はじめに ─ ざっくり 5 行まとめ
- 軍用地の価格は
年間借地料 × 倍率で決まる。 - 倍率とは「投資家が欲しい利回り」の裏返し (
倍率=1 ÷ 利回り)。 - 政策金利が−0.1 %だった 2022〜23 年は 60 倍前後を維持。
- 24 年 3 月のマイナス解除 → 10 年債利回り上昇で 55→50 倍へ縮小。
- 経験則:10 年債利回りが 1 % 上がると、倍率は 15〜20 倍下がる。
倍率が動くメカニズム
軍用地の倍率は金利に対して数か月遅れで反応します。まず日銀が短期政策金利を動かすと、金融市場は長期金利(10 年国債利回り)を織り込み、さらに投資家が期待する利回りが変化して倍率が修正されます。このプロセスには概ね 3〜6 か月のタイムラグが観測されます。
Step‑1 政策金利変更(即日反映) Step‑2 国債利回り変動(数日〜数週間) Step‑3 投資家の必要利回り調整(1〜3 か月) Step‑4 売買成立ベースで倍率修正(3〜6 か月)
具体例として、2024 年 3 月のマイナス金利解除後、10 年債利回りは 0.7 % へ急伸しましたが、嘉手納倍率が 55 → 50 へ落ち着いたのは 2025 年 4 月の取引データでした。ちょうど 1 四半期強の遅れがある計算です。
数式的には 倍率=1 ÷ 想定利回り であり、想定利回りは下記要素の合計です。
想定利回り = 10 年国債利回り + 流動性リスク + インフレプレミアム
10 年国債利回りが "リスクフリー利子" としてアンカーとなり、そこに軍用地特有のリスクが上乗せされるイメージです。
借地料と固定資産税 ― 沖縄の最新動向
嘉手納飛行場の軍用地借地料は、過去 20 年平均で 年率およそ 1.15 %の複利成長。
一方、固定資産税については沖縄県が全国トップクラスの伸びを示し、県統計によれば過去 10 年で税収ベース約 48 % 増(年平均換算 4 % 弱)。評価替えは 3 年毎に行われ、2024 年度は建築物価の上昇を反映して 2〜6 % 程度評価額が上がった自治体が散見されます。
※例:八重瀬町は 10 年間で 47.8 % 増(固定資産税収) (REGATE 調べ)
つまり 借地料 +1 % /年 に対して 固定資産税 +4 % /年 が続くと、ネット利回りが徐々に圧縮される点に留意が必要です。ただし税額は評価額×税率の上限に抑制措置があるため、実際のキャッシュフローへの影響は緩やかに出ます。
嘉手納倍率 × 金利(4 期比較)
| 期 | 政策金利 | 10Y 国債 | 嘉手納倍率 | 背景 |
|---|---|---|---|---|
| 2022/11 | −0.10 % | 0.25 % | 60 | 超金融緩和 |
| 2023/6 | −0.10 % | 0.47 % | 58〜60 | YCC 上限 0.5 % |
| 2024/3 | 0〜0.1 % | 0.72 % | 55 | マイナス解除 |
| 2025/4 | 0.50 % | 1.35 % | 50 | 金利上昇定着 |
グラフを見ると、10 年債利回りが 0.25 → 1.35 % と約 1.1 % 上がる間に、倍率は 60 → 50 と約 10 倍縮小しています。計算上の感応度(1 % 上昇で 15〜20 倍縮小)とほぼ整合しており、市場が金利をベンチマークに倍率調整している様子が読み取れます。
今後のシナリオ ― 金利×倍率シミュレーション
| シナリオ | 10Y 想定 | 嘉手納倍率 (経験則に基づく) | 考えられる展開 |
|---|---|---|---|
| 現状維持 | 1.2〜1.5 % | 48〜52 | 横ばい〜小幅下落。借地料+税金で実質利回りが圧縮気味。 |
| 追加利上げ | 1.8〜2.0 % | 40〜45 | 更に 1 段下落。買い手にとってはチャンス。 |
| 利上げ停止・景気後退 | ≤1.0 % | 55 付近 | リスクオフ資産として倍率回復。売却益も視野。 |
※倍率レンジは「10 年債 1 % あたり 15〜20 倍変動」をベースに簡易推計。
倍率を動かす 4 ファクター
- 政策金利:短期資金調達コストの基準。ローン派に直撃。
- 10 年国債利回り:キャッシュ投資家が比較するリスクフリー利回り。
- 借地料成長:名目 +1 % /年がベース。但しインフレ率次第で実質利回り変動。
- 固定資産税:沖縄では税収ベース +4 % /年傾向。評価替え年は注意。
まとめ ― チェックポイント
金利上昇局面では倍率が先に反応し価格が軟化します。一方、借地料は毎年小幅ながら増えるため、長期投資家は「税負担の伸び」と「金利動向」を同時にチェックするのが肝要です。10 年債が 2 % 台まで上がる可能性が示唆された際は、所有区画の倍率水準やネット利回りを再計算し、適切なタイミングでの追加投資・リバランスを検討しましょう。