肥満症治療、偏見が障害に ~新薬登場に期待も~
◇治療の基本は食事と運動
日本肥満学会は治療の減量目標を体重の3%、高度肥満者の場合は5~10%としている。脇教授は「3%減少すれば、例えば2型糖尿病や脂質異常症のような代謝疾患はかなり顕著に良くなっている」と話す。 肥満症の治療は食事や運動、行動療法による生活習慣の改善が基本で、これらの効果が不十分な場合、治療食の強化や薬物療法などのステップに進む。脇教授によると、生活習慣への介入だけで体重減少を維持するのはなかなか難しい。高度肥満症を中心に外科療法も有効な選択肢だが、限られた人にしか適用できないのが課題の一つだ。そこで「薬物療法がその間をつなぐ重要なものとして出てきている」(脇氏)。
◇臨床試験で体重減に効果
日本イーライリリーが発売した治療薬「ゼップバウンド」は、GLP-1とGIPという二つのホルモンの働きを活性化することで満腹感を高め、食欲と食事量を減らすとともに、脂肪分解を促進する作用がある。高血圧か脂質異常症、2型糖尿病のいずれかの症状があり、食事療法・運動療法を行っても効果が得られない人のうち、①BMIが27以上で、二つ以上の肥満関連の疾患がある②BMIが35以上-のどちらかに該当すれば使える。 日本人を対象とした臨床試験では、ゼップバウンドを10ミリグラム投与した場合と15ミリグラム投与した場合ともにプラセボ剤(偽薬)より体重減少効果があった。投与から72週時点の体重の平均変化率は、プラセボの場合が1.7%減だったのに対し、10ミリグラム投与した場合は17.8%減、15ミリグラムでは22.7%減だった。72週時点で体重が5%以上減少した患者の割合もプラセボの20%に対し、10ミリグラムで94.4%、15ミリグラムが96.1%に上った。 また、肥満関連疾患への影響では、投与から72週時点で10ミリグラム投与した患者の約7割、15ミリグラムでは約8割が脂質異常症と非アルコール性脂肪性肝疾患が改善。耐糖能異常ではともに9割以上の患者に改善が見られた。虎の門病院の門脇孝院長は「プラセボに比べて明らかに効果が大きい」と話す。
◇美容目的へ流用の懸念も
肥満症治療薬を巡っては、デンマーク製薬大手ノボノルディスクの「ウゴービ」が先行するが、保険診療による美容目的など不適切使用の懸念がつきまとう。 日本イーライリリーの研究開発メディカルアフェアーズ統括本部の吉野美保子医師は「リスクを理解していただくために丁寧かつ分かりやすい情報提供を心掛けていく」と強調。門脇院長は「『ゼップバウンドは美容、痩身(そうしん)、ダイエットなどの目的で用いる薬剤ではない』と、常に警鐘を鳴らしていきたい」と話していた。(江川剛正)