第68話 楽しいお出かけ その二

 カードゲーム業界には『オリパ』という文化がある。正式名称オリジナルパック。商品価値の高いカードと、商品価値の低いカードを混ぜ合わせ、ランダムで販売する手法である。

 つまるところ闇鍋ガチャ。当たれば儲け、外れれば損をする一種のギャンブル。地味に販売形態が豊富で、オーソドックスなショーケース販売から、専用の自販機が複数存在していたりする。

 そんな人類の業を煮詰めたようなオリパ文化であるが、一般的な感性の持ち主ならまず手を出さないと言い切れるぐらいには闇が深い。

 なにせ下手なギャンブルよりよっぽどリスクが高い。行為的には、大枚はたいて二束三文の屑カードを買っているのと大差ない。

 オリパは基本的に、当たり枠とされているカードの価値に合わせて値段が設定される。そのため、安いものだとワンパック五百円。高いものだと数万円ぐらいする。

 そして震える手で買ったオリパを開けると、中にはスリーブに入った屑カードの束、なんてことがザラにあるのである。

 もちろん、当たればデカイ。大抵の場合、当たり枠のカードは買取り価格でワンパック分の値段を回収できるぐらいの価値がある。なんだったら、数パック分のリターンを叩き出したりもする。

 また、トレーディングカードというものは、買取り価格と販売価格にかなりの乖離が出る。特に昨今はカードゲーム需要が大きく、それに合わせて人の形をした蝗も大量に発生したりしているため、全体的にえげつないぐらいに高騰している。……冗談抜きで、販売元は私営の造幣局と言って差し支えないレベル。

 そのため、コレクション的な意味でもオリパは魅力的なのだ。本来なら高額なカードを、買取り価格以下の値段で手に入れられる可能性があるから。

 やってドキドキ。当たると嬉しい。当たると儲かる。外れると悲しい。外れると大損。……完璧にギャンブルである。


「ちなみにお訊きしますが、藤宮さんもオリパ剥いたりします?」

「もちろんです。祭りは参加してこそですので」


 そして悲しいかな。人類というのは基本的に愚かな生き物なので、ギャンブルの類い、それも明らかに分の悪い内容であっても、条件が揃うと嬉々として挑んでしまう生態なのだ。


「私のほうからもお訊きします。予算はどれぐらい予定していますか?」

「こちらをご覧ください」

「うぉぉぉ!?」


 藤宮さん、器用にも小声で絶叫。何を見せたかというと、背負っていたリュックの中身。具体的に説明すれば、裸で突っ込んである札束の塊である。


「……えっ、いやっ、えぇ!? あの、これおいくらなんです……?」

「とりあえず一千万ぐらいっすね」

「いっ……!? いや流石に多すぎっ、というか不用心では!? 裸で持ち歩く物じゃないですよ!?」

「むしろ盗めるものなら盗んでみてほしいんですが」

「……説得力が凄い」


 冗談でもなんでもなく、俺の手元が世界一安全だったりする。俺から物を奪えるなら銀行強盗したほうが確実だし、なんならダンジョンに潜れば合法的に大金を手にできるだろう。

 まあ、それはそれとして騒ぎは御免だし、身バレや藤宮さんが狙われる可能性もあるので、しっかり警戒はするつもりだ。……国から警護の人員が割かれてもいるので、ほぼ間違いなく徒労の類いにはなるが。


「にしても、凄い額ですね。私も稼ぎはあるほうだとは思いますが、この金額を実際に目にすると……」

「まー、基本は通帳の数字ぐらいでしかお目にかかりませんよねー」

「あ、自覚はあるんですね……。というか、流石に過剰では?」

「でもオリパって、物によっては一回で十万とかありますし」

「……否定できないのが本当に怖いですよね」


 わりとマジでこれぐらいなきゃ安心できない辺り、オリパって本当に闇だと思うんだ。一千万は確かに大金だけど、その気になれば恐らく溶かせるからな。


「ちなみに自分、ゲームで言うところのインベントリ持ちなので。なんだったら追加の現ナマも準備してたりします」

「あの、本当にいくら使う気なんですか?」

「気が済むまでです」

「なんて澄んだ目をしているんだ」

「でも浪漫でしょう?」

「全カードゲーマーの夢であることは認めます」


 予算に糸目をつけずにオリパを買い漁る。つまるところ無限ガチャ。そりゃ誰でも一度は夢見る。

 藤宮さんも言動は丁寧だが、あの沙界ジンの中の人だ。ロボット大好き、カード大好き、カッコイイの大好きな大きな子供。心の中に永遠の小学生ソウルを宿す、大艦巨砲主義の擬人化。

 そのため、こういう無駄で馬鹿なことを否定することは絶対にないと思っていたが、案の定というやつだ。

 俺が澄んだ瞳をしているなら、藤宮さんは星空のような瞳をしている。……訂正。正しくはミラーボールだ。星空なんてお上品なものじゃない。


「では、そろそろ移動しましょうか。ところで、藤宮さん的にオススメなお店ってありますか? こんな企画立てといてアレなんですが、ぶっちゃけ詳しくはないんですよねー」

「そうなんですか?」

「ええ。俺はプレイヤーよりもコレクター寄りなんで。有名どころで買うぐらいしかしないんですよね」

「なるほど」


 断言してもいいが、俺はカードゲーマーではない。どこまでいってもコレクター止まりだし、それすらにわかやミーハーの域を出ない。

 そもそもカードに手を出したのだって、推しである沙界ジン、藤宮さんがトレカガチ勢だったから。今回の企画だって、藤宮さんの興味を引くために提案してみたもの。

 ぶっちゃけ、カードに何かしらの執着があるわけではない。なんだったら、トレカなど所詮『イラスト付きの固めの紙』だと思っている側の人種である。

 コレクションなんて大抵がそう、興味ない人種からすればガラクタなので、別に価値云々を否定するつもりは毛頭ない。ただそれはそれとして、値段を調べてドン引きする程度には正気を保っている。

 まあ、価値をそこまで感じなくとも、高い物を集めていることは変わらない。そして俺は、この手の無駄が大好きな刹那主義者である。

 なのでカードを集めること自体は楽しんでたりするし、オリパを剥くのも大好きだ。……ただほんのちょっと、普通のコレクターとは違った視点で集めているだけ。


「となると、まずは駅前の有名どころを周りましょうか」

「その心は?」

「企業系のカードショップは、値段含めて大衆向けな内容が多いですからね。個人経営の店のオリパはかなり振れ幅が大きいので、スタートダッシュとしてはやはり無難なものがいいでしょう」

「なるほど」


 確かに企業系のオリパは、数千から一万ちょいぐらいの値段帯でまとまっている。

 十万付近を彷徨う超高額オリパはないが、序盤の走り出しとしては丁度良いのは間違いない。


「ならまずは、適当に自販機オリパから枯らしますかぁ」

「枯らすんですね」

「見たいでしょう?」

「見たいです」


 オーケー。なら行きましょう。というわけで、最寄りのカードショップにレッツラゴー。






ーーー

あとがき


 ちなみに作者はポケカを最近集め出しました。理由はなんか話題になってるのと、無駄に高騰しているから。


 ただ断言しますが、転売ヤーではないです。基本的に公式の抽選、あとは最寄りのローソン一軒でしか買いませんし、買ったBOXやパックはちゃんと開封します。

 というか、開封したいがために買っている。当たりが出たらガッツポーズして、丁重に保管して寝かします。外れたら残念だなって思って、それっきり。つまり5000ガチャを回してる。

 なお、当たりカードは、高値で売れそうな時にカードショップで売る。ヤフ○クは絶対に使わない。

 ちなみに売る理由は、持っていても困るからです。自宅に飾るスペースがないのと、ノウハウゼロで状態管理ができないからですね。あくまで当てるまでの過程と、当たった時の感動を楽しみたい勢。


 まあ、言ってしまえばギャンブラーのカスです。なのでオリパも大好きだし、意味もなく一万オリパとか買います。ぶっちゃけ、主人公のトレカ周りの価値観は、まんま私のそれです。

 高いから集めてる。小遣い稼ぎとかではなく、損する時も同じように高いから手を出しているのです。ヒリつくんじゃ。


 そんな私のカスエピソードを挙げると、カードショップの鍵取る系の確率機を、取れるまでやったりします。

 動画配信者みたいなことを、カメラも回さず、一人で黙々と百円を放り込み続けます。万とか普通に使います。月一のご褒美で無駄にやります。

 それでBOXとか手に入れたら、追加のガチャです。当たればハッピー、外れれば残念無念のガチャタイム。これがまた楽しい。

 なお、それで取ったBOXから、黒ル○アSARをぶち抜きました。ホクホク顔で売りました。……状態悪くて値段はそこまでだったけど。

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