第三部 三章?
第191話 プロローグ (十一月末)
「──んー……」
「どったの? なんか唸ってるけど」
「あ、雷火さん。早いね?」
「そういうボタンこそ。まだ打ち合わせの十五分前だよ?」
「スタッフさんたちに差し入れ持ってきたのよ。それ渡すのを込みで早めに来たの」
「なる」
そう言いつつ、雷火さんはすぐ近くの椅子に腰を下ろした。……なんか微妙に距離が空いてるのは気のせいだろうか?
「……前々から思ってたんだけど、ちょっと最近距離遠くない? 気のせい?」
「いやー。新婚さん相手に、いままで通りの距離感ってのはちょっとねぇ? ましてや相手は一花先輩だし」
「新婚て。いまが十一月の末だから……一カ月以上は経ってんだよ?」
「それは世間一般ではバリバリ新婚て言うんだよボタン」
そうかな? ……そうかも。
「というか、経緯が経緯なんだからさ。普通の新婚さんみたいに扱われても困るんだけど」
「……まあ、それは否定しないけど。本当に冗談みたいなことになってるよね」
「ねー」
「……他人事すぎない?」
「もう俺の手からは離れてるし。どんな結末になろうが興味ないでーす」
丁巨己とか、日本政府とか。どこもかしこもてんやわんや。当事者的には阿鼻叫喚。外野からしたらこの上ないお祭り騒ぎ。……が、俺的にはもうどうでも良いのよ。
これでも引き摺らないタチでね。俺視点ではやるべきことはやったので、後は野となれ山となれ。思うところは特にない。精々が『まだまだ燃えるだろうなぁ』と思う程度である。
まあ、丁巨己が潰れた時に中指を立てて笑ってやるぐらいだろうか? あ、あと許されるならお焚き上げ配信したい。多分事務所が許さないけど。
「あのねぇ……。ボタンが起こした騒ぎのせいで、こっちにもいろいろ波及してんだけどー? 3Dお披露目くっそ遅れてるあたり、なんか弁明とかないの?」
「それについては申し開きもございません。こちら、お詫びの品でございます」
「ダンジョン食材はいいから!! ことあるごとに高級食材を差し出してくんな! あと別に怒ってはないからね!?」
いやでも、迷惑掛けてるのは本当だし……。なんなら、当事者以外では雷火さんが一番騒動の煽りをくらっているレベルだし。
俺たちの3Dお披露目は、十一月の半ばぐらいを目処にスケジュールを組んでいた。が、その最中であの騒動が勃発。
事後対応などを含め、デンジラスはてんてこ舞いとなってしまい、最初のスケジュールはリスケとなった。一応は十二月の半ば、クリスマス前にはリレー方式でお披露目という形に落ち着いたわけだが……。
3DというVTuberにおいての一つの節目を、本人に一切の非がない状態でケチを付けてしまったというのは、同期としては切腹ものの失態であるとしか言えないのだ。
「あー、もうっ。面倒だから話を戻すけど!! ボタンと一花先輩だよ。私が気にしてるのは」
「……と言うと?」
「確かにアレな経緯だったわけだけどさ……結婚したのは事実なわけでしょ? ぶっちゃけ、いままでの距離感ってボタンがフリーだからこそ許されてた部分あるし。いやまあ、別に私も下心があったとかそういうわけでもないけど、シンプルに一花先輩に悪いかなって思うわけですよ」
「そんな気にするほどのことかな?」
「いや気にするでしょ。……え、ボタンさん? あなたいまの台詞、ガチで言ってたりします?」
「と言うと?」
「一花先輩が何で結婚云々にOK出したと思ってるの……?」
「首落とされてなお戦う姿を見て心配になったから」
「そうなんだけどそうじゃない!!」
そうなんだよなぁ……。だから俺のいない場所で、ウタちゃんさんと天目先輩の間に協定が結ばれてたわけで。
ウタちゃんさんいわく、『単純な恋人としての立場だけじゃ不安なので、VTuberとして堂々と表から発信できる双葉の協力は必須だと思いました』とのこと。
それに天目先輩が納得したからこそ、いまの俺たちの関係性がある。まさか恋人的な立場の人間が増えるとは、この俺の目をもってしても見抜けなかった……。
「心配だけでそういう関係にはならないでしょ!? 前提条件となる感情が必要だって普通は考えませんかねぇ!?」
「……天目先輩に悪いからノーコメントで」
「その反応やっぱり気付いてるじゃんか!!」
そりゃまあ……ね? 三人で話を進めるにあたって、ちゃんとそういう確認はしたし。ただの親切心で巻き込むのは申し訳ないと思う程度には、俺とて常識はあるのよ。
で、返ってきた答えが『ずっと前から好きでした』的なアレで、かつウタちゃんさんのGOサインも出ていたので、じゃあよろしくお願いしますってなったのである。
「だったら分かるでしょ!? 距離感とか気を遣うんですよこっちは!! 人の、それも先輩の旦那相手に馴れ馴れしくするとか、それは流石に怖いもの知らずがすぎるじゃん!」
「気にしすぎじゃない?」
「女の嫉妬は大変なんだよ!?」
天目先輩、そんな嫉妬するようなイメージなくない?
「そこまで狭量というか、独占欲マシマシな感じじゃないと思うけどなぁ……?」
「それとこれとは別というか、ただボタンが気付いてないだけだと思う」
「そうなの?」
「うん。ぶっちゃけ、一花先輩かなりボタンのこと好きだろうし」
「……その心は?」
「普段の言動とか見てると分かるよ。前からちょくちょくボタンのこと、そんな感じの目で見てたもん」
「前とは……?」
「ライブラのウタちゃんの一件以降」
「そんな前なの!?」
「前だよ!!」
えぇ……。全然気付かなかったんだけど。雷火さんの勘違いじゃない? それか雷火さんだけの超感覚的な。
「……一応言っておくけど、他の先輩たちも気付いてたからね? 一花先輩はバレてないと思ってたっぽいけど」
「ばんなそかな……」
「なんて?」
そうだったのか……。つまり俺だけ気付いてなかったのか。
「いやでも、こういうのは傍目八目ってやつだし。当事者の俺が気付かないのは無理ない、かな?」
「気付いてなかったのなら、それは普通に傍目側では?」
「正論やめてください」
それ言われるとぐうの音も出ないから。シンプルに俺がクソボケだったでファイナルアンサーになっちゃうから。
「まあ、だからよ。いままで通りの距離感でいるのは、一花先輩に悪いかなって思って」
「んー、でもなぁ……。それでライバー同士の付き合いに変化が出るってのは、あんまりよろしくない気もするけど。ほら、VTuberって関係性を見せるのも仕事の一種みたいなもんじゃん?」
「何でボタンはそういうとこだけ意識高いの……?」
「ライバー活動が趣味だからですねぇ」
それにコレ仕事だし。公私はちゃんと分けるべきかなって思ってる。
「あと、そうやって距離取ろうとすると、多分リスナーとかにもバレるし。リアルの事情を匂わせると、わりと真面目に炎上するかもじゃん? ましてや結婚云々とかいう、メタクソにセンシティブな話題なわけで。これまでの経緯とかも含めると、できるだけいつも通りを意識するべきなんじゃねぇかなと」
「……なんでこういう時だけそんな思慮深いの?」
「長いことVオタやってるからですね。あと炎上慣れ」
「誇らしげに言うな」
それはそう。
「……まあ、ボタンの言うことも一理あるんだよなぁ。どうしよっか……」
「一応、俺の方から天目先輩にも口添えしとくよ?」
「それは……まあ、助かるっちゃ助かるかな? お願いできる?」
「あいあーい」
正直、雷火さんが気にしすぎてるだけだと思うけどねぇ。ウタちゃんさんがいる時点で独占欲もなにも……いや、ウタちゃんさんとの関係は隠してるから、この反応も当然ではあるのかもだけど。
「──で、最初の話題に戻すんだけどさ。さっきは何で唸ってたの? なんかすっごい脱線したけど」
「え? あー、実は買い物で悩んでて」
「買い物? なに?」
「新居。天目先輩、よく俺の部屋に来てるんだけどさ。いちいち足を運んでもらうの悪いし。結婚もしてるのに別居ってのもアレだから、適当な戸建てでも買おうかなって」
「距離感云々言っといてそれなの……!? なにさ素知らぬ顔しておいてラブラブじゃん!?」
ラブラブ……? え、これぐらい普通でねぇの? あと二人っきりじゃないし。ウタちゃんさんいるし。……いや、言わんけど。
ーーー
あとがき
というわけで、新章です。タイトル横の月日は気にしないでください。作者用のメモ書きなので。
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