第70話 楽しいお出かけ その四
藤宮さんが三千円を入れる
「……っく!? キオンSAR!」
代わってこちらが三千円入れる。
「ハルービSR……!」
また藤宮さんが三千円入れる。
「ユオンSR! ああっ!?」
俺が三千円入れる。
「ブリシュRR。……ついにSRですらなくなったか」
藤宮さんが三千円入れる。……あ、売り切れた。
「っ、来たか!? 中は、二重スリーブ! ……ホシノSR! いよっしゃぁぉぁ!!」
ようやく訪れた当たり枠に、藤宮さん渾身のガッツポーズ。それでもちゃんと小声な辺り、大したプロ意識である。
まあ、それはともかく。悲しいことに、第一回オリパデスマッチはこちらの敗北だった。ついでに狙ってたカードもぶっこ抜かれたし。完敗である。
「藤宮さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます……! な、長かった……」
パチパチと拍手で勝者を讃えると、返ってきたのは万感のこもった呟き。三千円が無機質に自販機へと吸い込まれていく光景は、分かっていてもやはり堪えたようだ。
ちなみに購入した回数としては合計十二回。先客がいたであろうことも考えると、まだ早期決着したほうだと思われる。……それでも三万六千円も注ぎ込まれているわけだが。
「本っ当に辛かった……! やっぱりオリパは心臓に悪いですね……」
「当たりが出るまでは、わりと真面目に虚無りますからねー」
分類的には大富豪に位置する俺ですら、外れを引いた時はメンタルに多少の負荷が掛かるし。
いや、金額的には一切ダメージはないのだが、やってることが三千円でゴミを買っているのと大差ないから……。
財布の心配というより、心情的に『何やってんだろ』という気分になるのだ。
俺ですらそうなのだから、虚無感と同時にしっかり財布にダメージが入る藤宮さんとしては、そりゃ弱音の一つも吐きたくなるだろうさ。
「とはいえ、今回に限っては収穫でもありますし、まあ良かったのでは? ギリギリ元は取れてますよね?」
「そうですね……。んー、ちょっと待ってください。どんなものか確認します」
俺の言葉に回答するために、藤宮さんは手早く、それでいて丁寧にカードのチェックを開始する。
カードというのはコレクションアイテムである。そのため、状態によってカードの金銭的価値というのは上下するのである。……いや本当、コレがマジの曲者なんだよなぁ。
どんなに人気で価値のあるカードでも、小さな傷や白欠けがあると値段がダダ下がりする。しかもトレーディングカードというものは意外と繊細で、些細なことでダメージが入るのだ。おかげでどれだけのカードゲーマーが泣きを見たことか。
というか、欠け一つで数千〜数万ぐらい値段が変動するカードって何なんだ本当に。TCGだぞ。遊ぶための代物なのにマトモに使用不可能とか、本末転倒も良いところだろ。
「状態は……かなり良いですね。完美品、とまではいきませんが、十分に美品の範疇かと。えっと、ホシノの美品は……」
「あれ? ホシノは二万ちょいでしたよね?」
「それは多分平均販売価格かと。使用したの、このサイトじゃないですか?」
「あ、それです」
「やっぱり。まとめサイトも悪くないんですが、私としては、信頼できる店舗の商品検索をオススメします。少しばかり手間ですけどね。……ほら、ここだと美品で三万二千円となっているでしょう?」
「ありゃ、本当ですね。これは失敬」
むむむ。手っ取り早く検索で上に出てくるまとめサイトを愛用していたのだが、やはりこういう部分でニワカとガチ勢の差が出てくるか。
まあ藤宮さん曰く、まとめサイトはまとめサイトでちゃんと有用ではあるとのことだが。ただコレクターとしては、やはり芯となる判断材料は持っていたほうが良いらしい。ごもっともである。
「となると、ザックリ計算で一万四千円の儲けってことですか」
「そうなりますね。いやはや、思ってた以上の収穫でした。三千円ガチャのわりにはラインナップが渋めだと思ってましたが、品質で勝負しているタイプでしたか」
「あー。確かにこのガチャ、トップレア以外の価格は控えめですね」
いやまあ、販売価格としては、ザックリ二万前後のカードばかりなのだけど。カード一枚の値段としては、十分に馬鹿と表現できる値段ではあるが。
だがそれでも、値段としては確かに低めなのだ。具体的に言うと、三千円ガチャの景品としてはアレ。個人的な印象としては、千円か二千円ガチャの内容っぽい。
もちろん、三千円で入手できれば十分以上にアドではあるが、大体こういうのは多少なりとも掘るのが前提ではあるので……。
そういう意味では、販売価格で二万ラインというのは弱いのである。買取価格だと上振れて三分の二ぐらいの値段に落ちるし。
「オリパの景品となるのは、ショーケースに並ばなかった高額カードの場合も多いです。その中でこのクラスの美品が出てくるなら、かなり優良と言えるかもしれませんね」
「まあ、上振れで手に入れられたらの話でしょうけど」
「……ちなみにですが、夜桜さんはいくらぐらいになりました?」
「多めに見積もっても二千超えれば良いほうでは?」
「……」
ちなみに販売価格で、だ。……買取価格? 千もいかんよ絶対。
つまるところ、一万八千円が多少値のつくゴミの束に変わったのである。……いやまあ、藤宮さんが言うには、ゲーマー視点で当たりに属するカードも混入していたそうだが。
しかしながら、残念なことに俺はあくまでコレクター。それもミーハーでニワカなお馬鹿さんなので。対戦で強いカードと言われてもさっぱりなのだ。
「ま、敗者は黙して語らずというやつです」
「……なんだったら、これを気に対戦に手を伸ばしてみます? 破壊工作エルミオンデッキとか強いですよ?」
「残念ながら身体的なスペックの問題で無理っす」
この身体は、その気になれば無数のイカサマをイカサマにならずに実行できる、正真正銘の壊れボディである。
やるやらないの問題ではなく、相手に『できる』と認識されたら、その時点でフェアな勝負は実現しなくなる。
まあ、ガチでやらずに内輪でプレイすれば問題ないのだが、一番の問題は別にある。これもまたスペックの問題だ。
「ソシャゲで遊戯神やってるんで、他のTCGのルールまで記憶するのは……」
「あー」
「あと、これまたソシャゲが理由なんですけど、電子の裁定に染まってるせいで、リアルでの処理ができる気がしません」
「あぁ……」
藤宮さん、渾身の頷き。やはりカードゲーマーだけあって、ルール周りの敷居の高さは共感の嵐なのだろう。
いや本当、ソシャゲでプレイできるって大きいのよ。面倒な処理がオートで消化されるから、安心してプレイに集中できるというか。
アレに慣れたら、リアルでTCGをプレイする気が起きなくなる。アプリ上でややこしい処理を目にしている分、一際強くそう感じる。
「そんなわけで、自分はコレクターから先には進みません」
「そうですか。でも、少しもったいない気も。せっかく沢山のカードもあるのに」
「もったいないぐらいが良いんですよ。こういうのは」
オリパに手を出して、苦い思い出とともに外れカードをしまい込む。それがある意味で一番愚かで、一番賢い選択なのだ。
「……一万八千円ですよ?」
「オリパなんてそんなもんですよ」
いやまあ、せめて元は取ろう的な考えで、プレイヤーデビューというのも普通に理解できるけど。
ただ一応、闇を承知でオリパに手を出してる身としては、無駄な足掻きはせずに素直に負傷しておこうと思うのである。ある意味、それもまた浪漫というやつだろう。
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