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兵庫県の文書問題に関する第三者委員会報告書(以下、本報告書という。)について。詳細はいずれ公表したいと考えていますが、本日はいくつかのポイントについてだけコメントしておきます。 ①日弁連のガイドラインによれば、調査に基づく「事実認定」は第三者委員会の専権事項であるが、法的評価については専権事項ではなく(他の法律家による評価を排除できず)、最終的には司法の判断に従うことになる。 ②いわゆる第3号通報であっても、公益通報者保護法第2条にいう「公益通報」の要件を満たす場合には、同法11条及び指針に定める体制整備義務が及ぶことは消費者庁が述べている通りであるが、本報告書による「公益通報」の認定はハードルが低すぎて、組織の破壊、対象者に対する誹謗中傷、業務妨害などといった不正目的での通報でも、簡単に「公益通報」の体裁を整えられてしまう点で不合理である。 ③具体的には、例えば、公益通報の対象法令が限定的であるために暴行罪や傷害罪に該当する場合にだけ「公益通報」となるパワハラについても、具体的な該当行為についての言及がなくても、「暴行罪や傷害罪」に当たる可能性があるとさえ記述しておけば「公益通報」の体裁を整えられるような認定基準になっている。 ④不正目的があれば「公益通報」に当たらないことは条文上明記されている。また、本報告書では、通報書面のみならずその後に発見された証拠によって「不正目的」を判断できると記載されている。ところが、本報告書は、再就職先が決まっていた者の通報には「不正の利益を得る目的」は認めにくいとか、退職予定者の場合は将来何らかの影響力を行使して「他人に損害を与える」可能性は低いとか、「関係者の名誉を棄損することが目的ではないので、取扱いには配慮するように」と書いておけば「他人に損害を与える目的」は無かったことになるなど、およそ経験則からかけ離れた認定を行っている。本報告書の文脈からすれば、本報告書は、後に発見された公用パソコンの中身をどのように評価したのかを、プライバシーに配慮しつつ、最大限明らかにすべきではなかったのか。 ⑤本報告書は、今回の事案がイレギュラーなものであることを踏まえていない。第1号通報であれば、指針に基づいて整備されている調査体制を作動させることができるし、情報は内部にとどまっているので、特に匿名通報者を探索することなく粛々と調査を進めればよかっただろう。しかし、今回は、第3号通報がたまたま知事の知るところとなったという想定外のケースである。本報告書は、この時点での探索禁止だけを検討しているが、指針では、情報の範囲外共有も厳しく禁止されている。その意味では、第1号通報のために用意された内部通報の調査体制をワークさせることも、条例等を作って第三者委員会を立ち上げることも難しい事案であった。他方で、選挙前のクーデターや第三者に対する誹謗中傷につながりかねない状況(事実、本報告書で明らかになったように、いくつかのパワハラを除き通報書面に記載された内容のほとんどは事実ではなかった)をかんがみれば、通報者を探索し、その者にさらなる誹謗中傷を思いとどまらせる必要性が高かった事案たっだと考えられる。 ⑥本報告書の立場では、このような場合であっても、通報対象者は何もせずに組織の崩壊や誹謗中傷を指を加えて甘受すべきことになるが、これでは、組織の破壊、対象者への誹謗中傷、業務妨害などといった不正目的での行動を阻止できず、組織に連なる労働者やその家族を悪意の攻撃から守れない。公益通報は社会正義のために重要であり、最大限尊重されなければならないが、それを装うことで不正目的を容易に実現できることもまた防止しなければならない。 ⑦その意味で、本件において最も重要な問題は、探索が許される「やむを得ない」場合の意味をどのように解釈するかという点にある。この点、本報告書は、「公益通報として取り上げ」る場合の例外であって、例えば公益通報として取り上げないために「不正目的」を調査するような場合は含まれないと解釈している。しかし、公益通報として取り上げるつもりで、その実効性を確保するために探索をした結果、不正目的が見つかる場合もあるわけで、この区別は結果論でしかない。いずれにせよ、この点に関する本報告書の解釈基準は第三者委員会独自の見解であって、最終的には司法の判断によらなければ決着がつかない問題である。