第187話 ブチギレ結納配信。お祝いに神様のこと〇ってみた その四 

「風よ!!」


 偽りの空が黒に染まり、暴風がダンジョンの中を駆け回る。滝のごとき雨が大地を穿ち、輝く稲妻が絶え間なく迸る。

 天叢雲を携えた須佐之男は嵐の神。そして須佐之男の象徴とも言えるこの神刀には、その力の一端が宿っている!


「さあ暴れろ! あの野郎を吹き飛ばせ!!」

「ぬおおっ!?」

「これは須佐之男からぶんどった力だ! アンタの上役とも言える神の嵐! ならばこれは効くだろう!?」

「ぐぐぐぐっ、確かにこれは厳しい! なんと厄介な魔風よな!!」


:やっば……

:ねぇなんか急に外まで風強くなったんですけど!

:ゴロゴロいってる! 外ゴロゴロいってる!

:山主さんこれ大丈夫!? ダンジョンの外まで影響出てない!?

:このレベルの嵐が起こるとか洒落にならんのだが!?

:ストップ山主さん! ガチでストップ!!

:た、たんに急に天気が崩れただけじゃ……?

:冗談抜きで日本滅んじゃうぅぅぅ!!

:なんか日本の各地から似たような報告出てるんですけど!?

:沖縄から北海道までみんな空やべぇって騒いでますけど!?

:落雷警報出たぞ!? しかも全国で!


 あ? へー。全力出すとダンジョン貫通して地上まで影響出んのか。異空間の壁すら突き破るとは、さすがは神の権能。それぐらいのデタラメは引き起こすか。

 まあ、影響とは言っても些細なもんだろ。精々がこの戦いの搾り滓。空間の壁から濾されて滲み出た余波みたいなもんだ。

 実害が出るほどの力はないだろうし、そもそも担い手の俺が地上に嵐を顕現させることを望んでない。だから広範囲でちょっと天気が崩れるぐらいで落ち着くだろうよ。

 つまりコメントは無視一択。苦情なんか知ったことか。そんな些細なことに意識は割かず、ただひたすらに暴れるのみ!!


「雷よ! 光とともに焼き払え!!」

「さすがにそれをもらうわけにはいかんなぁ!! ──文明よ!!」

「なに!?」


 天叢雲で手繰った雷が逸れた!? いや違ぇ!! そんなことより重要なのは……!?


「また現代日本の再現だと!?」

「フハハハハッ!! そうだ! 家とは雨風を凌ぎ、営みを紡ぐ拠り所よ! そして家が集まり、膨れ上がった営みこそが国なのだ! さあ、嵐よ退くがいい! ここは大国主が造りし国なるぞ!!」

「須佐之男の嵐を退けるか!!」


 一瞬で構築された現代日本の街並み。だがその正体は、嵐の力を減衰させる『国』という概念による結界! 神殿にも等しい大国主の領域!!


「チィッ!?」


 クソッ、雨風が弱まる! 落雷も周囲の建造物に吸われて届かねぇ!! これだから神って奴は……!!


「だったらぁぁ!!」


 ならば打つべき手は一つ! 人々の営みを持って天災に対抗するというのならば、その根幹を打ち壊すのみ!! 家が集まり国を成すということは、翻せば!!

 さあ、斬撃を飛ばせ! 細かい狙いは付けなくても問題ない! ただひたすらに家を、建造物を破壊しろ!! 文明を崩壊させ、瓦礫の山へと変貌させろ!!


「フッ。そうくるのは分かっていたぞ! 生弓矢よ!!」

「なっ、づぁ!?」

「我を無視して棒振りとはいただけんなぁ、愛し子よ。だから肩を射抜かれる」

「チッ。また大層な弓を引っ張り出してきたじゃねぇか。そんなもんまで持ってんのかよ……」

「然り。我が国造りの大業は、生大刀と生弓矢、そして天詔琴を用いて成されたもの。当然、弓の腕にもおぼえがある」


:肩に矢刺さってますけどぉ!?

:なんで平然としてられるんですかねぇ!?

:早く治療するんだよぉ!

:風が止んだり吹いたりで外が大変なんですけど!?

:痛い痛い痛い!

:爆速でビルが生えてきて草。いや怖。当たったら死ぬやろあんなん

:おかしいって!

:画面越しでも分かるぐらいの嵐なのに、よくアレで弓当てられたな……

:神話の戦いすぎる

:一瞬でビルとか生えてくんの怖すぎるだろ

:丁巨己はマジでこんなんに喧嘩売ったの……?


 クソッ。涼しい顔で言い切りやがって。呆れるぐらいの神業だ。アホかコイツふざけんなマジで。

 この暴風雨の中、平然と肩の関節を射抜きやがった。しかも俺の意識の隙間に合わせて、反応されないレベルの速射をかましてきやがった。それでいて貫通させずに留めるとかどういう技量だ。

 いや、タネは分かってる。俺の肩関節の動きに合わせて、骨と骨が鏃を挟むタイミングを狙ったんだ。俺が矢を止めてしまうように射ったのだ。

 これを権能だとか、そういった不思議パワーで実行してないからタチが悪い。ただの技術でこの結果を引き起こしてんだから、一周回って笑えてくる。

 ものの見事に動きを止められた。射抜かれた程度なら気にする必要はないが、関節に異物を詰められたらそうはいかない。さすがにパフォーマンスに障りが出る。


「……これで振り出しか」


 矢を引き抜きながら舌打ち。俺が壊した建物も、いまの間に直された。一応、会話の合間に修復は行われたものの、あのスピードを見るとあんま関係ないな。

 同じように関節を射抜かれて、矢を引っこ抜いている間に直される。いまの一連が技術のみで成された以上、再現性もクソ高いだろう。

 真面目に相対していれば斬り落とせるが、周囲の破壊をしながらだとほぼ無理だ。少なくとも、そう思っていた方が良い。じゃなきゃ眉間に棒を生やすことになる。


「さあ、愛し子よ。これからどうする? 中途半端は身を滅ぼすぞ?」

「言われんでも分かってるっての」


 嵐については諦めるか。攻め手は減るが、負け筋を減らすことの方が重要だ。

 まあ、腹を括るか。あの野郎が洒落にならん弓の腕をしていると分かった以上、遠間で戦うのは悪手だな。剣の腕も向こうの方が遥かに上だが、近距離のがまだ可能性がある。

 てか、遠距離だと不毛すぎるし勝ち目が皆無だ。延々と引き撃ちかまされて、ハリネズミにされる未来しか見えねぇ。


「……やるべきは一つ。ただ愚直に近づいて斬る」

「ほう? また斬り合いを望むか?」

「──否」

「なに?」


 片手持ちから両手持ちに。そして僅かに腰を落とし、前傾。刀身を肩に乗せるように天叢雲を構え、大国主に向けて告げる。


「斬り合いなんか考えねぇ。後先なんか知ったことか。全力で突っ込んで、渾身の一撃をぶちかます。それだけだ」

「勝負に出ると?」

「ああ。技術で上をいく相手に、ダラダラと打ち合いしてても意味はねぇ。虎視眈々と隙を狙おうが、それを逆手に取られてそっ首落とされるだけだろうが」

「一理ある。……ヤケになったわけではないというのなら、その意気や良し。ならば迎え撃つのが礼儀というもの」

「別に付き合わなくても良いんだぜ? せっかく大層な弓まで出したんだからな」

「安い挑発など不要よ。せっかくの愛し子からの誘いだ。それを蹴ることなどあるものかよ」

「……さいで」


 結局ずっと上から目線だったなぁ。ま、そっちの方都合が良いし、今回は文句も控えよう。その驕りがあってこその真っ向勝負だ。

 最低限のタネは撒いた。あとはその場の勢い。そして気合いと根性。……つまり、いつも通り。


「さあ、構えろ。大国主」

「うむ。いつでも来るがよい」


 片手に生大刀。構えは半身での正眼。余分な力は微塵も感じさせず、自然体のまま鋒を向けてくる。

 剣の種類としては柔。俺が明らかな剛剣の構えを取っているから、それに合わせた形だろう。脱力を用いた超スピードによる先の先か、柔よく剛を制した上での後の先狙い。

 間に横たわる距離は目算で五十メートル。常識で考えれば剣を使う距離ではないが、俺たち基準ではないに等しい。

 コンマ一秒、なんてレベルではない。刹那の内に距離など消える。互いに刃の届く間合いとなる。


「……」

「……」


 故に、勝負は一瞬。故に、永遠に等しい探り合いが発生する。


「……」

「……」


 意識が果てしなく引き伸ばされる。五感から余分な情報が削ぎ落とされていく。自然の音が消える。耳元で聞こえていたコメントの声も消える。自身の息遣いが消える。鼓動の音が消える。消える。消える、消える。消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える消える──


「──」

「来たか!!」


 つま先から生じた、爆ぜるような力の奔流。そして気付けば、大国主が目の前にいた。

 無心で身体が動く。両の手を振り絞り、肩に背負った刀身を縦に一気に振り下ろす。


「見事な剛剣!! ──だが!!」


 しかし、大国主は俺の剣を凌駕した。正眼に構えていた生大刀を素早く振り上げ、天叢雲を迎え撃つ。火花を散らしながら刀身の側面を擦り、横に力を加えることで逸らしてみせた。


「……終わりだ。愛し子よ」


──そのまま、流れるように生大刀を一閃。それと同時に視界がブレる。


「っ、あ」


 くるりくるりと世界が回る。僅かに遅れて、焼けるような痛みが首元を襲う。

 ああ、何が起こったのか分かってしまった。というか、一目瞭然だ。なにせ俺の視線の先には、

 首を斬られた。渾身の振り下ろしは見事にいなされ、返しの刃で斬首された。


「ぁぁ」


 くるりくるり。世界が回る。視界の中で、大国主が寂しそうに目を伏せている。……ああ、ああ。──


「……アァァァァァァッ!!」

「何だと!?」


 宙を舞う首から放たれたと思えぬ咆哮に、大国主が驚愕の声を上げる。

 それでもやはり戦神。異変を察知したと同時に剣を構えるが──すでに勝負は決まっている。


「ウラァァァァァッ!!」

「ガッ……!?」


 振り下ろしから続く逆袈裟の一刀。肘の下から胴へ。胴から逆の二の腕へ。

 その一撃は頭のない状態から振るわれたとは思えぬ鋭さであり、天叢雲の刃は見事に大国主の身体を両断せしめた。


「──死中にこそ活ありだ。首を斬られた程度で負けてたら、俺はとっくにくたばってるよ」

「……見事」






ーーー

あとがき


主人公の真の武器。それは剣の腕でもなく、阿頼耶識などでもなく。

ただの気合いと闘志で【死】すらも跳ね除けてみせる生き汚さ。分かりやすくいうと戦闘続行EX。ちなみに初期から描写、てか匂わせてあります。


これで戦闘は終わり。次はダンジョン内での後始末ことエピローグ1。

そのあとにエピローグ2で、最後にスレ回入れてこの章は終わりかな?

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