第205話 3Dお披露目生配信 その一

「──こっちはOKです」

「こっちもいけます!」

「確認しました。それでは最終チェックお願いしまーす!」


 スタッフさんたちが周囲を慌ただしく駆け回る。事務所が用意したスタジオには、小規模ながらも確かな熱気が漂っていた。


「……ふぅー」


 それもそのはず。今日は俺の3Dモデルお披露目配信なのだ。VTuberとしての一つの節目であり、大目標として掲げられることの多い一大イベント。そりゃ運営としても力が入るというもの。

 あとはまあ……アレだ。自分で言うのもなんだが、俺はデンジラスの看板だ。一番最後にデビューした人間の台詞ではないことは重々承知しているが、それでもこれは事実なのだ。ちなみに傲ってもない。

 俺の登場によって世界は変わった。それに伴うトラブルに、デンジラスは巻き込まれた。その対価として、狭い業界の中堅事務所は大きく飛躍した。

 すでに俺の知名度は国内の芸能人、首相を越えた。さらにはハリウッドスターを越え、アメリカ大統領をも越えたという自負がある。つまるところ、世界に名だたる著名人のトップへと登りつめたのだ。……当然、そんな俺を擁するデンジラスも。

 すでに【山主ボタン】は世界に通用する。それに付随するようにデンジラスもまた名を上げた。上がってしまった。VTuber事務所としては決して正しい形ではないだろうが、それでも時計の針は進んでしまったのである。

 俺のこれまでの軌跡……いや所業と、知名度が事務所内の立ち位置を塗り替えた。すでに世界においては、【山主ボタン】こそがデンジラスの看板となった。

 だからこそ、運営サイドは一切の気を抜けない。全霊をもって、今回のお披露目配信に挑んでいる。世界に名だたる【山主ボタン】の晴れ舞台がコケれば、それすなわち企業としての名に傷が付くのと同義であるが故に。


「いやはや、責任重大だねぇ……」


 個人的には、ワンチャンお披露目はスベっても良いかなぁと思ってたのだが。その後の活動で挽回すればええやろと気を抜いていた。

 だが、撤回しよう。この思考は無責任すぎた。これだけ緊張感の漂っている場で、演者である俺が腑抜けているなどナンセンスだ。

 というか、よくよく考えれば分かることだった。俺はリスナーからの評価だけで問題ないし、なんならその評価すらどうでも良いが……事務所は違う。

 3Dモデルのクオリティはもとより、企画の内容、進行などいろいろ見られるのだ。そしてゴタ付けば批判される。なんならライバーより批判される。

 しかもその手の運営批判はライバーの知名度、いや人気に比例するものなので、そりゃもう必死になるわなと。

 そして、俺にも自覚はある。スタッフさんを筆頭としたデンジラスの皆様方には散々迷惑を掛けてきたという自覚が。ならば、さらなる迷惑をかけて良いのだろうか? ぽけらっとした心持ちのままお披露目配信に臨んでも良いのだろうか? ──否である。断じて否である。


「……っし!!」


 パンっと両手で頬を張る。気合いを入れよう。頑張ろう。全力で臨もう。

 今回限りの一発勝負。負けたらそれまでの意識で挑もう。されど気負わず。緊張感は程良く。脱力を維持して最高のパフォーマンスを発揮できるように。

 まあ、慣れたものだ。これまで何度もやってきた。ダンジョンの時と同じだ。最適なコンディションを維持して、最後の最後まで突っ走る。それだけで良い。それだけのことだ。


「……」


 もうすぐ配信開始の時刻。スタッフさんたちも静かになった。準備はあらかた終わったのだろう。アイコンタクトも飛んでくる。

 最後の確認として、軽く身体を動かしてみる。付けている機材に多少の違和感を感じるが、まあ許容範囲内だ。リハーサルの時も支障などはなかったし、このまま配信をやっていればじきに慣れるだろう。


「OKでーす!」


 スタッフさんたちに問題ないと合図を出す。承知のサインが返ってきた。あとはもう始まるのを待つばかりか。

 開始時間が迫る。残り二分……一分、ここで配信をスタート! 待機画面とBGMをON! ……そして五十秒……三十……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一!


「──デンジラス所属バーチャルライバー! そして、世界に轟くスーパー猟師!!」


:きちゃ!

:きちゃ!

:きちゃ

:きちゃぁ!!

:きちゃぁー!

:ヒュー!!

:待ってたぁぁ!

:きちゃぁぁぁぁ!!

:いけぇぇぇえ!!

:きちゃぁ!

:うぉぉぉぉぉ!!

:きたぁぁぁぁ!!

:待ってました!

:しゃぁぁぁぁ!!


 コメント欄が一気に華やぐ。賑やかなコメントを塗りつぶすが如く、多種多様なスーパーチャットが駆け巡る。

 良い勢いだ。このままもっと加速しろ! 普段は特に気にしないスーパーチャットだが、今日ばかりは話が別だ! 彩れ、もっと彩れ!! そのカラフルさこそが分かりやすい盛り上がりの指標になる!!


「山主ボタン3Dお披露目、ダンス・アクション・生配信!! 開、催っ、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 さあ、さあ、さあ!! 視聴者全員、刮目するが良い! 熱狂するが良い! その熱狂を伝播させるために、思う存分騒いでいけ!

 まずは手始めにブレイクダンス! 鳴り響くミュージックに合わせて、習ったステップをワン・ツー、さん、はい! リズムに沿ってステップステップ! 繋がりはあまり意識するな、テンプレなんかクソ喰らえ!!

 テンプレは確かに重要だ。スタンダードなスタイルは、偉大な先人たちの積み重ね。プロのダンサーたちが積み上げてきたものに比べれば、俺のセンスも知識もカスもカス!

 だがしかし! だがしかしだ!! こっちは根っこのスペックが違ぇ!! 筋力も! バランス感覚も! 身体操作能力も!! 常人のそれより遥かに上等だ! そもそもの規格が違うのに、無理に小さくまとまろうとするのはナンセンスだろう!?

 通常なら絶対できないステップも! 繋げることが物理的に不可能な技も!! 俺なら自在に操れる! 空すら自在に駆ける人間には、それに相応しいアクロバットが存在する!


「ッ、シャァァァァァッ!!」


 助走なし、バネなしでの六回転宙ひねり。お前らにできるかこのアクションがよぉ!? ……ガワの方大丈夫? ちゃんとモーション付いてこれてる? 変になってません?










ーーー

あとがき

3Dお披露目って大体歌ってるよねってことでダンス。歌は歌詞とか面倒くさい。



ところで宣伝にまつわる小話なんですが。私、Amazonのリンクを貼るのが怖い民。自分のアカウントで調べたリンクを貼ると、そのままこっちのアカウントに繋がりそうで嫌って感覚なんだけど、分かる人いる?

欲しいものリストとかあるし、余計にそう感じてしまうんだけど、分かる人いる?

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