銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:TSエゴイスト

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突然、銀英伝で波動砲を撃ちたくなったので書きました。






生まれ変わっても技術狂

科学者や技術者にとって「こんなこともあろうかと」と言って状況をひっくり返すことは至高の喜びの一つだろう。どうあがいても勝てなそうな敵、どうやっても間に合わなそうな旅、どうやっても助からない病。そんな絶望的な状況を明晰な頭脳と丹念な準備でひっくり返す。物語の中心になりにくい彼らにもっとも光があたる瞬間。それがまさにこのセリフを放つときである。

 

そんな夢に向かって進み続けたある男は、その途上の実験で予想外の爆発に巻き込まれてこの世を去ることになる。目指していた状況とは真逆の最期を迎えた男はしかし、気が付くとはるか未来の宇宙に転生していた。それも、幼気な少女として。

しかし、彼は、いや彼女は決して諦めない。この宇宙時代は技術がものをいう時代。そう、「こんなこともあろうかと」とはこの時代のためにある言葉なのだ。

 

彼女は己の追い求める技術のために進み続ける。たとえそれにどんな犠牲がついてきたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦484年1月、メルゲントハイム伯爵領 自由浮遊惑星トルン side: リリーナ

 

 

 

 

 

「おほほほほほっ、素晴らしいわ!!!まさに私が思った通りの威力よ!!」

 

大宇宙を漂う数あるガス惑星、メルゲントハイム伯爵領に存在するその惑星の軌道上では一人の少女の高笑いが響いていた。少女の名はリリーナ、第20代メルゲントハイム伯爵、リリーナ・フォン・メルゲントハイムがその正式な名であった。

 

そして、少女の眼下で繰り広げられているそれは、宇宙船から打ち出された一筋のエネルギー弾が標的に命中、貫通する光景であった。普通の戦艦より少し小ぶりなその船は、前方に長く突き出した一本の砲塔を軸に円筒形に近い形状をしている。エンジンから砲塔までが完全に回転対称を成しており、回転しながら打ち出されたエネルギー弾は細かく絞り上げられながら厚い装甲を撃ちぬいていた。

 

「射程や命中率に若干の課題があるようだけど、まあ、最低限の実用化は出来たと考えてよいでしょう。次は量産化に進む必要があるわ。流石は私自らが鍛え上げたチーム。この調子で最終目標の波動砲の開発に向けて頑張ってもらいましょう。」

 

5歳で父から家督を受け継いだリリーナが開発を命じ、5年間自ら陣頭指揮を取ってようやく完成させたそれは中性子衝撃砲*1 と呼ばれる全く新しい大砲であった。連続放出で装甲を削る従来のビーム砲に比べ、同じエネルギーでも波長と位相をそろえてパルス的に打ち出すことでより高い貫通効果を持つことができる。いうのは簡単だが完成までには多大な犠牲が生じるものだ。そして、その一つが予算であった。

 

「姫様。もうお止めください。このままでは先代様、先々代様が築き上げたこのメルゲントハイムは荒廃してしまいます。」

 

家臣たちが危惧する通り、リリーナはメルゲントハイム伯爵領のあらゆる財物を技術開発へと注ぎ込んでいた。中性子衝撃波砲、炭素核兵器、高調波ワープエンジン、食料合成プラント、自律型産業用ロボット、そして次元波動エネルギー転換器。リリーナはそれら大量のプロジェクトにもてる限り全ての予算を注ぎ込み、そして自らプロジェクトを率いていた。その代償として行政サービスの質は最低限に、インフラ整備も技術発展に必要な場所に絞る。

 

それでも全くもって予算は足りない。いくら搾り取ろうとしても領民からとれるものには限度がある。だからこそ、先祖伝来の美術品だろうがルドルフ大帝から下賜されたという家宝だろうが売れるものはなんでも売り払っている。もちろん家臣は反対したが、売れるのなら首都でも切り売りしたいというリリーナの発言に恐れおののき、せめて買い戻せなくもない美術品をとなったのだ。この前は旧型艦だからという理由で伯爵家の艦隊をそのまま売却し、挙句の果てには領地を担保にといって商人から強引な借り入れを行っていた。

 

しかし、リリーナも何も考えていないということは無い。

 

「何を言っているのかしら。メルゲントハイムは荒廃などしないわ。むしろ、この新しい技術のお陰で発展しているはずよ。そもそも宇宙時代にこんな原始的な産業が存在していることが驚きだわ。」

 

 

リリーナの言っていることはあながち間違いではない。食糧合成プラントは分子レベルで栄養素を組み立ててそれらを固めることで食糧を生産する。すなわち、農業に頼らない食糧生産が可能になった。試作段階の炭素核兵器*2は100km規模の天体の破砕を可能にし、金属資源の開発を容易にした。自律型産業用ロボットは工場の生産性を大きく引き上げた。そして、高調波ワープエンジンが搭載された輸送艦はその効率性によって輸送のコストを下げることに成功していた。

 

いまや、メルゲントハイム伯爵領は経済の大転換期を迎えており、近隣星系への輸出は急増、それを食糧合成プラントのために都市に出てきた農業従事者による生産増で賄っていた。農地は次々と工場に置き換えられ、領内の衛星には次々と資源採掘基地が作られる。

 

「しかし、その労働者の労働環境はとんでもなく酷いものです。そのうえ、流れ込んでも仕事のないものがスラムを形成して治安が悪化しております。加えて、他の貴族家との関係もお考え下さい。近頃、オーディンでは姫様の悪評がバラまかれているとのこと。何卒お考え直しを。」

 

もちろん、急激な社会構造の変革には必ず痛みを伴う。労働力の割り振りが適切でないことや、必要な技能に達していないことも多く、過渡期故の大量のミスマッチが発生する。メルゲントハイム伯爵領には混沌が渦巻いていた。

 

しかし、リリーナはとどまることを知らない。

 

「労働者の環境なんてそのうち何とかなるわ。それからオーディンの連中は放っておきなさい。どうせ何も出来ないんだから。あんなものは停滞と怠惰の象徴でしかないわ。そして、波動砲は男のロマンよ。私が目指して何が悪いのよ。さあまずは新型砲を搭載した艦隊を作るわよ。」

 

すっかり身に慣れ親しんだ口調で話すその少女の目の奥には、前世から変わらぬ暴走癖が既に隠しきれなくなっていた。

 

早速、リリーナは自由浮遊惑星トルンの衛星軌道上にある造船所の大規模な拡張工事を始める。とりあえずの費用は領内に最近出入りするようになった商人からの借金でまかなうことにして、リリーナは大量の資源を買いあさり始めたのだった。

 

しかし、いずれにしろ近いうちに資金ショートを生じることは明らかで、リリーナは次なる資金源を探す必要に迫られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国暦484年12月、メルゲントハイム伯爵領 自由浮遊惑星トルン side: リリーナ

 

 

「お金がない!!驚くほどにお金がないわ!!!!」

 

 

中性子衝撃砲を搭載した新型艦の完成から1年近くが経ち、いよいよ本格的に量産に入り始めた12月。案の定リリーナは深刻な資金不足に陥っていた。

 

新型艦建造のための資源の確保と専用ドックの建造に大量の資金を吐き出した一方で、近年軌道に乗っていた食糧の輸出は安い食糧の流通で農業が破壊されかねないことを危惧した近隣の貴族たちから続々と禁輸とされていた。彼らとのパイプを持っていたら多少の便宜を図ってもらえるかもしれないが、そういう付き合いにかかる金をケチったリリーナにはそんな繋がりはない。

踏み倒しに近い借り換えを何度も行っているので、これ以上は商人たちから巻き上げるのも難しい。

 

「艦隊は持っているだけでもお金が掛かるのに、輸送船みたいに稼げないのが問題だわ。   …そうだ!良いことを思いついたわ!!」

 

 

 

 

 

*1
陽電子衝撃砲(ショックカノン)の中性子版

*2
水素爆弾をトリガーに炭素核融合による爆発を生じさせる高威力核兵器





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