「受託開発はどこへ向かうのか?」—アクセンチュア×ゆめみ買収が示す業界の分岐点
生成AI時代に入り、エンジニアリングのあり方も、受託開発の存在意義も変わりつつあります。
そんな中、2025年5月、アクセンチュアによるゆめみの買収が発表されました。ゆめみの親会社であったセレスの発表によると、以下のような記載があります。
モバイルサービス・DX事業を手掛ける連結子会社ゆめみの全株式を、2025年5月8日付でアクセンチュアへ約37億円で譲渡する契約を締結
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3696/tdnet/2604565/00.pdf
この買収は、アクセンチュアとゆめみという一見対極にあるような組織同士のM&Aという話題性にとどまらず、「受託開発はどこへ向かうのか?」という問いへのヒントを含んでいると感じています。
先日、広報の福ちゃんからのお誘いで、Xでスペースを開催しました。まさかの買収報道当日で、その時のお話も交えながら本件を掘り下げていきます。
ゆめみの気になる今後
まず注目されるのは、アクセンチュアとゆめみという一見対極にあるような組織が、今後どう交わっていくのかという点です。
ゆめみ代表の片岡氏が投稿したnoteでは生成AIの進化により、コードを書くという行為自体がコモディティ化しつつある中、「AIがコードを書く時代」に人間は何を担うべきか?という問いに対し、“品質保証”と“魅力品質”の重要性に回帰する必要があると記されています。
当初公開された4月30日の段階では生成AI時代を見据えた変化への意気込みが語られていましたが、その後の親会社からして変化するという流れを受けて、より大きな意味を持つ内容となっています。
ゆめみブランドは残るらしい
吸収合併ではなく買収であるため、ゆめみブランドは存続するとのことです。この点において、吸収合併されたIMJとは異なります。
名刺などには「Yumemi – Part of Accenture」といった記載になる可能性があるとも言われています。※2025/5/11 18:50 修正
Accenture Song本部への合流
Accenture Song(旧Accenture Interactive)本部は、UX設計、サービスデザイン、アプリ・Web構築など“顧客体験”に特化した専門部署。社内でも新卒からの人気が高く、スタートアップ的なカルチャーも色濃いとされており、X上でも親和性の高さが囁かれていました。
独自の制度設計
ゆめみといえば、独自の制度設計が注目されています。新卒採用イベントなどで会社説明を聞くと、その独自性とプレゼンの勢いに圧倒されることもしばしばです。以下は特にユニークな制度の一部です。
給与自己決定制度(同僚レビューを経て93%の承認率)
有給取り放題制度
副業し放題制度
10%ルール(業務時間の10%を自分の学びに)
聞こえてくる話では、各制度に対し“使い放題”とまではいかないものの、制度自体が存在する事実と、それを制度設計として打ち出す“やんちゃさ”が他社にはない魅力です。このような制度が、アクセンチュア体制下でどう扱われていくのか注目されます。
カルチャーマッチと定着率
制度面もさることながら、自由でエンジニア優位な社風に惹かれて入社した人材が、アクセンチュアの下でどの程度定着するのかは大きな関心事です。
人材紹介業界では、すでにスカウトへの返信がいくつか確認されているとのことですが、多くは“様子見”の段階ではないでしょうか。
給与自己決定制度についても、社員数400人に対し売上高は48億6,000万円とされており、制度上法外な年収を設定するのは困難です。ただし、アクセンチュアに移ることで給与が上振れする場合、それが残留理由となる可能性はあります。
ゆめみは売上高48億6000万円、営業利益4億4600万円、純資産19億9000万円(2024年12月期)。
アクセンチュアは本当はゆめみの何が欲しいのか?
このM&Aは、日本の中小受託開発会社の行く末を占う上で象徴的です。その核心は、「アクセンチュアはゆめみの何に価値を見出したのか?」という問いにあります。
開発人数?
ゆめみは400人規模の受託開発会社です。片岡代表のnoteにもあるように、生成AIの台頭によりエンジニア像の再定義が進んでいますが、全員がすぐ適応できるわけではありません。
ただし、人材紹介業界に話を聞くと、コンサルティングファームへの“エンジニア転職”は増加傾向にあり、アクセンチュアも開発人員を欲していたとみられます。高額な人材紹介フィーを払うより、企業ごと買収する方が効率的と判断した可能性は高いです。
その意味で、「開発人員の獲得」が今回の買収の主眼であった可能性は否定できません。IT業界全体で「純粋な実装要員」の需要が低下している中、アクセンチュアが求める人物像がどういったものなのか、どの程度の人数で充足するのかは興味深いポイントです。
ゆめみのブランド?
ゆめみのブランドに値段がついたという見方もできます。
ゆめみはITエンジニア界隈での知名度が高く、Developer eXperience AWARD 2024では4位を獲得しています。Developer eXperience AWARDそのものは過去noteでも言及しましたが、質問内容からするとITエンジニアに特化した人気投票です。
自社プロダクトを持たずクライアントワークでこの順位というのは驚異的です。上位はメルカリ、Google、LINEヤフー、マイクロソフトと並んでいます。
この手のランキングは、カンファレンス協賛やテックブログ運営、SNS露出などの工数勝負・予算勝負な面もあり、維持には相応のリソースが必要です。
ゆめみのブランド資産を、アクセンチュアがどのように活用するかは今後の見どころです。
受託開発会社の抱える案件?
2000年創業のWeb受託開発企業として、大手クライアントとの取引実績もあるゆめみ。
こうした案件やクライアント関係性が目的だった可能性もあります。ただし、アクセンチュアブランドに切り替わることで「料金2〜3倍」になるとしたら、発注側が受け入れるのかという懸念も残ります。
受託開発会社のEXIT先としてのコンサルティングファーム
今後見直される東証上場基準では、「上場から5年で時価総額が100億円未満だと上場廃止の対象」とする案が検討されています。
このような背景もあり、M&Aはますます現実的なEXIT手段となっていくでしょう。多くの受託開発企業にとって、今回のゆめみのM&Aは“他人事ではない”出来事です。
「独立を貫くのか」
「大企業と合流して成長を加速させるのか」
それは、生成AI・SaaSの進化とともに揺れる、受託開発というビジネスモデルの行方そのものでもあります。
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