第196話 銀世界でコーヒーを その五

「──さて。これで大体できたかな?」


 お湯も沸いた。ニンニクの二度揚げも済んだ。バゲットも焼いた。……煙を吸わないよう、網の端っこで炙ったから煙くもなってはいはず。

 で、焚き火に突っ込んでいたメスティンも回収した。良い感じに熱くなっているので、多分中身も大丈夫だろう。

 あとは見栄えを意識しながら、上手い具合にテーブルの上に並べていけば……。


「はい、完成。いやー、背景も合わさって壮観だね。風情とかが極まってる」


:絶対に美味いやつじゃんこんなの

:ロケーションが最高すぎる

:まーじで凄いです

:最高かよ

:こういうのガチで憧れるわー

:男の夢よな

:ソロキャンってやっぱり良いよな……

:動画だと無心で見ちゃうやつ

:浪漫に溢れている

:こんな景色見ながら食べてみてぇ……

:ええやん

:凄い

:最高すぎる

:裏山


 ダンジョンが創り出した光景ではあるが、その雄大さは本物だ。何処までも続く蒼穹の空。銀の輝きを放つ雪景色。天を突くほどに険しい山脈の岩肌。

 そんな美しくも極寒の世界の中で、熱々の料理を味わうという贅沢。五感すべてで堪能できる、至福の一時になることは間違いない。


「それじゃあ、冷めちゃう前に食べるとしよっか。──いただきます」


 手を合わせ、実食タイムといこう。まずは……やっぱり飲み物。コーヒーからかな。

 コーヒーは食後に飲む派の人間も多いだろうが、俺はそういうのは気にしない。確かに味の主張は強いが、それよりも食事には飲み物が欲しいタイプなのだ。

 あと俺、砂糖やコーヒーフレッシュ入れる人間だし。ブラックよりは食事に合うんじゃねぇかなと、密かに思ってたり。……いや、別にブラック飲みながら飯食べる人も普通にいるだろうけどさ。個人の感想ってやつよ。

 まあ、ともかく。まずは飲み物で喉を潤したい。てことで、マグカップにコーヒーの素を入れて。お湯を注いで、砂糖とコーヒーフレッシュを投入。……で、一口。


「ぁぁぁぁ。うっま……」


 やっべぇなコレ。自然と一息吐いちゃったよ。大して高くもないインスタントコーヒーなのに。

 気温が氷点下だからか? 一口飲んだら、喉から胃にかけてじんわり暖かくなっていくのが分かる。なんか無駄に五臓六腑に染み渡ってる気がする。

 口の中に広がるコーヒーの味も素敵だ。しっかりとした苦味とほのかな甘みが心地良い。

 やっぱりロケーションって大事だな。いや、この場合は環境か? ともかく、満足感ってやつが違う。食事は舌だけで完結するものではないと、改めて実感した。

 本当にコレ、ただのインスタントコーヒーなんだけどなぁ……。マジで有名なコーヒーチェーン店より美味い。あのクソ長い呪文みたいなメニューより、この景色の中で啜る一口の方が断然美味いもん。


「……っと。落ち着いたら駄目だ。まだ満足するには早い。マジでちんたらやってたら料理が冷める」


 とりあえず、コーヒーは一口で一旦満足。料理の方に手を伸ばそう。

 ニンニク、グラタン……ニンニクだな。まずはガツンとしたものを楽しもう。そもそも今回においては、グラタン自体が付け合わせみたいなもんだし。やっぱりメインからだろ。


「では、ガーリックトーストを作りましょう。まずバゲットをですね、ニンニクを揚げるのに使ったオイルにちょんちょんとして」


 で、その上に剥いたニンニクを一粒載せて。フォークでグニュッと潰しながら塗って。最後に軽く塩振って……思いっきりかぶりつく!


「……ぁぁぁぁっ、美味い!!」


:絶叫してて草

:草

:食レポして?

:実にシンプルな

:草

:声デッカ!?

:めっちゃ美味いやつやん!

:裏山!

:でしょうねぇ!!

:分かる。最高よな

:見てるだけで美味いもん

:シチュエーションもメニューも最高やもん

:草

:草


 いや本当に美味いなコレ!? やっべぇよマジやべぇよ!! バゲットのザックザクと、ニンニクのホックホクでネットリとした食感が口の中でマリアージュだよ!

 なによりニンニクのパンチが最高だ。まだ一口なのにすっごいニンニク! しかもなんかくどくねぇぞコレ!? むしろ後引く旨味が爆発してる!

 いや、本当に凄いな。ここまでニンニクの主張が強いと、ちょっと食べただけで飽きそうな感じがするのに。そんな雰囲気全然ない。一口だけで分かる。むしろ止まんねぇやつだコレ。

 噛むたび、味わうたびに身体の奥底にエネルギーが流れ込んでくるような、そんなイメージが湧き出てくる。そのせいか、バゲットを口に運ぶ手が止まらない。

 なんつー食欲増進効果だ。桁外れの旨味が思考をバグらせる。というか、一時的に満腹中枢あたりが麻痺するんじゃねぇか? 少なくとも、一般人だったらそうなる気がする。

 でも、それだけじゃない。頭がイカれるだけならただの毒だ。だがこのニンニクは違う。消化機能を筆頭とした、各種身体機能までも跳ね上げている。まるで帳尻合わせのように。


「……なるほど。これが常人を超人へと変貌させる効能か」


 排泄物すら発生させないほどの驚異的な消化能力と、エネルギー吸収能力。それを利用した、人体改造が如き新陳代謝。

 分かってはいたが、あまりに劇物だなコレは。ドーピングなんて生易しいもんじゃねぇ。下手な違法薬物よりよっぽど刺激が強い。一般人にはまず食わせらんねぇ。


「──だが美味い。美味すぎる……!!」


 でもな、ジャンキーなものほど美味いんだ。それが世の中ってやつなんだ。なにより俺は、一般人じゃねぇ!!


「次はグラタン行くぞ!!」


 メスティンの蓋を開ける! はっ、チーズが引っ付いてたのか、よく伸びるじゃねぇか! しかも蓋も加熱されてたからか、ちゃんと焦げ目も付いてるなぁ!

 でもまだ足らない! 足らないから、トングで焚き火から炭を拝借! そしてチーズに触れるギリギリまで近づけて、ジリジリと表面を炙っていく!


「んで、焦げ目が強くなったところで……!!」


:あー、いけませんいけません!

:炭火焼きグラタンは駄目だって!!

:寒い中で食べたら絶対に美味いやつ!!

:ソロキャンやりてぇー!

:神かな?

:ド直球な飯テロきたな

:やっべぇ……

:俺もグラタン作ろうかな……

:焦げ目のついたチーズは反則なのよ

:こんなんズルじゃん

:ええなぁ……

:最高かよ

:やっぱり山主は分かってる……!!

:そんなことしてはいけない!


 アッツアツのグラタンを思いっきり口の中に放り込んでいくぅ!! もちろんポテトやベーコンも忘れずに!

 あー、濃厚なチーズと滑らかなホワイトソースが織り成すハーモニー! そこに加わるホックホクなポテトの食感! カリッとジューシーなベーコンの風味が堪んねぇな!!

 そんですかさずバゲットをガブリ! 今回はニンニクを塗らない! 軽くオイルに浸したバゲットにかぶりつきながら、一粒を口の中に放り込む!


「っっっくぅぅ……!!」


 なんたるパンチ! なんてニンニク! オイリーなバゲットも最高だ!

 グラタンとの相性も申し分ない。ホワイトソースがニンニクのパンチを包み込んで、絡み合って、渾然一体。これこそがマリアージュ。

 グラタンってイタリアだっけ? いやフランスかイギリス? ……まあ、ともかく。ガーリックトーストなどと似た系統なのは間違いない。

 だからこそ、進む進む。バゲット&ニンニク、グラタンのサイクルが止まらない。バクバクと料理が消えていく。

 しかし、理性はちゃんと残っている。だからコーヒーにも手を伸ばす。苦味とほのかな甘みが心を落ち着かせ、一度に料理を食い尽くすことを防いでくれる。……正直、コーヒーより酒、それか炭酸飲料の方が相性は良いなって思う。

 だが、それはメニューのみを見た話。料理は味覚だけで完結しないと、いまの俺は実感でもって理解している。

 このシチュエーションには、アッツアツのコーヒーなのだ。身体を中から温めながら、苦味とともに風情を嚥下するのである。


「……優勝」


──だからこそ、これで良い。コレが良いのだ。寒空の下、そして絶景を堪能しながら飲むコーヒーは、千金に勝る価値があるのだから。










ーーー

あとがき


本当ならね、コミック発売日から連続更新したかったんだけどね。ここ数日、マジで忙しかったんですよね……。カナシス。


それはそうと、続々と購入報告ありがとうございます。励みになります。

まだ買ってないよという方も、是非ともご購入くださいませ。恐らく、いやきっと、メイビーで満足できる内容となっておりますので。


あ、ついでと言ってはなんですが、各種通販サイトなどで買ったという方、これから買う予定の方、レビューや高評価などもよろしくお願いいたします。……分かりやすい数字は、商業においてなによりの武器ですので。


ありがとうございます!(先制攻撃)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る