第111話 その頃のアメリカ その二

「OK。理解した。どうやら私は、この期に及んでまだ勘違いしていたようだ。件の超越者は、私が思ってた以上に自由なのだな」


 ふざけるなよクソッタレ! これが身内だけの話し合いなら頭を掻きむしってるぞ。最近は生え際が気になるってのに!

 流石にコレは予想外だ。まさか日本政府がここまで能天気だったとは。この言い草からして、日本はアレに対する交渉札など一つも持ってない!

 そりゃ私だって政治家だ。国のトップだ。個人で国を滅ぼせる存在の厄介さは理解しているとも。上から目線で一方的に命令できるとは微塵も思っていない。

 だが同時に、最悪を想定しなければいけない。もしもの時に備え、交渉の舞台で有利に立てるカードを手に入れてなければいけない。

 それは弱味でも良いし、貸しでも良い。もちろん友好でも問題ない。命令できるほどの上下関係を構築できるのなら最高だが、それに拘る必要もない。ただ相手の行動を誘導できるのならそれで良いのだ。

 そして私は、日本政府がそのカードを複数枚抱えている前提で要求した。交渉権の一つを切れと。それでこれまでの貸しはチャラだと宣言したと言うのに!

 返ってきた返事は『そんなものありません』だと!? 貴様ら本当に政治家か!? それとも件の超越者がそれほどクレイジーなのか!? ……多分後者だなクソが!


「大使、済まないが知恵を貸してくれないか? 我々が直接交渉するのはこの際仕方ない。だが生憎と、我々は彼についてそこまで詳しくないんだ。特に思考回路が本当に理解できなくてね。その辺りの意見を、彼と最も交流している日本政府に任せたいのだが」


 まあ、ちゃんと交流できているなら、最低限の交渉札ぐらいは確保しているはずなんだがな! おかげで当初立てていたプランが全部御破算だ!

 いや、実際不味い。嫌味なんて言っている暇がないぐらいには不味い。相手はその場のノリで世界の危機を引き起こした異常者だ。そんなのとマトモに交渉などできるのか……?

 交渉はお互いに妥協点を探していくものだ。そもそも相手の思考回路、主義主張、価値観を把握できなければ妥協も何もない。

 もちろん、我が国でも彼の情報を集めてはいる。専用のプロファイリングチームも存在しているほどだ。だから人柄自体はある程度見当が付いているのだが……。問題は、彼の思考の一部が場当たり的な愉快犯のそれと同質であるということ。

 ある意味で一番予想が難しい相手だ。理性はある。情もある。損得勘定も理解している。ただふとしたタイミングでそれを全て放り投げる。しかもそこに規則性らしい規則性はなく、恐らく本人にしか分からないルールで動いている。

 そんな相手と交渉しなければいけない。可能か不可能かで言えばもちろん可能だが、事態は一刻を争う。交渉の遅れは、それだけ我が国に甚大なダメージをもたらすのと同義だ。責任重大だなこの野郎!


「もちろんです、大統領。日本政府としても、彼の件でいくつか伝えるべきことがございます」

「ほう? では、それから教えてもらおう。判断を下すにも、材料となる情報は多い方が良い」

「はい。ではまず、我々の方で彼に対して交渉を試みた結果から」

「む? 先んじて話を持ち掛けてくれていたのかい?」

「ええ。同盟国の危機ですので。最大限助力するのは当然でございます」

「そうか。感謝する」


 ああ、本当に良かったよ。ここで何もしていなかったのなら、本当に日本政府への信用が地に落ちるところだった。

 だってそうだろう。我が国は世界一位の大国だ。一位だから偉いとかそういう話じゃない。一位の国が滅ぶ、または致命的なダメージを負った場合、どれだけ世界経済が混乱するかという話だ。

 それでいて日本は同盟国だ。降りかかる火の粉は他国よりもずっと大きい。経済的な混乱は巨大なものになる。

 ましてや今は時期が悪い。彼によって世界中が、特に中東が火薬庫に変わっている。我が国含め、一神教圏は広大だ。そんな中で、日本人が証拠付きで一神教を否定した事実がどれほどの意味を持つのか。

 今はまだどうにかなっている。だがそれは、我が国が先頭に立ってコントロールしているからだ。ステイツが滅びる、またはその余裕がなくなった時、矢面に立たされるのは元凶たる日本だ。

 もちろん、日本には彼がいる。故に武力では優位に立てるだろう。戦力として活用できるかどうかは問題ではない。『いる』というだけで抑止力としては十分だ。

 だが、世界は暴力だけで回っているわけではない。暴力はあくまで交渉カードであり、手立てがなくなった時の最終手段。各国のメインウェポンは外交と経済なのだ

 外交的、経済的に孤立した時、日本は詰む。そこまでいかなくても甚大なダメージを負うだろう。つまるところ、ステイツが倒れれば連鎖的に日本にもダメージがいく。

 少なくとも、日本政府はそれが理解できている。自国の国益について考える頭を持っている。それを再確認できたことは僥倖だ。

 いや本当、そんなことはないと思いたいんだがね? これまでのやり取りで、そんなことはないとは思っていたんだがね? やはり彼がほぼ放し飼い状態だってことを考えると、どうしても不安が首をもたげてきたのだ。

 あと、日本人って変なところでズレてるし。重視する部分が独特すぎて、イマイチ判断につかないんだよ。彼に対する交渉カードも、その独特の価値観でなあなあになってる可能性もゼロと言えないのがなぁ……。


「それで彼の返答ですが、協力することはやぶさかではないと」

「なんと!? それは本当なのか!?」

「はい。ただ二つの条件を添えられました。一つは『全力で抗い、それでもなお滅びが避けられない場合』。二つ目は『アメリカが分かりやすい形で覚悟を示した場合』。この二つの内の片方を満たした場合は協力する。それ以外は誠意次第、とのことです」

「……」


 だ か ら !! この緊急時に謎の価値観を持ち出すんじゃない! 要求があるなら明確に主張しろ! 察してもらおうとするんじゃない!!





ーーー

あとがき


もうちょっとだけ続くんじゃよ。


前回の反響がアレだったので、感想に答える形で補足的なQ&A。


Q.山主さん、これまでそんなヤバいことやったっけ?

A.アイツね、一神教、つまるところユ〇ヤ教、イ〇ラム教、キ〇スト教を証拠付きで全否定しとるんすよ。あとはお分かりですね?


Q.国が山主に命令できるわけなくない?

A.命令できないなら、できないなりにやることあんだろ。恩を売ったりして、周りを懐柔したりして、交渉カードを作るのが政治だろうが Byアメリカ


Q.アメリカ倒れても、日本は山主いるから平気やん?

A.武力ではそうでも、経済とかはそうでもないっす。


Q.アメリカにいる、山主の同類を先に使うのが筋じゃない?

A.あくまで似たようなもの。戦局に影響を与えられる個人戦力ってだけで、山主クラスではない。あと特一級戦力がそれです。つまり既に投入済み。


Q.でもアメリカの管理不足じゃん

A.そうね。ところで日本の管理不足で世界が大混乱になった挙句、尻拭いは俺たちがやったんだけど。情報提供? それで釣り合うと本気で思ってる? Byアメリカ


Q.何で山主サムネ作ってるの?

A.玉木さん帰って家で一人だから。お電話は営業時間内なら受付中だよ。


大体こんな感じかしら?

ではまた次回。


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