱり微妙に印象が違うというか。
俺が探索者やってるからか、若干この手のやり取りってハラハラするんだよね。ほら、探索者って社会の底辺みたいな連中多いし。アイツらってシームレスに暴力に訴えるからさぁ……。
違うと分かってても、その手の光景が一瞬だけ脳裏に過ぎるのよな。特に女の人の喧嘩というか、キャットファイトが始まる気配とか知らんから、余計にそう感じる。男だったら分かりやすいんだけど。
「吹雪先輩。夜光先輩にメンチ切るのは結構ですけど、まず荷物置いたらどうですか。食べ物あるなら、冷蔵庫使って良いんで」
「おっと。それもそうッスね。じゃあちょっと冷蔵庫お借りするッス」
「吹雪は何持ってきたのー?」
「配信で言うべきでしょそれは。……てか、いまになって訊くのもアレなんスけど、ボタン君」
「はい」
「何でもう何か作ってるんスか?」
「クリスマスですし、凝った料理はいくつか欲しいじゃないですか」
「マジで料理男子ッスねキミ……」
「ハハッ。んなわけ」
吹雪先輩ってば。料理男子はさすがに言いすぎですよ。別に趣味とかじゃないですし。ただ配信のネタとして料理やってるだけなのに、そんなもん名乗れるわけないじゃないですか小っ恥ずかしい。
「ボタンちゃん。なんか笑い飛ばしてるけど、午前中からずっとキッチンに立ってるのは普通にガチな人がやることだよ?」
「午前中!? そんなずっとやってたのボタン君!?」
「スが取れてるよー」
「帰蝶うっさい!!」
そこは指摘しないのが優しさだと思いますよ、夜光先輩。吹雪先輩だって頑張ってキャラ維持してるんですから。裏でも通さないとすぐ癖抜けるって、いっつも溜め息吐いてるの知ってるでしょうに。
「……で、よ。ボタン君、本当にそんなことしてたんスか?」
「ええ、まあ。凝るならいっそ、とことんまで凝ろうかなと」
「いや、にしたって……。てか、本当に何作ってんの? 一個がビーフシチューなのは分かるッスけど、オーブンの方は?」
「プルドポークってやつです」
「何て?」
「プルドポーク」
簡単に言うと、スパイス擦り込んだ塊肉を焼いて、アルミ被せてもう一回焼いて、繊維みたいに解した料理です。なお、人によってはこのあとにまた低温で焼きます。
「まあ、クソほど焼く肉料理とでも思っていただければ」
「……大変じゃなかった?」
「いえ、別に。空いた時間でこっちも作ってましたし」
「ビーフシチュー?」
「はい。こっちも牛タンぶち込んで、おもくそ煮込みました」
なお、肉と肉でダダ被りしてるのはご愛嬌だ。せっかくのクリスマスだし、『豪華』ってことで別にええやろの精神である。
「ちなみにですが、これから肉を引き裂いて解す工程をするつもりなんですが……」
「え、そんなことするの?」
「はい。そういう料理なんで。んで、解したらもう一回焼きます」
「また焼くんだ」
「解した時点で完成っちゃ完成なんですけどね。ただ、配信開始まではまだまだありますし。追加で焼くと凄い肉が柔らかくなるそうなんで。やろうかなと」
「……ほう」
「で、肉を解すのやってみます?」
「やる」
「私もやりたい! やりたいやりたーい!」
はーい。それじゃあお願いしまーす。
ーーー
あとがき
次からコラボ本番に移るか、このままプルドポークを交えつつ、個人的に掘り下げが弱いんでねと思っている四谷を出すか。……実に悩ましい。
それはそうと、ちょっといまやってる作業の進捗次第ではあるのですが、来週の木・日更新が怪しいかも……? とりあえず、無理そうな時は近況ノート出すんで、よろしくお願いします。
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