コメの価格が決まる仕組み 実は複雑?特殊なメカニズムに迫る

コメの価格が決まる仕組み 実は複雑?特殊なメカニズムに迫る
コメの価格が下がりません。

備蓄米が放出されているにもかかわらず、スーパーで販売されたコメの価格は上昇を続けています。なぜこんなことになっているのか。いろいろな要因を聞いたけど、どうもふに落ちないという方も多いと思います。

複数の要因がからみあっているのですが、背景の1つにはコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも指摘されています。コメをめぐる制度や歴史をひもとき、価格の硬直性を少し深掘りしてみます。
(国際部デスク 豊永博隆)

15週連続の値上がり!

政府の備蓄米は過去2回の入札で21万トンが落札され、3月下旬から流通が始まっています。

それでもコメの価格は下がりません。
全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は4月13日までの1週間で5キロあたり4217円(税込み)で、15週連続で値上がりしています。

農林水産省によりますと1回目の入札で落札された14万トンあまりのうち、3月30日までにJAグループなどの集荷業者が倉庫から引き取った量は4071トン。
卸売業者から小売業者や外食業者など、消費の現場に届いた量はあわせて461トン。

全体の0.3%にとどまりました。

これについて農林水産省は、「通常のコメに加えて、備蓄米も流通することになるため、トラックの手配や精米の作業の調整などにはどうしても一定の時間がかかる」としています。

過去2回の入札はJAが9割落札

また、これまで地域によっては備蓄米が行き渡らないなどの不満の声もあがっていました。
1回目と2回目の入札ではいずれもJA全農が9割以上を落札していたことが明らかになりました。

農林水産省が備蓄米が転売されて価格がつり上がることを防ごうと条件を厳しくしていたため、卸売業者から取り引き実績のない中小の卸売業者や小売業者にコメが行き渡りにくいという現状がありました。

このため、4月23日から始まった備蓄米の3回目の入札では農林水産省は卸売業者どうしの備蓄米の売買を認めることにしています。

「流通の目詰まり」が少しでも解消し、備蓄米がこれまで届いていなかった地域にも届けば消費者の安心感につながり、いくらか価格低下に寄与する可能性があります。

さまざまな理由 どうもふに落ちない?

それにしてもなぜコメの価格がこうも下がらないのか。

これまでさまざまな要因が指摘されてきました。
コメを投機的に売り渋りしているとか、転売目的の「転売ヤー」のせいだといった指摘、さらにはインバウンド需要が増加してお米をたくさん食べたからなどの説明もありました。

農林水産省が2024年産のコメの生産量について過大に算定していて、想定よりも収穫できていないおそれがあるとの指摘も出ています。

不安心理から消費者が少しずつ買いだめすることで足せばかなりの需要が発生し、結果としてコメの生産量が追いつかない事態になっているのではないかとの分析もあります。

「なるほどそういうことなのか」と思う理由もあれば「本当にそうなの?」という理由もあり、モヤモヤ感が残る消費者も多いと思います。

コメの価格が決まる仕組み

コメの価格が下がらない背景の1つとしてコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも実は指摘されています。

ふだん口にするコメですが、価格がどう決まるのか、そのメカニズムを知る機会はあまりないかもしれません。

レタスの場合は…

それを理解する前に一般的な野菜を例に価格の決定メカニズムを説明します。

例えばレタスでみると、価格は基本的に中央卸売市場で決まります。
人気があるもの=需要があるもの、あるいは供給が少ないものは価格が上がり、需要が少ないもの、あるいは供給が多いものは価格が下がります。

これが市場の原理です。

市場は透明性があり、売る側と買う側がそれぞれ公平に「売りたい」「買いたい」と価格を入れて値段が決まっていきます。

そして市場での価格情報が生産者である農家にダイレクトに伝わります。

高く売れる商品は何か、安くなってしまう商品は何かを作り手は市場での価格を通じて理解するわけです。

特殊な決定メカニズム

ところがコメには特殊な価格決定メカニズムがあります。
1.スーパーなどで小売業者が消費者に示す価格
2.集荷業者と卸売業者とのあいだで決める価格(相対取引)
3.JAが農家に提示する概算金

1のスーパーなど小売業者が消費者に示す価格はほかの農産物や製品と変わりません。

ところが2と3はコメの特殊な価格決定メカニズムです。

2の集荷業者が卸売業者とのあいだで決めるコメの価格というのは相対取引といって、売り手と買い手が直接交渉して決まる価格です。

直接交渉なので市場でオープンに取引されているわけではありません。

農林水産省がJAグループなどの報告をまとめて取引月の翌月に発表しています。

後にならないと価格が分かりません。

JAが農家に一時的に支払う概算金

さらに概算金という制度の存在があります。

これはコメの刈り取り前7月ごろから9月ごろにJAがコメ農家に対して提示し、支払う金額のことです。

一時金なので仮渡金と呼ばれた時期もあります。

その年の生産見通しや販売見込みなどをもとにJAが「ことしのコメの価格はこれぐらいになりそうですよ」と提示し、一時金として支払います。

コメは多くの産地で1年1作であり、年間を通じて販売するため、販売価格が異なります。

協同組合で公平性を重視するJAとしては、農家のあいだでばらつきが出るのは好ましくないため、すべてを販売したあとに精算して分配する仕組みになっているわけです。

この概算金は集荷業者が卸売業者に示す価格にも少なからず影響するので、JAグループがコメの価格決定に大きな影響力を持っていることが分かると思います。

コメの価格が決まるメカニズムは硬直的です。

そして需給をすぐに反映しない、いったん価格が上がると下がりにくいということは指摘できると思います。

コメの価格はかつて国が決めていた

コメは日本人にとって欠かせない主食だったことから戦後、コメの価格は国が決めていました。

「食糧管理法」、食管法とも呼ばれる法律のもと、政府が米価審議会に諮問し、その答申に基づいて決めるという仕組みでした。
この法律は1995年に廃止され、コメについては民間流通が基本となりました。

民間流通とはいえ、上述したとおり、オープンな「市場」がなかったため、コメの価格決定メカニズムは改革が遅れました。

コメの先物取引もいったんは廃止

厳密にいうと小さな「市場」は過去存在し、今、また設立され始めてはいます。

1つはコメの先物取引です。
2011年から大阪にある「大阪堂島商品取引所」がコメの先物取引を試験的にスタートしました。

試験的ではない本格的な取り引きへの移行を国に申請しましたが、2021年7月、農林水産省は認可せず、その後、取引は2023年に廃止されました。

私はこの認可をめぐる攻防が激しかったころ、大阪放送局のデスクと、経済部に移り、農林水産省を担当するデスクをしていたので、当時の動きをよく覚えていますが、農業界に「コメの先物は投機的なマネーゲームだ」と批判する人がいたこと、農林水産省は内々、先物の本格的な取り引きへの移行を認める方向で動き出したものの、自民党への調整や説得がうまくできず、頓挫した経緯があります。

農林水産省は名称を変更した「堂島取引所」に2024年、コメの先物取引を認可し、8月からコメの先物取引が始まっています。

また、もう1つ、需要と供給に基づいてオープンな形で価格を決める、コメの現物市場である「みらい米市場」が2023年に開設されました。

ただ、どちらも取引の量はまだ少なく、コメの価格形成をリードするには至っていないのが現状です。

今、必要なことは?

酷暑の影響によるコメの品質低下と、2024年夏の南海トラフ地震臨時情報の発表で買いだめの動きから始まったコメの価格上昇。

さまざまな要因が重なって今も価格が上がり続けていますが、視野を広げて歴史を振り返ると、コメの複雑な制度が存在することに気付かされます。

必要な制度や仕組みに理解は示しつつも、消費者のニーズを的確にとらえ、価格に反映させる安定した市場とその仕組みづくりが必要であることを今、再認識させられました。
国際部デスク
豊永博隆
1995年入局
経済部 アメリカ総局(ニューヨーク) おはBizキャスター
大阪局デスクを経て現職
国際経済分野を担当
コメの価格が決まる仕組み 実は複雑?特殊なメカニズムに迫る

ビジネス
特集
コメの価格が決まる仕組み 実は複雑?特殊なメカニズムに迫る

コメの価格が下がりません。

備蓄米が放出されているにもかかわらず、スーパーで販売されたコメの価格は上昇を続けています。なぜこんなことになっているのか。いろいろな要因を聞いたけど、どうもふに落ちないという方も多いと思います。

複数の要因がからみあっているのですが、背景の1つにはコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも指摘されています。コメをめぐる制度や歴史をひもとき、価格の硬直性を少し深掘りしてみます。
(国際部デスク 豊永博隆)

15週連続の値上がり!

政府の備蓄米は過去2回の入札で21万トンが落札され、3月下旬から流通が始まっています。

それでもコメの価格は下がりません。
全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は4月13日までの1週間で5キロあたり4217円(税込み)で、15週連続で値上がりしています。

農林水産省によりますと1回目の入札で落札された14万トンあまりのうち、3月30日までにJAグループなどの集荷業者が倉庫から引き取った量は4071トン。
卸売業者から小売業者や外食業者など、消費の現場に届いた量はあわせて461トン。

全体の0.3%にとどまりました。

これについて農林水産省は、「通常のコメに加えて、備蓄米も流通することになるため、トラックの手配や精米の作業の調整などにはどうしても一定の時間がかかる」としています。

過去2回の入札はJAが9割落札

また、これまで地域によっては備蓄米が行き渡らないなどの不満の声もあがっていました。
1回目と2回目の入札ではいずれもJA全農が9割以上を落札していたことが明らかになりました。

農林水産省が備蓄米が転売されて価格がつり上がることを防ごうと条件を厳しくしていたため、卸売業者から取り引き実績のない中小の卸売業者や小売業者にコメが行き渡りにくいという現状がありました。

このため、4月23日から始まった備蓄米の3回目の入札では農林水産省は卸売業者どうしの備蓄米の売買を認めることにしています。

「流通の目詰まり」が少しでも解消し、備蓄米がこれまで届いていなかった地域にも届けば消費者の安心感につながり、いくらか価格低下に寄与する可能性があります。

さまざまな理由 どうもふに落ちない?

それにしてもなぜコメの価格がこうも下がらないのか。

これまでさまざまな要因が指摘されてきました。
コメを投機的に売り渋りしているとか、転売目的の「転売ヤー」のせいだといった指摘、さらにはインバウンド需要が増加してお米をたくさん食べたからなどの説明もありました。

農林水産省が2024年産のコメの生産量について過大に算定していて、想定よりも収穫できていないおそれがあるとの指摘も出ています。

不安心理から消費者が少しずつ買いだめすることで足せばかなりの需要が発生し、結果としてコメの生産量が追いつかない事態になっているのではないかとの分析もあります。

「なるほどそういうことなのか」と思う理由もあれば「本当にそうなの?」という理由もあり、モヤモヤ感が残る消費者も多いと思います。

コメの価格が決まる仕組み

コメの価格が下がらない背景の1つとしてコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも実は指摘されています。

ふだん口にするコメですが、価格がどう決まるのか、そのメカニズムを知る機会はあまりないかもしれません。

レタスの場合は…

それを理解する前に一般的な野菜を例に価格の決定メカニズムを説明します。

例えばレタスでみると、価格は基本的に中央卸売市場で決まります。
人気があるもの=需要があるもの、あるいは供給が少ないものは価格が上がり、需要が少ないもの、あるいは供給が多いものは価格が下がります。

これが市場の原理です。

市場は透明性があり、売る側と買う側がそれぞれ公平に「売りたい」「買いたい」と価格を入れて値段が決まっていきます。

そして市場での価格情報が生産者である農家にダイレクトに伝わります。

高く売れる商品は何か、安くなってしまう商品は何かを作り手は市場での価格を通じて理解するわけです。

特殊な決定メカニズム

ところがコメには特殊な価格決定メカニズムがあります。
1.スーパーなどで小売業者が消費者に示す価格
2.集荷業者と卸売業者とのあいだで決める価格(相対取引)
3.JAが農家に提示する概算金

1のスーパーなど小売業者が消費者に示す価格はほかの農産物や製品と変わりません。

ところが2と3はコメの特殊な価格決定メカニズムです。

2の集荷業者が卸売業者とのあいだで決めるコメの価格というのは相対取引といって、売り手と買い手が直接交渉して決まる価格です。

直接交渉なので市場でオープンに取引されているわけではありません。

農林水産省がJAグループなどの報告をまとめて取引月の翌月に発表しています。

後にならないと価格が分かりません。

JAが農家に一時的に支払う概算金

JAが農家に一時的に支払う概算金
さらに概算金という制度の存在があります。

これはコメの刈り取り前7月ごろから9月ごろにJAがコメ農家に対して提示し、支払う金額のことです。

一時金なので仮渡金と呼ばれた時期もあります。

その年の生産見通しや販売見込みなどをもとにJAが「ことしのコメの価格はこれぐらいになりそうですよ」と提示し、一時金として支払います。

コメは多くの産地で1年1作であり、年間を通じて販売するため、販売価格が異なります。

協同組合で公平性を重視するJAとしては、農家のあいだでばらつきが出るのは好ましくないため、すべてを販売したあとに精算して分配する仕組みになっているわけです。

この概算金は集荷業者が卸売業者に示す価格にも少なからず影響するので、JAグループがコメの価格決定に大きな影響力を持っていることが分かると思います。

コメの価格が決まるメカニズムは硬直的です。

そして需給をすぐに反映しない、いったん価格が上がると下がりにくいということは指摘できると思います。

コメの価格はかつて国が決めていた

コメは日本人にとって欠かせない主食だったことから戦後、コメの価格は国が決めていました。

「食糧管理法」、食管法とも呼ばれる法律のもと、政府が米価審議会に諮問し、その答申に基づいて決めるという仕組みでした。
コメの価格はかつて国が決めていた
米価審議会(1995年6月)
この法律は1995年に廃止され、コメについては民間流通が基本となりました。

民間流通とはいえ、上述したとおり、オープンな「市場」がなかったため、コメの価格決定メカニズムは改革が遅れました。

コメの先物取引もいったんは廃止

厳密にいうと小さな「市場」は過去存在し、今、また設立され始めてはいます。

1つはコメの先物取引です。
2011年から大阪にある「大阪堂島商品取引所」がコメの先物取引を試験的にスタートしました。

試験的ではない本格的な取り引きへの移行を国に申請しましたが、2021年7月、農林水産省は認可せず、その後、取引は2023年に廃止されました。

私はこの認可をめぐる攻防が激しかったころ、大阪放送局のデスクと、経済部に移り、農林水産省を担当するデスクをしていたので、当時の動きをよく覚えていますが、農業界に「コメの先物は投機的なマネーゲームだ」と批判する人がいたこと、農林水産省は内々、先物の本格的な取り引きへの移行を認める方向で動き出したものの、自民党への調整や説得がうまくできず、頓挫した経緯があります。

農林水産省は名称を変更した「堂島取引所」に2024年、コメの先物取引を認可し、8月からコメの先物取引が始まっています。

また、もう1つ、需要と供給に基づいてオープンな形で価格を決める、コメの現物市場である「みらい米市場」が2023年に開設されました。

ただ、どちらも取引の量はまだ少なく、コメの価格形成をリードするには至っていないのが現状です。

今、必要なことは?

今、必要なことは?
酷暑の影響によるコメの品質低下と、2024年夏の南海トラフ地震臨時情報の発表で買いだめの動きから始まったコメの価格上昇。

さまざまな要因が重なって今も価格が上がり続けていますが、視野を広げて歴史を振り返ると、コメの複雑な制度が存在することに気付かされます。

必要な制度や仕組みに理解は示しつつも、消費者のニーズを的確にとらえ、価格に反映させる安定した市場とその仕組みづくりが必要であることを今、再認識させられました。
国際部デスク
豊永博隆
1995年入局
経済部 アメリカ総局(ニューヨーク) おはBizキャスター
大阪局デスクを経て現職
国際経済分野を担当

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