小川 勝也、笠原 和香子、石黒 雅史
みやこ町役場
町議、副町長という有力者によって公平性がゆがめられたとされる福岡県みやこ町の職員採用試験を巡る汚職事件。同町を含む京築地区では2018年にも、消防本部の採用試験で議員が絡む不正が明らかになった。相次ぐ不正に、住民からため息が漏れる。
「息子が最終面接を受けるので何とか通してやりたい。力添えをお願いします」
19年11月、町議の上田重光容疑者(72)=あっせん収賄などの疑いで逮捕=の自宅。捜査関係者によると、受験者の父親の原口国文容疑者(67)は、仲介役の福森猛容疑者(73)=いずれも贈賄容疑で逮捕=に付き添われて訪問し、こう頼んだ。手渡した菓子折りの袋には200万円が入っていた。
上田容疑者は関係者に「2人が帰った後で現金に気付いた。返すつもりだった」と説明しているという。上田容疑者の働き掛けを受け、三隅忠前副町長(62)=地方公務員法違反容疑で書類送検=が面接の質問内容を漏らし、息子は合格したとされる。
京築地区のある市議は「この地域には大きな企業も少なく、町役場は安定した就職先。大金を払ってでも息子を入れたかったのだろう」と推し量る。
別の年に受験し、最終面接で不合格になった県内の20代男性は「予備校では、みやこ町は金を包めば採用してもらえるとうわさされていた。自分が受験した年にも不正が行われたかもしれないと思うと、人生が狂わされたようで悔しい」と憤った。
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18年には、京築広域圏消防本部(同県豊前市)の採用試験を巡り、築上町議=あっせん収賄罪などで起訴後に死亡=が受験者側からの依頼で不正を働き掛け、100万円を受け取ったとされる事件も起きた。
みやこ町に隣接する行橋市議会では、19年にあった上級事務職採用試験の選考過程が繰り返し議題になった。例年と違い1次試験(筆記)の受験者29人全員が通過したことから、市議らは「何らかの力が働いたんじゃないか」と追及。市側は問題はなかったとする答弁を続けた。
市議の一人は「自分も採用試験で不正を頼まれたことがある。金を渡す、と言われたが断った」と明かす。住民の男性(80)は「不正採用の疑惑ばかりが注目され、うんざりだ」。
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みやこ町は取材に「試験制度の改善策を検討している」とする。
過去に不正採用事件が起きた広島県呉市では、07年から第三者による採用審査会を設置し、不自然な点がないかチェックしている。審査会委員を務めた秦清弁護士は「不正が入り込みにくい仕組みにはなったが、試験内容が事前に漏れていれば見抜くのは困難だ」と話す。関西福祉大の有田伸弘准教授(行政法)は「研修などで、議員や職員の倫理観を高めるしかない」と指摘した。
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逮捕されたみやこ町議の上田重光容疑者は27日、田中勝馬議長に議員辞職願を提出し、31日付での辞職が許可された。
(小川勝也、笠原和香子、石黒雅史)