なぜ福岡に音楽大新設?2026年春に開学予定、九響と連携…東京芸術大前学長が語った「強み」
福岡県内唯一の4年制音楽大「福岡国際音楽大」(仮称)が開学予定の2026年4月まで1年を切った。文部科学省などによると、24年に約63万人だった大学進学者数は40年に約46万人となる。24年には私立大の約6割で定員割れも起きた。大学を取り巻く環境が厳しい中、なぜ、いま音大新設なのか。学長に就任予定の東京芸術大前学長の澤和樹さん(70)に聞いた。(聞き手・佐々木直樹、撮影・星野楽) 【写真】初の説明会で行われたミニコンサートで演奏を披露する澤和樹氏ら -少子化に歯止めがかからず、将来的に大学受験者数は減少が見込まれる。 「東京芸大ですら受験者が減り、私学の音大も受験生集めに苦労している。今回、学長を依頼された時も今更やめた方がいいという心情でした」 -厳しい現実を知っている上で引き受けた理由は。 「音楽や芸術の多彩な力を生かして社会貢献する道筋をつくりたいと芸大時代から考えてきた。医療機関や教育施設を運営する高木学園のグループとして音大をやることで、思い描いてきたことが医療福祉の現場で実現できるのではと思ってやる気になった」 -音楽による医療福祉分野での社会貢献とは。 「英国やオーストラリアでは認知症の治療に音楽療法が有効であると証明され、医療コストを下げる一手段として地位を得てきている。新しい大学で音楽療法士らも輩出していくことで音大と社会をつなげられるはずだ」 -東京芸大学長時は社会とのつながりの強化を訴えていた。 「そこが一番重要なところ。一般の方々が音楽や芸術を身近なものとして必要とする状況をつくりたい。新しい大学だから挑戦できるところもあると思う」 -新しい挑戦とは。 「音楽療法士の輩出もそうだし、音楽を演奏する実演家を取り巻く環境を整える音楽ビジネス分野の人材育成にも力を入れる。そうした人材は音楽業界で必要とされながら不足している。英語やICT(情報通信技術)教育に力を入れる。卒業後の進路が見えれば若者や保護者がもっとこちらを向くのではないか」 -2月に開催した説明会に学生、保護者ら約500人が集まった。 「福岡を中心とする九州圏で音大に進みたいと思っている人はそれだけいる。だが、特にコロナ禍を境に経済的な問題もあって東京に送り出しづらくなっている。福岡に大学ができれば行かせてあげようと思っている人たちは多いはずだ」 -新しい音大に求められるニーズとは。それをどう反映させるのか。 「たくさんの学生を集めている私立の音大ではミュージカルやポップス系も教えている。今までの音大にあった声楽に加えてミュージカルに力を入れ、演奏系やポップス系にも対応できる人を育てたい。そのために劇団四季で長年活躍した方らを招く。福岡の地で国内最高クラスの教育ができると思っている」 -他地域の音大が危機感を抱くのでは。 「限られた人材の取り合いという点ではそうだが、定員80人の小さな形で始めるので奪い合いとも言い切れない。音楽を諦めずに続ける学生が増えていけば、長い目で見ればいい方向に行くのでは。本場の欧州でも若者の音楽離れの傾向がある。指をくわえて見ているんじゃなくて、歯止めをかけていくらかでもV字回復させたい」 -昨年9月には地元の九州交響楽団(九響)と連携協定を締結した。どんな関係を思い描いているか。 「音大と特定のオーケストラが連携するのは日本では珍しい。学生の専攻に応じて九響の首席クラスが指導するなど、かなりユニークなものになると思う」 -先進国の中で日本の文化芸術や教育にかける予算は最下位ランク。芸大学長時代も経済界への協力を呼びかけてきた。 「今後、さまざまな形で企業に支援してもらう場面が増えると思う。演奏家と教育者を育てることが中心だが、もっと広く音楽の力で社会貢献できる人材を育てる重要性を地元財界のトップの方々に説明している」 -国内で歴史のある芸術大学長から、認可されたら国内で最も新しい音大の学長へ。新興の強みとは。 「伝統がないことかな。どんどん新しいことにチャレンジできるし、伝統に縛られる必要がない分、実験もできる。そこを売りにしていく。学校が太宰府にあるだけに、失敗して『左遷された』と言われないようにしたい」