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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・頭脳戦の部
92/122

90.【武闘大会本選:頭脳戦の部】競い合うも何も




 頭脳戦の部一回戦にて、勇者様が凄いマイナーなゲームを引いてしまいました。

 まさかあんな、誰も知らないようなゲームが当たるなんて……!

 だけどそれが勇者様の籤運、と考えると何故か不思議に感じない不思議。

 いえ、クジを引いたのは審判なんですけどね?

 勇者様のある意味で引きの良過ぎる籤運に腹筋の痙攣が止まりません。

 どんなゲームなのか知りませんが、随分と尖った性格を持っていそうな感じがします。

 さて、勇者様はどう戦われるのでしょうか?


 観客のほとんどがルールを知らないから、でしょうか。

 親切なことに、審判がゲームのルールを説明してくれました。

 わあ、親切♪

 その内容を私なりの解釈で纏めてみました。


【ラゴンメフF】

 プレイヤー:二名

 試合運び:ターン制

 プレイヤー二名が己のターンが回ってくる度に駒を進めていく。

 一回のターンで持ち駒全てを絶対に一度ずつ動かさなければならない。

 己のターンで接敵、あるいは攻撃条件を満たした場合に敵駒を奪うことが出来る。

 今回は人を駒とするので、規定値を満たすダメージを与えることが条件に加わる。

 駒:王将・戦車・暗殺者・弓兵の四種類。


  王将/最も重要な駒。

  ゲームの勝敗は敵の王将を取れるか否かが決め手。

  どんな過程を経たとしても、先に王将を倒した陣営の勝利。

  攻撃権を持たず、敵駒と接触しても何もできない。

  移動範囲:ターン毎に縦・横のいずれか一マスのみ移動可能。

  攻撃範囲:王将は攻撃が出来ない。

  今大会の試合に限り『王将』には防御・反撃権が認められる。


  戦車/破壊力特化型の駒。

  移動範囲:ターン毎に縦方向へのみ六マス移動可能。

  攻撃範囲:方向距離の正面、横三マスに攻撃可能。


  暗殺者/闇討ち特化型の駒。

  移動範囲:ターン毎に縦・横のいずれかに四マス移動可能。

  攻撃範囲:敵駒の背面からのみ攻撃可能。

       ただし敵駒に攻撃されると問答無用で死ぬ。


  弓兵/遠距離攻撃が唯一可能な駒。

  移動範囲:ターン毎に縦・横のいずれかに二マス移動可能。

  攻撃範囲:縦・横いずれか直線上にいる敵に攻撃可能。

       ただし三マス以上離れ、五マス以内の位置に限定。

       攻撃方向にいる自軍の駒にもダメージ有。


 ちなみにどの駒も斜め移動は認められていません。

 方向転換したかったら移動を繰り返して二ターン潰さないといけないみたいです。

 そして、更に大事なことがあります。

 王将以外の三種類それぞれの駒の持ち数と、ゲーム開始時の王将の位置。

 それらはどうやら、サイコロで決定しちゃうみたいで。

 ラゴンメフF……両部族の最大の娯楽は、サイコロ賭博だったとみた。



 さて、大体のルールを飲み込んだところで言います。

 言っちゃいます。

「すっごい、『くそゲー』臭がするね……!!」

「あ、ヨシュアンさん! それ私の台詞―!」

「奇遇だな、お前ら。俺もそう思ってたとこだ」

 まぁちゃんと二人、このゲーム大丈夫かと心配になりました。

 りっちゃんは溜息まで吐いています。

 私達が心配になるくらいです。

 実際にやらなきゃいけない勇者様の心配は如何ばかりでしょう。

 遠く離れた観客席では、顔色まではわかりません。

 でも何となく感じられる雰囲気で、勇者様が困っているような気がします。

 うん、困っても仕方ないと思う。

 だって勇者様達の前に、審判が置いたサイコロ。

 ころんと丸っこい、それ。


 三十面体ダイスだったんだもん。


 さあ、勇者様のサイコロ運が試されようとしています……!

「終わったな……」

「いやいや、まぁちゃん? まだ始まってもいないから」

「でも勇者君のサイコロ運とか(笑) 俺にはALL『1』な未来しか見えないや」

「ヨシュアン、しっ! 正直に言い過ぎですよ」

「ヨシュアンさんってば! ALL1とか、ある意味じゃ物凄く強いじゃないですか。それにここから、不利な条件下からどう持ち直すのかが見どころでしょ」

 他人事なので、好き放題口々に言いますが。

 正直に言いましょう。

 私も、勇者様が悉く「1」を出す未来を幻視出来る気がします。

 それで、実際にはどうなったかと言うと。

 サイコロを転がす度、悲喜交々(こもごも)な反応が飛び交い。

 それぞれの細かいところを割愛して、結果だけ語りましょう。



 ~それぞれの持ち駒数~


勇者様の対戦相手 (ベンジャミンというお名前だそうです)

 王将  いち。

 戦車  二十九

 暗殺者 二十七

 弓兵  三十


勇者様 (我らが『失われし白銀の栄光(ロスト・グローリー)』閣下)

 王将  いち。

 戦車  に。

 暗殺者 十三

 弓兵  に。


 会場中に、何とも言えない空気が広がりました。

 ……勇者様の対戦相手は、中々の引きの良さだと思います。うん。

 勇者様ご自身も自分のサイコロ運は絶望的だと思っていたのでしょうか。

 何故か、何かを悟ったような遠い目をされているような……

 いえ、この距離で視線なんて探れる訳ないので、そんな雰囲気がするって言うだけですけどね!

 それに、相手の駒がすごい多いからって負けるとは限りません!

 範囲の限られた盤上で、無駄に数が多くても――……って、え?

 サイコロで決まるのは、使って良い駒数の、上限?

 上限を超えなければ、数は自由?

 使わない駒は減らして良いんですか?

 持ち駒の数が決まるって……選択肢が広がる的な意味合い?

「勇者ドンマイ」

「ご愁傷様です……」

「…………えーと、勇者君がんばれ?」

「勇者様、超がんばって」

 もうなんか、それしか言えない感じでした。

 この上、更に王将の位置までサイコロに任せないといけないんですよ?

 たったいま実証されてしまった、勇者様のあのサイコロ運で。

 試合もまだ始まっていないのに。

 何だか別の意味で、私達はハラハラとしだしました。


 ちなみに王将の位置はサイコロ任せですが、他の駒はそうじゃないらしく。

 盤上を真ん中で自軍と敵軍に分割し、自軍陣地ないであれば、どこにどんなふうに駒を配置するのも自由だそうです。

 まだ王将の位置も決まっていないので、他の駒も並べられていませんけどね。


 その王将の位置を決めるべく、勇者様と対戦相手は同時に審判から駒を手渡されました。

 今回も三十面体ダイスのようです。

 サイコロで位置を決めるとなれば、盤上のマス目に番号が振るってとか、縦・横の座標を順番に出して決めるとか……そんな方法が頭に浮かびますが。

 どうやって決めるんでしょうか?

 首を傾げている間に、勇者様と対戦相手が両者の間にある遊戯盤に向けて、同時に転がしました。

 ころ、ころろ、と。

 流石に六面体ダイスよりもよく転がります。

 勇者様のサイコロは勢いがついていたのか特によく転がって……対戦相手の投げたサイコロと偶然ぶつかり、斜めに位置をずれて止まりました。

 出た目は、勇者様が三十二。

 対戦相手は八です。

 これは……?と。

 判定を求めて、視線が審判へと殺到しました。

 今回は数がより大きいからといって、有利に働くとは限りません。

 果たして、審判の判定は……


 殺到する視線を、意に留めることもなく。

 審判は平然とした態で、淡々と。



 転がったサイコロのある位置に、それぞれの『王将』を置きました。


 

 ……え?

 どういう、ことですか?

 首を傾げる、観客達の前。

 審判の声が拡声魔道具ごしに響き渡りました。


『それじゃあ各位王将の位置が決まったところで――……』

「待て」


 流石に、黙っていられなかったのか。

 『失われし白銀の栄光』が、審判の腕をがっちりと掴んで止めました。

『閣下、どうされました』

「……サイコロで決める、と、は……転がった賽が止まった位置に決まる、という意味か!」

『その通りですが』

「きょとんとするな……! そういうことは、賽を振る前に言えー!」

 勇者様、素が、素が!

 本来の人格(キャラ)が出かけてますよ!

 だけど素が出かけてしまうくらい、黙っていられなかったのでしょう。

 

 何故なら、勇者様の王将は。

 自軍ではなく敵陣地に食い込んで……いえ、正確にハッキリと言いましょう。



 敵陣奥深く、ほぼど真ん中。

 しかも敵王将の斜め二マス程の位置にあったのです。



 ……というかこのゲーム、王将の開始位置が敵陣でも良いんですか。

 守られるしか存在意義ないのに、全力で孤立無援の孤軍奮闘を迫られてるんですけど。

 攻撃権、ないのに。

 味方は遙か後方じゃないですか!

 敵地に王様が置き去り状態とか、軍としてどうなんですか!?

 こんな冒険的(リスキー)な盤上遊戯、初めて見たんですけど。

 おうさま、冒険し過ぎです。

 そんな事とは露知らず、真面目に投げた結果、余分に力が入って敵陣までサイコロを転がしてしまったらしい勇者様が項垂れています。

 黒革の手袋に包まれた両の手で顔を覆い、項垂れておられます。

 不思議ですね?

 打ちひしがれる勇者様なんて、割と見慣れた光景なんですけど。

 いつもの勇者様が項垂れている姿は、そりゃ様になっていますよ?

 だけど今日はいつもとまるで違う、別人みたいなお姿だからでしょうか……なんだか新鮮な光景のように見えて、(おもむき)深いような。

「おい、マジかよ……」

 観客席に来て見物していた、ハテノ村の若い男衆がさざめきます。

「まさか不憫様みてぇな運の悪い奴が他にもいたなんて……」


 ご本人です。


「ああ。あんなまさか、攻め攻め強気の姿勢バリバリな格好しといてよぅ。なのに、なんだ? まるで不憫様の不運ぶりが乗り移ったかのようじゃねーか」

 ええ、ご本人ですから。

 あそこにいるのは、勇者様ご本人です。

「勇者さんとは全然似ても似つかないのに、なんだか姿が重なって見えるぜ」

 重なって見えるも何も、同一人物です。

「あんな運の悪い奴が、他にもいるんだなぁ……」

 他も何も、ねえ……。

 私もあんなに運の悪い人は、勇者様しか知りません。

「おい、どうする? あんなに運の悪い奴が勇者さん以外にいるとなると……今年の秋祭さぁ」

「ああ、秋祭な」

 ……秋祭?

 なんだか一部の男衆の反応が微妙です。

 何かをしきりと気にしているみたいで、口からは「秋祭」……と。

 秋祭に、何かあるんでしょうか?

「今年は勇者さんに確実に表彰メダルを渡す為に、一部門新たに設けたってのにな……」

「こりゃ目が離せないダークホースの登場だな」

「ああ、あんな強敵(ライバル)が現れちゃ、勇者さんの優勝も危ういかもしれないぜ」

 話に耳を傾けていると、なんだかわかって来たような気がします。

 毎年、秋祭は収穫祭を兼ねてとても盛り上がります。

 その時に一年間頑張った人達を(ねぎら)う意味も込めて、様々な部門で一年間の活躍目覚ましかった人を表彰するんですけど。

 どうやら村人の一部が、いつも頑張っている勇者様に花を持たせようと一部門新たに設けるつもりだったようです。

 こういうのって大体その時になって決まったりするものなので、恐らく昨年の秋祭でそういう話が出たのでしょう。

 その頃、私達は人間さんの諸国を漫遊していましたからね。

 参加できなかったのは残念ですし、秋祭の時にそんな話が出たのなら、現場にいなかった私が知らなくても無理はありません。

 でも、新たな部門創設?

 勇者様が確実に表彰されそうな部門を作ったんでしょうけれど……

 いったい、どんな部門を設けるつもりだったのかな?

「絶対、勇者さんのぶっちぎり圧勝だと思ったんだけどなぁ……


 ―― キング・オブ・不憫☆ DE 賞 」


 私の隣で、まぁちゃんが盛大に噴き出しました。

 両腕でお腹を押さえて、全身をぶるぶると震わせています。

 前屈みになっているので、顔に髪の毛がかかっちゃっています。

 ヨシュアンさんも同時に床へと崩れ落ち、腹と口を押さえて震えています。

 なんだか傍目に、鳩尾(みぞおち)にイイのを喰らっちゃった人みたいなんですけど……殴られたのではなく、笑いの発作に襲われているのは明らかです。

「まぁちゃん、まぁちゃん、いきなり吹き出して笑いだすと不審っぽいよ?」

「そういうリアンカ、てめぇも顔が笑顔全開だぞ……っ」

「うん、仕方ない。それは仕方ないよ、うん」

 自覚はあります。

 きっと今の私は、物凄い笑顔です。

 だって表情筋が私の言うこと聞いてくれませんから!

 しかし村の若衆め……なんて部門を設立しちゃおうとしてるんですか! 

 危うく私の腹筋が崩壊するところじゃないですか!

 なんだか聞くだに全然労をいたわっているようには聞こえませんが、彼らはあくまで真面目な顔……いや、端っこの何人かが半笑いですね。笑いを我慢して顔が引き攣ってる(やから)もいるようです。

 あくまでわざとじゃない、善意の行いかと思いましたが……確信犯かな?

「な、なあ……やっぱ部門の名前と趣旨おかしくねっ?」

 そう言った、若衆の声の一人は笑いが混じって震えています。


「仕方ねぇだろ。

村長さんが「この名前でなければ出来レース前提の新部門なんぞ認めん」っていうんだから」


 そしてまさかの犯人=村長(ちち)という事実。


 我が父ながら、父さん何やってるの……!?

 え? 私の知る父は、そういう人じゃなかったような気がするんですが。

 どちらかというとハテノ村の人間にしては堅めな、真面目な方だと思っていたんですけど。

 去年の秋祭、父に何が……?


「ほら……やっぱ立腹してたんだろ。村長さんってたまに大人げねぇっつうか……冗談が通じねぇし」

「冗談は通じるぞ。ただ、悪い冗談に対する反応が苛烈なだけで」

「俺らも話に聞いただけだったけど……まぁ坊の両親が結婚した時、先代魔王を殴りに行ったっつうのはマジな話だったのかもな」

「俺、それ絶対にガセだって思ってた」

「俺も。だって俺らの知ってる村長さんって、そんな無謀なことしそうにねぇもん」

「だよな、だよな。でも……やっぱアレはよっぽど腹に据えかねてたんだろうなぁ」

「絶対にかなり欝憤溜めこんでたっぽい」


「けど年頃の可愛い一人娘、突然、故郷に連れてかれちゃあ……なあ?」


「いくら事情がある上、保護者(まぁぼう)が同行するつっても、限度があるよな」


 あれ?

 私はあくまで、自由意思に(のっと)って勇者様に同行したんですけど……

 新部門の名前、私のとばっちりですか?


 今日の試合が終わったら。

 もしかしたら私は、勇者様に謝罪しなくちゃいけないかもしれません。




ハテノ村、秋祭のすごい頑張った村人たちへの表彰式。

表彰者に贈られる表彰メダルは一つ一つ魔族の職人さんが手作業で作った工芸品。

見た目の素晴らしさもさることながら、強力なマジック☆アイテムでもある。

死の危機に瀕した時、一度だけ死の運命を肩代わりしてくれるという。

……だが、特に活用されることなく。

村では今までいくつのメダルを貯めたかを自慢しあう時くらいしか日の目を見ない。

存命の村人の中で最高記録の保持者は785個のメダルを有しているらしい。


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