日本で一番わかりやすくてためになる小さな飲食店の始め方 300万円でお店をやろう
たまにお客様から「お店でお酒を出すのって、何か免許はいるんですか?」とか「夜の12時をこえてお酒を出すのって風営法はどう関係しているんですか?」とか「お店を出すのに調理師免許がいるんですよね」とかって質問をされることがあるのですが、実は、日本では、「食品衛生責任者」という資格を持っているだけで小さい飲食店は始められます。この「小さい」ですが、店内で店員の数とお客様を足してその数が30人までのことです。
ちなみに、僕がやっているbar bossaは席数は18席で、働いているのは僕1人だけなので、食品衛生責任者の資格だけで大丈夫です。これで24時間、お酒も出せますし、焼き肉も刺身も出せます。
店内での店員数とお客様の数が30人以上の場合は防火管理者というのが必要です。
どちらも講習を受けるだけです。テストもないです。
食品衛生責任者というのは、保健所に連絡して、「今度、飲食店を渋谷でやろうと思ってまして、食品衛生責任者の資格をとりたいんですけど」と言えば、講習会の日時を教えてくれるので、それを1日うけて、12000円支払えば資格はもらえます。講習内容は、食中毒のこととか、衛生のことを教えてくれます。この資格は生涯なくなることはありません。
防火管理者です。300平方メートル以下は乙種防火管理者で1日の受講で取得できます。300平方メートル以上は甲種防火管理者で2日の受講で取得できます。どちらも7000円から8000円です。管轄の消防署に「防火管理者をとりたいんですけど」と言えば、講習会の日時を教えてくれます。
さてここでは、30人以下の小さいお店を想定します。
お店を始める方法ですが、例えば渋谷の目についた不動産屋さんに行って、「10坪くらいのバーをやりたいんですけど、このあたりで良い物件ないですか?」って言って、見せてもらって、気に入ったら契約して、内装を内装業者さんにお願いして、内装を作っている間に食品衛生責任者をとって、内装が完成したら、保健所の人にチェックしてもらって、営業許可証をもらえば、その日から、例えば、ビールを酒屋さんで200円で買ってきて、「いらっしゃいませ」って言って、800円で売るという営業が始められます。
ちなみに、営業許可証は必ずくれます。もちろん洗い場の大きさとかいろいろ条件があるのですが、内装業者の人はその条件を知ってるので、それに合わせて作ってくれます。だからまず許可は出ます。
日本はとにかく飲食店開業のハードルが低いんです。だからどうしても廃業率は高いです。廃業する理由を検索して調べてみました。
●初期投資の費用が高い
一般的には10坪から15坪のお店で1000万円くらいかけてます。後で説明しますが、かけない方法はたくさんあります。
●リサーチや計画、集客に関する知識が浅い
ハードルが低いから、素人が参加するためとのことです。
●人手不足
これは後で見ていきますが、人件費が一番かかります。やりたい人がいないというのが原因です。
逆に、この上の3つをクリヤーしたら、やっていけます。この本は、僕が今までいろいろ見てきて経験してきた、「失敗しない店づくり」を教えます。
でも、そんな廃業率の高い飲食店を、なぜ僕がすすめるのか、です。
まず、これからこそ飲食店は求められるからです。
①リモートワークの時代が始まって、やっぱり僕たちは「どこかで誰かと会いたい」と強く思いはじめてます。僕たち日本人って、誰かの家を訪問するホームパーティーではなく、飲食店で人と会おうとします。
②マッチングアプリで出会った場合、どんな飲食店を利用するかっていうのが大きいです。デート需要がある限り、飲食店ってなくなりません。
③これから多くの飲食店は人件費を抑えるため、ロボット化が進みます。そうなると、逆に「人間が料理を目の前で作って人間が『久しぶりです。そういえば紹介したい人がいるんですよ』って話しかけてくるお店」を選ぶ人が増えます。
次の理由は、やりがいがあるからです。
①働いて経営している側は、目の前にいる人たちが評価してくれて、それが全部自分のお金になるので、すごくやりがいがあります。「この仕事、この作業って、何のためになってるんだろう? 誰のためになってるんだろう? これって自分以外の人がやってもいいんじゃないかなあ」なんて疑問は出てこないです。僕は毎日、「bar bossaのバーテンダーは僕しかできないこの仕事」と感じてます。
②全部自分で決められるのがいいです。値上げをしようかなあ、それともここで儲かるようにしようかなあって、毎日自分で考えて、自分で決めて、それがダイレクトにお客様の評価やお金になるって、すごく面白いです。
③やり方次第で収入は上がります。もちろんあなたが今の収入が年収2000万円なら下がりますが、自分で飲食店を経営して、いつもずっとお客様が入れば、一般的なサラリーマンよりも収入は上がります。
まず、飲食店の原価率は、売り上げの3割までと言われています。
例えば、焼き魚定食を出すとして、ご飯が1杯50円、鯖が100円、お味噌汁、大根おろし、ほうれん草のおひたし、納豆やお漬物なんか全てをいれて、全部を300円以内にして、それがやっと1000円で売れるということです。
例えば、これがジントニックだとすると、ジンは30ミリリットルで50円、トニックウオーターが30円、氷とライム1切れで20円で、合計100円。800円で出して、原価率は2割になります。
ギムレットだとすると、ジンは45ミリリットルで70円。ライムが30円で、原価は100円。シェイカーで振って、お出しするので1000円とか1200円になるので、原価率は1割になります。
これがもう少し安いロックバーや若い人が入る居酒屋の場合、例えばハイボールはウイスキーのブラックニッカやトリスの4リットルボトルが3500円で、氷は製氷機と考えて、原価は40円で、500円で出しても原価率は1割にいかないです。
カフェだと、もちろんどんなコーヒーを使うかによりますが、コーヒーの原価は10%と言われてます。400円のコーヒーの場合、40円が原価です。
さっき検索したら、お刺身は原価は5割だそうです。捨てる分も大きそうです。でも同じ居酒屋のポテトサラダは原価1割かもです。ハイボールや酎ハイや、お通し500円で儲かったり、それらを全部入れて、ならして、3割以内にする、というのが、飲食店のルールというわけです。
飲食店で儲かるには、まず「原価を下げること」です。
お祭りの屋台で出しているものが原価率が低くて儲かるってよく言われますよね。かき氷は、氷とシロップだけですし、たこ焼き、焼きそば、飴、ジャガイモ等々、何を出せば原価が安く抑えられるかっていうのを考えてみてください。
【儲かるお店とは】
ここで一番有名な目安を言いますと、お店の家賃を、売り上げ3日分で出すと、そのお店は儲かっているというものがあります。
20万円の家賃として、1日7万円弱の売り上げがあればいいということです。
20万円の家賃ということは、都内で、杉並区の相場が1坪2万円、世田谷区の相場が1坪2万5千円ということですので、1坪16000円とか17000円くらいで12坪の物件を探すとします。もちろんこれは例えばです。
ちなみに僕がやっているバーは渋谷で13坪で22万円なので、1坪17000円弱です。探せば渋谷でもあるというわけです。
こちらの図を見てください。このパーセントは、一般的な飲食店の目安です。すごく有名な図で、どのお店もこれで計算しています。仮に、20万円の家賃で、1日の売り上げが7万円弱で、30日営業して、1ヶ月の売り上げが200万円と考えると、こういう図になります。
人件費に結構かかってしまうのがわかると思います。そして今は人手不足です。
例えば、バーをひとりでやるとしますと、この人件費の部分がゼロなんです。
さすがに日曜日と祝日は休むとして、営業日が25日となって、7万円×25で、売り上げが175万円になりますが、誰も雇わないと人件費分の数十万円が経営者でバーテンダーの人に入るのはわかりますでしょうか。
そして食材費も下げてみましょう。例えばバーの場合は、生魚とかサラダ用の葉っぱものなんかを扱ってなくて、とにかく捨てるモノがないので、この食材費の部分も下がっていきます。
ですので、1店舗目をやるときは、まずひとりで全部やれるっていうのを考えた方が良いです。すごく忙しくなってきて、お店の前に行列ができたりしはじめたら、売り上げは上がるので、そこで初めて、忙しい時間帯だけはバイトをいれて、そのバイト代は20万円までにおさえておけば、自分の取り分はずっと高い数字、例えば100万円とかを見込めるという計算です。
さて、この1日の売り上げが7万円っていうのを、どうやって生み出すかについて考えてみます。
飲食店の売り上げは、お客様1人が使ってくれる金額の平均(これを平均単価といいます)×お客様の人数で決まります。例えば、レコードがかかって、カジュアルなバーだとひとり5杯飲む人もいれば、1杯の人もいて、おつまみをいくつか頼んでいただいて、まあ平均単価が3000円でしょうか。
1日70000円の売り上げにいくには、平均3000円のお客様が24人いれば、達成します。
そういう高円寺とか三茶にありそうなバーを想像していただけますでしょうか。7時開店で夜の2時に閉めるとして、12坪で席数が16席くらいと考えます。ちなみに僕のバーは13坪で18席です。20年前のすごく忙しい時期は夜の8時から朝の4時までという営業だったのですが、24人って普通に来店してくれます。
これがカフェだと、コーヒー1杯で500円の人もいれば、カレーがあったり、ケーキがあったりして、ちょっとお酒を2杯3杯飲む人もいて、平均単価は1500円くらいと考えますと、48人が必要です。16席が3回まわるので、これを3回転と呼びます。昼の12時から夜の9時まで営業して、すごく人気のカフェでそのくらいはいくかなって感じでしょうか。
これが、カレー屋さんだと、ご飯に仕込んでおいたカレーをかけるだけだから一人でやれそうかな、みんなセットにしてもらって、平均単価は1800円くらいまでいくかな、とか計算していくわけです。
この計算、本当に「ざっくり」です。同業者の方に叱られそうなので、先に言い訳しますと、本当はもっともっと詰めて考えるのですが、この本は「日本一わかりやすい」を目指してます。「ああ、そうかあ。あの蕎麦屋さん、原価率は低そうだなあ。この店は20席でランチタイムは2回転で40人で」とか、「あのバーは家賃安いだろうなあ。単価はすごく高そう。1日10人来店したら7万円いきそう」とかって考えてもらうきっかけになればと思います。
【飲食店で働いてお店の仕組みを知ろう】
飲食店で働いておいた方がいいのかどうかっていうのも、よく聞かれるのですが、最低半年でも、自分がやろうと思っている業態のお店で働いた方が良いです。
まず、自分がやろうとするお店の大体の平均単価や回転率がわかります。
実は飲食店って、平均単価と回転率を上げるっていうのが、大きな大きなテーマなんですね。
1日に7万円の売り上げを生み出すには、っていうのをもう一度考えて下さい。
例えば、牛丼屋さんって、平均単価が700円くらいでしょうか。そうなると1日7万円いくには、100人のお客様が必要です。もうとにかく早く、10秒くらいで料理は提供できて、すぐに食べてもらって、すぐに帰っていただくっていうのを繰り返すわけです。これを回転率を上げるって言います。
あるいは、カウンター6席の1万円のコースだけのお寿司屋さんにしてしまえば、他にもいろいろドリンクを注文していただいて、1日7万円以上はじゅうぶん達成しそうです。コースだけなので、捨てる食材も少ないので、この寿司屋の大将はひとりで切り盛りして、すごく安い家賃の物件でやれば、彼の年収は1500万円くらいになるかもしれません(上の図を思い出して下さい)。平均単価を上げるというののわかりやすい例です。
要するに、飲食店がいかに儲けるかって、この二つです。
とにかくたくさんのお客様に来ていただいて、食べ終わったらすぐに帰っていただいて、新しいお客様に座っていただいて、っていうのを繰り返すのがひとつと、
もうひとつは、クラブやスナックや高級バーみたいに「最初から高いのが当然」っていうスタイルにするとか、高いけど他では食べられない料理を食べられるスタイルにするとかっていうのがひとつです。
普通の飲食店は、その二つの、回転率と平均単価を上げるっていうのをバランスをとりながら、儲かるところを考えています。
それで、単価を上げたくて、お客様のグラスが空になったら、「おかわりお持ちしましょうか」ばっかり言うと、ちょっと感じ悪いじゃないですか。そこで、お店によっては、「そのワイン美味しかったですか? だったら、こっちも美味しいですよ。今から出る豚肉の料理にもあいますよ」って伝えて、もう1杯注文していただくっていうような「オススメの仕方」があります。あるいは、最近流行りの、全部の料理に全部ペアリングでドリンクをご用意するっていうのも単価は上がりますよね。
あるいは回転率を上げるですが、まずご存じ、「1時間半制」っていうのですよね。
例えばですが、1時間食べ放題や飲み放題のお店って、実は「1時間で帰っていただける」っていうのが大きいんですね。
カフェだと1杯500円でテーブルを2時間占拠されることもあって、お店の儲けはそのテーブル2時間で450円ですが、食べ放題飲み放題だと1時間のそのテーブルでの儲けはもっと見込めるし、2時間で2組が座れます。それは回転率を上げているからです。
あるいは、スナックやガールズバーだと、回転しなくても、延長料金というような儲け方もあります。
あるいは、立ち飲みにしてしまえば、たくさんお客さんが来ても、詰めてもらえるので、お客さんが帰らなくもいいです。
現在の儲かっているお店はそういう単価を上げることや回転率を上げることばかりを常に考えてまして、それが学べます。そういうのって儲かっているお店で働かないとわからないです。
あと、ヒマな日と忙しい日のイメージがつきやすいです。このカフェはいつもすごく入ってる、これは回転率このくらいだなあと思っても、実は平日の4時ごろは全然入ってないってことはあります。すごく寒くて雨の日は駅から離れていると全然来ないとか、週末は朝までずっと来店するとか、だいたいの予想がつくようになって自分がやるお店を想像できるようになります。
どこで儲かるかがわかります。僕がバーテンダー修行したときのバーは、チャージをいただいていたので、チャージ600円で1ヶ月40万円くらいいってて、もちろん材料費はちょっとしたナッツだったので、そのチャージだけでバーテンダーの給料がでます。すごく勉強になりました。
同様に僕も最初はチャージを導入しました。これは、あるバーの先輩に、「渋谷で音楽のバーをやると若くてお金のない人たちの溜まり場になるから、あえてチャージを準備しろ」と言われたからです。ビール1杯700円で、チャージ500円で、お客様が支払いの時に1000円札を用意しているところに、1200円ですって伝えて、お客様に「高い」と思われたら、そういう人は来なくて良いというわけです。そういう現場ならではの仕組みのことを学ぶって大きいです。
仕入れ先がわかります。お酒は酒屋さんで、チーズはチーズ屋さんで配達してくれるし、八百屋さんやお肉屋さんや魚屋さんも、実は全部配達してくれます。そして、これは師匠の中村さんから教えてもらったのですが、八百屋さんに高圧的な言い方ではなく「あの前のレタスちょっとダメでしたー」みたいに細かく伝えると、「あのお店はわかってるから、料理人がバイトじゃないから、ちゃんとしたモノを持って行かなきゃ」っていう風になるそうです。そういう仕入れ先の業者さんとの良い関係の作り方も学べます。そういうのって働かないとわからないです。
ここで僕がよく質問される、ワインの仕入れ方です。どこかで美味しいワインを飲んだとしますよね。ワインって裏側を見ると、インポーターが書いてあるんですね。そこに、電話して「美味しかったんで、このワインを仕入れたいんですが」って言えば、仕入れ値やいろんな条件を教えてくれます。そして場合によっては、そのインポーターさんが「試飲会やってるんで来てください」って教えてもらえます。他にもいろんなハムやオリーブのような食材専門業者もあって、試食会っていうのもたくさんやっていて、そういうのも教えてもらえます。
他人のお店でいろんなことが試せます。僕の場合は、僕がバーテンダー修業したバーは日曜日は定休日だったのですが、「このバーをひとりで回せるかどうか」っていうのが気になって、師匠の中村さんに「日曜日に開店して、ひとりで回させてくれ」ってお願いしたことがありました。このくらいのバーならひとりで回せるんだなあって学べました。
それと、パーティーをやらせてくれっていうのをお願いしました。僕がミュージシャンとDJを呼んで、お客様はひとり6000円くらいでやって50人以上来て、30万円以上の売り上げが出て、すごく良い経験になりました。
どういうお客様がどういうお金の使い方をしてくれるのかっていうのがわかります。僕がバーテンダー修業したフェアグランドは、いわゆる業界人バーだったのですが、こういう会社はこういう風に領収証で飲めるとか、こういう人は自分のお小遣いで飲んでいるとか、フリーランスの人はこういうことになっているとかっていうのがわかりました。そういうのって、やっぱり一度働かないと学べません。
【お店のコンセプトを決めましょう】
(これ、他の飲食店開業本をたくさん読んだのですが、全然これに関しては詳しく書いたのがなくて、でも実はこのコンセプトが一番大きいと思っています)
例えば、僕がやっているバーはボサノヴァがかかるバーで、28年前にはそんなバーはなかったので、「BAR BOSSA」と決めました。ボサノヴァという音楽に興味がある人数が日本に10万人いるという話も聞いたことがあるので、「そうかあ。ボサノヴァのバーか。一度行ってみよう」と思わせるためです。この「店名」がすでに「広告、宣伝」になっているのはお気づきでしょうか。
例えば、あなたがBTSのファンで、BTSファンがやっているBTSがテーマの「ARMY」というカフェがあれば、一度は立ち寄りたいですよね。同様に、「バルス」という名前の居酒屋や、「毎日がクリスマスだったらいいのに」という名前のレストランがあれば、気になりますよね。
(→毎日がクリスマスのレストランは、「いらっしゃいませ」の代わりに、夏でもサンタの帽子を被ったスタッフが「メリークリスマス」って言います)
中野の新井薬師のロンパーチッチというジャズ喫茶を経営している斉藤さんに聞いたのですが、ジャズ喫茶というだけで、わざわざ来てくれる人たちがすごくたくさんいるようなんです。
遠くからでもお店を目指してやってくる人たちが全国にたくさんいるって、大きいです。もちろん、僕のバーも、半分くらいは近所でお勤めだったり、通勤で渋谷を使う人だったりするお客様なのですが、それ以外をたくさん持つには、何かでそのお店を知って、「気になって気になって、一度はそのお店に行ってみたいって感じてもらう」ってすごく大きいです。
あるレコード会社の人に聞いたのですが、ある音楽を聴いてもらうには、フック、ひっかかるものが最低でも三つ必要らしいんです。「死ぬ直前の坂本龍一参加」と「この曲のダンスが若い人でブーム」と「ボーカルが元〇〇」と三つがあって、やっと聴いてくれるそうなんです。確かに、それのどれかひとつだけだと検索してまで聞かないかもですよね。
あるいは、ある映画会社の人に聞いたのですが、ある映画を見てもらうには、4カ所でその映画の宣伝や予告編を見てもらう必要があるらしくて、ネットで偶然予告編動画を見て、インフルエンサーが面白いって投稿してて、街中でポスターを見かけて、知ってるカフェでフライヤーを見て、それで「じゃあこの映画見てみようかな」ってやっと行動してくれるそうです。
そう言われてみればそうですよね。1回どこかで見かけたからって、映画館に見に行かないです。何度も何度も見かけて、「じゃあ行ってみようかな」って行動に移ります。
飲食店も同じです。1回くらい誰かの投稿で見ても、わざわざ違う街のそのお店には行かないです。
そして、メディアにとりあげてもらったり、SNSで投稿してもらったりするのって、「コンセプトがはっきりしているお店」「このお店はこういうお店」っていう方が、みんなとりあげやすいんです。
今、あなたがどこかのメディアのライターや編集者になったとして、街の飲食店を紹介するとなったら、「このお店は全部ビーガンで、自分たちが栽培している野菜で、シェフはイタリアで修業して、かかるBGMのレコードはイタリアのジャズだけ」とかだと、取材して書きやすいじゃないですか。
そういう、「何かタイトルにしやすいもの、わかりやすいコンセプト」があると、「あのお店行ってきました。ビーガンって美味しいですね」みたいに投稿したくなります。
「美味しいものをちゃんとした価格で良い雰囲気の場所で良い接客」っていう飲食店でも、ダメなことって普通にあります。
それよりも、何か明確なコンセプトが必要です。例えばですが、下のようなものでしょうか(もちろん例はわかりやすく書いているだけです。ガンダム居酒屋がいけるかどうかは疑問ですので)。
①そんなお店他にない (毎日がクリスマスのお店)
②そのお店は自分のためのお店だ (ガンダム居酒屋 ランチはシャー丼とかザク定食とか)
③それは1回食べてみたい (ジョージア料理、江戸時代の蕎麦屋再現料理)
ちなみに、そういう「コンセプト」って、最初に来店してもらうきっかけです。bar bossaってボサノヴァのバーですけど、誰もボサノヴァを聞きに来てはいません。でも今毎日のように来店してくれている新しい外国人のお客様は全員、「ボサノヴァとワインのお店」と思って来店してくれます。そして、彼らがネットで「このバー良かったよ」ってアップしてくれます。
【お店の名前】
名前って実はすごく大きいです。カタカナで覚えられないって弱いです。ええと、ほらフランス語で、なんて言ったっけってなると、検索しても出てこないので、弱いです。
よく言われるのは、日本の年輩の人にお店の名前を見せて、この名前をどう思いますか? って聞いて、発音してもらうのがいいっていうのがあります。そこでその年配の方が読めなかったり、とまどったりしてたら、日本人全員には覚えてもらえない可能性が高いです。
例えば、下北沢に茄子おやじというカレー屋さんがあります。覚えやすいです。あるいは渋谷にアヒル、三茶にウグイスというお店があります。覚えやすいです。あるいは西荻のオルガンっていう名前ですが、子どもでも知っている単純な単語って強いです。
高橋とかっていう自分の名前をつける場合もありますが、弱いです。だったら、町田さんという女性が、初台でマチルダというお店をやってて、そっちが覚えやすいです。
名前って大したことないって思いがちですが、実はすごく大きいと知っていてください。
名前を決めたら、そのお店の名前を周りのみんなに伝えましょう。そうなると、あなたの心の中でもそのお店のイメージが出来てきます。
例えば、「西麻布で茄子おやじだとこんな内装かなあ」とイメージがしやすくなったり、周りの友人からも「オルガンっていつ開店なの?」って言われるようになるので、「いつかお店をやろう」と言うのよりも、もっともっと具体的になってきます。
具体的なコンセプトと名前を決めると、いろんなことが動き出します。ゆっくり考えてみてください。
【物件を探しましょう】
まず、あなたが始めたい飲食店のコンセプトがなんとなく決まりましたよね。このくらいの年齢層かなあ、お客様の金銭感覚はこのくらいだから、生ビール1杯の金額は800円くらいで、コーヒー1杯の金額は600円くらいで、グラスワインは1杯1000円くらいで、例えばランチをやるとしたらドリンク付きで1500円くらいは大丈夫な層かな、とかなんとかイメージができていますよね。
よくある手法ですが、具体的に誰か友人や同僚なんかを何人か想像して、「この人がお客様として来店するかどうか」を考えてみて下さい。その人たちがいつもどのくらいの金銭感覚で、どういうお店を使っているかを考えてみて下さい。僕の場合は、「僕と妻が二人で行くかどうか」を常に想像することにしています。
そのお客様はどのあたりに住んでいるか、どのあたりでお勤めなのかっていうのを考えます。
例えば、僕と妻は、井の頭線に住んでいて、渋谷で働いています。車で移動はしません。たまに買い物や映画やヨガで新宿や銀座に行くし、たまに吉祥寺や下北沢にも行くし、井の頭線の近所の駅も行きます。でも結局は職場のある渋谷で一番飲食店の利用をします。
基本的にワインが飲める、がっつりお食事ではなく、ちょっとしたおつまみが食べられて、二人で8千円から1万5千円くらいのお店に行きますが、青山や広尾や代官山や恵比寿や中目や三茶くらいまでなら、「渋谷周辺」と感じてます。
そのあたりの物件の相場を調べてみましょう。もちろんネットで調べても簡単ですが、まずその街に行きましょう。
駅前にいろんな不動産屋さんがあります。外にいろいろ物件情報が貼ってあります。なるほど、ここは店舗物件がたくさん貼ってあるなあと判断したら、思い切って扉をあけて、「すいません。10坪くらいでバーをやろうと思ってるんですけど、何か物件を紹介していただけますか」と聞いてみましょう。
ここで不動産屋さんの気持ちになってみてください。今出会ったばかりで、まだ一店舗もやってない実績のない若者が「バーやりたいんですけど」って来て、その人にすごく良い物件を紹介しますか? その若者、「お洒落なバーにします」とか言ってるけど、どんなバーをやるか予想つかないですよね。ヤクザが出入りするバーを始めるかもしれないし、薬物とか事件を起こすようなバーを始めるかもしれません。そこまでいかなくても、料理の臭いや煙とか、入り口で酔っ払いが騒ぐとかいろんな可能性があります。不動産屋さんとしては、ビルオーナーさんに、「あの不動産屋さんに任せておくと、必ず良いお店が入るんだよなあ。全部任せよう」って思われるのが一番です。
不動産屋さんは紹介が一番です。周りにちょっとでも知り合いがいたら、紹介してもらいましょう。お店って物件でほぼ決まるんですね。良い物件と出会うには、不動産屋さんに、「お、このビルの1階空いたなあ。じゃあまず最初はボッサの林さんに、ちょっと連絡してみようかなあ」って思い出してもらうことです。
そして慣れてくればわかるのですが、不動産屋さんの外にいつまでも貼ってある物件や、ネットでいつまでも出ている物件は、「他の同業者のプロたち先輩たち」が、見向きもしなかった物件です。
まあそういう風にいろんな不動産屋さんを回って、「なるほど。この街はこのくらいの相場で、この暗い方にいくとちょっと安いんだなあ」と土地勘をつかみましょう。
【その街の特徴を知りましょう】
自分の話をしますと、下北沢で探してから、あきらめて、その後、恵比寿で探したのですが、坪3万から5万円とすごく高くてびっくりしてすぐにあきらめました。
後になって恵比寿で飲食店をやっている人に聞いたのですが、恵比寿で飲む人たちってたくさんいるけど、みんな新しいお洒落なお店に興味がある層なんですね。それで、何か新しいスタイルのお店が出来たら、予約が取れなくなったり行列ができたりするのですが、恵比寿で飲む人って、あきるのが早いらしくて「まだそのお店いってるの?」っていう空気になってしまうみたいで、ついこの間まで行列のお店があっという間に閑古鳥になるそうで、でも恵比寿でお店をやりたい人ってたくさんいるから、どんどんお店は潰れては新しく変わっていくそうです。
一方、新宿でお店をやっている人に聞いたのですが、新宿って、家賃はすごく高いんですね。でも、とにかく人口が多くてずっと毎日お客様が途絶えないそうです。その人はワインが飲めるビストロをやってて、そういうお店って新宿で働いている人や新宿駅で降りる人の数にくらべて、すごく少ないから、お客様がいつまでたっても少なくならないそうです。僕が「恵比寿は新しいお店、お洒落なお店しか入らない」という話をしたら、新宿はそこまでお洒落じゃなくても入ると言ってました。
こういう街の特徴っていうのがあります。
わかりやすいところだと、例えば早稲田のあたりって学生街で、ほぼ学校しかないから夏休みや冬休みは人がいなくなるそうなんです。家賃が安くても、夏は休みという計算をした方が良いです。
大手町のほうはもちろん土曜日日曜日祝日には人がいないです。家賃が30万円でも実は20日しか営業が出来ないから、新宿のような毎日人がいる街だと、家賃45万円の物件なんだなあと思いながら計算した方が良いです。
下北沢や吉祥寺や代官山は家賃は高いですが、客層が若いから高い単価は求められないっていうのはよく耳にします。
逆に銀座は、日本全国からお洒落して、「銀座は高い」と知ってて来る街です。日本の地方都市に大きい会社があってその役員とか、地方都市の議員さんがいますよね。その人たちが、昼に東京に来て、〇〇省に行ったり、会議をしたりした後に、みんなで銀座で会食して、その後に銀座のクラブやバーに流れるというのが多いそうなんです。
ちなみに、渋谷はNHKの街なんですね。NHKの中で毎日2万人働いていて、毎日出入り業者が2万人来るそうなんです。タワーレコードやパルコも、NHKが出来たから、成立した商業施設なんです。NHKに出入りしている人って、俳優さんやミュージシャンやダンサーやデザイナーや作家やメイクや料理家やとにかく、日本の一番すごい人たちでして、その人たちが、帰りに飲む場所が渋谷なんです。
さて、こういう情報ってどうやって入手するかを教えます。これはですね、その街の古くからやっているお店に入って、ちゃんとお金を使って、「この街でバーをやろうと思うんですけどどう思いますか?」って質問するのが一番です。
商店街の古そうな喫茶店とか、すごく長く続いているバーとか、あるいは若い店主がやっていてしっかりとその街に根付き始めた個人経営のカフェとかってありますよね。そういうお店に入って、お金を使って、「あの、すいません」って聞くと、すごく丁寧に教えてくれます。
【物件の契約をしましょう】
さて、物件ですが、1階と2階で迷うことってあると思います。一般的に、1階で開店すると、2階でやるよりも、売り上げは1,5倍以上と言われています。1,5倍ってすごく大きいですよね。一か月200万円と300万円の違いです。上の表を思い出してください。自分の年収が数百万円変わります。
でも逆に、2階はお客様を選べるというメリットがあります。わざわざ2階まで上がってくるお客さまって、そのお店を目指して来店してくれている方がほとんどなので、ミスマッチ度は少ないです。
1階のお店で働いたことのある方、やっぱりすごく困ったお客様っていますよね。2階だとそれがすごく少ないですが、売り上げは違います。天秤にかけてください。
あとご存じかとは思いますが、飲食店は、宴会や貸し切りパーティーを受けるっていうのが大きくて、そこで大きい金額が見込めます。細長い物件とか、大きい柱がいくつかあるよりも、広い1部屋の方がそういう風に使えます。
さて、「この物件良いな。ここにしようかな」と思ったら、また近所のお店に聞いて回るのがオススメです。あたりまえですが、不動産屋さんは、「この物件、どんなお店が入っても必ず潰れるんだよね」とは教えてくれません。
例えばですが、家賃が20万円と考えますよね。
他の地域だといろいろ違うかもしれないのですが、都内では基本的に保証金が10ヶ月分必要です。まず200万円です。これは保証金なので、出るときに一応戻ってくることになっていますが、保証金の償却年3%なんかもあるし、解約時1ヶ月とかの償却というのもあります。不動産屋さんに、「この200万円って出るときは全額戻ってくるんですか?」って、普通に質問すれば、すごく丁寧に教えてくれます。僕お店をやってわかったのは、「知らないことは詳しい人に聞けばみんな丁寧に教えてくれる」ということです。もちろん、原状回復工事なんかでその保証金から抜かれることもありますし、逆に追加費用となる場合もあります。
この保証金というスタイルではなくて、私鉄沿線の駅からすごく離れた安いところだと礼金2敷金2みたいな普通の住居みたいな場合もあるし、保証金6ヶ月みたいなのもあるし、すごく人気の場所だと保証金は家賃2年分というのもあります。渋谷のセンター街みたいなところって、保証金はすごく高くて、まず個人経営の人は払えないんですね。繁華街の駅前には大手会社の店舗しかないのはこういう理由もあるというわけです。
話戻ります。あとは、大家さんに、礼金1ヶ月20万円、前家賃1ヶ月20万円、それと不動産屋さんへ、仲介手数料として1ヶ月20万円がかかりますので、だいたい物件所得には、13ヶ月分かかると思ってください。この場合は、260万円ですね。
もちろん、それ以外に管理費とか看板設置費とかいろんな別の費用がかかる場合もあります。当然ですが、詳しくチェックしてください。
さて、「これだ!」と思ったら、そこで不動産屋さんに申し込みます。普通に良い物件だと、たくさんの人たちが申し込んでます。不動産屋さんが、「ああ。すいませんねえ。この物件、もうどうやら前に3件申し込みがあって、たぶんそのどれかに決まりそうな感じですよ」って教えてくれたりもします。
それで、しばらくは審査待ちなんですね。「やっぱりダメでした」みたいな電話が不動産屋さんから来ることもあれば、「大家さんと面談です」ってなることもあります。bar bossaの場合は、妻が色鉛筆で、すごく可愛いイラストを描きまして、「こんな雰囲気でやろうと思ってます」っていうのを二人で一生懸命、大家さんに語りまして、たぶんその印象が良かったのだと思います。決まりました。
ちなみに、渋谷のこの物件の前に、広尾で「これだ!」っていう物件があって、そこは申し込んだのですが、その物件を気に入ったアパレルが高い家賃を払うからとかなんかで、負けてしまいました。もうほんとこれは「運」です。今は渋谷のこの物件でよかったと思ってます。
ところで、不動産屋さんを回るのは、ヒマそうなときを狙って、手土産を持っていくのをオススメします。僕、奥渋谷で部屋を借りるとき、おばあちゃんがひとりでやってる、近所の古い小さい不動産屋さんに、お饅頭を持って行って、「よろしくお願いします」って渡したら、すごく好印象で、そのおばあちゃんから、電話がかかって来て「お兄ちゃん。良い物件空いたわよ」って教えてくれて、そこに決めました。ほんと、500円の手土産で印象はすごく良くなって人生が変わります。オススメします。
【内装工事をしましょう】
普通の物件は、何にもない床と壁があるだけの「スケルトン物件」という状況で渡されます。
その何にもない状況で、いちから内装工事の業者さんに依頼すると、費用は1坪40万円が目安と言われています。この物件は12坪なので、480万円が必要と言うわけですね。
物件取得に260万円かかって、内装費に480万円です。足して740万円ですね。まあこのくらいが、ギリギリひとりでやれる小さい飲食店を始める一般的な金額でしょうか。
内装工事はどんな会社を選べばいいのか、です。店舗の内装の会社はいっぱいあります。検索して、「ああ。こういう感じの内装を作ってくれるんだなあ」とかなんとかチェックして、気に入ったところに「渋谷のこういう場所でバーをやりたいんですけど、見積もりを出してもらえますか」って連絡するのが一般的です。こういうのはネット上にたくさんあります。
ちなみに、内装工事をしてくれる会社の人は、保健所のチェックポイントのこととか、揚げ物が多いお店はこういう風にした方がいいとか、一般的なカウンターは何センチとかは基本的に全部把握してくれているから、いろいろ教えてくれます。
見積もりを見せてもらって、「じゃあここは、そんなに高い木を使わなくても良いです。こういう風にしてもっと安くしてください」と具体的に交渉します。
ちなみに、bar bossaの物件は、妻が知り合いの設計の人にお願いして、その人が、カウンターの線を引いてくれて、それは大工さんにお願いして、電気工事と排水工事の業者さんを手配してくれて、というところまでやってもらいました。
それ以外の、壁や床の塗装は僕と友だちがやって、机は、妻と東急ハンズに行って、「すいません。バーの机を作りたいんですけど」って言ったら、木を切ってくれて、それへの塗装の仕方を教わって、塗料や刷毛を買って塗って、机の脚をハンズで注文して、二人でくっつけました。だからかなり素人仕事です。
でも内装業者さん、どこにしようか悩みますよね。
すごく良い方法をコーヒーハウスニシヤの西谷さんに教えてもらいました。西谷さんは、あるすごく内装が気に入ったバーがあったそうなんですね。そのお店の人に、どういう会社に依頼したのかを教えてもらって、紹介してもらって、その内装業者さんに決めたそうです。
だから、「このお店の内装いいなあ」と思ったら、そのお店でたくさんお金を使って、「すいません。今度自分のお店を始めたいんですけど、内装ってどこにお願いしたんですか」って質問するのが正解だと思います。ちなみにコーヒーハウスニシヤさんは、それで内装に1千万円近くかけてしまったのだけど、たまにお店を撮影場所として、1回5万円で貸していて全然元はとれたと仰ってました。
【300万円で開業しよう】
さて、この僕のお店開業の本は、「300万円で自分の小さいお店を始めよう」というのがサブタイトルでして、上のようなやり方ではもちろん、300万円では始められません。
飲食店の物件には、「居抜き」というのがあります。
例えば、5年間レストランをやってきたんだけど、もう三カ月後にやめようと思っているお店があるとして、まだ営業しているけど、そのお店の情報が不動産屋さんに出ているんですね。
そのレストランは本来なら、お店の内装を全部壊して、スケルトン状態に原状復帰して、それを大家さんにチェックしてもらって、撤退というのがルールなのですが、そのお店の経営者側としては原状復帰するのにお金がかかるのがもったいないんですね。「この内装をそのまま使ってくれる人がいれば、そのまま使ってください」っていうのを、「居ぬき物件」、「造作譲渡」と呼びます。
その撤退するレストランは内装に最初500万円かけていたとしますよね。5年間そのお店を使っていれば、その内装の価値は一般的に「半分くらい」という暗黙のルールがあるんですね。
そしたら、「そのレストランの内装付きで250万円ですよ」って、不動産屋さんが告知するんです。
新しく契約して入る人は、そのレストランの内装をそのまま使えばいいわけだから、契約して鍵をもらって、すぐにお店を始められるというわけです。さっきの計算だと、物件取得260万円にプラス内装が480万円かかってましたが、それが内装費は250万円です。510万円で、すぐにお店が始められるというわけです。
そしてその前のレストランを経営していた人も廃業するのに原状復帰しなくていいし、さらにお金が入ってくるので、全員が嬉しいというシステムなんです。
さて、40年間経営してきたスナックで、もうママもいい年でそろそろ閉めたいって思ってるけど、原状復帰するのにお金を使いたくないと思っている場合ってよくあるんですね。
あるいは、前のスナック経営者が家賃を滞納して、出て行ってもらったんだけど、もちろん原状復帰はしていなくて、そのままスナックの内装が残っているなんてこともあります。
そういう元スナックの内装って、ほぼ無価値でして、造作譲渡0円っていう条件で出ていることがあるんです。僕も実際、道玄坂のビルの2階の「元スナック」という物件で造作譲渡0円っていうのを見つけました。家賃も安かったのですが、僕の場合は「この内装はさすがに使えない」と判断したのと、妻が反対してやめました。
そういう物件の、そのスナックの内装を自分たちで直して使うという手があるんです。三軒茶屋にウグイスという有名なナチュラルワインのお店があるのですが、そこの紺野さんは、元スナックの居ぬきの物件を自分たちで直して開店したので、初期費用は300万円におさえられたそうです。物件取得に百数十万円で、自分たちで壊して作り直すのに百万円ちょっという計算でしょうか。
基本的に飲食店って、厨房設備のガス台とか洗い場とか冷蔵庫さえあれば、あとは椅子や机を用意して、壁と床を塗りなおせば、前の内装ってそのままで大丈夫です。
もちろん全部自分たちでトンカンするのもありですが、知り合いの大工さん、あるいは内装業者さんを誰かに紹介してもらって、見てもらって、「この前のスナックのカウンター、ちょっと塗りなおしたら使えそうですよね。あとここに棚と窓を作りたいんですけど。でも100万円しかないんですよ」みたいにお願いするのもありです。
さて、話は不動産屋さんで、「この物件だ!」と出会ったときに戻ります。
ありとあらゆる「値段」って、向こう側の言い値ですから、「これってもう少し安くなりませんか」って交渉することができます。
「この家賃、もう少し安くなりませんか?」とか、「造作譲渡300万円を200万円にしてもらえませんか?」とかって、僕たちは交渉することができます。
ちなみに、bar bossaは、「安くしてください」って交渉していません。というのは、元々すごく安いんですね。僕らはこの渋谷区周辺の相場はすごくわかってて、いろんな物件を見たうえで、「うわあ。安い。場所も最高。この物件だけは誰にもとられたくない」と思って、「申し込み」しました。
この申し込みの時に、「安くしてください」って言うと、「じゃあ言い値で契約してくれるところ他にもあるからそっちで」ってなっちゃいます。
だから、自分の中で「家賃は、このくらいまでしか出せない」って決めておいた方がいいです。それで、すごく気に入った物件で、ちょっと高かったら、「安くしてください」って伝えて申し込んで、ダメなら仕方ないっていう気持ちがいいです。
あるいは、「ああ。この物件、先月も見たけどずっと決まらないんだなあ」っていう物件ってありますよね。そういう物件なら、「すいません。ここ家賃を下げてくれたら、(あるいは)ここ造作譲渡を下げてくれたら、申し込みたいんですけど」って提案するのはありです。
そして、そういうのって、「相場」があります。不動産屋さんをたくさん回ると、中の人とすごく仲良くなってきて、「これは高いよねえ。やめといた方がいいよ」みたいに親切に教えてくれる不動産屋さんの人が出てくるんですね。そういう人に、「この物件って、相場より高いと思うんですけど、交渉可能でしょうか」って質問すると、「この大家さんは話聞いてくれると思うよ」とか「ここは無理だと思うよ」みたいに教えてくれます。
ほんと、不動産屋さんって、ずっとお付き合いが続くので、こっちも正直に話して、ちゃんと信頼関係を保つのをオススメいたします。
【お金を借りよう】
さて、さっきから300万円あったらお店は出来るとか、いろいろ書いてますが、「300万円もない」という人はどうすればいいのか、です。
まず、銀行は、何にも実績がない僕らにはお金は貸してくれないです。(逆に、1軒目が上手くいくと、銀行が「お金貸しますよ。もう1軒やりましょうよ」って言ってくれるようになります)
親や親せきに借りるとか、お金持ちに出資してもらうとか、クラウドファンディングとかいろいろありますが、ここは政策金融公庫にいきましょう。
今、検索したところ、政策金融公庫は、自己資金の9倍まで貸してくれるとありました。要するに、30万円持ってたら、270万円貸してくれるから、300万円になるというわけです。
まあでも、自己資金の平均は24%ということです。300万円でお店をやろうと思ったら、まあみんな72万円くらいの自己資金は持っているというわけですね。
さて、この政策金融公庫ですが、電話して、「全然わからないんですけど教えてください」って正直に言うと、すごく丁寧に教えてくれます。日本のこういう公的機関にお勤めの方って、本当にみんな誠実で仕事熱心で親切です。
僕は、それで面接してもらいまして、「今まで飲食店で働いてきて、こういう物件でこういうバーをやりたくて」って語ったら、事業計画書の書き方とかいろいろ金額のことを教えてくれて、あらためて面接と言うことになりました。
そして正式な面接の日、僕はジャケットを着て、ネクタイをしめて、言われたとおりの事業計画書を書いて見せて、面接の最後に、面接官の方が、「林さんがこのバーを始めたら、最初はどのくらいのお客様が来てくれそうですか」って質問されたんですね。それで、いろんな友だちや、いろんなお店で知り合った人たちの顔を思い出して、頭の中でカウントして、「500人です」って答えたんです。そしたら、「そうですか。林さん、良い友人がたくさんいるんですね。それでは融資決定です」って決まりました。
ちなみに、「飲食店で働いた方がいい」の理由は、このお金を借りるときに、「働いた経験年数」っていうのがすごく大きいからです。さっき検索したら「同じ業種で6年勤務」という条件がありましたが、僕は、ブラジルレストラン2年で、バー2年なので、足して4年でした。
【営業開始。みんなに知ってもらいましょう】
さて内装が出来上がり、保健所の人にチェックしてもらって、営業許可証が出ます。営業開始です。
ちなみに、お店を開店したら開店パーティーはやるべきかという問題がありますが、僕は「やらない方が良い」と思っています。そのときバタバタしてしまってあまり友人たちとは話せないです。それよりは営業時に来てもらってゆっくりと接客した方がいいです。あと開店パーティーだけ来て、営業時には来てくれない人って結構います。
周りのお店に挨拶ですが、これは内装工事を始める前に菓子折りを持って挨拶に行きましょう。そして飲食店だったら、食事に行ってお金を落とすのが一番です。横でつながって、お客様を紹介しあったり、いろんな情報交換ができたりとあります。
いろんなメディアに「お店を始めました」という手紙を出しましょう。僕はこれをやらなかったんですね。僕がやるbar bossaはすごく良いバーだから、メディアの方が嗅ぎつけて、向こうから取材にやってくるって思ってたんです。そしたら先輩にすごく怒られまして。
「こっちは商売を始めるんだから。こういう場所でこういうお店を始めます。もし取材などありましたらよろしくお願いしますって、先に頭を下げなきゃいけないんだよ」と言われて、そりゃそうだなと思って、いろんな雑誌に手紙を書きました。そしたらたくさんのメディアの方が飲みに来てくれて、実際に取材もたくさんしてくれて、あっという間に「話題のお店」になりました。
広告はどうすべきかという問題がありますが、これはお店にもよりますよね。コーヒーハウスニシヤさんは、最初全くお客さんが来なくて、道でチラシを配ったって言ってました。
僕も友人のバーが「お客さんが全然来ない。どうしよう」って相談されて、二人でチラシを作って、街で「バーを利用しそうな人」に声をかけて、「そこでバーを始めたんでお願いします」って言いながらチラシを渡すっていうのを手伝いました。実はすごく効果はあったようです。
僕は一番効果があるのは、イベントだと思います。写真展とか出会い会とか読書会とかいろいろ可能ですよね。一度そのお店に行ってみるってすごく大きいです。あと、イベントに参加すると「そのお店の関係者」っていう気持ちになってくれたり、「ホーム」って感じてもらえます。お客様に「ホーム」って思われるって大きいです。
さてさて大急ぎでお店の始め方を書いてみたのですが、いかがでしょうか。お店をやるのって楽しいですよ。お互い頑張りましょう!
※書籍にする際には、もう少したくさん具体例や不動産屋さんや内装業者さんの取材やイラストなんかを入れようと思っています。
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