第65話 釈明配信? その三
「というわけで、質問その三。『ダンジョンって結局何なの?』です」
:きちゃ!
:待ってた!
:ついにか!
:呪いのような祝福、か
:また随分と意味深な……
:世界の謎が解き明かされるのか!
:歴史的瞬間に立ち会えたことに感動が
もう何度目か分からない、コメント欄の加速。常人では目で追うことが難しい数多の言語の濁流。
もはやコメントを止めるか、処理落ちして固まる瞬間でしか読むことができない領域のソレは、分かりやすく世界の注目度というものを示していた。
事実として、これから語るのは神の実在証明と並ぶ、もう一つの本題。人類が長年探求してきた、明確に実在する神秘の結晶。
「まず結論から述べますと、ダンジョンは世界に『神秘』を供給し、認知させるための供給口です。つまるところ人類に与えられた試練とは、神秘で再び世界を満たすこと。その上で、神秘の本質を思い出すこと」
人類が忘れてしまった神秘。断絶し枯れてしまったソレを再び溢れさせるために、神の如き高次存在が直々に創造した鉱脈。それこそがダンジョン。
「面倒なので、今後は便宜上『神々』と呼ばせていただきますね。──その神々にとって、現在の人類は見ていられない状況にあるんです。科学を絶対視し、近いうちに発展が頭打ちになる。それを理解しているがために、神々はダンジョンを世界に誕生させたんです」
:科学がアウトなんです?
:自分が信仰されなくなるから的な?
:嘘くせー
:なんか怖いんですが……
:それマジ?
:おいおい、今度は科学サイドにまで喧嘩売り出したぞ
:神にお前は間違ってるって言われてるとか……
:なら証拠出せや
:それ黙示録やラグナロクルートでは……?
やはりというべきか、簡単に納得というわけにはいかないらしい。現段階では、よくて半信半疑が関の山。説明して二つ返事とはならないか。
だが仕方あるまい。これまで人類は科学によって発展してきたのだ。現代があるのは科学があったからであり、いまの発展の根幹である科学を疑うなどできやしまい。
事実として、人類は未知には科学で対応してきた。突如として出現した『ダンジョン』という出鱈目すら、科学的なアプローチでもって解明しようとした。
それが間違っているわけではない。手段としては至極真っ当だ。しかし、いまの人類は一つの前提を失ってしまっている。だから先がない。
「神々が語る『神秘』とは、人々が夢想する果て。空想、理論で説明できない未知。そして『物理』とは未知を観測し、理論で説明できる形に確定させるもの。──神秘でもって未知を想像し、物理でもって確定させる。その理を人類は忘れてしまった」
古を生きた人々は、自然を通して未知を空想し、それらを神々の領分として敬い畏れた。
そして時の流れ、文明の発達ともに神々の領分を切り取り、物理に堕として我がモノとした。
つまり神秘と物理は相克する。虚ろいやすく不安定な代わりに、空想が続く限り果てのない『神秘』。安定している代わりに、明確な限界が存在する『物理』。
「神秘で未知を生み出し、物理で未知を切り取り確定させ、利用する。そして既知の先に新たな神秘を見ることで、再び未知を生み出す。この繰り返しこそが、神々が予定していた本来の道程だったそうで。だが人類は物理に傾倒し、神秘を廃した。未知を空想することを止めてしまったのです」
だからいまの人類に未来はない。すべての未知を解明し、物理へと確定させてしまった時。人類はその瞬間に歩みを止めてしまう。物理が絶対視された世界で、再び神秘が芽吹くその日まで。
「それを神々は良しとしなかったわけですよ。何故なら神々にとって、人類は自らに届きうる存在。未熟な同族に等しい故に、その進化の可能性が潰える未来を許せなかったんですね。だからダンジョンを誕生させ、世界には人智及ばぬ神秘があることを知らしめたのです」
ポーションを筆頭とした、いまの人類では決して再現することが叶わない品々。モンスターという理外の存在。
それらは分かりやすい未知の塊であり、現実に存在する神秘への道標だ。
物理では説明できない明確なファンタジーだからこそ、人々はさらなる未知を空想する。
「ダンジョンが英雄を生み出すためのコロシアムというのも、考え方としては同じなんです。限界を超えた人間がいると分かれば、それだけ人類の可能性は拡がるし、その先すらも思い描くでしょう? つまりは神々の広告塔であり、より強力な神秘、出鱈目なアイテムを世に供給させる炭鉱夫なんですよ」
:なる……ほど?
:難しいような、そうでもないような……
:いやいやいやいや! それじゃあ科学者の存在意義なくない!? 検証とかするだけ無駄やんけ!
:待って怖い怖い! 思ってた以上に真理っぽい内容で受け止めきれないんだけど!?
:つまり人類が想像すれば新たな法則すらも創造できる……?
:ねえコレ審判の日だったりしない? この配信を受け止められるかどうかで、大洪水とか起きない? 人類リセットされない?
:嘘くせー、で聞かなかったことにしちゃ駄目ですかね……?
:あー、はいはい。完全に理解した
:未知がなくなった時が人類の停滞かぁ。それを神様は阻止したいと。確かに感覚として分からなくはないかなぁ
時折挙動がおかしくなっているコメント欄を眺めながら、ふぅと小さく息を吐く。
これでダンジョンの存在理由と、神々の思惑は大まかにであるが語り終えた。世界の真理、と言えるかは不明だが、人類の多くがソレを知った。
これで世界がどう移ろうのかは知らない。常識が変わるのかもしれないし、変わらないのかもしれない。そこは正直どうでもいい。
重要なのは、ネット上の不特定多数によってこの内容が拡散されるであろうということ。この一点がなにより大きい。
「──はぁぁぁ。大事な話はコレで一段落。ようやく肩の荷が降りたぁぁ!」
意識を切り替え、思いっきりリラックス。唐突な俺の変化に何ごとだとコメント欄がザワついているが、その辺りはご愛嬌というやつだ。
なにせ、コレでようやく当初の目的を果たせたのだ。大炎上を引き起こしてでもやるべきことを終えたとなれば、肩の力の一つや二つ抜きたくもなる。
「あー、一番語るべきところは語ったし、これからはちょっとユルめでいくんで。まだピックした質問は残ってるんですが、それは配信者としての回答って側面が強いんで。神云々、ダンジョン云々というわけではないので、俺の活動に興味がない人はバイバイして構いませんよ。多分、そこまで重要な話はしないんで」
ワンチャンするかもしれないけど、それは多分無意識かつ話の流れなのでね。少なくとも、先の回答ほどの爆弾はないと思うのですよ。
まあ、この配信もどうせ切り抜かれるだろうし、調べようとすれば、なんか良い感じにまとまってるのが出てくるでしょうよ。
「というわけで、以降はサクサクゆるゆるでいきますね。んじゃ、四つ目の質問。『何でこんな爆弾出したの? 事務所は許可したの?』って内容ですね。──これに関しては、シンプルにリスクヘッジの結果です」
:おおう。いきなり態度が変わったな
:確かにそれはそれで気になってた
:リスクヘッジ?
:無許可だったら普通に怒られるレベルの騒ぎだもんな
:逆に大炎上してるんですがそれは
:ゴッソリ同接減ってて草
:もしかしてリスクヘッジって言葉の意味をご存知ではない?
:事務所に大迷惑かけてリスクヘッジとか頭おかしいんか?
あー、コレコレ。まだまだ同接者数はえげつないけど、配信者としての話題にシフトしたせいか、コメント欄に馴染みの空気が若干戻ってきた。
これで落ち着いた気分になる辺り、自分の居場所というのを改めて実感する。やっぱり過剰なシリアスは好みじゃないなわぁ。
ま、それはそれとして。事務所に迷惑掛けた云々は、ちゃんと釈明しなきゃなるまい。
いや、迷惑自体は掛けてるんだけど、しっかりとした理由、それもやむにやまれぬ類いのものがあったとは伝えなければ。
「いやさ、理由に関してはかなり仕方ないというか、忸怩たるものがあったのよ? 大混乱になることは分かってたし、方々に迷惑掛けることになるのも理解してたんだけどさ。……それでも早めに伝えときたかったのよ。どうせ遅かれ早かれだし。だったらまだ何も起きてない、いまの内に伝えようってね」
ーーー
あとがき
なんか主人公が意味深な感じで語ってますが、前の話でも書いたとおり、別に(シナリオ進行的に)重要ではないです。
これまでと雰囲気が違うとか、流れがよく分からないとかのお声もありますが、深く考える必要もないです。
新章ということで、脈絡なくシリアスをぶっ込んでるだけと思ってください。
あ、一応主人公の行動に意図はあります。そこはある程度の説得力は持たせられてるはず。あえて言うなら、日常の中でやるべきことをやってるいるだけです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます