第二部っぽいもの

第61話 ダンジョンとはなんぞやという話

──紅蓮の炎が吹き荒れる空間に、一人の偉丈夫が胡座をかいていた。


『……』


 いや、彼を一人と呼ぶのは正しくないのだろう。なにせ彼の肌は青黒く、口からは牙が覗いているのだから。

 しかし、鬼を連想させる容貌に反して、放たれる気配は神聖そのもの。

 片手には一風変わった形の剣を持ち、もう片方には輪のようにまとめた荒縄を。

 もし偉丈夫の姿を見た者が、仏教や密教に明るかったのなら。その者は念仏を唱えながらその名を呼ぶことだろう。──不動明王と。


『……人よ。汝は何故ここに来た』


 偉大なる神仏が喋る。ただそれだけで、世界がのし掛かるが如き重圧がこの身を襲う。


『汝はすでに試練を越えた。写し身たるゴーダマを降し、覚者への道を歩み出した。その身に宿る力を真に昇華させた時、我らと並ぶ修羅神仏へと至るであろう』


 不動明王が語るのは、かつての俺が歩んだ軌跡。衝動のままにダンジョンの深淵に踏み込み、そこで待ち受けていた偉大なる仏、その写し身との試練という名の死闘。


『汝が写し身たるゴーダマの首を撥ねた時点で、この領域に足を運ぶ意味はなくなった。我ら、いや全ての修羅神仏の願いは、小手先の技に夢中になり、歩みを止めてしまった人類への教導。──人の可能性を、やがては神仏の領域すら踏み越える尊き輝きを、再び思い出させること』


 神秘を捨て去り、物理を絶対視したことで、自らの可能性を狭めてしまっている人類こどもたち

 そんな愚かしくも愛おしい幼子の誤ちを正すため、高次から見守っていた修羅神仏おやが、再び現世に舞い降り与えた、試練という名の教育。

 それこそがダンジョン。その正体は苛烈でありながら、どこまでも過保護な親の愛。


『いま一度言うぞ。この場は、汝が深淵と呼ぶこの領域は、人を人たらしめる輝きを示す、最後の試練を行う場である。試練を越え、人の可能性を見事示した汝には、もはや無意味な場所だ』


 諭すように、慈しむように不動明王が笑みを浮かべる。それはまるで、夕闇に染まる空の下、公園で遊ぶ子供に帰宅を促すかのようで。


『──それとも』


 しかし、忘れてはならない。いくら人類を愛していようとも、修羅神仏とは人類が及びもつかない高次存在であることを。


『人だけが持つ至高の輝きを、写し身たるゴーダマだけでなく、この我にも見せてくれるというのか?』


 世界が軋む。ダンジョンを創造せしめた修羅神仏、その一柱が戦意を紛らせる。


『人よ、人よ。眩く輝く我らが愛し子。何者にも成れる人の最果てにして、我らにもっとも近き者。その輝きを魅せてくれ。その歩みを示してくれ』


 倶利伽羅剣が炎を吹き、羂索が宙に浮く。迸るは衆生を救うための大権能。


『此なりは人類救済の力の一端。煩悩を、魔を祓う破邪顕正の具現。──さあ来たれ、階を登りし人の子よ。いずれ至るであろう修羅神仏の先達として、汝の死力を見定めてくれる!!』


 かくして、不動明王が立ち塞がった。そこに大した意味はない。親が子の成長を確かめるような気軽さで、その神威は解放されたのだ。



◆◆◆



「──と、動画としてはこんな感じなんだけど。雷火さん、なんか変な部分とかあった?」

『そういう問題じゃないんだけど。これ、もしかして盛大なボケだったりする?』


──以上、動画のチェックを依頼した同期のコメントであった。





ーーー

あとがき


 二章?のプロローグ的なものなので、今回はかなり短め。

 今後は世界観周りも固めつつ、話を書いていけたらなと思います。


PS.久しぶりに章設定というのを操作しました。なんか問題があったら教えてください。

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