食いしん坊ライター江ノ島茂道さん「実はそんなに食べられない」
「デイリーポータルZ」ライターの江ノ島茂道さんはいつも、おいしそうにたくさん食べているイメージです。
「つばめグリルをはしごする」「香川県の隠れた名物「かしわバター丼」を食べたい」「おれはカレーライスなら無限に食べられる」など食べる記事が多く、おいしそうな顔の自撮り写真が読む人を幸せにします。
でも本人いわく、「実はそんなに食べられない」らしい。2人前はいけるけど、3人前はキツイ。食べている姿の自撮りがたくさん載っていますが「自撮りは恥ずかしいし、載せたくない」といいます。
それ、本当なの? もしかして、食いしん坊キャラを演じてるだけ? 記事のイメージと矛盾する、江ノ島さんの本心を聞き出します。(取材:林雄司、岡田有花、石川大樹/構成:岡田有花)
実はそんなに食べられない
林 江ノ島さん、そんなに大食いじゃないんだよね。
江ノ島 人よりは食べますけど、大食いと言うほどには食えないです。「3軒行ってまだまだ食えますよ」という人間じゃない。「3軒行くんですか……」って。
3軒行くなら、最初のお店はごはん半分にするかな、みたいな。太ってる人って食えないらしいです。
林 意地悪な言い方するけど、“食いしん坊キャラ”を演じてるんじゃないの?
江ノ島 でも、食べることしか趣味がないというか……。
林 嫌いな食べ物はある? 野菜とか?
江ノ島 野菜はそんなに嫌じゃないです。でもサラダって何なんですか?(怒りながら)
石川 江ノ島さん、記事で敵意を出すことはあまりないですけど、サラダにだけはすごい敵意を出しますよね。
林 「食いしん坊キャラはサラダが嫌い」って演じてない?
江ノ島 そう言われるんですけど……サラダって餌じゃんって思うんすよ。動物の餌じゃんって思わないですか? あと冷たいのが嫌なんですよね。
顔出しは恥ずかしい
岡田 江ノ島さんの記事って、めっちゃ顔を出しますよね。
江ノ島 顔を出すのは恥ずかしいっす。慣れましたけど。
岡田 恥ずかしいのに出すんだ。
江ノ島 地主恵亮さんの記事が好きでデイリーポータルのライターになったからですかね。地主さんってすごく顔を出すから、そういうものだと思って。
林 ご飯食べる取材の時、江ノ島さんはずっと動画回してるの?
江ノ島 はい。小さい三脚を立てて、スマホのインカメラを自分に向けて撮ってます。
林 “江の島アングル”だね。どのポイントで切り出して使おうって意識してる?
江ノ島 特に意識してないですけど……撮った後に取材を思い出して、動画をキャプチャして使ってます。
林 キッチンオリジンのイートインでお代わりを取りに行く時、無人のコマを入れてたよね。
江ノ島 あれも動画で回しっぱなしだったから撮れました。記事にアクセントみたいなのをつけたくて。
林 外ですごい引きで撮って、地面が写ってる写真も多い。
江ノ島 漫画のコマで、歩いてるシーンだと地面が入ることがありますよね。そのイメージがあるのかも。その場にある石とかにスマホを立てかけて撮っただけだとは思いますが。
自撮りはしたくない
林 常に自分を客観視してるよね。「財布をなくしてる俺」とか「電車に乗れない俺」を引きで撮って、自ら傍から見てる。
江ノ島 自撮りはできるだけしたくないし、できれば遠くにカメラを置きたいんです。その方がぽつんとしてる感が出て面白いから。
食べてる時はカメラをテーブルに置くからどうしてもどアップになっちゃう。でも離せるんだったら本当は離したいです。
岡田 江ノ島さんはファンが多くて、顔が見たくて記事を読んでる人もいると思いますけど、「おれのこと見たいんでしょ?」みたいな気持ちは一切ないんですね。
江ノ島 見たくないですよ。
岡田 ファンは見たいと思っていますが……全く意識しないんですね。
江ノ島 あまり……他人だし。意識して急に大御所感のある文章を書き始めたら、目も当てられないじゃないですか。
岡田 自己顕示欲、ないんですね。
江ノ島 「自己顕示欲を出すのって悪い」っていう時代の人間です。
江ノ島茂道は「ありそうでだけどない」ペンネームにしたかった
岡田 「江ノ島茂道」ってペンネームなんですね。由来は?
江ノ島 何もないっすよ。面白くないっすよ。
林 抜群のセンスだと思う。
江ノ島 ありそうだけど、ない名前……「名前っぽいんだけど、実際にはないような名前」をつけたかったんですけど、失敗したんす。
会社のサーバを使ったサイトを作った時「本名でやっちゃいけない」って言われたから適当に江ノ島ってつけて。茂道は、デイリーに入るときにつけました。
岡田 江ノ島茂道で検索したら、確かに江ノ島さん以外にいないですね。ありそうでない名前。
江ノ島 そういう名前をつけたかった。
大喜利出身
林 ハガキ職人出身だよね?
江ノ島 大学生のころ、ネットラジオに投稿してました。大喜利もちょっとやったりして。高校生のころは水野敬也さんの「ウケる日記」が好きで、図書館で何度も借りて読んでいました。日常のことを面白く書いたり、コント調のことやったりとか。
就活では出版や放送関連企業に勤めたかったんですけれど受からなくて。2011年に大学を卒業して、IT業界に行ったんですが、1年で辞めて編プロに入って。そこも1年ぐらいいてキツくてやめて。最初のITの会社に戻りました。
編プロの時は怒られてたし、寝れないし、給料も安いし、保険もなかった……国民保険で。先輩がソファで寝るから僕らは床で寝るし、みたいな。段ボールで寝てました。
林 エロ本とか作ってた?
江ノ島 作ってました。ちょうどエロ本で。
岡田 ちょうど、って。
実はリーダー気質説
林 ライターを集めて個人サイトやってたよね。
江ノ島 「あんぱん」っていうサイトですね。知り合いのハガキ職人の人とか集めてやってて……でも大変でした。サーバの支払いを忘れて、終わったんですけど。
林 今もみんなで飲み会を主催したりしてるから、実はそういうリーダー気質があるのかなって。
江ノ島 8月22日生まれって、そういうのあるらしいです。タモリとみのもんたもそうらしいです。占い辞典に載ってました。
林 誕生日の話をごまかされたけれど、実は面倒見がいい人なんじゃないかって。アウトローみたいなことを言ってるけど、人をまとめるのも好きなのでは。
江ノ島 いやいや、好きではないんすけど……。
「あんぱん」は元々、会社のサイトを運営するためのサーバを確保したのが、担当者が忙しくてやらないっていうから、そのサーバを借りて、会社とは無関係なサイトとしてやったんです。最初は1人で毎日書いてたんですけど、無理だってなって思って人を集めて。
林 デイリポータルZに似てる。
ネタは尽きない
岡田 最近まで週1で記事を書いていましたよね。でも全然ネタが尽きなかったとか。
江ノ島 ネタがなくて困ることはないですね。土壇場で何とかする。どんなネタでもなんとなく書けると思ってます。「初めてのバックドロップ」とかでも書けなくはないじゃないですか。
林 「初めてのバックドロップ」ってキャッチーだね。江ノ島さんは大喜利出身だから、ワード1個1個が強い。
江ノ島 「初めての」をつければなんでも面白いって思ってるところがある。ワードの見た感じで「面白い」って。
林 ハガキ職人だった時のペンネーム「コットン3世」もいい。今もメールアドレスがコットン3世だもんね。
江ノ島 投稿の時使ってたアドレスをそのまま使ってるから、恥ずかしいんですけど。
林 そういうのがいちいち面白い。
“遅延行為”をすれば、何でも記事になる
岡田 「初めてのバックドロップ」で私が書こうとしたら、4行で終わりそう。何を書けばいいのか分からない。
江ノ島 遅延行為をすれば書けますよ。最悪、目も当てられない記事を書けばいいんですよ。みんなちゃんとバット握って書くけれど。
岡田 かっこいいな。“遅延行為”の方法をどこかで学んだってことですよね。
江ノ島 それはもう……すごく失敗してきましたから。行こうとした店が開いてなかったけど、締め切りは延ばせない、みたいな。
林 「店がやってなかった」で記事書くもんね。
岡田 「店がやってなかった」では400文字が限界じゃないですか? デイリーの記事は2000文字ぐらいある。
江ノ島 ちゃんと書かなければいいんです。前振りをちょっと長くするとか。
「ちゃんと書いた方がいいけど、そんなに力を入れなくていいよ」って林さんがよく言ってたことで。それを忠実に守ってるんだと思う。
林 今はみんな「ちゃんと書かなくちゃ」って思いすぎ。インターネットとか世の中がみんな「真面目になれ」って言うから。
岡田 私は、意味のあること以外をどう書けばいいか分からない。情報がないことを、どうすれば面白くできるんでしょう。
江ノ島 情報はなくてもいいなって。でも林さんに「情報を入れてくれ」って怒られたことはありますよ。
林 情報はちょっと入っていればごまかせるから。読者にとってのお土産になる。だから最後にグラフとか入れとけばいいんだよって。
江ノ島 そう言われたけれど慣れてないから、入れなくなって。
林 結局、世間を“江ノ島慣れ”させた。読む側を変えさせたからね。
ネタに保険をかけている
林 江ノ島さんって、「よくそんなの調べてきたな」って思うような地方の変わった料理を探し出してくる。
林 行った先で必ずトラブルを起こすのもすごい。タクシーの運転手に冷たくされたりとか。
江ノ島 タクシー運転手に「知らねえよ」って言われましたね。
林 「知らねえよ」って運転手に言われたライブ感に面白さがある。予定調和になっちゃうと怖いから、予想外のことが起きた時の方が記事が面白いし、頭もフル回転する。取材先でも、何かが起きるのを待ってるって聞いたけど。
江ノ島 待ってるのかな……。そういえば、人のことをじっと見ることはあります。「なんか来たな」「何か起こらないかな」って。
外で撮影するとしたら、「何やってるんですか」って声をかけられないかなとか、散歩している犬のリードが外れてこっちへ来ないかな? とか考える時もあります。そうしたら書けるから。「来ないかな? と思ったけど来なかった」でも書けるし。
林 無から生み出してるよ。江ノ島さん、すごい考えて書いてるんですよ。面白キャラでごまかされちゃうんですけど。
江ノ島 何も起こんないままの時の方が怖いですね。
林 おれもそれが怖いから、べつやくさんを連れて行って、一歩引いた立場から見てもらったり、余計なことを言ってくれるのを期待したりするけれど、江ノ島くん、いつも一人じゃん。
江ノ島 本当に何も起こらないそうな時は、友人の能登たわしさんを連れて行きますよ。「変な企画の時しか呼ばれないから不満だ」って言ってましたね。
岡田 調べてから行くとか、友人を連れて行くとか、何重も保険をかけてるんですね。
江ノ島 そうですね。手ぶらで行った方がかっこいいって思った時期もありましたけれど……「横綱になりたくて、秋」みたいな記事で失敗して、反省しました。
両国に行ってちゃんこを食べ比べたら面白いんじゃないかと思ってやろうとしたんですけど、1杯目でお腹いっぱいになってやることなくて。諦めて。本当に何も起こらなくて……。
保険をかけつつも、余分を残してる時はあるんです。調べすぎないとか。ライブ感じゃないですけど、行った時の新鮮さが崩れるから。
林 調べないところが面白いよね。デイリーは娯楽サイトで、正解を求めてるわけじゃないから。
江ノ島 でも、どこに行ってもほぼ開いてないみたいな時期がありましたね。Googleマップで定休日を調べていっても、間違えていることがある。「この時間は実はやってませんでした」とか。やってなさすぎて落ち込んだ時期がありました。
不安だからもう一度食べる
林 うまくいきすぎちゃった時の方が怖いよね。
江ノ島 うまくいきすぎることはないっすよ。僕は。
林 でも、行って食べるだけの記事なら。
江ノ島 「本当にいいのかな」って思って、もう1回食べますからね。1回じゃ不安なんですよ。記事の凹凸と、記事の量的に。
記事が書けると思える写真の枚数が20枚以上なんですけど、「今の感じだと10枚で終わるんじゃないかな」と思って、保険として「もう1回行けば書けるな」と。他のメニューも食べたいし。
岡田 記事に対してすごく真面目に考えていますね。
江ノ島 それは多分、ネタをちゃんと考えてないからって気がしてます。最初にプロットとかどんな写真を入れるかも決めて書くような人もいますけど、僕はそれをやらないから。
林 プロットを決めずに予想外のことが起きて、慌ててる様が面白いよね。我を忘れる感じが。
江ノ島 動きのある写真を入れたいんです。止まって撮る写真よりは、リアクションしてるときの写真が面白い。動画を切り出せば、意図しないとこが撮れる。
林 「ドキュメント・東京から自転車で海に行く10時間の記録」の冒頭で、江ノ島くんが自転車に乗ろうと思ったけどサドルが高すぎて乗れなかったのが載ってるんだけど、何回見ても面白い。元気がない時にあれを見ると元気になる。
江ノ島 出発のシーンぐらいはちゃんと撮ろうと思って。
岡田 プロ意識が高いですね。
江ノ島 その後は疲れて撮れないだろうと分かっているし、自分の体験談だけだと面白くならないのが分かっている。「疲れた」ぐらいしか書くことがないし、長距離の移動だと、「自分を見つめ直した」とか、自分語りぐらいしか書くことがなくなりそうで。
でもその記事、財布を家に忘れたから書きようはちょっとあったんです。財布を忘れたことに途中で気づくっていう怖さって、なかなかない。
林 財布なくしてたら最高だもんね。最初から客観視できてる。財布をなくしたとか、誰から見ても珍しさがあるけれど、文章を書いているとく人は容易にそれを見失ったりするから。
実は体育会系
岡田 正社員として働いて、去年までは週1ペースで書いて、めっちゃタフですよね。
林 普段のスケジュールを教えてもらっていいですか。
江ノ島 神奈川の藤沢に住んでいて、職場は東京なので、通勤に1時間40分ぐらいかかります。朝6時40分くらいには家を出て、9時から大体6時半ぐらいまで働いて、帰って8時ぐらいになって、お風呂入って記事を書いたりNetflix見たりして、11時ごろには寝たい。1時とか2時まで記事書いてる時もありますけど。
林 取材は土日。
江ノ島 ですね。それか、平日の夜。
林 タフだよね。
岡田 スポーツやってました?
江ノ島 サッカーとハンドボールの経験があってやってて、ちょっと体力あるんです。安藤さんほどじゃないですけど。
岡田 週1で書いていたらほぼ休みなしですよね。
江ノ島 それがきつかったんすよ。デイリーが独立するからって毎週書いてと言われて。半年とか、ちょっとの間だけなのかなと思ってたんですよ。そしたら結構長いなと。
林 大丈夫そうだなと思って。
江ノ島 結局1年、週一でやりました。
声をかけられると恥ずかしい
江ノ島 外で「デイリーポータルの江ノ島さんですね」って声をかけられることがたまにあるんですが、そういう時にどう返していか分からない。「ありがとうございます!」みたいなすごい高いテンションで行くのが恥ずかしいんですよ。人気者でもないくせに愛想振りまくみたいなのが恥ずかしい。
林 おれ、この前声をかけられてシールをあげたよ。「ありがとうございます、これをどうぞ」って。シール持ち歩けば?
江ノ島 僕の缶バッチ、家にあるな。
林 人気者って言われるのって、どう折り合いをつけていいかわかんないですね。
江ノ島 ちゃんと表に出てないから。芸能人でもなくて、ネットの世界のライターだから。
林 有名になりたいわけでもないし。面白いことして注目を集めるべきだと思ってたけれど、気づいたらネットでみんなバンバン自分語りしてる。
江ノ島 僕、全くそういうの興味ないんすけどね。
林 おれも。でも、江ノ島のすごいとこって、清潔感があるよね。
江ノ島 ほんとですか。
林 肌がきれい。眉毛が男らしい。
江ノ島 若いころは眉毛を整えていましたね。目が悪くなってきて、細めないと見えないんですよけど、コンタクトは怖くて眼鏡を買いに行くのもめんどくさい。
林 そこはあんまり共感できない。買いに行きなよ。
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