92.【武闘大会本選:頭脳戦の部】勇者様終了のお知らせ
魔王城の宰相閣下(りっちゃん父)は手段を選ばず容赦はしない。
私情を挟まず冷徹に、すべきことには鋼の意思で最も適した行動を取る。
そんなキャラを表現しようと思ったら、あら不思議。
勇者様が可哀想なことになりました。 ←いつものこと
何とか力技感を漂わせながらも、一回戦を突破した勇者様。
しかし勇者様の快進撃は、頭脳戦の部では此処までとなる気配が濃厚です。
だって次の試合、相手が最有力優勝候補だし。
りっちゃんのお父さん、黒山羊一門の長で魔王城の宰相も務める前大会の優勝者が勇者様の前に立塞がります。
りっちゃんの実父、宰相さん。
艶やかな黒髪をさらりと流した、黒山羊のナイスダンディ。
常に難しい顔をしているように見えるのは、きっとモノクルが似合いすぎてるせいですね。
りっちゃんはお父さん似なので、並んで立たれると未来予想図を見ている気分になります。
ただ少年期から苦労の連続だったりっちゃんに比べて、りっちゃんのお父さんの方は酷薄そうな……煩わしさを全て一刀両断に切り捨ててしまいそうな怜悧な雰囲気があるんですけど。
色々な意味で容赦も手加減もしそうにない、宰相さん。
勇者様に勝ち目は……はっきり言ってないと思います!
「零か! 欠片もないって断言しちゃうのか!」
「零です。断言しちゃいます!」
「応援する気は、全くないんだな!?」
「応援はしますよ。奮戦を期待します」
「く……っ」
勇者様がどことなく寂しそうに、背中を丸めて蹲ってしまいました。
部屋の隅でいじけるの止めようよ、勇者様。
そして、案の定。
「創意工夫が不足していた、としか言いようがありませんね」
「く、くそ……」
「芸も勝負も、二番煎じはリスクが大きい。一度通用したからと味をしめるのは愚かです。一度でも人目に曝してしまえば相手に予備知識を与え、警戒させてしまうでしょう?」
がっくりと、崩れ落ちる様に。
勇者様は成す術もなく、巨大な盤上で膝を吐く。
その姿は敗者以外の何物でもなく、冷徹な眼差しで見下ろす視線に醜態を曝していました。
紛れもない勝利を得たのは、りっちゃんのお父さん。
勝者の余裕か、薄く口元だけで微笑んで饒舌に……勇者様、いえ『失われし白銀の栄光』選手への駄目だしを並べ連ねます。
「何の改良もなしに、同じ手段が何度も通用するとは思わぬ方が良いでしょう。ですからほら、こうも容易く対策を立てられる」
「ち、ちくしょぅ~……っ!!」
最早取り繕いようもないくらい……『失われし白銀の栄光』のキャラは崩壊していました。
勇者様も、よっぽど追い詰められているんだと思います。
周囲の、心苛む光景に。
前回の大会で上手く事が運んじゃったからでしょう。
一度大きな成果を出した分、勇者様はあの策に……己自身が重要な役を担う『駒』の一つとして、盤上に出る……アレに、自ら踊らされてしまったのです。
実績がある作戦を繰り返したくなる心情は理解できます。
でも、りっちゃんのお父さんも言っていたけど。
一発芸も勝負の行方も、同じ手を繰り返すことは危険を孕みます。
芸であれば周囲を興醒めさせ、勝負であれば対策を練り上げられる。
それ以前に、勇者様の試合の相手は前大会の優勝者でもあるんです。
温い手を出せば、殺してくれと言うようなもの。
この部門はあらゆる意味で、選手の知略が試される。
次の試合相手を分析して、作戦や下準備を入念に整えるのもまた、勝つ為に必要な素養の一つ。
初めての大会で勝手のわからない勇者様には、仕方のないことですが……それを怠った彼に待っているのは、勇者様にとっては地獄に等しい光景そのもの。
人によっては、それを『天国』とか『楽園』と表現するのかもしれませんけど。
「きゃぁぁあああん! 『白銀の栄光』さまぁ、此方を向いて下さいましー!」
「やぁん、顔を隠しちゃダメですぅ! 私を見てほしぃの❤」
「あは❤ 閣下ってお強いんですよねぇ……筋肉、触っちゃいたーい!!」
「あらダメよ! 抜けがけなんてずるいんだから!」
「私だって触りたいー❤ ねえ閣下ぁ、触っちゃだめですかー?」
「はあ、はあ……『白銀の栄光』さまの、背中ぁ……あぁん、抱きついてしまいたい!」
そこに広がっているのは。
なんか、なんというか……うん。凄まじい光景でした。
擬音で表現なら「きゃぴきゃぴ」だと思います。
先々代魔王の毛髪で作った、勇者様のヅラ。
あれを見て来歴に即座に気付き、そこから勇者様の正体を察したあたりは、流石魔王城の宰相閣下というべきでしょう。
次の対戦相手を勇者様だと特定した宰相さんは、勇者様を完膚なきまでに敗北させる為、時を惜しんで動きだしました。
何をしたのかというと。
武闘大会に合わせてハテノ村に逗留していた戦士の皆様の中から。
特に若くて肉食系のお姉様に狙いを定め、彼女達の思考に働きかける噂を流した訳です。
己の勝利の布石として、りっちゃんのお父さんが若い女性に流した噂。
一つ目は、次の試合に進んだ『失われし白銀の栄光』が、とんでもない美青年……つまりは彼女達にとって高嶺の花に等しい『上玉』であるという『事実』。
そして次に、そんな彼に接近(物理)する良い方法があるということ。
それは試合に盤上遊戯の駒として、女性達が登録をするということ。
選手達が駒を戦わせる試合運び。
それを反映する、巨大盤上の駒戦士達。
そこに勇者様が混ざれば……
当日。
駒戦士に、登録したのが若くて肉食系のお姉様ばかりという、前代未聞の偏りが発生しました。
それぞれが至近距離で『失われし白銀の栄光』を見て、神の御加護に後押しされた勇者様の魅了能力に心臓をやられてしまったところまでが、きっと宰相さんにとっては予定調和。
我も我もと率先して盤上に上がって来た彼女達の勢いに押されて、僅かな男の駒戦士達も参加を辞退。
お陰で勇者様の陣営も、駒戦士は女の人しかいません。
しかも皆、格好がこぞって勝負に出ています。
戦うというより、野郎を誘惑★悩殺☆することしか頭にないんじゃないかな? ……と、疑問視してしまいそうな。
観戦席にいる紳士の皆様は、目の保養だと大喜びしていました。
ああ、なんということでしょう。
一般的な、健康な男性なら大喜びであろう状況なのに。
勇者様は第一試合の時よりも追い詰められた顔をしています。
隠してもわかりますよ?
敵も味方も全てに怪物でも見るような怯えた目をしていること。
盤上の勇者様は、孤独な四面楚歌を味わっています。
そして駒の運びに従って、勇者様めがけて向かってきた駒戦士達。
彼女達の目は肉食系も肉食系、飢えたグリズリーの目でした。
狩る気満々で『事故』を狙っていることが、遠くからでもわかります。
そして勇者様は、相手の思惑がどうであれ……例えその思惑を察していようとも、犯罪者でも何でもない『ただの女性』に手荒な真似が出来ない本物の紳士でした。
ハテノ村に生息しているような、『エセ紳士』とは格が違うのです。
あれだけ女性に苛まれ、散々な目に遭って。
心底悲惨な体験に苦しめられながら育ってきたんでしょうに、どうしてあんなに歪みなく真っ当に、善良な紳士に育つことが出来たんでしょうか。
勇者様のご両親の教育手腕はちょっと本気で凄いと思います。
彼の境遇なら、女性と見るや問答無用でSA☆TSU☆GA☆Iしようとする社会不適合者になっていてもおかしくはないんですけどねー?
この時点で試合の結果は火を見るより明らかだったと思うんですが。
正気を疑う肌色面積のお姉様達に攻め寄られ、勇者様は屈するまいとしていました。
屈したらその時点で人生終了ですからね、そりゃ全力で抵抗もするでしょう。
でも好意を無碍には出来ても、乱暴は出来ない勇者様。
文字通り体当たりで向かってくる相手を前に、取れる手段はそう多くありません。
しかも勇者様は自ら『駒』となってしまっています。
つまり、自分で駒を置いたマス目から動くことが出来ない。
なのに敵の駒は次から次へと、ばんばん向かってくる訳で。
ぷるんと弾む胸を半分も革鎧の上から覗かせて、今にも零れ落ちんばかりに露出しちゃってる肉感的なお姉様とか。
「しゃ、シャツはどうしたー!!」
「あらぁん、忘れちゃったみたーい★」
抱きつこうと飛びかかってくるお姉様を、勇者様は闘牛士の如き紙一重の神業で回避!
だけど勇者様には休む間もない!
勇者様を取り囲む女狩人達の内、隣接する駒にいたお姉さん(ちなみに『失われし白銀の栄光』の陣営)が、動いた!
すかさず距離の近づいた勇者様に腕を伸ばし、自分の胸元へ引きずり込もうとする、その姿。
なんだか蟻地獄を連想したのは何故でしょう。
見た目にはくりくりと大きな目の愛らしい、どことなく栗鼠に似た美少女だったんですが。
あわや捕まるかというところで一歩踏み留まり、何とか栗鼠っぽいお姉さんの魔手をかわす勇者様。
敵陣営も味方陣営も、皆等しく勇者様を捕食しようとする熊に見えました。
勇者様を捕獲せんと舌舐めずりする女戦士は、それだけに留まりません。
脚線美が自慢らしい激ミニスカート(むしろ腹巻きに近い)の、生足お姉さんが!
大胆に背中をぱっくり腰元まで露出させた、褐色肌の猫耳美少女が!
あれ服……?と疑問が募るような下着同然のお姿に、透けるような薄物のローブを纏った流し目の色っぽい美熟女が!
それぞれの技術を無駄に駆使して、勇者様に襲いかかる!
うん、本気で敵も味方もなかった。
「つ、捕まってたまるかー!!」
全てを悉く己の身体能力を、濃すぎる経験を、不本意に培った技術を、全神経を集中させて回避していく勇者様。
その姿は神々しいばかりに凄まじく、そして素晴らしく。
蝶のように舞い、蜂の様に逃げる。
ですが。
圧倒的大多数の敵を相手にしているのは第一試合と同じなのに。
勇者様の消耗は、第一試合とは比べ物にならないようで。
まだ逃げる為の余力を温存しながらも。
勇者様は、猫によって壁際に追い詰められた鼠のよう。
いい加減、棄権すれば良いのに。
私はそう思いましたが、もしかしたら勇者様にはそもそも『棄権』という発想がないのかもしれません。
ですがりっちゃんのお父さんは、私と同じ発想に至っています。
「さあ、そろそろ観念したらどうです」
「く、くぅ……っ」
「屈することは恥ではありませんが……このままでは、貴方の進退が定まってしまいそうですね。結婚式には息子も呼んでやって下さい」
「話が一気に飛躍したー!」
「このままで遠くない未来、そうならない……と、断言出来ますか?」
「ぐは!?」
わあ、効果覿面ー。
宰相閣下の作戦は、立てた本人も唖然とするほど大当たり。
勇者様に肉食系の女性をけしかけるとか、可哀想過ぎて私にはとても出来ません。
流石は魔王城の宰相、えげつない。
見事に勇者様の弱点をぶち抜きまくった結果が表れています。
勇者様は成す術もなく、追い立てられるのみ。
→ 勇者様 は うち震えている!
そんな勇者様に、更ににじり寄らんとじわじわ……じわじわ……接近してくる肌色面積過多気味のおねーさま達。
わあ、あの人なんて今にも胸がポロリしちゃいそうなんですが。
真っ当な貞操観念(しかしやや貞淑な女性寄り)をお持ちの勇者様は、恥じらいからか怒りからか頬を朱色に染めて呻いています。
赤く染まった白い肌が、お姉様達の狩猟本能を煽っているとも知らないで。
だけど精神的な限界は近いらしく。
武力を封じられた勇者様は、試合場の外まで聞こえそうな大声で叫んだのです。
「き、き、き……君達、みんな服を着ろぉぉおおおお!!」
それはまあ、見事な醜態で。
もう『失われし白銀の栄光』閣下のキャラは欠片も残っていません。
具体的にどんな有様だったのか、勇者様の名誉の為に詳しく明言はしませんが……
とりあえず、半泣きだったとだけ言っておきます。
この直後、勇者様は棄権して脱兎の如く逃げ出しました。
次の部門が始まるまで、約ひと月。
その間に暇になった勇者様がやることは……?
a.修行
b.リアンカちゃんやまぁちゃんと行楽
c.ロロイ、レイちゃんの密かにリアンカちゃんを賭けた騒乱に巻き添えを食う
d.ハテノ村の紳士諸君に闇の宴に引きずり込まれる(闇市)
e.今回の騒動で勇者様に魅了された女豹たちに追い回される
f.騎士Bの恋愛相談に強制参加
さあ、どーれだ☆