第192話 銀世界でコーヒーを その一
「──はいどうもー。デンジラスのスーパー猟師、山主ボタンです。今日も配信をやっていきたいと思いまーす」
︰きちゃ
︰待ってた
︰きちゃあ!
︰待ってました!
︰ばんわー
︰こんばんは!
︰きちゃ!
︰ばんわー
︰おばんです
︰待ってたぞ
コメント欄を確認。流れる内容はいつも通り。音量やら配信画面やらに関するコメントも見受けられない。つまり、リスナー側からの感知できるような異常は発生していない。
そして、こちら側でも特に問題らしい問題は発生していない。少なくとも、現状確認できる範囲では異常なし。
うむ。良かった良かった。最近はここまで念入りに確認することもなかったのだが、今日は少しばかり事情が違う。普段とは違う環境で配信を行っているため、万全を期させてもらった。
「さて、本日の配信ですが。事前に告知していた通り、料理配信を行う予定です。……ただ、いつもの料理配信ではありません。今日はちょっと特別な料理配信です」
そこで一度言葉を切る。そして溜めて溜めて、コメント欄が疑問符で溢れるのを確認した上で、画面を切り替える。──雑談枠用の背景から、つい最近入手した便利すぎるカメラ(モドキ)が映す光景に。
「──見よこの白銀の世界を!! 蒼穹が広がる絶景を!!」
︰うおおおおお!?
︰はっ!? え、山!?
︰雪山じゃねぇか!!
︰なに山主エベレストにでもいんの!?
︰何処の山!?
︰一目で分かる標高の高さ
︰まさか登山ですか!?
︰うっわすっご……
︰真っ白しろ助じゃん
︰すぐ目の前が断崖絶壁でヤバい
︰うおおおおおおおおお!!
︰マジで絶景で草
︰VTuberの配信画面にあるまじき大自然
はっはっはっ!! そうだろうそうだろう! 凄かろう凄かろう!!
何処ぞの神様から、無駄に高性能かつ、便利機能マシマシの猪マスクが贈答されたからな! あの一件で死蔵するには惜しすぎた故に、こうしてしっかり活用させてもらったわけよ! ……若干設定周りは手間取ったけどな! それでも良い具合に落ち着いたのだから、流石は改造神器と言うべきか。
「というわけで、今日はね! 高性能アイカメラ搭載マスクを使って、キャンプ飯的な配信をしていこうと思っております。ちなみに、いまいる場所はダンジョンですので、一般の登山者と鉢合わせることはまずありません。むしろ来れるなら来い」
深層の雪山エリアやからな。……エリアというか、階層? まあ、強力なモンスターが蔓延る極寒の世界である。ついでに足場は最悪で、一歩間違えれば断崖絶壁に一直線。さらに高地故の息苦しさもセットと来ている。
ただ景色は絶景だ。エベレストやマッターホルンに匹敵する、雄大な銀世界が地平線の彼方まで広がっているのだから。
人が生きるには過酷すぎる地獄の世界。あまりに残酷で、あまりに恐ろしい。──そして、だからこそ美しい。
「いやさ、いろいろあってダンジョンに電波が通じるようになったじゃん。正直、そこに至る経緯はクソッタレとしか言いようがないんだけど、それはそれってやつでさ。せっかく世界が変わったんだから、存分に堪能しなきゃじゃん?」
変わったというか、俺が変えたんだけどさ。いや本当、面白い感じになったよなぁ。あの時は脅しのために実行したわけだけど……。
時間が経って頭も冷えた。あの一件が過去になった。そうして振り返ってみれば、なかなかどうして。有意義で面白そうな変化だけが残ったじゃないか。
「探索者系ストリーマーなんて人らがいたように、ダンジョンの映像ってのは一つのジャンルとして存在していた。それが進化して、ライブ配信まで対応したんだから、乗るっきゃねぇのよ。このビッグウェーブにね。……ま、一部は乗り損ねてスプラッタを提供してたりするわけですが、俺はそんなことないし?」
︰原因isお前
︰火付け役がなんか言ってる……
︰山主は探索者系ストリーマーの極地だもんな
︰まあ、確かに山主なら安心して見れるけど……
︰でもアンタこの前首切り落とされてたやん
︰死んでないだけでグロはお茶の間に届けてるんだよなぁ……
︰逆に言うと、山主ぐらいしか安心してダンジョン内配信を見れないという
︰社会を混乱させた元凶がよう言いおる
︰スプラッタでBANどころか、下手するとリアルタイムで自分のスナッフムービーを流すことになるからな……
︰乗るというかビッグウェーブ起こした側やろがい
そう言われてもねぇ? 俺の中じゃ、あの配信は別枠って扱いなのよね。なんかダンジョン内配信の先駆者みたいに言われてるけど、心情的には普通に後追い側なのよ?
なんせ早い人らは、俺の配信終了直後にはダンジョンでライブやってたし。……まあ、アレはストリーマーというより、仕様変更を調査する検証勢という名のプロ探索者だったけど。
それでも、あれから数日以内に大量のダンジョン内配信が行われた。中には時勢に乗ろうとしただけの素人も多くいたし、その大半が熱に浮かされた代償を身体で支払う羽目になったが──それでも依然として『熱』は燻っている。
だから俺は後追いなのだ。機に乗り遅れまいと、命を投げ打って最前線を突っ走ろうとした者たちに反して、これ以上の騒ぎは事務所に申し訳が立たないと、ひとまず静観する方向に舵をきったが故に。
「ハングリー精神に溢れた配信者が、ダンジョンの現実をリアルタイムで電波に流してくれるようになった。……なら俺は、ダンジョンの夢や浪漫ってやつを、生の映像でキミらの手元に届けよう」
ま、VTuberなんでリアルの腥は基本NGだけどね。……そもそもサイト規約的にNG? それはそう。
ただそれでも、十分以上に人の夢を、浪漫を掻き立てる『絵』はあるのだ。
「実際、ダンジョンってのは神秘の領域だ。この銀世界ですら序の口さ。前人未到の秘境。摩訶不思議な未知の世界。それが無数に広がっている。……そんな絶景を眺めながら、コーヒーとかを楽しむのも乙なもんだろ?」
そんなわけで、始めよう。これから室内にこもって料理するだけではなく、雄大な自然の中で食事をしよう。──すなわち、エクストリームキャンプ飯である。
ーーー
あとがき
これをやりたいがために、私は天目先輩を車で撥ねたのである。
それはそうと、二点ほど告知を。
まず明日の金曜日、三十一日にWeb版のコミカライズが更新されます。
そして、コミカライズ第一巻が二月十日に発売されます! すでに各種通販サイトで予約も始まっておりますので、是非是非お買い求めください!
絶対に買ってくれよなっ!!!!!!!
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