兵庫県文書問題 第三者委員会調査報告書が発表されたが収束せず なぜ どうすればいい

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
2025年4月23日定例記者会見 THE PAGE配信を筆者撮影

発生した問題の収束に必要な条件とは

昨年3月に文書問題が発覚して1年以上経ちますが、今も収束する様子がありません。第三者委員会の報告書が「告発者探しは通報者を保護する体制整備義務に違反している」と結論づけたことに対して、斎藤元彦知事は「第三者委員会と異なる見解もある。義務は内部通報に限られるという見解がある」「当初の対応は適切だった」と過ちを認めていないからです。これを見かねたのでしょう。公益通報制度を所管する消費者庁(内閣府)も兵庫県に対して「国の見解と異なる」として適切な対応を求める事態に至っています。

収束とは、調査によって事実確認と問題の原因が解明され、責任の所在が明確となり、トップが判断の誤りを認める、それに対する処分が発表され、再発防止のための体制構築に踏み出し、結果として報道も減る状態です。この条件が満たされるようマネジメントするのが危機管理であり、トップマネジメントといえます。

したがって、兵庫県の場合も知事が当初の対応の誤りを認め、減給など何らかの処分がなされない限り収束しないのです。筆者のこれまでの経験からしても、自分は悪くない、とあがいているトップであっても会社の評判・存続のために「誤りや混乱の責任を認め、減給処分(一番軽い)」を決断します。全ては収束させるためのマネジメントとして行っているのです。斎藤知事にそれができないとなれば、もはやトップマネジメントができないリーダーとしか言いようがありません。

「違法」受け入れず「パワハラ」に処分なし

では、なぜ斎藤知事にはできないのでしょうか。第三者委員会報告書を読み、気づいたことがありますので、まずは「文書問題に関する第三者委員会」報告書を解説しながら筆者の着目点を取り上げます。なお、兵庫県には3つの第三者委員会が設置されています。通報者のプライバシー情報漏洩を調べる委員会が2つあり、3月31日に終了したものの非開示となっています。こうした非開示委員会の存在も収束を阻んでいる要因となっています。これについては後述します。

「文書問題に関する第三者委員会」は、2024年5月7日に斎藤知事が告発者を懲戒処分としたことを問題視した県議会からの要請で、斎藤知事が5月21日に設置を決定、9月12日から委員らによる調査が開始されました。日本弁護士連合会の指針に基づき、県と利害関係を持たない県弁護士会所属の弁護士6人で構成。元裁判官3人が含まれていました。累計60人に延べ90時間の聞き取りなどをして調査。3月19日に提出された報告書は、本文が170頁で添付資料が87頁、要約版は34頁。百条委員会の報告書の「違法の可能性が高い」「過言ではない」といったあいまいな表現に比べ、「違法である」「パワハラである」と断罪しています。

問題となった告発文書は、2024年3月12日に元県局長(同年7月に死亡)によって、県警、国会議員、報道機関など10か所に匿名で配布されました。告発文書には、知事のパワハラ、知事選での選挙違反、大量の贈答品受け取り疑惑など知事と側近の行動を批判する7つの項目が記載されていました。この文書に関して斎藤氏は告発者を探索して特定した上で、3月27日の記者会見にて「事実無根」「誹謗中傷性の高い文書」「公務員失格」と発言。5月に元県民局長を停職3カ月の懲戒処分としました。

第三者委員会は、告発文書で疑惑が指摘された斎藤氏や片山安孝元副知事ら当事者らが直接調査に関与し、通報者探索したことを「極めて不当」と言及。県民局長による文書の配布は公益通報に当たるとし、通報者を捜し出した行為は公益通報者保護法に照らして「違法」と結論づけました。百条委員会報告書の「違法している可能性が高い」といった曖昧さがありません。

告発文に記載された7項目について事実認定をしました。斎藤氏が県内企業から贈答品を受け取っていたとの疑惑は、贈収賄と評価できる事実はなかったとの結論を出しました。農産物などを多く贈与され自己消費していたことは事実と認定。斎藤氏が贈与を要求しているなどと疑惑の目でみられるケースがあったこと自体は否定し難いと評価。今回の告発で贈答品受け取りのルールが兵庫県として定められたため、改善につながったという事実からしても告発文は公益性のある通報といえると評価しています。

パワハラを巡っては、調査対象の16件中10件の事例が該当すると認定。「文書には数多くの真実と真実相当性のある事項が含まれている」とし、斎藤知事が24年3月27日の定例記者会見で告発文書を「噓八百」「公務員失格」などと非難したことは元県民局長に精神的苦痛を与え「パワハラに該当する行為」と断じました。この点も百条委員会報告書では「パワハラ行為といっても過言ではない不適切な行為」とは異なり明記されました。

元県民局長の処分については、告発文書の作成・配布としたことは「違法であり、その部分について行われた懲戒処分は効力を有しない」と判断しました。

こうした報告書を受けた場合、「公益通報者保護法の理解が不十分だったようだ。判断を誤ってしまった。元県民局長の処分理由を見直す」「自分のパワハラについては減給処分とする」となるだろうと誰もが期待していた筈ですが、実際はそうなりませんでした。自分を守るための見解を用いて「体制整備義務は内部通報に限られるとする見解があるから、自分達の当初の対応は問題がない」とし、「パワハラは処分なし。研修は受ける」と回答。元県民局長の処分理由は4つで、告発文を作成したこと、業務外の文書を作成したこと、職員1名の写真を持ち出したこと、次長級職員にパワハラをしたこと。県民局長をパワハラで処分しているのであれば、知事もパワハラ認定を受けたら自ら処分を考える必要がありますし、なにより、収束になくてはならない条件です。部下をパワハラで処分し、自分はパワハラをしても処分をしないのは整合性がなく非合理。何よりもトップの姿としてみっともない。

パワハラは県民への不利益につながる

パワハラの背景に、知事が現場の部長と直接コミュニケーションしなったこと、話を聞かなかったこと、それによってギャップが生じ、各事業の推進がスムーズにいかなくなり、結果として知事が苛立ったことにあるとしています。要因分析は百条委員会報告書にはなかった内容です。

「知事自身としても、政策や協議内容、タイミングによっては、職員の考えや前提となる背景事情を直接的に担当職員から聞こうとする姿勢が乏しいケースもあった。・・・担当職員や所管の部長とさえ直接のコミュニケーションをしようとしないことがあった・・・新県政推進室のメンバーのみが知事と多くのコミュニケーションを取ることができ、その他の職員は知事と接する機会が少ない状況は、組織の分断と不透明感からくる相互不信をも生む要因となった。・・・知事と各事業を担当する職員との間に多くの事例で認識のそごを生じさせた。これが結果として、知事の苛立ちの原因の1つとなり、職員に対するパワハラと不適な言動等につながったものと考えられる」

「斎藤知事がロジや広報等について厳しい態度を取り続けた結果、職員が委縮し、ケースによっては政策の中身より知事の顔色をうかがう傾向を生んだ面がある。これを職員側から見れば、知事や上司の反応を過剰に気にしなければならないため、県民のためや県民の方を向いた仕事ができないという不満につながり、知事らからの指導を理不尽だと感じる原因の1つになったと考えられる。・・・苛立つ場面があったとしても、対話より自身の感情を優先させて叱責すると職員を導く意味での指導ではなくなってしまう。指導の目的であったとしても、必要な配慮を欠くために、職員が疲弊し、意欲が低下してしまうことになれば、効果的な公務の遂行につながらず、かえって県民の利益にならない。」(P155-157)

筆者が着目したのは、「組織の分断と不透明感からくる相互不信をも生む要因となった」。知事が第三者委員会の報告書を受け入れない態度を示したことで、県庁内で引き起こした事態を県民全体で引き起こしてしまったように見えます。

第三者委員会が最後に言いたいこととして、「組織のトップと幹部は、自分とは違う見方がありうるという複眼的な思考を行う姿勢を持つべき」「感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべき」としています。県民のリーダーとしてどうあるべきかの姿を示しましたが、この言葉は斎藤知事に届かなかったようです。

知事は何を守りたいのか

冒頭で述べた通り、斎藤知事は収束できなかったという点で危機管理ができないリーダーといえます。危機発生時には何を守るのかを目的を明確にするのですが、知事にとっては収束が目的ではなく、ご自身を守ることが目的になっています。加えて、筆者が推測したのは、知事自身は収束を望んでいないのかもしれないということ。その方が注目され続けるからです。知事にとっては批判であっても報道され続けるのは好ましいと受け止めている可能性があります。

そう思ったのは第三者委員会報告書にある取材誘致での態度からです。兵庫県のイベント開催で午後11時51分までチャットで記者への売り込みをするよう指示がとんでいる部分。「メディアの東京現地の取材の集まりがいまいち」「NHKやサンがこない」「個別に記者に売り込みをすること」「リリースを転送しているだけでは、絶対に許されません」。災害時でもない限り真夜中までやりとりしているとは、よほどマスメディア好きなのではないかと感じました。ここから類推すると、斎藤知事は自分の発言が収束しない事態を招いていても、それが苦にならず、むしろ批判であってもマスメディアに囲まれる自分の姿を好ましいと判断している可能性があります。以前は頼んでも取材に来てくれなかったのに、今はどんどん記者が押し寄せているわけですから。いわんや「斎藤知事は間違っていない。第三者委員会は間違っている。マスメディアは偏向している」とコメントする斎藤支持者(ファン)や「消費者庁の解釈は間違っている」「判例が出ていないからいろいろな解釈ができる」と主張している弁護士もいるからです。こうなると、判例を作るべく次の行動に移るかもしれません。炎上すればするほど自身の知名度は上がる、そう確信しているようにも見えます。もはやトップとしてやるべき収束など関心がないのでしょう。

残り2つは非開示なのに第三者委員会といえるのか

最後になりますが、非開示となっている2つの第三者委員会について言及しておきます。

1つ目は、「秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会」で、7月25日号の文春で県職員が秘密漏洩したと疑われる事実確認調査。2024年10月8日から調査開始され、3月31日に終了。担当部署は総務部人事課人事班。

2つ目は、「県保有情報漏えいの指摘に係る調査に関する第三者調査委員会」で県保管の情報の漏えいに係る指摘についての事実関係(インターネットでの動画配信及びSNS並びに報道)等の調査。2025年1月7日から調査開始され3月31日に終了。担当部署は総務部法務文書課法務班。

どちらも通報者(元県民局長)の私的情報の漏洩を調査する委員会となっていますが、そもそも「第三者委員会」の名称を複数使っていることも混乱に拍車をかけています。第三者委員会は、日弁連の第三者委員会ガイドラインにそっている委員会の名称ですから、ガイドラインに沿っていないなら第三者委員会とは言えません。独立性が高いといった印象を与える効果があるため使っているのでしょうか。目くらましのようにも見えます。今回のように内容が非公表なら特別調査委員会など別の名称を使う必要があります。第三者委員会は内部調査で十分できなかった場合や客観性が担保できない、あるいは組織全般にわかる腐敗がありトップの管理下でできない場合に設置される性質のものだからです。筆者は大げさに感じます。

非開示の理由は「調査報告書の内容及び調査報告書を作成した委員の氏名につきましては、証拠隠滅、調査関係者への妨害など、干渉や圧力が生じることのないよう、当該対応等の発表に際し、公表を行います。」と説明が記載されています。情報漏洩した職員処分の発表時に斎藤知事はトップとしての管理責任をとって自らの処分を発表するのかどうかこの点は極めて重要です。

外部通報窓口は設置されたが今も知事部局が調査する体制

2つの調査委員会は内容説明も不適切にみえます。「7月25日号の文春で県職員が秘密漏洩したと疑われる」事実の調査とされていますが、文春では通報者の私的情報は記載されていないからです。問題は文春ではなく、情報管理の在り方に重点がなければいけません。各種報道や記者からの情報で「総務部長が通報者の私的情報を見せて回っていたことが事実かどうか」を調査するという意味なのだとか。いやいや、総務部長が見せ回っていたことが事実かどうかは既に多くの人が証言していて百条委員会でも明らかになっているので内部調査で十分ではないでしょうか。

わざわざ「文春」と固有名詞を書いて特定しなくてもよいはず。そこをあえて「文春」と書くと、「文春への情報提供は秘密漏洩になる」といった「メッセージ」のように見えてしまいます。県の通報窓口が機能していないと推測できてしまう言葉の使い方です。実際、改正されたはずの外部通報窓口は外部弁護士が受け付けるものの、調査するかどうかの権限は知事局にあり、文書問題の第三者委員会が改善を提言しています。(文書問題に関する第三者委員会 P165)

県民局長の私的情報が「ネット情報」と言い換えられ意味不明

もう一つの「県保有情報漏えいの指摘に係る調査に関する第三者調査委員会」の調査対象は、SNSで流布された元県民局長(通報者)の私的情報とされた情報が県保有の情報と一致するかどうか、どこから漏洩したのか、漏洩した職員を処分するための調査となります。実施概要によると10件が対象となっており、5件が文春の電子版となっています。個人のユーチューバーと報道機関を同列にして調査対象としていることに驚きました。しかも文春は令和6年7月25日号以降も元県民局長(通報者)の私的情報は報道していません。文春が報道したのは、片山副知事と元県民局長の音声データ、3月25日の通報者探しの手順書、元県民局長の処遇と今後の調査方針、3月27日記者会見の想定QA、元県民局長が3月27日に職員局長に送ったメールなど第三者委員会が調査対象とした内容を取材によって先がけて報道していたにすぎません。SNSで流布された元県民局長(通報者)の私的情報の漏洩調査であれば対象外となるはずです。

こちらも言葉が不適切です。問題となっているのは「元県民局長(通報者)の私的情報」であるはずが「ネット情報の外部への漏えいが、県職員によるものであるか、又は外部の者によるものであるかの調査」「ネット情報を外部に持ち出すことが、公益通報者保護法において不利益な取扱いが禁止される公益通報に該当するかの判断」とし「元県民局長(通報者)の私的情報」が「ネット情報」とすり替わってしまっていることで意味不明な文章になっています。一体なんの調査をしているのか訳が分かりません。

今後の見通しについて整理すると、元県民局長(通報者)の私的情報の漏洩の処分発表で知事がどのような責任をとるのか。消費者庁からの指導に対して県としてどう返答するのか。トップとしての収束マネジメントに舵を切れない場合、そういったリーダーでいいのかどうか県民が判断すべきでしょう。

<参考サイト>

文書問題に関する第三者委員会

https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk19/bunsho_daisansya.html

秘密漏えい疑いに関する第三者調査委員会

https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk28/daisanshaiinkai.html

県保有情報漏えいの指摘に係る調査に関する第三者調査委員会

https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk32/press/20250331.html

消費者庁「国の見解と異なる」 公益通報者保護、兵庫知事の認識巡り(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

兵庫県、内部告発文書作成の職員が死亡 事実調査よりも犯人捜しと懲戒処分を優先した罪深き対応

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/8c65733bb1e105b26b75c8a76a4be247de53e61e

兵庫県文書問題が混迷していった原因を考える なぜ百条委員会と第三者委員会が必要だったのか

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c8a91dd77b94baa1f13b03ce924f4c5061ed5f41

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危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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