ローマ教皇レオ14世ってどんな人?コンクラーベ舞台裏に迫る
初めてアメリカ出身の教皇が誕生した背景は?なぜレオ14世と名乗ることに?
コンクラーベ直前にも話を聞いた、ローマ教皇に詳しい日本大学の松本佐保教授の解説です。
(ヨーロッパ総局記者 向井麻里)
※以下、松本教授の話(インタビューは5月8日にイタリア・ローマで行いました)
プレボスト枢機卿 予想していた?
ただ、この新しいローマ教皇はラテンアメリカ、ペルーで20年近く務められていたということから、フランシスコ教皇がアルゼンチンということで、やはりラテンアメリカの要因を継承するというところはあるんじゃないかなと思います。
コンクラーベ 予想よりも早く決まった?
パロリン枢機卿は、フランシスコ路線を継承しつつ外交の達人であるというところも評価が高くて「40票か50票ぐらい持ってコンクラーベに臨んだ」と言われていました。
さらにタグレさんという、“フィリピンのフランシスコ”と言われた方の票もパロリン枢機卿に集約されたといううわさが入ってきましたので、パロリンさんに決まったんじゃないかとみんなが思っていたら、全く違うプレボストさんが出てきた。
おそらくパロリンさんが集めていた、パロリンさんとタグレさんの票が、最終的に彼のところに集められたんじゃないかと思います。
パロリンさんも国務長官になられる前はラテンアメリカで大司教をされていたりとか、そういうキャリアがあったからこそ、アルゼンチン人だったフランシスコ教皇のナンバー2になったという経緯があるので、おそらくキーワードはラテンアメリカかなというふうに思います。
ラテンアメリカが重要だった?
ですので、いわゆるヨーロッパのカトリック大国の要因が全部入っているというところ。それに加えてラテンアメリカで長く奉仕されてきた、お仕事をされた。カトリックにとってかなり重要な要因が凝縮されているという見方もできると思います。
最有力 パロリン枢機卿はなぜ選ばれなかった?
ただ、中国との関係については、いま司教の任命権をほとんど中国政府側に渡してしまっています。これは多分カトリック教会内でもかなり反発もあったんですね。
やはりこれがパロリン枢機卿が選ばれなかった理由の1つかなと思っています。だから彼は有力候補だけど選ばれなかった。
一方でラテンアメリカは中国以上かどうかはわからないですが、信者もとても多い地域ですし、非常に敬けんなカトリック信者さんが多い地域という意味では、そっちの方に路線が向いたということなのかなと思います。
レオ14世名乗る理由は?由来は?
どういう意味で重要かというと、労働者の尊厳ということを初めて近代以降に回勅※で述べた教皇で、キリスト教やカトリックの教えというものが、単にカトリックの世界だけのものではなく、民主主義や世俗の世界とも接点があるということに影響を与えた、「レールム・ノヴァルム」という重要な回勅を出した教皇なんです。
教皇が信者の信仰生活を指導することなどを目的に、通常は全カトリック教会にあてて送る書簡。重要度の高い教書で、多くの場合は本文冒頭の数語が文書のタイトルになる。「レールム・ノヴァルム」はレオ13世が1891年に出した回勅。
ただ、そもそもレオ13世がなぜそういう回勅を出したかというと、当時はマルクス主義が出てきて、1848年のマルクスの共産党宣言、それに対抗するためにレオ13世は労働者に寄り添うということをカトリック教会が言わないと、労働者の人たちがみんなマルクス主義に行ってしまうということをかなり強く意識して出した回勅なんです。
改革というふうに解釈できる一方で、そういう反マルクス主義、反共産主義という観点においてはどちらかというと保守というふうにも解釈できます。
ですからまさに彼はそういうレオ13世の後継者だということを宣言してレオ14世という名前をつけたんじゃないかなと思います。
フランシスコ教皇の路線引き継ぐ?
ですからラテンアメリカだったり、どちらかといえば、貧しい信者さんや社会的な弱者に寄り添うという点ではフランシスコ的な要因を引き継ぎながらも、例えば女性の助祭の登用とか、そうした問題についてはフランシスコさんよりも保守的な考え方をしています。
ということは、今までフランシスコ教皇がいろいろな改革を推し進めたことに対してかなり反発していた保守派の枢機卿たちの反発を抑えることができるという、そういうメリットもあるんじゃないかなと思います。
中道というよりは保守に寄っている、どちらかというと保守というふうに言われている人なので、今後、どういうふうな政策をなさるかということが注目点かなと。
保守と一口に言ってもいろいろなタイプの保守がいるので、どういうタイプなのかというところがだんだんこれから分かってくるんじゃないかなと思います。
多様性という点についてはどう?
それからLGBTのことだったり、女性の助祭への登用という点については反対の立場をとられているみたいなので、そこの改革はちょっと止まってしまうと思います。
LGBTについては、かつてけっこう反対だったんですが、近年は割と寛容な態度をとっていらっしゃるというふうに聞いてますので、こちらについてはフランシスコ路線が継承されるかなというふうに思ったりしています。
トランプ政権との関係は?
ただ、トランプ大統領自身はもうSNSか何かでアメリカから合衆国初のローマ教皇誕生ということで非常に喜んでいます。
ですからこれをいい機会にして、新しいローマ教皇がアメリカ人でトランプ大統領を叱りつけることができるかどうかわかりませんが、トランプさんの態度が少し緩和されるようなことが、少し期待されるかなと思ったりします。
トランプ政権 枢機卿たちの頭にあった?
今の国際情勢自体が、トランプ政権の関税の問題にしても非常にとげとげしくなっている、それを何としてでもより調和に導きたいという思いがある。
そうした中で、アメリカ人の枢機卿が教皇になるということは、トランプ大統領から見ても非常に近いところにいる人間がやっているという認識も生まれます。
そういうことを意識して選んだ枢機卿は、絶対的な条件ではないものの頭の片隅に今の国際情勢を少しでもいい方向に持ってきたい、そしてトランプ大統領のアメリカが世界に与えている、どちらかというと悪い影響を少しでもいい方向に持っていきたいという思いがおそらくあったと思います。
そういうところで、たまたまアメリカ人のふさわしい枢機卿がいたということで選ばれたんじゃないかなと思います。
新教皇に期待されることは?
例えば今回、こちらバチカンでアルジャジーラとか、さまざまなメディアの方とも話しましたが、そういうイスラム教の国の方もけっこう来ています。
そういう国も注目しているとなると、もはやカトリック教会のトップにとどまらない、国際政治にとって非常に重要なアクターであるということがありますので、そうなってくるとやはり国際的な調和ですよね。
国際秩序を安定させることができるローマ教皇が求められている、そういう意味では彼はそういうことにふさわしい人として選ばれたのではないか。選ばれたということであってほしいと思っています。
向井 麻里
1998年入局 国際部やシドニー支局、ロンドン支局長を経て現所属
フランスやスペインなどを中心にヨーロッパを取材
WEB
特集 ローマ教皇レオ14世ってどんな人?コンクラーベ舞台裏に迫る
新しいローマ教皇に選ばれたアメリカ出身のロバート・フランシス・プレボスト枢機卿。
初めてアメリカ出身の教皇が誕生した背景は?なぜレオ14世と名乗ることに?
コンクラーベ直前にも話を聞いた、ローマ教皇に詳しい日本大学の松本佐保教授の解説です。
(ヨーロッパ総局記者 向井麻里)
※以下、松本教授の話(インタビューは5月8日にイタリア・ローマで行いました)
プレボスト枢機卿 予想していた?
ただ、この新しいローマ教皇はラテンアメリカ、ペルーで20年近く務められていたということから、フランシスコ教皇がアルゼンチンということで、やはりラテンアメリカの要因を継承するというところはあるんじゃないかなと思います。
コンクラーベ 予想よりも早く決まった?
パロリン枢機卿は、フランシスコ路線を継承しつつ外交の達人であるというところも評価が高くて「40票か50票ぐらい持ってコンクラーベに臨んだ」と言われていました。
さらにタグレさんという、“フィリピンのフランシスコ”と言われた方の票もパロリン枢機卿に集約されたといううわさが入ってきましたので、パロリンさんに決まったんじゃないかとみんなが思っていたら、全く違うプレボストさんが出てきた。
おそらくパロリンさんが集めていた、パロリンさんとタグレさんの票が、最終的に彼のところに集められたんじゃないかと思います。
パロリンさんも国務長官になられる前はラテンアメリカで大司教をされていたりとか、そういうキャリアがあったからこそ、アルゼンチン人だったフランシスコ教皇のナンバー2になったという経緯があるので、おそらくキーワードはラテンアメリカかなというふうに思います。
ラテンアメリカが重要だった?
ですので、いわゆるヨーロッパのカトリック大国の要因が全部入っているというところ。それに加えてラテンアメリカで長く奉仕されてきた、お仕事をされた。カトリックにとってかなり重要な要因が凝縮されているという見方もできると思います。
最有力 パロリン枢機卿はなぜ選ばれなかった?
ただ、中国との関係については、いま司教の任命権をほとんど中国政府側に渡してしまっています。これは多分カトリック教会内でもかなり反発もあったんですね。
やはりこれがパロリン枢機卿が選ばれなかった理由の1つかなと思っています。だから彼は有力候補だけど選ばれなかった。
一方でラテンアメリカは中国以上かどうかはわからないですが、信者もとても多い地域ですし、非常に敬けんなカトリック信者さんが多い地域という意味では、そっちの方に路線が向いたということなのかなと思います。
レオ14世名乗る理由は?由来は?
どういう意味で重要かというと、労働者の尊厳ということを初めて近代以降に回勅※で述べた教皇で、キリスト教やカトリックの教えというものが、単にカトリックの世界だけのものではなく、民主主義や世俗の世界とも接点があるということに影響を与えた、「レールム・ノヴァルム」という重要な回勅を出した教皇なんです。
教皇が信者の信仰生活を指導することなどを目的に、通常は全カトリック教会にあてて送る書簡。重要度の高い教書で、多くの場合は本文冒頭の数語が文書のタイトルになる。「レールム・ノヴァルム」はレオ13世が1891年に出した回勅。
ただ、そもそもレオ13世がなぜそういう回勅を出したかというと、当時はマルクス主義が出てきて、1848年のマルクスの共産党宣言、それに対抗するためにレオ13世は労働者に寄り添うということをカトリック教会が言わないと、労働者の人たちがみんなマルクス主義に行ってしまうということをかなり強く意識して出した回勅なんです。
改革というふうに解釈できる一方で、そういう反マルクス主義、反共産主義という観点においてはどちらかというと保守というふうにも解釈できます。
ですからまさに彼はそういうレオ13世の後継者だということを宣言してレオ14世という名前をつけたんじゃないかなと思います。
フランシスコ教皇の路線引き継ぐ?
ですからラテンアメリカだったり、どちらかといえば、貧しい信者さんや社会的な弱者に寄り添うという点ではフランシスコ的な要因を引き継ぎながらも、例えば女性の助祭の登用とか、そうした問題についてはフランシスコさんよりも保守的な考え方をしています。
ということは、今までフランシスコ教皇がいろいろな改革を推し進めたことに対してかなり反発していた保守派の枢機卿たちの反発を抑えることができるという、そういうメリットもあるんじゃないかなと思います。
中道というよりは保守に寄っている、どちらかというと保守というふうに言われている人なので、今後、どういうふうな政策をなさるかということが注目点かなと。
保守と一口に言ってもいろいろなタイプの保守がいるので、どういうタイプなのかというところがだんだんこれから分かってくるんじゃないかなと思います。
多様性という点についてはどう?
それからLGBTのことだったり、女性の助祭への登用という点については反対の立場をとられているみたいなので、そこの改革はちょっと止まってしまうと思います。
LGBTについては、かつてけっこう反対だったんですが、近年は割と寛容な態度をとっていらっしゃるというふうに聞いてますので、こちらについてはフランシスコ路線が継承されるかなというふうに思ったりしています。
トランプ政権との関係は?
ただ、トランプ大統領自身はもうSNSか何かでアメリカから合衆国初のローマ教皇誕生ということで非常に喜んでいます。
ですからこれをいい機会にして、新しいローマ教皇がアメリカ人でトランプ大統領を叱りつけることができるかどうかわかりませんが、トランプさんの態度が少し緩和されるようなことが、少し期待されるかなと思ったりします。
トランプ政権 枢機卿たちの頭にあった?
今の国際情勢自体が、トランプ政権の関税の問題にしても非常にとげとげしくなっている、それを何としてでもより調和に導きたいという思いがある。
そうした中で、アメリカ人の枢機卿が教皇になるということは、トランプ大統領から見ても非常に近いところにいる人間がやっているという認識も生まれます。
そういうことを意識して選んだ枢機卿は、絶対的な条件ではないものの頭の片隅に今の国際情勢を少しでもいい方向に持ってきたい、そしてトランプ大統領のアメリカが世界に与えている、どちらかというと悪い影響を少しでもいい方向に持っていきたいという思いがおそらくあったと思います。
そういうところで、たまたまアメリカ人のふさわしい枢機卿がいたということで選ばれたんじゃないかなと思います。
新教皇に期待されることは?
例えば今回、こちらバチカンでアルジャジーラとか、さまざまなメディアの方とも話しましたが、そういうイスラム教の国の方もけっこう来ています。
そういう国も注目しているとなると、もはやカトリック教会のトップにとどまらない、国際政治にとって非常に重要なアクターであるということがありますので、そうなってくるとやはり国際的な調和ですよね。
国際秩序を安定させることができるローマ教皇が求められている、そういう意味では彼はそういうことにふさわしい人として選ばれたのではないか。選ばれたということであってほしいと思っています。
向井 麻里
1998年入局 国際部やシドニー支局、ロンドン支局長を経て現所属
フランスやスペインなどを中心にヨーロッパを取材
あわせて読みたい
-
-
-
次のローマ教皇は誰に?注目コンクラーベを読み解く
-
-
-
-
「地獄に行くのが怖いから…」男の子たちが受けた性的虐待
フランスでは長年、聖職者による未成年者への性的虐待が相次ぎ、被害者が多数に上るといいます。当事者に話しを聞かせてもらいました。
-
-
-
-
トランプ発言”で見えてきた 停戦外交行き詰まりのわけは?
-
-
-
-
アウシュビッツ生存者の子がパレスチナのために声をあげるわけ
両親がアウシュビッツの生き残りだという77歳のユダヤ人男性。50年以上パレスチナの人たちのために声を上げ続けています。その理由とは?
-
-
-
-
90歳のカミングアウト
90歳の時、SNSでゲイであることをカミングアウトしたアメリカの男性。人生を振り返り、そして今、ありのままでいられる喜びを語りました。
-
-
-
-
トランプ政権で存在感増す新興メディア なぜ?
-
-
-
-
ロシア人妊婦が南米アルゼンチンへ続々入国 いったいなぜ?
出産間際のロシア人女性たちがいま、次々にアルゼンチンに向かっています。いったいなぜ?現地を取材しました。
-
-
-
-
“世界一貧しい大統領” が語る「真の幸せ」とは?
かつて“世界一貧しい大統領”と呼ばれた南米ウルグアイのムヒカ元大統領。今も農場で質素な生活を続けるムヒカさんが語ったこととは?
-
-
-
-
日本118位の調査で15年連続世界一 アイスランドってどんな国?
-
-
-
-
本が消えていく? アメリカの学校でいったい何が?
アメリカでいま、学校の図書館から本が次々と撤去されています。来年の大統領選挙に向けても争点の1つとなっているこの問題。何が起きているのか、取材しました。
-