知っているだけで周りと差がつく!映像制作における音響処理、たった5つのポイント!
1.はじめに
皆さんはじめまして。くっしーEXです。
この記事では、制作された映像にゼロから音声を当てていく方法を各項目に分けてご紹介させていただきます。
記事のレベル感としては、音声編集の知識が全く無い方~素人臭くはないがもう一段レベルアップした作品を作りたい方向けになります。
主に必要となるものの解説や考え方について書いていくので、各ソフトウェアの使用方法や具体的な設定値などは基本的に触れません。それらは実際に手を動かしながら覚えていただければと思います。
また、近年では映像に限らず、音楽でもマルチチャンネルのものが扱われることが増えましたが、本記事ではステレオチャンネルに限った話をさせていただきます。
まずはじめに自己紹介から。
私、くっしーEXは、コネクションなどがない状態のままフリーランスとして独立後、作編曲や楽曲のミキシングを主な業務として行ってきました。
ただ、これから先の需要と供給で考えた際にこれだけでは食べていかれないと思っていたところ、知り合いから声をかけていただき映像やゲームなどの音響に携わることとなりました。
そして数々の作品のサウンドディレクターも兼ねた劇伴制作やSE制作などを続け、今年2023年2月にVRSNSのVRChat上で開催されたVRCMovieAwardでは栄えある音響音楽賞を受賞するに至ります。
これらの経験を活かし、これからも増えるであろう3Dやアニメで映像作品を制作したい方々に向けて、音響処理の楽しさ、奥深さ、大切さを伝えて行こうと本記事を執筆しています。
私の携わった作品を全てご紹介することはできないので、記事執筆時に閲覧できる最新の動画である下記トレーラー映像を、著者のおおよそのレベルとして参考にしていただけたら幸いです。
制作期間は6日前後、実時間だと15時間くらい使った案件だったと思います。
また、本記事内で紹介するリンクなどに関しては一切アフィリエイトではないため、ご安心いただければと思います。
※追記
2025年5月現在では、下記のような作品を手がけています。
2.基礎知識、用語
ここでは、本記事内で何度か出てくる専門的な知識、用語について簡単に解説していきます。概要のみの説明になるので、より詳しい情報が気になる方はぜひご自分で調べてみてください。
・MA(エムエー)
マルチオーディオの略。アフレコ音声やSE、BGMなどをまとめる作業の総称。
・SE(エスイー)
サウンドエフェクトの略。足音やドアの音などから、SFのような現実には存在しない音も指す。効果音の総称。
IT系の職業でもSEと呼ぶ分類がありますが、だいたい文脈で分かるので特に区別されることはありません。
・DAW(ダウ・ディーエーダブリュー)
デジタルオーディオワークステーションの略。音声編集を行うためのベースとなるソフトウェアを指す。主に音楽制作で用いられる。
・プラグイン
上記DAWで使用できる拡張機能。別の会社が出しているものも多く、規格が合えば問題なく使用できる。
・EQ(イーキュー)
イコライザーの略。音の帯域バランスを整える際に使用します。
特定の周波数をカットしたりブーストしたりできる。
・Reverb(リバーブ)
聞き馴染みのある方も多いかもしれませんね。
残響成分のことを指し、リバーブを強めにかける、といった使い方をすることが多いです。
残響成分とは、トンネル内で大声を出した時にもわもわと音が響いてるアレです。
似ているもので山に向かっておーい、と声を出した時に何度も跳ね返ってくるものはディレイ(遅延)と言います。
その他、記事中で不明な用語があればコメントいただければ追記します。
3.編集に適したソフトウェア
この項目では、映像と音声を合わせて編集するために必要なソフトを紹介します。
ここに記載されているものでなければいけないということはありませんが、個人でやるレベルであれば使用方法、トラブルなどを検索する機会も多いと思うので、シェア率の高いものを選ぶと時間の節約になると思います。
・Cubase
Steinberg社のソフトウェア、キューベース。
ネット上でのシェア率も高く、使い方やトラブルシューティングのヒット率も高いため、困ったことが起きても解決できる確率が高いです。
グレードによってはビデオ同期機能が使えないので、新規で購入する際は気をつけてください。
・Nuendo
上記と同じくSteinberg社のソフトウェア、ヌエンド。
こちらはCubaseの上位互換と言われており、映像編集に適した機能も多数搭載されています。
フルライセンスが約11万円と、趣味で投資するには少々値が張るのがネック。
・Studio One
PreSonus社のスタジオワン。こちらもcubase同様、かなりのシェア率を誇るDAWです。私は数年これを愛用しているので、映像音声編集でも使用しています。ビデオ同期機能は最上位版にしか搭載されていないので注意。※2024年11月現在、グレードが統一され同一料金となりました。
・Pro Tools
AVID社のDAWソフトです。
現場で使用されていることが多いので、名前くらいは聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
サラウンドやDolby Atmosにも対応し、将来的にスタジオワークを視野に入れるのであれば使い方を覚えておいて損はありません。
ただ、このソフトのメリットはAVID社のハードウェアとの統合や、別スタジオとプロジェクトファイルをやり取りしながら進める場合の整合性が担保される点が大きいので、個人ユースだとあまりメリットを享受できないかもしれないです。
・RXシリーズ
こちらはiZotope社のRXというソフト。
DAWではなく、ノイズ除去を主軸とした音声編集用ソフトです。
後述する項目『アフレコ音声の編集』で私は使用しています。声優が自宅で収録した音声を扱う場合、ほぼ100%必要になるでしょう。
4.効果音、環境音の作成
ここからはいよいよ実務的な内容です。
前提として、音声を当てる映像はおおよそ完成済(尺の変更などは無い状態)を想定しています。おおよそとした理由は、カラーグレーディングなどのポストエフェクトや、グリーンバックのはめ込み背景などはそこまでタイミングに関係してこないためです。
さて、効果音や環境音を映像に当てていく場合、主に下記2つの方法があります。
・映像に合わせて実際に現実で音を出し、それをマイクで集音する。
・販売や配布されている収録済みの音源を使用して、イメージに近いものをDAW上で切り貼りする。
前者はちょっとしたスイッチの音やドアの開閉音、台所の音や部屋の窓越しで聞こえる雨の音などを使いたい場合にはいいかもしれません。しかし、実際の映像で必要となる効果音は、自分で収録することは難しいものから現実的に存在しないものまで多岐にわたります。
そのため、ここでは主に後者の方法を解説します。
DAW上で切り貼りをすることがどのようなものかピンとこない方もいるかと思います。実際のプロジェクト内ではこのような感じ。
上記のようにそれぞれの波形の長さ、タイミングなどを合わせていく作業です。
ちなみに、前者の方法を用いて映像に多様な音を吹き込む職業を『フォーリーアーティスト』と言います。
面白いメイキング動画を貼っておくので、興味のある方はぜひご覧になってください。
・考え方
まずはじめに、効果音を作る(ここでは便宜上、既成音源を当てていく場合でも作ると表現します)にあたって必要なものは『この場合どういう音が鳴るのか』というイメージです。
どんなにいい音源をいくつ持っていても、イメージができないのであれば映像を引き立たせる適切な効果音を作ることはできません。
現実ではこういう物体が動くとどういう音が鳴るのか、といったことを考えながら音をあてていきましょう。
全く想像すらできないという方は、効果音に注目しながら色々な映画を見てください。これも大切なことですが、インプットとリファレンス無しで適切なアウトプットは不可能です。
インディーズの映像制作では予算も取れないと思います。
今は様々なサイトでフリーの効果音を配布していますが、それだけでいい感じに作ることはできるか?といった質問を受けることが多々あります。
結論から言えば、不可能ではないがそれなりの知識が必要、です。なぜなら、基本的にフリーのものはそのまま使ってもインパクトが薄かったり、音としておかしなものも多々あるからです。
逆に、目立たないけれど存在してほしい音、例えば遠くの部屋で動いている扇風機の音などはフリー音源でも賄えたりすることが多いです。
また、フリー音源に限らず、既成音源を使用する際にはライセンスを確認することを徹底すると、後々差し替えなどの手間がないのでオススメです。
有償製品では、次のようなものがあります。
私が普段良く使用するものを紹介しますね。
・Sonicwire
このサイトでは効果音の単品購入もできるので、スポットでどうしても必要な音がある際によくお世話になっています。
・UVI
このメーカーでは、足音やドアの開閉音に特化したプラグイン音源などを取り扱っています。
特に足音は地味ですが有る無しで大きくクオリティに差が出る部分。フリー音源の切り貼りでも同じようなことはできますが、圧倒的時短の側面で私は愛用しています。
また、SEに限らず劇伴制作で使える音源なども数多くリリースしています。
・KROTOS
https://www.krotosaudio.com/ja/
こちらも銃声や足音、自動車やメカの音から虎の鳴き声など、映像制作で必要となる様々な音が収録された音源ライブラリを販売しています。
値が張ること以外は最高です。マッドマックスやヴェノム、サイバーパンク2077など、一度は見たことがあるであろうビッグタイトルでも使用されているそうです。
さて、フリー音源や上記ソフトで効果音を作っていく際に覚えておきたいことはいくつかありますが、ここでは重要な部分をいくつかピックアップしていきます。
・1動作に対して鳴らす音は1つとは限らない
これはどういうことかと言うと、理想の音を作るためには音をいくつレイヤーさせてもいいということです。
1つの音源で理想通りの音を探すのではなく、イメージに近いものの足し算で音を作っていくと、より厚みのある実在感のある音になっていくと思います。
特にフリー音源を使用する際に陥りやすい部分ですが、音を当ててみたけどどうにも安っぽい、薄いと感じる場合は、これが原因であることが多いです。
有償音源だとこの辺りが最初からクリアされているものが多いので、結果的に時短となります。
効果音だけでなく、アンビエンスにも同じことが言えますね。
・すべての音が綺麗なものである必要はない
アクション映画をよく見る方であればピンとくるかもしれませんが、爆発シーンやとてもデカい音の鳴るシーンなどは音がバリバリ割れているような表現がされることもあります。
これは実際に音割れしているわけではありませんが、サチュレーターなどのプラグインを使用して音を汚しているのです。そうすることによって、素の音より迫力を出すことができます。
・短いスパンで同じ音が鳴る場合、同じ音源のループだと気づかれないようにする
これも結構大切で、全く同じ音が鳴っていると素人でも違和感に気づいてしまいます。
足音であれば左右で微妙に違う音を使う、ピッチや長さを少しだけ動かすなどの工夫が必要です。
逆に、SF系の銃を数秒おきに発射するシーンなどは、全く同じ音を繰り返しても整合性が取れるので問題ありません。(その武器の構造によります)
・すべての音を聞かせてはいけない
どういうことかと言うと、効果音を作っている時こんな考えが浮かぶと思います。
「せっかく手間暇かけて作ったんだから、ちゃんと聴こえるような音量にしたい」
これはNGです。衣擦れの音やエアコンの音などは、存在しないとおかしいが意識せずに聴こえてしまってもおかしい音です。
病室で会話しているようなシーンならともかく、ワイワイと会議をしているシーンでもそれらを聴こえるようにしてしまうと、逆に音があることが違和感に繋がってしまうのです。
ではどうせ聴こえないのだから音を入れなくてもいいのでは?と思うかもしれません。それもまた一つの正解です。
シーンやかけられる時間によって、どの音を入れてどの音を抜いていくのかも考える必要があります。
上記4点だけでも抑えておけば、うわっ!素人音声!!という印象を与えることは減ってくるのではないでしょうか。
効果音がある程度仕上がったら、次に気を使うべきはこれです。
・空間の設定と位置の設定
効果音の話はまだまだ続きます。たぶんこの記事の中で一番長くなると思う。
ここでは空間と位置の設定についてお話します。
できあがった効果音、そのまま流してもいまいち映像に馴染まないですよね?
それは単純にどこでどういう風に鳴っている音なのかがわからないからです。
それを絵と合うようにするためにEQとリバーブ、場合によってはディレイ等を使用していきます。
・音の決まり事
現実世界の音には、いくつかの決まり事があります。
映像はすべてフィクションですが、現実の決まり事に準拠した処理を行うことで、観客は自分の知っている常識と無意識に照らし合わせ、そこから臨場感やリアリティを感じ取っていくものだと考えています。
そのため、いくら作り物とはいえリアリティは大事!
ここでは基本的なポイントを抑えておきましょう。
・遠くの音ほど超低域と高域が減衰する
実生活でも経験する機会は多いと思います。例えばヘリコプターの音や飛行機の音。雷の音や工事現場の音。
あれらは音源が遠いので、少しくぐもった音で聴こえますよね。雷は比較しやすく、近いほどバリバリと鳴っている部分も聞き取れるようになってくると思います。
当然、音源の距離が離れると音量も小さくなっていきます。
遠くで爆発が起こった、といったような演出をする場合には、EQでハイカットを入れてあげるとよりそれっぽい響きになるということです。
・反響や残響の性質は、部屋の大きさと材質で決まる。
全く同じ大きさの部屋があるとして、それが体育館と和室旅館の宴会場では音の響きが明らかに違うことは想像に難くないと思います。
その違いが生まれる要因は素材の吸音率です。
コンクリートやメタルのような硬く剛性のある素材に囲われている場所では、音が吸音されないために長く硬質な反響音が残り、一次反射音も強く響きます。
逆に、木造建築で畳敷きのような場所では、音は吸音されやすいため長時間の反響音は残りません。
映像でも、周囲の素材は何なのか、その部屋や場所の中に吸音に寄与するもの(ぬいぐるみであったり人間もそう)はどの程度あるのか、といったことを意識して反響音、反射音をつけてあげると、より臨場感のある音声に仕上がります。
また、低域は吸音されづらく、高域は吸音されやすい、ということも頭に入れておくと、変な残響を付与することも減ると思います。
そして部屋が広ければ残響は長く大きく、部屋が小さければ短めで密度のある残響になります。
この違いは、ショッピングモールの地下駐車場と自宅の風呂場で比較してみるとわかりやすいかもしれません。
ここでは簡単な説明しかしていませんが、より深い部分を勉強したい方は音響工学を学んでみてください。
さて、上記に気をつけて空間の設定をしてあげたら、次は音の鳴っている位置です。私は位置を決めてから空間を作りますが、順序は別にどちらからでもいいと思います。
・音の定位感
定位とは、ざっくり言うと左右の位置や距離感のことを指します。
ここは特に難しいことは考えず、DAW付属のPan機能で映像と合うように音源を左右に振ったり、上下の動きがあればそういった処理を行えるプラグインで適宜処理していくだけです。
だけ、とは言いましたが、左右に振りすぎると違和感が出てしまったり、逆に広がりがなさすぎてモノラル音声のようになってしまうこともあると思います。
これに関してもリファレンスをしっかり聴いて、どの程度広げると普段耳にする作品に近くなるかを意識してあげると良いです。
上記はNINE2のトレーラー映像プロジェクト内で、登場キャラの足音を左右に動かしているオートメーションです。
ほんの一瞬でも、動きのあるシーンはカメラ(視聴者)の位置に合わせて音を振ってあげると、より臨場感が生まれます。(そうでない場合もあります)
SEに関しては上記それぞれをおさえれば、「なんとなく置いてあるんだな」といった印象は払拭できるので、ぜひ制作の際は頭の隅に入れておいてもらえると、音のいい作品を見ることができて私が嬉しいです。
・おさらい
・時短したければ専用に設計された音源を使おう
・音色のレイヤーは大切
・音を汚すことも時には必要
・ループ音源だと気づかれない工夫を
・カメラから見て”どこ”で”どの位置”から音が鳴っているかを考える
5.アフレコ音声の収録、編集
ここでは効果音と同じく大切なアフレコ音声について、収録からMAとして完成の処理まで解説していきます。
アフレコとはアフターレコーディングの略で、後から音声を録ることから由来されています。逆に、先に収録した音声に映像を合わせることをプレスコ、プレスコアリングと言いますが、どちらの手法でもここで気をつけることは同じです。
まず第一に心に留めておいて欲しいのが、基本的に収録した音声以上のものにはならない、ということです。
演技が下手くそであればどんなに編集しても下手くそですし、スマホのマイクで録った音は補正をかけられるとはいえスマホのマイクで録った音です。
演技はこちらではどうしようもないので、よりレベルの高い音を収録する方法を覚えておいていただけると嬉しいです。
・素人くさい音とは?
普段私達が耳にするコンテンツは、インディーズ作品やC級映画などを好んで見ない限りは、しっかりとした環境で収録され、エンジニアの手が入って一切違和感なく聴ける状態の声になっているものがほとんどだと思います。
そのため、良くない音、と言われてもいまいちしっくりこないかもしれません。
音に正解はありませんが、NGとなる収録音は存在します。
まずはそれが何かを箇条書きにしてみましょう。
・音割れしている
・声の距離が意図よりも近すぎる、遠すぎる
・ノイズが多すぎる
・部屋鳴りが大きすぎる
上記4つは、誰が聴いてもわかる質の悪い音源にあたると考えています。
まずはこれらに気を使って、声優をディレクションしてあげるとよりよい音で作品を仕上げていくことができます。
次はそれぞれの対策ポイントを見ていきましょう!
・音割れへの対策
音割れは収録音量に対して設定されたマイクゲインが大きすぎる場合に多く発生します。
これに関しては、声優側で適切なゲイン設定で収録してもらう以外に回避策はありません。
再録が難しい場合は、後述するRXを用いてノイズ除去を行っていきますが、音割れは軽減はできても完全にきれいにはならないと考えておいたほうがいいです。
・収録距離が適切ではない場合の対策
こちらも基本的にエンジニア側でできることはありません。
最初から適切な距離で収録を行うことが大切です。一般的にアフレコ収録ではマイクから30~60cm前後が使いやすい音声となる場合が多いですが、部屋の反響が多い場合は15cm程度で収録したほうがいい結果になる場合もあります。
上記の数値はあくまで目安で、収録を行う環境や選定するマイクによってベストは全く変わってくるため、実際の録り音を聴いて判断することが大切です。
演者がマイクに近ければ近いほど近接効果で低域が増強されるため、ブーミー、かつ耳の真横で話されているような音声になりがちです。
逆に遠すぎると、部屋の反響音が相対的に大きく入るため、不明瞭な音声となりがちです。
近い音を遠くすることはある程度まではできますが、遠い音を近くするのはかなり難しいため、特別な意図がなければ適切な一定距離で収録することをおすすめします。
・ノイズが多すぎる場合の対策
こちらもノイズ除去ソフトである程度までは除去できますが、基本的には環境そのものを見直すことが先決です。
ノイズにも様々な種類がありますが、素人の環境で問題になることが多いのはホワイトノイズ、リップノイズ、クリックノイズ、ネイザルノイズが多いと感じます。
ホワイトノイズは、サーという砂嵐のような音です。
これはマイクの感度やオーディオインターフェース、マイクプリアンプの性能と電源等の環境に依存するため、ある程度は機材で決まると考えていいでしょう。
比較的除去しやすいノイズなので、声と同音量で入ってしまっているなど度が過ぎているものでなければ極端に気にする必要はありません。
しかし、後述するノイズ除去の工程でしっかり除去しないと、素人臭く聴こえる原因のひとつでもあります。
リップノイズは口を動かした際に出るピチャ、クチャといった音です。
こちらもある程度はノイズ除去で対応できますが、収録前に歯を磨く、砂糖の入った飲み物を飲まない等、声優側で適切に対処してもらうほうが当然ながらクオリティは上がります。
クリックノイズは、パチッ、プチッ、という感じの瞬間的に発生するノイズです。た行の頭や大きな息継ぎ、言葉尻などにリップノイズと合わせて入ることが多いです。
ネイザルノイズは鼻鳴りとも呼ばれ、有り体に言ってしまえば鼻炎、鼻詰まりの人から発生しやすいノイズです。
強く息を出す音などにぎゅむ、ふご、のような音が中低域に混ざります。
・部屋鳴りへの対策
部屋鳴りが起きる原因としては、部屋が広すぎる、部屋に吸音できるものが少ない、部屋の壁がコンクリ打ちっぱなしなど材質的に硬い等が上げられます。
原因が何であれ、一度放たれた音が長く残ることが問題なので、なにかに音を吸わせてしまえば良いわけですね。
最も手軽に行える対策としては、向かって正面側と背後に毛布を吊るすことです。
声の収録音に入り込みやすい中域を毛布がある程度吸ってくれるので、それだけでもかなり改善が見込めます。リフレクションフィルターなどはある程度環境が整っていないと大して効果を発揮しないので、それらの対策をした上でさらにもう一歩、という場合の選択肢にするといいでしょう。
ちなみに6畳間だと、死ぬほど部屋が散らかっていたり本が積み上がっていると、かなりいい感じの音声が録れます。だから部屋を汚してもいいとは言っていない。
さて、ここまでは極力リテイクした方がいい収録音声について紹介しました。
次は上がってきた音声ノイズ除去等の処理についてお話します。
・iZotope社のRXを用いたノイズ除去
大見出し3でもご紹介させて頂いたRX、これを用いて納品された音声をクリーニングしていきます。
必須の工程ではありませんが、より良いものを作りたいと思うのであれば必須です。
RXでできることは公式サイトのマニュアルを見てください。日本語のマニュアルもあるのでとても親切。
ここでやることは、ホワイトノイズの除去(Spectral De-noise)、リップノイズの除去(Mouth De-Click)、必要に応じてハムノイズの除去や部屋鳴りの除去、音割れの修復などを行います。
一例を音源で掲載するので、この工程でどの程度のことができるのかを耳で確かめてみてください。
下記ファイルはカデシュプロジェクト『掌』作中で実際に使用した音声の一部です。当然ですが再配布は禁止です。
納品された音声にはかなり重度のホワイトノイズが乗っていることが確認できると思います。
通常であればリテイクを出しますが、声優が普段収録をする方ではないのでそもそもの機材環境に問題があると判断しこの音声を修復することに。
正直、これは修復できないレベルだと思っていましたが、やってみると存外どうにかなるもので……
上記がノイズ除去等クリーニング後の音声です。
少々高域が減衰してしまった感じがありますが、元音源から考えると十分及第点だと思います。
こういった具合に、映像とアフレコ音声を合わせる前段階で極力音声を綺麗にしておくことで、後の手間が省けると同時に早い段階でリテイク指示を出すことも可能となります。
相当整えられた機材環境でなければホワイトノイズは少量乗るので、この処理の有無は想像以上に作品クオリティに直結すると考えていただいて大丈夫です。
・音の大小を揃える
ここからは編集段階のお話。
録ったままの音声では、演技の内容によって声量の大小の差がかなり大きい状態になっていると思います。
これをある程度まで揃える方法として、手動でゲイン操作を行う、合わせてコンプレッサーというプラグインを使用する事が多いです。厳密にはコンプレッサーはプラグインではありませんが、DAW上で作業を行う想定なのでプラグインと表記します。
コンプレッサーの使用方法などはここでは記載しませんが、使用するにあたって心がけたいことは何事もやりすぎないことです。
うまく使えるようになってくると音量差を縮めていけて楽しいのですが、ここで音の大小を揃える目的は極端な差を無くし聴きやすくするためであり、決して元の演技の抑揚を潰すためではないのです。
静かなところは静かでいいし、声を張るところは思いっきりうるさくてもいいんです。日本のドラマなどを見ていれば、音量差は激しくてもいいんだ、ということがわかると思います。
・空間や位置の設定
これは大見出し4でもお話したものと同じです。
大まかな考え方は一緒ですが、効果音と肉声が違う部分は絶対的な音量です。
音量が大きければ残響時間は長く、逆に小さければ短く感じます。
実際の残響時間は同じですが、これは人間の可聴域が関わってきます。これも突っ込むと長くなるので、はじめのうちは大きい音はいっぱい響くし小さい音はあまり響かない、程度の理解でも大丈夫です。
という点で見ると、人間の声は普通の話し声であればそこまで大音量ではありません。
その点に気をつけて、そのシーンで鳴っているSEと比較してどの程度の音量差があるのか、という部分も意識してあげると、SEとの整合性も取れるので結果としていいMAとなります。
・声優間での音の整合性
例えば、3人で会話をしているシーンがあるとします。
アフレコした声優は3人、それぞれ全く別の環境で収録を行っていると仮定した場合、それぞれの音質に整合性が取れないことは火を見るよりも明らかです。
これも素人感のひとつである、同じ空間で話しているように聴こえないという現象です。
これを解消するためには主にEQを使い、そのシーンで基準とする声のバランスに他の声を合わせてあげる必要があります。
これは非常に難しい作業の一つですが、イメージに近い誰か一人を基準として、その声の帯域バランスに他を寄せていくとある程度のまとまりが出てくるはずです。
また、商業シーンでは基本的に同じスタジオの同じ環境で声優それぞれの収録を行います。
この記事ではあくまで趣味として制作を行う場合を想定しているので、商業のような収録方法は難しいと考えています。
ただ、実際にシーンで活躍されているエンジニアの方々としては「別環境でバラバラに録られた音声はそもそも使い物にならない」レベルと考えられているそうです。実際に私も整合性を取るためにあれこれ処理を行いますが、それらが最初から必要ないと考えれば全く持ってその通りですね。
・おさらい
・自然な音は気づかれないが、素人くさい不自然な音は誰でも気づく
・収録時点の音以上のものを編集で作ることはほぼ不可能
・音割れは作品を台無しにする
・部屋鳴りは身近なものでも対策できる
・ノイズ除去はクオリティアップへの近道
・極端な音量の変化は補正する
・一人が飛び抜けた音質よりも、全員で平均的な音質になるように調整する
6.BGMの制作、編集
ここでは映像作品には欠かせない劇伴について書いていきたいと思います。
とはいえ、制作方法などは作曲、編曲技法になってくるのでとてもこの記事ではまかなえません。
劇伴制作からMAまでを一人でやらなくてはいけないプロジェクトというのがそもそも稀有な上、そういった場面にアサインされる人は大抵、元々作編曲ができる人だと思うのでここでは編集面を取り上げていきます。
ただ、制作に関しても知っておくといいことはあります。
・空白も音楽として使える
ポップスなどの一般的に聴く音楽と劇伴の違いは、音がならない時間があってもいいことです。
一般的な楽曲であれば、空白はあっても2拍程度、メリハリのエッセンスとして使われることが多いのではないでしょうか?
しかし、劇伴では雰囲気作りのために数秒音を鳴らさないような楽曲もありです。もちろんシーンに合っていることは大前提ですが。
映像作品の主役は映像とストーリーであり、音楽はそれを盛り上げるための要素でしかない、ということを意識してあげるといいと思います。
結局のところ、シーンに合ってさえいればなんでもいいわけですね。
・劇伴の編集方法
ここからは完成品として1本のファイルになっている音源を編集する方法を紹介します。
映像が先に上がってきて、それに合わせて劇伴を作れる余裕のあるプロジェクトであれば切り貼りの編集などは大して必要ではありませんが、実際は同時進行や音楽が先になることが多いです。
その際、映像の尺に合わせて音源の切り貼りやフェード処理が必要となってきます。これはフリー音源を利用する際にもほぼすべての場面で行う編集ですね。
切り貼りを行う際にはなるべく楽曲のセクションを合わせることが自然な編集につながります。
Aメロの途中からサビに繋げたらおかしくなりますよね。そういった聴いていておかしいなと思う編集でなければ基本的にはどう切り貼りしても問題ありません。
フェード処理は、いきなり劇伴が途切れるような演出でも必須です。
フェードというとグラデーション的に音量が落ちていく事を想像すると思いますが、耳ではわからないレベルのかなり短い時間で音量を落とすこともできます。
この処理を行わないと、ファイルの切れ目で プツッ と言うノイズが乗ってしまうので、ファイルの頭とおしりでは必ずフェード処理を行いましょう。
このノイズはゼロクロスポイントという波形上の動きが関係しています。興味のある方は調べてみてください。
・セリフがあればセリフをかき消さない編集を
シーンによりますが、基本的にセリフより劇伴が大きい場面は少ないです。
耳では分かりづらくても、劇伴の音量は場面場面で上下されています。
コンプレッサーで動的に音量を下げる場合もありますが、私は大本の音量を波形上で決めた後にクリップゲインで音量を上下させることが多いです。
下記は劇伴をクリップゲインで音量調整しているスクリーンショットですが、一回下げてから元音量より一気に上げる処理で、シーンの見せ場を更に盛り上げる演出をしています。
・おさらい
・作編曲とMAをまとめてやるのは過酷
・音源を切り貼りするときは必ずフェードを入れよう
・シーンの主役は何かを考える。それが音楽でなければ一歩引いた音量に
7.プロジェクト内トラックの管理方法
ここでは、30分を超えるようなプロジェクトを扱う場合に、どのようにトラックを管理すると後々苦労せずに済むか、を解説します。
下の画像は、カデシュプロジェクト『掌』で使用したプロジェクトの前半部分です。
プロジェクト内ファイルの分け方
やり方は色々あると思いますが、私はシーン毎にフォルダ分けして各ファイルをその中に入れる方法で管理しています。
このやり方でやる利点は、編集中以外のシーンはトラックをTL上から折りたたんでおけるため、見た目で混乱しなくていい点が大きいです。
シーンは違うが同一のロケーションになる場面もあると思いますが、そういった場合でも同トラック内で横に広げていくより、シーンで分割して空間系などの送り先をトラックごとで設定するほうが、どこで何を管理しているかがわかりやすいと思います。
また、トラック名をある程度しっかりつけておくことで、コンソール上でもぱっと見がわかりやすく、なんの音が鳴るトラックなのかなどを確認せず済むので結果的に時短となります。
その他には、使うか使わないか微妙なものはTL上に並べておいても邪魔になるので、一度どこかにまとめた上で無効化するなどして、視界から消しておくと作業の邪魔になることが少ないと思います。
置きっぱなしにすると、何かの拍子にミュートが外れてしまい、マスター版で確認中に変な音が入っている!書き出し直さなきゃ!となりがちです。
※追記
はじめに、で上記したHeroでは、劇伴、アンビエンス、フォーリー、FX、ボイスなどにざっくり数トラック作成し、その上に全て並べていく手法で作成してみました。
トラックでエフェクトを掛けず、オーディオクリップごとに処理を行い、都度レンダリングすることで負荷もかなり抑えることができました。
視覚的にもすっきりしたので、長尺かつ速度を求められる時は音声の種類でフォルダ分けしたほうが良いような気がしました。
・おさらい
・乱雑にトラックを並べず、保守性も考えてフォルダリングしよう
・必要のないものを置きっぱなしにしないようにしよう
8.周りと差をつけられる、よりレベルの高い編集とは
この記事をここまで読んで、しっかり実践してみようと思っている方は、もう既に周りのなんとなくやっている音響処理より一段上のレベルに行けていると思います。
その上で更に高みを目指したい時に心がけると、より良い作品作りにつながることをいくつかピックアップしていきます。
・ショートカットキーは敵ではない
ショートカット、色々あるしソフトごとに違うしで覚えるのが面倒くさいですよね。
ここではソフト自体の使い方はある程度理解している前提でお話しますが、めんどくさがってショートカットキーを覚えないのは全くなんの特にもなりません。
例えばシーンごとに編集する場合、マウスでシーンの頭に近い部分にTLを合わせて再生するのと、編集点を設定してテンキーでそこへ飛ぶのでは数秒の差が出てきますよね?
その数秒の差は1プロジェクトで見れば数十分の差になりますし、手に掛かる負担も数十分多く増えるわけです。
そういった時短の面から見てもショートカットキーを覚えて使うのはメリットしか無いので、覚えられる範囲で覚えて使うといいでしょう。
・できないかも、ではなくやってみよう
怪しい情報商材みたいな小見出しですね~。
ここで言いたいのは、「そんなオーダーできるわけないよな~」と初めから諦めるより、「できる限りはやってみよう!」という心持ちで臨むと、後ろ向きな気持ちでは思いつかなかったようなアプローチを見つけられたりなど良いことがあるよ。というものです。
とはいえ、物理的に不可能なものは不可能なので、そこのライン引きはしっかりとしておきたいですね。
・常に考えながら作業する
これも上記で散々言いましたが、なぜそうなっているのかを理解して演出することが大切です。
なんとなく置いてある音と、意図があって置いてある音の間には大きな隔たりがあります。目には見えませんが、その積み重ねは目に見えてクオリティに響いてくると思っています。
・スケジュール管理はしっかりと
自分が納期までにモノを出すのは当たり前です。
ここでは更にもう一歩踏み込んで、相手側の進捗確認も都度してあげる、今こちら側はどのような進捗状況なのかも都度報告する、などを心がけてみましょう。
MAは基本的に下流工程です。
映像が遅れればその分こちらのスケジュールも詰まっていきます。それを、上流が遅いのだから自分は悪くない、と開き直るのではなく、◯日までに貰えると確認や納品に無理がないけどどうですか?と提案すると、円滑なコミュニケーションを行える場合が多いです。
また、こちらが作業を行っている段階でも、シーン◯まではSE入れ終わっています、のように進捗を節目節目で報告すると、他メンバーも安心して待っていられると思っています。
クライアントにしてもグループにしても、作業進捗が見える安心感は大きいので、その点も気遣ってあげると技術だけではない使いやすい人材になっていけるのではないでしょうか。
9.要約。この5つさえ抑えれば素人感は一気に無くなる!
繰り返す音は変化を加えて
どういう場所で、どこから鳴っているのかを考えて
アフレコは録り音が全て
声優間の音質差は極力抑える
劇伴はあくまで劇伴であることを忘れない
10.さいごに
長くなりましたがここまで読んでいただきありがとうございました。
具体的な数値や編集方法の解説ではなく、あくまで考え方や自発的に調べるためのワードヒントがメインの解説となりましたが、結局のところ自分で作業して身につけたものが全てなので、数値や使うプラグインなどはぜひご自身で楽しく模索していただけたら嬉しいです。
私自身、まだまだ勉強中の身なので、読者の皆さんと一緒により良いものを作るために成長していけたらなと思っています。
今回、この記事を読んでくださった方はご自身で音響処理をやってみようと思っている方が多いのではないでしょうか。
しかし、ノイズ処理ソフトや有償音源はかなり値が張る物が多いので、二の足を踏むこともあるかと思います。
そういった際は、ノイズ処理だけでも外注する、などと言ったことも一つの手段です。一人でやれることには限界があるので、工程上難しいことは適切に誰かへ頼む、というのも大切なことだと私自身感じています。
この記事の感想などを #9cWorks のタグでポスト(旧ツイート)していただけたら、購入者の感想として冒頭でご紹介させていただくかもしれません。楽しみに待っています!
皆さんの作品がより良いものになりますように。
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