第209話 クリスマスコラボに向けて その一

──クリスマス。それは聖夜である。宗教上では重要な意味のある聖夜ではあるのだが……大半の日本人からすれば、年末の二大イベントの片割れでしかない。


『──次は渋谷、渋谷。お出口は……』


 日本におけるクリスマス。それは普段より豪華なディナーを楽しむ日であり、子供にとってはサンタクロースからのプレゼントを期待して眠る日であり、大人にとっては恋人との夢のひと時を楽しむ日である。……まあ、あくまで一般論というか、わりと諸説あるところではあるが。特に大人。

 実際、恋愛系のイベントであることは間違いないのだが、世の中の大人すべてに恋人がいるわけでもなし。特に昨今は少子化であるからして、そういう相手がいる大人というのは意外と限られていたりする。

 恋人ではなく友人と、なんなら一人で自由に過ごす者も多い。サービス業などではかきいれ時であるが故に、労働中の人間だっているだろう。サービス業とか関係なしに、働かされている悲しい社畜も結構いる。

 社会というのは多様性だ。クリスマスの過ごし方で『多様性』という言葉を使うのはどうかと思うが、事実としていろんな過ごし方もあるわけで。

 究極的に言ってしまえば、十二月二十五日、またイヴである二十四日以外に集まって騒ぐということも普通にあるのだ。大人なら尚更。

 スケジュールというのはそれだけ残酷だ。労働を筆頭に、大人というのは外せない用事というものが多すぎる。それを複数人で擦り合わせるという行為は、思いのほか難易度が高い。

 特定の日に決め打ちするとなれば、一、二カ月ぐらい前から動いていなければならないし、クリスマスのような共通イベントとなれば、それでも上手くいかないことなどザラにある。

 だからこそ代替日。とりあえず、十二月中なら。可能ならば後半でとスケジュールを組むことは普通であるし、そうした代替日に合わせて準備するのもまた普通であるのである。


「……うーわっ」


 というわけで、やって来ました渋谷駅。目前に迫ったクリスマスコラボに向けて、若者の街に足を運んでみたのだが……。


「予想はしてた。してたけど……思ってた以上に人が多いな」


 うーん、カス。平日だぞ今日。平日の午後だぞ。何でこんな人が多いん? きっしょいぐらいに人がいるんだけど。元々人が多い繁華街にしたって、これはもうちょっとアレすぎるだろ。

 いや、分かってるのよ? 単純に時期が悪いって。クリスマス前だもの。そりゃ当日ほどじゃないにしろ、渋谷に人は集まるよ。それこそ、今日を代替日として遊びに来てる人だっているだろうし、俺みたいに準備のためにやって来てる人もいるだろう。


「はぁ……」


 にしても、にしてもでは? 分かってるけどさ。分かってるけど、それでもこれは多すぎやしないか? 俺、人混みってそんな好きじゃないんだけど。なんか疲れやすくなるし、帰ってから頭が痛くなるのよね。

 こう、肉体性能とは別のところに負荷がかかるというか。昔っから好きじゃなかったし、地味に嫌な悪影響が出てたせいか、それが半分習性みたいになってるのよ。肉体自体にそういう症状が出るわけじゃなくて、気分的にそうなるというか。プラシーボ、いやプラセボだっけ? そういう感じのアレ。


「……」


 まあ、だからといって帰るわけにはいかないんだけど。ちゃんと準備しなきゃ。クリスマスコラボなんだから、参加メンバーに向けたプレゼントの用意はしとかないと。

 いや、企画としてそういうのはないんだけどね? カラオケと料理を一緒にやって、皆でワイワイ騒ぐってことしか決まってないんだけどね?

 ただほら……やっぱりアレじゃん。それだけだとアレじゃん。せっかくクリスマスの名目で集まるんだから、プレゼントとかは用意しときたいじゃん。

 別に下心とかではないよ? 何度も言うけど、俺そういうの興味ないし。その上で相手もういるし。しかも二人。相変わらず意味分かんないけど二人。

 だからプレゼントを用意することに対して、一切の他意はない。あげる以上は喜んでくれたなら良いなとは思うけど、それだけだ。配信のネタになるかなって考えと、あとはそういうイベントだからって義務感。……そう、義務感だ。

 これが一般的な考えかどうかはさておき。大人として、男として、俺はプレゼントを用意するべきだと考えた。そのために馴染みのない渋谷、それも嫌になるぐらい混雑しているであろう、クリスマス前の渋谷に来たのだ。


「さて、と。何を買うかねぇ……?」


 恋人というわけではないし、狙っているわけでもない。されどいろいろと良くしてもらっている、七名の同僚+マネさんに渡すために。……なお、天目先輩には別枠でも用意するものとする。

 さすがに他の人らに合わせた、言ってしまえば業務用のソレを渡してはい終了ってのもアレだしね。曲がりなりにも恋人という立場なのだから、それに相応しいプレゼントは必要だよなって。

 もちろん、ウタちゃんさんにも同様、というか同等の内容を用意するつもりだ。ライバーとしての業務用と、恋人用。

 コラボの関係で仕方ないとはいえ、天目先輩にだけ二つあげるのは不公平だし。かといって、ウタちゃんさんに恋人用を二つってのもまた不公平なのでね。……フコウヘイ、ヨクナイ。コウヘイ、ダイジ。


「……」


 ところで、これ無駄に難易度高くない? 異性に対するクリスマスプレゼントってだけでも、正直縁がなさすぎてアレなのに。ライバーと恋人用で分けた挙句、同等っぽいものを探さなきゃってエグない?

 同じのは論外だし、ダンジョンのアイテムに逃げるのも違うし。……ドロップアイテムは最初悩んだんだけどねぇ。でも、高価すぎると無駄に遠慮されかねないし、プレゼントって相手のことを考えて選ぶことに意味がある気がするし。

 ぶっちゃけ、ダンジョンのアイテムなんていつでも渡せるしなぁ。そう考えると、さすがに風情がないかなって思ってしまったというか。


「……とりあえず、消え物を中心に見て回るか」


 まあ、だから余計に難易度高くなっているわけだが。一番手軽な手段が意義と合致してないの、世の中って本当にままならないわー。










ーーー

あとがき


三巻、表紙出ましたね。着々と発売日が近づいてる気がして大変良きです。みんな買ってね。

ちなみに表紙にいるのは〇〇と『──』です。……『──』はWebではほぼ出てないかな? 三巻に出す予定だったんで、出してないが正しいんですが。名前だけは登場してるけど。

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