全国の性風俗店に女性をあっせんし、警視庁保安課に摘発されたのが違法スカウトグループ「アクセス」だ。容姿などで女性をランク付けし、全国の風俗店にオークションのように落札させる仕組みで、莫大な収益を上げていた。同課としては約30年ぶりに立ち上げた特別捜査本部で組織解体を進める中、見えてきた悪質極まりないビジネスモデルを構築した巨大組織の実体とは──。(西川正志)
◆女性をランク付け、風俗店に落札させて爆益
「まさに人身取引だ」。捜査関係者はこう憤る。アクセスの女性あっせんビジネスは、全国各地に散らばったスカウトがSNSで女性を勧誘するところから始まる。
スカウトは誘いに応じた女性から、身長から体重を引いた「スペック値」、年齢、体形などを聞き出し、女性を8段階にランク付けする。
アクセスと「契約」している性風俗店は、島根県を除く46都道府県の約1800店舗。スカウトらは、女性のランクに応じた店を複数選び、女性の顔写真やプロフィルを一斉送信する。店側は、女性の1日の稼ぎとして約束する「最低保証金」を提示し、最も高い金額の店に女性をあっせんする。これが犯行の流れだ。
アクセスには、女性が稼いだ額の15%に相当する金が「スカウトバック」(紹介料)として毎月、店から送金される。女性が稼働し続ける限り、組織に金が入る仕組みで、わずか5年で70億円を売り上げた。
◆「ねずみ講」方式で組織を巨大に
アクセスがいつこのビジネスモデルを構築したかは定かではないが、本格的に活動を始めたのは2019年。元ホストの遠藤和真被告(33)=職業安定法違反で公判中=が別の人物から組織を引き継いだのがきっかけだった。「それまでは大した組織ではなかった」(捜査関係者)が、遠藤被告がリーダーとなって以降、組織は急拡大していく。
アクセスは、新たな仲間を加入させた既存メンバーに報酬を出すほか、新メンバーの売り上げの一部を勧誘したメンバーに支払い続ける、「ねずみ講」のような仕組みで肥大化。構成員は最大300人に膨れ上がった。
「人心掌握術に長けていた」(捜査関係者)という遠藤被告は、自らを頂点としたピラミッド型の組織をつくり上げた。
◆階級制、配置転換などで競争あおる
構成員を運営側の「マネージャー」と、女性を勧誘する「プレーヤー」の2階層に分け、直轄する部下数や報酬の多寡を競わせた。それぞれの階層内で「サブマネージャー」「ブラック」などと昇格していく階級制も導入。昇格基準を明確にして組織内の公平性を保つ一方、構成員の要望や能力に応じて配置転換や給与システムを改変するなど、柔軟に組織を運営していたという。
捜査の過程では、摘発を免れるためのマニュアルや、契約する風俗店の特徴をまとめた専用サイトなどの存在も明らかになった。
全国各地に広がった構成員の中には主婦や大学生もいた。「遠藤被告の懐刀」と言われた和歌山県在住の生駒矩子被告(32)=同法違反で起訴=は、子どもがいる主婦だった。階級はプレーヤーのうち下から4番目の「社員」でありながら、遠藤被告逮捕後、構成員らに組織に関するデータの消去や解散を指示していた。
◆「自宅でできる高収入の仕事」で加入
金に困っていたという生駒被告は、別の構成員による「自宅でできる高収入の仕事」というSNSへの投稿を見て、2021年に加入。「スカウトとしての稼ぎは良くなかった」(遠藤被告)が、翌年から運営に携わり、組織内のトラブルや新人研修などを担当するようになった。
月額30~40万円ほどの報酬があったというが、遠藤被告とはSNSのやりとりだけで、直接対面したことはなかったとみられる。捜査関係者は「普通の主婦まで加入していたのは衝撃。ここまで組織が広がっているとは」と驚きを隠さない。
女性を搾取し続けたアクセスだが、遠藤被告ら幹部のほぼ全員が逮捕されたことで、ほぼ壊滅状態にある。一方、あっせんされた女性らはホストなどの売掛金(ツケ)の支払いのために働いていた人もおり、事件の背後には女性に多額の売掛金を背負わせ、売春などを強いる悪質ホスト問題が透けて見える。
捜査関係者は「同じような違法スカウトグループが2度と現れないよう、悪質ホスト問題の解決は急務。違法なスカウトは今後も厳しく摘発していく」と話している。
みんなのコメント0件
おすすめ情報
コメントを書く
有料デジタル会員に登録してコメントを書く。(既に会員の方)ログインする。