【詳しく】米中貿易協議 双方が追加関税115%引き下げで合意

アメリカと中国の両政府はスイスで行われていた貿易協議の結果、現在、相互に課している追加関税について115%引き下げることで合意したと明らかにしました。

また、一部の関税について90日間停止し、協議を続けるとしています。経済大国どうしが100%を超える関税をかけ合う異例の事態は、ひとまず緩和される形になります。

米中協議「双方が追加関税115%引き下げで合意」

スイスで行われていたアメリカと中国の2日間の貿易協議のあと、12日にアメリカのベッセント財務長官とUSTR=アメリカ通商代表部のグリア代表が現地で記者会見を行いました。

この中でベッセント長官は「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と明らかにし、アメリカが中国に課している145%の追加関税を大幅に引き下げると説明しました。

アメリカ側は先月2日にトランプ大統領が発表した34%の相互関税のうち、24%を90日間停止し、10%の関税は維持します。その後、発表した上乗せ関税は撤廃されます。現在、トランプ政権が中国に課している145%の追加関税は、2月と3月に課している関税とあわせて30%となります。

一方、中国政府もアメリカからの輸入品に課している125%の追加関税について、アメリカと同じく115%引き下げて10%とし、引き下げた関税のうち24%は90日間停止します。

両国は今月14日までにこうした措置をとり、90日間の関税停止期間で経済や貿易関係について協議を続けるとしています。

中国商務省は、「今回の措置は両国の生産者と消費者の期待に応えるものであり、両国の利益および世界の共通利益にもかなっている」とコメントしています。

また、ベッセント長官は記者会見で「双方の共通認識はどちらの側もデカップリングは望んでいないということだ。かなり高い関税措置は、事実上の禁輸措置で、どちらも望んでいないものだ。われわれは貿易をすることを望んでいる」と述べました。

両国とも関税の応酬によって経済の先行きへの不透明感が強まっており、こうした状況を回避するねらいがあるものとみられます。

今回の合意によって、アメリカと中国が互いに100%を超える追加関税をかけ合う異例の事態はひとまず緩和される形となります。

米 ベッセント財務長官「戦略的な再均衡はかっていく」

アメリカのベッセント財務長官はスイスで行った記者会見で、「どちらの側もデカップリングは望んでいない」と強調した一方で、「アメリカはコロナ禍にサプライチェーンのぜい弱さが露呈した、医薬品、半導体、それに鉄鋼など多くの分野において引き続き戦略的なリバランス=再均衡をはかっていく」と述べ、戦略的に重要な分野で同盟国などと協力してサプライチェーンの構築を目指す考えを示しました。

また、ベッセント長官は「アメリカは精密製造業が壊滅状態にあり、これを取り戻そうとしている。一方で中国は製造業が過剰生産の状態にありバランスを欠いている。消費に依拠した経済へと移行するとしているが、実現できていない。もしアメリカが中国との貿易を開放し、より公正な貿易ができれば、共に再均衡をはかるチャンスが生まれる」と述べ、公正な貿易関係を構築し、米中両国の利益につなげることが重要だという認識を示しました。

さらにアメリカ側が問題視している、フェンタニルなどの薬物の流入問題については「今回初めて、詳しい知識を持った2つのチームどうしで対話が行われた。中国側がアメリカで起きている事態の重大性を初めて理解した」と述べ、アメリカが中国に関税を課すもう1つの理由としている、薬物の流入問題でも議論が進展したという考えを示しました。

そのうえで「相互関税を発表した4月2日以降、中国とのあいだで起きた出来事は今回のようなメカニズムが存在すれば避けることができた。いまはメカニズムが存在する。私たちは前へと進むためのプロセスとお互いを尊重するやり方を残し、きょうここを去る」と述べ、中国とのあいだで貿易問題などを話し合う土台を築くことができたという認識を示しました。

国際部デスク解説

【動画】2分50秒 ※データ放送ではご覧になれません

Q. 発表内容の受け止めは

A. 米中の高官が事前に前向きな発言をしていたとおり、かなり踏み込んだ内容となった。非常に複雑な発表だった。

トランプ政権はこれまであわせて145%の関税を課していた。このうち、トランプ大統領が4月2日に発表した相互関税のうち、中国の34%の関税が根っこにあったがこれを90日間は24%を引き下げて、10%の関税は残すというもの。

この発表のあと、追加で次々と課した関税については一時停止か撤廃するとしている。別途、フェンタニルなどの薬物の流入を理由に2月から3月にかけて課した20%の関税は残り、20%+10%のあわせて30%が中国に対する関税という理解。

これに対して中国側は、中国国営の新華社通信によるとアメリカからの輸入品に課している125%の追加関税を10%にすると伝えた。アメリカが10%残すとした関税とそろえた形だ。

Q. 米中激しい対立のなかでも一転協議へ。なぜ?

A. 経済的な打撃が大きかったと思う。アメリカではトランプ関税の影響が経済指標にまだ反映されてはいないものの、金融市場は一時大きく混乱し、株価が急落した。

そして、経済の先行き不透明感が強まっている。消費者のあいだで先行きが不安だとして、行楽など移動を控える動きが出てきている。

中国からアメリカには、おもちゃや衣類などの日用品、パソコンなどの製品が大量に輸入されており、145%の高関税が続けばアメリカの経済自体が成り立たなくなってしまうことをトランプ大統領も認識し始めたということではないか。

中国側も同床異夢。すでに低迷が続いている中国経済がさらに悪化するとなると、習近平体制としても放置はできない。両国ともこのままの状態を続けるのは得策でないということが協議、そして合意につながったのではないか。

Q. 米中の関税めぐる対立、世界に与える影響は大きい。今後どうなる?

A. 依然としてアメリカから中国に課している関税はアメリカメディアによれば30%、中国も石炭やLNGなどにかけている関税は維持されているものとみられる。

米中関係は貿易赤字、先端半導体やレアアースなど厳しい対立構造が続いていることにかわりはない。

特にトランプ大統領は中国の貿易赤字の問題と、アメリカ国内の製造業復活を強固に主張している。今後の交渉次第では再び緊張が高まる可能性もあり、先行きは見通せない。

専門家 “大きすぎる経済打撃 懸念か”

みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「事前に予想されていたよりも、いい結果になったと思う」としたうえで、このタイミングで合意できた背景については、「最大の要因は、アメリカと中国ともに経済への打撃が大きすぎるという懸念に対するものだろうと思う。関税をかけた側も、かけられた側も尋常ではない規模の打撃が予想されていた。それを軽減するうえで、いったんクールダウンして、90日間よく話し合いましょうとなったと思う」と分析しました。

また、世界や日本の経済への影響については、「無視しがたいインパクトがある。日本からの輸出や、現地法人の利益を押し下げるで形で日本経済に打撃を与える可能性があったが、今回の措置で90日間とはいえ、その影響が大きく縮小されることになる」と述べました。

一方で、今後は、アメリカと中国の間で具体的に何が譲歩できるかが焦点になるとし、アメリカの中国に対する貿易赤字の縮小のほか、為替レートや知的財産権、それに安全保障に関連する分野などの交渉が注目されると指摘しています。

米中貿易摩擦の経緯は

アメリカのトランプ大統領は、ことし1月の就任直後から中国への対決姿勢を強めてきました。

就任の翌月の2月には、フェンタニルなど薬物の流入を理由に中国からの輸入品に対して10%の追加関税を課したのに続き、3月には新たに10%の追加関税を発動しました。

これに対して中国は
▽アメリカから輸入される石炭やLNG=液化天然ガスに対して15%
▽小麦やとうもろこしなどに15%
▽大豆や豚肉などに10%の追加関税を課す対抗措置に踏み切りました。

関税の応酬はさらにエスカレートし、4月2日にトランプ大統領は相互関税として34%をさらに上乗せすると明らかにしました。

中国側が対抗措置をとる構えを見せたことに反発し、トランプ大統領は「さらに50%の追加関税を課す」と表明。4月9日にはあわせて104%の追加関税を課す事態となりました。

こうしたアメリカ側の方針に中国側も強硬な姿勢を見せ、アメリカからの輸入品に84%の追加関税を課す措置を発動しました。

最終的にはアメリカ側は中国に対しあわせて145%、中国側はアメリカに対してあわせて125%の追加関税を課す異例の事態となり、貿易摩擦が激化していました。

アメリカの関税措置について、中国政府は断固反対するとして撤廃を求めるとともに「今回の関税戦争はアメリカ側が引き起こしたものだ」とし、安易な妥協はしない考えを示してきました。

一方、このところベッセント財務長官が米中が互いにかけている関税は持続可能なものではないという認識を示し、貿易摩擦を緩和する必要があるという見方を示すなど徐々に変化が見られるようになりました。

さらにトランプ大統領も9日、自身のSNSで「中国はアメリカに市場を開放すべきだ」とした上で、「中国に対する関税は80%が正しいように思える。ベッセント財務長官しだいだ」と投稿するなど、歩み寄る用意があることを示していました。

関税の応酬 中国経済に影響

アメリカと中国が互いに100%以上の追加関税を課す異例の事態。関税の応酬は、中国経済に影響を与え始めています。

中国の貿易統計によりますと、4月のアメリカへの輸出額はドル換算で去年の同じ月と比べて21%のマイナスとなり、大幅に減少しました。アメリカのトランプ政権が4月に、中国への追加関税を145%に引き上げたことで、アメリカへの出荷の停止が相次ぐなどしたためです。

また、中国がアメリカへの追加関税を125%としたことでアメリカからの輸入額も去年の同じ月と比べて13.8%減りました。

欧米のメディアは、輸入コストの負担を緩和しようと中国がアメリカから輸入する医薬品や一部の化学品を関税対象から外したと伝えたほか、半導体製品の一部も除外されたと伝えています。

中国の景気を支えてきた輸出の落ち込みは、企業の景況感にも影響を与えています。

中国の4月の製造業の景況感を示す指数は3月から大幅に悪化し、景気のよしあしを判断する節目となる「50」を3か月ぶりに下回りました。輸出の停滞を受けて企業の生産や新規の受注が減少したためで、企業の間で慎重な姿勢が急速に強まっています。

アメリカ経済にも先行き不透明感

トランプ政権によるさまざまな関税措置の発動によって、アメリカ経済自体も先行きの不透明感が強まっています。すでに悪化が目立ってきているのがアメリカの消費者の景況感です。

調査会社の「コンファレンス・ボード」がアンケートをもとにアメリカの消費者が景気をどう見ているかを指数化した「消費者信頼感指数」は、4月は86.0と、前の月から7.9ポイント低下しました。アメリカのメディアによりますと、およそ5年ぶりの低い水準だということです。

アメリカ企業も景気の先行きに対する警戒感を強めています。
大手航空会社の「アメリカン航空グループ」はことし1年間の業績予想を撤回。3月以降、国内線のエコノミークラスの需要が大きく減少しているということです。

また、「デルタ航空」もことしの業績予想を撤回したほか、「ユナイテッド航空ホールディングス」は需要の減少を見据えてことし7月から年末にかけて国内線の運航本数を4%削減することを明らかにしました。

関税措置によって、アメリカの企業の負担が増えるとの見通しも相次いで発表されています。
大手自動車メーカー、GM=ゼネラル・モーターズは、ことし1年間でトランプ政権の関税措置に伴う追加費用が最大で50億ドル、日本円でおよそ7200億円にのぼるという見通しを明らかにしました。

「フォード」は、輸入される自動車や自動車部品などへの関税措置に伴う追加コストがことし1年間でおよそ25億ドル、日本円で3500億円余りにのぼるとした上で、「不確実性は業界にとって重大なリスクで、財務面に大きな影響を与えるおそれがある」としています。

物流にも影響が出てきています。
中国をはじめアジアなどとの貿易の玄関口となっているロサンゼルス港では、3月の時点で輸出は去年の同じ月と比べて15%余り減少したということです。また、関税措置の発動前にあった「駆け込み輸入」の動きも徐々に落ち着いてきているということです。

ロサンゼルス港の港湾局長は「関税政策に変更がなければ港の貨物量は35%から45%ほど減少する可能性がある。影響はかつてないほど広範囲だ」と話していました。

FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は7日、金融政策を決める会合のあとの記者会見で足もとの景気はまだ堅調さを保っているとしつつ、「景気の先行きに対する不確実性が非常に高まり、下振れリスクも増大している」と述べ、関税措置による景気や物価への影響に懸念を示していました。

トランプ政権1期目の米中合意とは

トランプ大統領は1期目の政権のときも、中国の幅広い製品に対して追加関税を課しました。

2018年7月、中国がアメリカ企業のハイテク技術を不当に手に入れて知的財産権を侵害しているとして「通商法301条」に基づき、中国に対し25%の関税を上乗せする制裁措置に踏み切りました。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、2019年まであわせて4回にわたって301条を使い、中国の幅広い製品に関税をかけました。

その後、米中両政府は、2020年1月に貿易交渉の第1段階の合意文書に署名しました。アメリカが発表した合意文書には、中国がアメリカ産の農産品や工業品、それにエネルギーなどの輸入を2年間で2000億ドル以上増やすことや、知的財産の分野で企業の機密保護の強化などに取り組むことなどが盛り込まれました。

また、アメリカが中国に意図的な通貨の切り下げを行わないよう求め、中国はこれに対応するとしたほか、銀行や証券などの中国の金融市場について、外国資本の制限や差別的な規制を取り除くとしていました。

ただ、中国側の反発が強かった国有企業への補助金の見直しなどは先送りされたほか、中国側が強く求めた関税の引き下げは一部にとどまり、貿易摩擦の解消にはつながらないという指摘も出ていました。

石破首相「詳細分析中 精査し内容確認」

石破総理大臣は12日夕方、総理大臣官邸で記者団に対し「詳細を分析中だ。いま精査し内容を確認している」と述べました。

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