第66話 釈明配信 その四
ダンジョンというものは、基本的に世界に恩恵をもたらしている。
探索者が死ぬとか、ダンジョン由来のアイテムを巡ってトラブルが起きるとか、個人規模で害が出ることはあれど、社会全体で見れば益のほうが大きいと断言して良いだろう。……だが、何ごとにも例外はある。
「混乱上等で爆弾を投げたのは、ひとえにダンジョンが原因の大災害──【スタンピード】が起こった際に、理不尽なクレームを投げかけられるのを防ぐためなのよ」
──スタンピード。それはダンジョンが社会に与える、数少ない明確な害。ダンジョンに蠢く大量のモンスターが、地上へと放出されることで巻き起こる大虐殺。
「正式名称、モンスタースタンピード。理由は不明なれど、探索者の出入りが著しく低い、または皆無なダンジョンで発生する、モンスターの大放出。近年は数多くの対策により減少気味となっているが、ひとたび発生すれば国内に甚大な被害をもたらすダンジョン災害」
:あー……
:スタンピードか!
:そっかそのためか
:確かにそれはアカンな。山主レベルのチャンネル規模でも、下手したら吹っ飛びかねんわ
:そりゃ事務所もオーケーだすわ……
:言いがかりを付けられたら、その時点で詰みかねないもんなぁ
:リスクヘッジの意味がようやく分かった
:最悪、事務所を巻き込んで諸共焼け野原にされかねないしな
単語を出した途端、コメント欄に巻き起こる納得の嵐。未だに語っている最中であれど、全貌を想像するのは容易な、それぐらい『ありえる可能性』の話。
スタンピードは、ダンジョンがもたらす厄災である。特に他の自然災害と比べてタチが悪いのは、モンスターが人類に対して明確な殺意を持っている点。故に、対処を誤ると人的被害が凄まじいことになる。
実際、ダンジョンが発生したばかりの黎明期では、スタンピードによって一つの街が赤い瓦礫の山と化した。未曾有の大災害として、歴史の教科書にも記載されているほどだ。
そしてだからこそ、人類はスタンピードを憎悪し、恐怖している。幸いにして、スタンピードは事前に防げる厄災であるために、徹底的にその芽を詰むための社会を構築した。
「スタンピードを意図的に起こすのは、どこの国でも極刑ものの重罪。それに伴い、いくつか義務が国民には課せられているほどだもの」
探索者ならば、スタンピードの予兆が確認された際の報告義務だったり、人の出入りが少ないダンジョンへの探索命令。そしてなにより、スタンピード発生時の協力義務。
それ以外の国民には、新たなダンジョンを発見した際の報告義務がある。ダンジョンは人類を招く必要があるため、定期的にアクセスの良い場所に新造されるから、わりとマジで気が抜けなかったりするのだ。
そして何度も言うが、これらは『義務』である。その時が来たら絶対に果たさなければならず、それを怠れば重罪人として罰せられる。
「つまり、それぐらいスタンピード関係はセンシティブで、デマを流されたら洒落にならないってこと。もし世界の何処かでスタンピードが起こって、そこで『山主が抱えているダンジョンの秘密を開示していたら、スタンピードは起きなかったんじゃないか』なんて妄言が広まったら……」
かつての炎上、色羽仁さんの時ですら、ネット上ではかなりの反応があったのだ。大物VTuber、著名人であることを差し置いても、一人の命でアレである。
それぐらい、現代社会では人命は尊いとされている。いわんや、大勢の命が危険に晒されるスタンピードとなれば……。
まあ、間違いなく廃業だろう。言いがかり甚だしいデマであっても、もたらされる火力が違いすぎる。デマはやがて民意となり、俺は社会の敵として扱われることだろう。
そうなれば、活動に支障をきたす。もちろん、デマに対しては断固として対応したい気持ちはあるが、正直なところ戦う戦わないの次元じゃなくなっているだろう。
それぐらい正義で武装した民意というのは厄介で、ネットという環境は数の暴力にうってつけだ。物理的な力だけでは、対抗しきれないものがある。
「本当、魔女裁判なんて掛けられたら堪ったもんじゃないからさ。スタンピードについてはせいぜいが背景、ダンジョンに人類を挑ませるためのクソギミックだってことを知ってるぐらいだし。対処法云々は、一般的なそれと大差ないのに、悪役に仕立て上げられたら……ねぇ?」
:いや十分衝撃的な情報あったが!?
:スタンピードの原理知っとるんかいワレェ!?
:アレそういうギミックなの!?
:神じゃなくて悪魔の所業やんけ!
:あー、つまりアレか? ダンジョンに入らないとモンスターが溢れてくるから、必然的に人類がダンジョンを無視することができないと
:神様は人類を愛してるんじゃないんですか……?
:神様の設定したギミックにしては殺意高すぎませんかねぇ……?
:人類への試練ってか。クソやん
:これは高次存在の視座ですわ……
む。思ってたより背景に対する反応が凄いな。別に背景を知って対処法が変わるわけでもないし、そういうものとして脇に置かれると思ってたのだけど。
あとコメントを見る限りだと、意外と神々に期待してたっぽい人がいてびっくり。スタンピードなんて欠陥機能付きのダンジョンを生み出してる時点で、人類視点じゃ碌でもない連中なのは確定しているだろうに。
そもそも連中、人類を愛してはいるけど、俺みたいな例外を除いて個人を認識してるわけじゃないし……。人口が七十億人だろうが、一万人だろうが、大して気にせず『人類生存ヨシッ』で済ませかねん奴らだぞ。
「あー、なんか予想外のところで反響が起こってるけどさ。それを含めて、信じるか信じないかは各自の判断に任せるよ。別に今回語った内容が、与太話と切り捨てられても俺は構わないし。重要なのは、俺がダンジョンについて知っていることを語ったという事実だけだし」
実際、今回語った内容を真実として扱うなら、複数人から裏取りしなければならないわけで。俺自身に万人が納得するほどの説得力があるとも思ってないし、信じろと強制するつもりもない。
ただ俺が持っているダンジョンの知識、その中でもトップシークレット扱いされるであろう内容をぶち撒けて、余計な疑いを向けられるのを防ぐためにやっただけだ。
世間に対して『もうこれ以上の重要なことは知りませんよ』とアピールして、もしもの時に反論できる土壌を形成した。
有事よりも先に語ることで反論に説得力を持たせ、ついでに将来的な味方、賛同者を確保しておく。そのための騒動で、そのためのリスクヘッジである。
面倒なことこの上ないが、疎かにして良いことではない。存在が秘匿されていたこれまではともかく、いまの俺は表舞台に立っているのだから。
事務所を巻き込む羽目になったのは心苦しくあったが、それで破滅の可能性を放置しておくわけにもいくまい。ならいっそのこと、批判覚悟で功績を取りにいったほうがマシというもの。
事実、売名行為としてはこの上ない成果であった。代償として事務所の業務がパンクしたが、それを補ってあまりある利益は確保できたはず。
「ま、結局のところはシンプルよ。やっておかなければならないことを、やるべきタイミングでやっただけ。混乱についてはゴメンなさい。ただ後悔はしていない、なんて感じかな?」
なお、ここで言うやるべきタイミングというのは、当初の目的である推しとのコラボを達成したことを指す模様。
私情極まるが、そこは仕方あるまい。繋がりを作る前に騒動を引き起こしていたら、コラボのハードルが爆上がりしたからね。その間にスタンピードが起きなくてマジで良かったと思う。
現在では滅多に起こるもんでもないが、それでも起こる時は起こる災害でもあるので、地味に心配していたのだ。
特に発展途上国とかだと、犯罪組織が利益のために囲い込んでたりすることがままあり、スタンピードが社会問題となっていたりするし。
あとは、人のいる場所に新造される特性から、未開の部族の集落付近にダンジョンができたりして、そのまま対処が遅れて氾濫したりとかね。
そういう意味では賭けでもあったのだが、御破算にならなくて本当に良かった。これで今後も大手を振って活動できる。
「──ま、話すべきことはこれで以上かな。これで釈明配信は終わりです。あとはまあ、情勢を見ながら適宜対応していくので。とりあえず、観察のため配信は少しばかり控えさせていただきます。……あ、あくまで自主的な判断ですよ? 処罰とかではないので、その辺りは勘違いしないように。控えるのも配信だけですし、実質ただの休暇です」
あえてここは堂々と主張する。反省とかではなく、観察のための自粛であると。
ここは間違ってはいけない。何故なら、反省ということになれば、それは罪を認めるということになるのだから。
「それじゃ、配信はこれで終わりとなります。本日お送りしたのは、デンジラスのスーパー猟師、山主ボタンでした。ではではー」
ーーー
あとがき
長かった。これでシリアスパートは終わり。ぶっちゃけると、やりたかったのは『スタンピード』の件ぐらい。
何話かのコメントかなんかでチラッと出しただけだっから、早い段階で詰めて起きたかったんですよね。ストーリー作るには便利すぎる設定なんで。
個人的には、唐突に設定の詳細を詰めて、はいじゃあ次そのイベントです! より、事前に設定だけ出しておいて、時間を置いて掘り返すのが好きな人です。
つまり当分放置決定! なんだったらやるかどうかも未定! このあとはまたーり日常パート!!
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